国弘喜美代のレビュー一覧
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ヴィクトリア朝を舞台としたホラーミステリ。切り絵作家のアグネスは、消息不明となった元婚約者を待ちながら、質素な日常を送っている。しかし彼女の店を訪れた客が立て続けに不審な死を遂げることになった。思い悩むアグネスは、霊媒の少女・パールに助けを求める。一方でパールもまた、亡き母の霊と会いたいと思い悩んでいた。彼女たちがこっそりと行った降霊会で何が起こるのか。
地味で静かな読み口だと思っていたら、途中からどんどん目が離せなくなります。数々の事件は何者の仕業なのか、そして霊は存在するのか。マートルとパールの行う降霊会は本物なのかインチキなのかが気になりますが、アグネスとパールの降霊会の迫力は凄まじいです。そしてアグネスやパールの愛憎に満ちた姉妹関係にも引き込まれました。死した妹・コンスタンスの影に囚われ続けるアグネスとサイモンの関係の危うさも印象的だし、マートルのパールに対する想いも何だかやり切れません。すべての人たちの間に愛情はあるのだけれど、どこかしら歪で悲しく思えました。
そしてすべての事件の真相が……なんとなく予測はしたけれど。その予想を越えてくるラストでした。いろいろ切なく、恐ろしくもあります。 -
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ブラウンのミステリ短編集第三弾。エド・ハンターシリーズから2作品入ってボリュームたっぷりの最高に楽しい一冊!→
シカゴ・ブルース大好きな私はエドたちがでる2作品がイチオシだけど、それ以外ももちろん良作。
「5セントのお月さま」は皮肉が効いていてマル(大衆が求めるのは月ではなく……?)
「球形の食屍鬼」「殺しのプレミアショー」は謎解き部分が好き。
「愛しのラム」は読み進めると感じる違和感の→
正体が分かった瞬間に「ああッ……」ってなる。
「どうしてなんだベニー、いったいどうして」はラストに「うわぁぁぁ」ってなったなぁ。
「死の警告」のなんとなく感じるコミカルさや「最終列車」の余韻など、ブラウンは空気を描くのが上手いんだよなぁ、としみじみ。
最高のコース料理でした。満足! -
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起きた過去は救いがなく、救われるのを待っているだけでは人並みの透明な心は取り戻せない。それでも人生は廻り続け、5歳の頃から歩き出せない主人公にも、人生のさまざまなステップが降り注ぐ。父の死、薬、女性関係、結婚、子育て、そして最後の呪縛を解き放った母の死。
このシリーズを読みながら、著者の半自伝的小説なのだということがずっと心の奥にあった。
ここまでの自己分析と、さまざまな思惑を持つ人々の描写、そして筆力。著者の人生はこれからも続いていくわけだが、この作品を書き上げ、文学にしたことで少しでも救いがあればいい。
読んでいる間、私自身の人格にも影響が出てくるような、"侵食"が凄まじい物語だったが、見える世界が変化したことに後悔ない。エドワード・セント・オービン、大作ご苦労さまでした。 -
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展開の残酷さが衝撃的すぎて、そちらに意識がいくかもしれないが、ひどい暴力と絶望を体験した作者が、加害者である大人たちの心情をここまで効果的な比喩で表現していることがあまりにもすごい。
具体的な行為については、パトリックの防衛本能が働くのか、少し空想を交えて語られるところなども逆にリアルで、心が疲弊するし、心臓がひとまわり小さくなったのではないかと感じるほどだった。
なかなかお目にかかれない世界の話だからか、作者の筆力が凄まじいからか、消化するのが難しい話だけれど、訳者あとがきに上手くまとめられているのでそこまできちんと読むのをお勧めします。 -
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【「だけど、ほら」ネイサンは笑いながら言った。「うちの家族には冒険がつきものなんだ。そうだろう?」】(文中より引用)
CIAで高位の職につきながらロシアに寝返ったスパイのジム・ニコルソン。米当局との壮絶な駆け引きの末に彼は刑務所へと送り込まれるのであるが、その監獄の内側から息子のネイサンを同じようにロシアのスパイへと仕立て上げてしまう......。小説よりも奇なる事実を描いた驚愕のノンフィクション作品です。著者は、米『オレゴニアン』紙などへの寄稿を続けたブライアン・デンソン。訳者は、スリラー小説の翻訳でも知られる国弘喜美代。原題は、『The Spy’s Son: The True Story of the Highest-Ranking CIA Officer Ever Convincted of Espionage and the Son He Trained to Spy for Russia』。
あり得ない展開に興奮を覚えるスリラーものの映画を観ているような気分になると同時に、諜報の世界の実情が生々しく把握できる稀有な作品。また、父子の心理面に入り込もうと試み、実際に人物たちの感情までを浮かび上がらせるその筆力に何度も唸らされました。
これは今年のトップテンに入るかも☆5つ -
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ネタバレ「カルテル」を先に読んだけど、こちらの方が先に執筆されていたらしい。・・・なるほど。
妻子をテロで失った男性の復讐劇、と言えば凡庸に聞こえるがそこはドン・ウィンズロウ、あまたある同様の作品レベルを遥かに超えている。
傭兵部隊を組織しテロリストたちと戦う、という設定はアリステア・マクレーン(よりフレデリック・フォーサイス?)、ウェットな主人公の心情描写はジャック・ヒギンズを思わせる部分もある。
しかし、歯切れよく展開される物語はまさしくウィンズロウ節炸裂。特にアクションシーン(冒頭の飛行機テロの描写の恐ろしさ!)はスローを交えたような演出が目に浮かぶようにリアルだし、何より現代の近接戦闘戦のリアルな戦い方に手に汗握る。本当によく勉強もしている!
序盤で出てくる、”薬物とテロリズムは、21世紀の戦争というメニューの、スープとサンドウィッチだ”という文章がこの作品の執筆動機でもあるし、それがのちの大作「カルテル」に繋がってもいる。
しかし、(一部の例外を除いて)シリーズものを敢えて避けながら毎回このレベルの作品を、しかも精力的に執筆してくれるのは本当にありがたい!
この作品も「犬の力」&「カルテル」も視覚的な作品だから是非映画化してほしい。
一昔前だったら、ジョン・ミリアス監督、今だったらデビッド・エア監督あたりがいいかな? -
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ドン・ウィンズロウの作品は久しぶりだ。ブーン・ダニエルズのシリーズとベンとチョンとOのトリオのシリーズ、トレヴェニアンの『シブミ』続編『サトリ』と、あちこちのヒーロー、ヒロインを追いかけたかと思うと、どうやらそこに落ち着く様子もなく、『フランキー・マシーンの冬』以来となる単発作品の本書を、ここで『失踪』とともに同時二作発売という鮮度で、しかも母国USでは未発表のまま、ドイツに続いて日本での翻訳先行で出版という奇抜さで、この作家の奇行とも取れる創作行動は世界を驚かせている。
そして単発ながら、どちらもこれまでにない類いの内容を伴い、ウィンズロウという作家の彷徨の途上にあるらしい彼なりの才気と力量を存分に見せてくれる点でさらに圧巻の充実ぶりが読者にとっては何とも嬉しい限りであるのだ。
冒険小説という言葉が影を潜めている翻訳小説の世界の中で、今、改めて、ハードボイルドでもギャング小説でもない、正統派の冒険小説をひっさげてウィンズロウはぶらりと日本の読書界に久々に姿を見せてくれたのである。妻と、ひとり息子とがテロの犠牲になった元デルタフォース隊員による復讐ドラマを淡々と綴る本書は、小説の詩人と異名を取っても構わないこの作家によって叙事詩のように小気味よく語られる。
冒険小説の王道である、仲間をかき集め、作戦を練り、闘うという『七人の侍』以来の基本パターン。それが数度繰り返され、仲間の中から犠牲者が出るたびに強くなってゆくチームの団結力と、その熱源ともなるべき怒りと正義感。裏切りを正当化してはばからない権力中枢の後ろ盾もないヒーローたちが、命を賭して闘いの場に赴き、活劇を展開するこの構成とスケールと熱気。
久々に見る戦場は、確かにドラッグ戦争で描いた『犬の力』で培われた経験によるところ大であろうが、何よりも、テロへの怒りに突き動かされる父親の心情を、仲間たちが共有してゆくその友情、そしてプロフェッショナリズムという純然たるビジネスから人間ドラマに移行してゆく仲間たちの心の流れ、そうした血と脈拍の感じられる物語こそが、火器や弾幕という舞台装置の中で敵の心臓部に迫ってゆく躍動感が何よりも頼もしい。
骨太で容赦のないウィンズロウ節も、さらに磨きがかかって感じられたのはぼくだけではあるまい。復活というよりも、充実の持続をこそ求めたくなる作家の筆頭である。近々『犬の力』の続編『カルテル』が春先には刊行予定とのこと。どきどきする今日この頃である。 -
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ネタバレ2026年の19、20冊目は、オースマ・ゼハナト・カーンの「黒い滝」です。これは、結構凄い本だと思います。ラスト1行にやられてしまいました。聖母に見立てられたラザンが、ある意味、自分の命と引き換えに、その奇跡を起こしたと考えてしまいました。帰って来たルクマーンもラザンの意思をきっと継ぐはずです。ラスト1行から多くの事が想像出来ます。本当に凄い1行だと思います。
舞台は、コロラド州ブラックウォーターフォールズ。
風光明媚な田舎町です。そんな田舎町において、難民の少女ラザンの遺体がモスクの扉に磔にされた状態で見つかります。更には、黒人の少女2人も行方不明で有る事が判明します。
トランプ以降に顕著になったアメリカの人種差別、ヘイトクライム問題、白人至上主義の問題が、コロラドの田舎町であっても蔓延っている事実をこれでもかと見せつけられます。
主人公イナヤ、盟友カタリナ、アリーシャと主要な3人の女性が、それぞれ出自の違うマイノリティで有る事が
この本の特徴を良く現していると思います。
☆4.8 -
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ネタバレ2025年の23冊目は、ジェシカ・ノールの「夜を駆ける女たち」です。何と、今年初のポケミスでした。
ジャンル分けが難しいですね。これをミステリーと言ってよいのかどうか。サスペンスとも違いますし、単にフィクション(小説)とするのが良いのではないでしょうか。
主人公は、フロリダ州立大学の女子学生クラブ(ソロリティ)の支部長パメラ・アン・シューマッハーです。彼女が支部長を務める学生寮に男が押し入り、学生二人が殺害されます。この1978年に起きた事件直前から2021年までのパメラの視点と1974年に行方不明になった女性ルース・ウォシャウスキーの当時の視点で進みます。
70年代後半の若い女性の置かれた立場が、非常に良く分かります。男性を立てなければならない。男性、家族に対して従順でなければならないという当時の様子が良く描かれ、そこから外れているものに対しては、忌避されます。事件を通して、主人公パメラの行動、生き方が、正にウーマンリブそのものに変化して行きます。パメラの変わって行く様子が、最大の読み所だと思います。
☆4.5原題も素晴らしい。 -
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ネタバレ故郷のフロリダを離れ、ワシントンDCはスミソニアン博物館に勤務する鳥類画家のロニ・メイ。
ある日弟のフィルからの電話で、母の転倒からの怪我、さらには認知症の症状があることを知らされる。介護施設に入所させたので、手伝いに戻ってきてほしいという。
誇りであり、心の支えでもある愛すべき職場を離れることに後ろ髪を引かれる思いもありつつ、介護休暇を申し出て母の下を訪れるが、そこに何気なく見つけた父の死の真相究明への手掛かり。
25年前、ロニの父は地元の漁業局で野生動物保護管理官として働いていたが、ある日沼地で溺死体となって発見される。
状況的には自殺も疑われるような中、周囲の計らいもあって事故死として処理された。
釈然としない思いを抱きながらその後の日々を過ごしてきたロニだが、久しぶりに帰郷した地で父の死の真相を探り始める。。。
父は死は自殺だったのか、事故だったのか、はたまた他殺だったのか。
関係者達から重要な話を聞いて心が揺れる様が描かれる場面が多くあるのだが、どの立場からどの立場に揺れたのかよく分からず(自殺だと思っていたけどやっぱり事故だったのかも。。。とか事故だと思い始めていたけど実は他殺!?みたいな)、また真相も予想の範疇内でそこを巡るサスペンス劇は若干消化不良。
でも、そのサスペンス要素とは別の、物語としての地力は結構好きだった。
『ザリガニの鳴くところ』に通ずるような自然とミステリの融合小説。
『ザリガニの鳴くところ』は世間から隔絶された野生の道を生きる湿地の少女カイヤを描くことで自然を際立たせたが、本書はあそこまでの原始性はなく、どちらかというと都市的生活を送りながらも、金儲け主義とは一線を画する自然を愛す人々を描く。
鳥類画家であるロニの鳥を愛する心(とにかく数多くの鳥の名が出てくる。ナンベイタゲリ、アンデスイワドリ、ショウジョウコウカンチョウ、エボシクマゲラ、ムラサキバン・・・)、鳥の姿をスケッチするために幾度となくカヌーで訪れる沼地、その沼地での父との思い出、同じく自然を愛し地質学を学んだカヌーショップの男との歯がゆいロマンス、認知症の母との過去からの確執の中で緩衝地帯のような役割を果たすハーブの話、等々。
ロニの絵を書く才能がうらやましい。
言葉にできない場面を絵という形に落とし込むことで心の浄化作用があるように思う。
自分は絵を書く能力が全くなくて悲しい。
こんな風に絵がすらすらと書けたら楽しい、いや楽しいのとはちょっと違うかな、心が休まるだろうな。
絵が書けないので何とか言葉で気持ちをアウトプットするようにしているが、言いたいことの半分も適切な言葉が見つけられず悶々とする。
と、全然内容とは関係ない方向に思考が伸びていってしまった。。 -
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ネタバレ目次
・5セントのお月さま
・へま
・女が男を殺すとき
・消えた役者
・どうしてなんだベニー、いったいどうして
・球形の食屍鬼(グール)
・フルートと短機関銃のための組曲
・死の警告
・愛しのラム
・殺しのプレミアショー
・殺意のジャズソング
・死の10パーセント
・最終列車
『5セントのお月さま』『フルートと短機関銃のための組曲』『死の警告』が初訳。
フレドリック・ブラウンのSF短編全集が出たとき、どうしてSF限定なのだろうと思った。
ミステリの短編もそこそこあるのに。
『最終列車』が収録されたアンソロジーには、これが最後のアンソロジー未収録作品とあったような気がするけれど、その後にこれが出たということは、つまりまだ未訳の作品が眠っている可能性があるというわけか。
『真っ白な嘘』とか好きだったので、なんとか頑張って全集を刊行してほしい。
買うから。
エド・ハンターシリーズは長編のイメージが強かったけど、短編もあったなあと懐かしく思い出した。
今の作品に比べると、テンポがゆったりとして、必要なことはすべて書いてあるけれど、最後に大きく話が動くという展開は、まどろっこしく感じるかもしれない。
だけどこのテンポに慣れ親しんで育った私には、久しぶりに大きく呼吸ができるような気持ちで作品を読んだ。
ドキドキはしたけども。
『球形の食屍鬼』と『殺意のジャズソング』が特に好きかな。
落としどころの意外性が。
読後感は全然違うけど。
とにかく東京創元社さま、短編全集完全版をぜひ出版していただきたいのです。
お願いします。