国弘喜美代のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
不安と悩み…人間の最深部にある闇が垣間見える、ヴィクトリア朝時代のゴシックミステリー #象られた闇
■あらすじ
19世紀イギリスのヴィクトリア朝、切り絵作家として生業を得ていた主人公アグネス。苦しい家計ながらも肖像画の依頼を受けていたが、その客たちは次々と不可解な死を遂げる。過去、自身の妹を失ってしまったこともあり後悔の念に苛まれていた彼女は霊媒師の少女に相談、客たちの死の真相を探ろうとするのだが…
■きっと読みたくなるレビュー
見える…人間の最深部が見える。こ、こわい…
本作はヨーロッパ中世を感じさせるゴシックミステリーです。終盤まで大きな展開がされることなく、切り絵作家の女性と霊媒師の少女を中心にしみじみと物語が進行していきます。
まったく派手ではないのですが、十字架を背負っているかのように、悩みや苦しみが読者にのしかかってくるんです。これが半端なく重くて、たびたび心が揺さぶられる。どうにかならないのか、この人たちはと…
しかも事件の謎も情報が少なくてよくわからないし、霊媒師と催眠術師の姉妹とのやり取りも不毛。私は一体どういう物語を読んでいるのか、この話のゴールは何なのかもおぼろげになってくるんです。
ただ物語の後半には、まさに怒涛のような展開と真相が待ち受けている。不幸の臨界点ともいうべき場面では、人間が精神的混乱に見舞われるとこんな感情になるのか… まるで鉛を飲んだような感覚で胃が重いっ
そして真相ですよ…これまで、ずっと薄暗い世界をさまよっていた理由が明かされるのですが、そこに希望はあったのか分からない。それでも彼女が前向きになれたのは、本作唯一まともな人物、医者のサイモンがいたからでしょう。この陰鬱とした世界で彼の存在がいかに大きかったか、自分を思ってくれる人が存在していることの大切さが身に沁みましたのでした。
■ぜっさん推しポイント
知る自由、学ぶ自由、考える自由がないというのは、どれだけ不幸なことなんだろう。何事も自分では判断ができるようにはならず、その結果、他人に利用されるだけになってしまう。
人間は色んな環境に身を置いて生活をしなければなりませんが、本作の主人公である切り絵作家の女性と霊媒師の少女ほど辛い環境はない。教育の自由を奪うことは、これからも決してあってはならないことですね。 -
Posted by ブクログ
イギリスの作家「アリ・ランド」の長篇ミステリ作品『善いミリー、悪いアニー(原題:GOOD ME BAD ME)』を読みました。
「P・D・ジェイムズ」に続き、イギリス作家の作品です。
-----story-------------
連続殺人犯「ルース・トンプスン」が逮捕されたのは、その実娘「アニー」が警察に密告したからだった。
臨床心理士の「マイク」の家に里子として引き取られた「アニー」は「ミリー」という名前で素性を隠し、新たな人生を歩むことに。
だが、「ミリー」の精神に「ルース」が落とした影は色濃く、さらに里親の娘に疎まれたことで転入先の学校でも孤立を深めていく。
そして事件の裁判で彼女は母親との過去と向き合うことになり……。
殺人鬼の娘の心理に極限まで追る破格の心理スリラー
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2017年(平成29年)に発表された「アリ・ランド」のデビュー作です、、、
殺人鬼の母親から虐げられて育った15歳の少女「アニー」の一人称で語られるずっしりと思い心理スリラーですが、リーガル・サスペンスとしての一面も持ち合わせており、母子の心理戦や駆け引きも含め、じっくりと愉しめる一冊に仕上がっていましたね。
15歳の少女「アニー」は実の母親「ルース・トンプソン」を警察に告発した… 小さな子供ばかり9人を殺害した罪で――
その後「アニー」は「ミリー」と名前を変え、ロンドンに住む臨床心理士「マイク・ニューモント」が里親となり引き取られます… その娘「フィービ」は「ミリー」と同い年だが、何も事情を知らされておらず、突然自宅にやってきた邪魔者の「ミリー」を疎んじ、嫌悪の念を隠さない、、、
「マイク」の妻「サスキア」は退屈な生活に倦み、また思春期の「フィービ」とうまく付き合えず、母娘のぎくしゃくした関係が一家に重苦しい影を落としており、「ミリー」は新たな生活に馴染もうと懸命に努力するが、事はそう簡単には運ばず、学校では転入生として手荒な洗礼を受け、家では「フィービ」に敵視され、どんなに自分を抑えても家族に一員にはなれない… そのうえ過去が「ミリー」につきまとい、夜になると、母親の幻影のみならず、守ってあげられなかった小さな者たちの亡霊にも苦しめられる。
何より母親の“悪い”遺伝子が自分に受け継がれているのではないか… と「ミリー」はつねに怯えて生きていかなくてはならない、、、
やがて母親の裁判が近づき、「ミリー」は母親を裁く法廷に証人として出廷することを決意する… 法廷では弁護側と検察側の思惑が入り乱れ、そこで彼女は母親との過去に向き合うことになる。
15年のあいだ、殺人鬼の母親とどんなふうに暮らしてきたのか、母は娘にどのような躾をし、娘をどう変えたのか、母娘の秘密とは? 果たして新しい暮らしのなかで、「ミリー」は自分の居場所を見つけられるのか――
凄絶な生活を強いられてきたはずの「ミリー」だったが、母親のことを“あなた“と呼んで恋しく思ってしまう… 相反する感情が同居する「ミリー」の心理が巧く描かれていまいしたね、、、
「ミリー」は新しく生まれ変わって“善い自分“になるべく葛藤しますが、凄絶な過去を経てきた彼女は周囲の人間を内心で蔑み、自身に向けられる悪意にさえもどこか醒めて受け留めるが、人間関係からまったく影響を受けないほどに超然とは振舞えない… 善と悪との境界で揺れ動く「ミリー」の不安定な心理を追う文体に、どんどん引き込まれていきました。
本作品の魅力のひとつは、生き抜こうとする子供のしたたかさが描かれているところだと感じましたね… 邪悪さと純粋さをあわせ持つ矛盾した人間の性が浮き彫りにされます、、、
そして、連続殺人事件の最後の被害者「ダニエル・キャリントン」の死に関する真相と、「ニューモント家」における悲惨な事件の真相… まっ、ある程度、想定内ではありましたが、最後まで愉しませてもらえましたね。面白かったです。
以下、主な登場人物です。
「ミリー(アニー)」
ニューモント家が引き取った里子
「ルース・トンプソン」
ミリーの実母。連続監禁殺人犯
「マイク・ニューモント」
臨床心理士
「サスキア」
マイクの妻
「フィービ」
マイクの娘
「イジー」
フィービの友人
「クロンディーン」
フィービの友人
「モーガン」
ニューモント家の近隣に住む少女
「ジョー」
ブルックミア・カレッジ校の生徒
「ジューン」
証人担当官
「ケンプ(MK)」
ウェザーブリッジ校の教師
「ダニエル・キャリントン」
連続殺人の犠牲者 -
Posted by ブクログ
ネタバレ7人兄妹の2番目、長女レックス。
かつて宗教に入れ込み過ぎた父から兄妹全員が虐待を受けていた”恐怖の館”から勇気ある脱出に成功した”少女A"。
レックスが脱出したのを機に父は自殺、母は長期に渡る服役刑に処された。
兄妹たちは父からの解放後、メンタルケアを受けながら散り散りに里親に預けられ、ある者は周到に素性を隠しつつ一定の成功を収めた人生をもぎ取り、ある者は過去すらも自身の売名道具に用いながら地位と名声を得た。またある者は先天的ハンディキャップもマイナスに手伝い、過去から逃れきれず苦悩にまみれた道を歩んでいる。
物語は冒頭、母が刑務所内で死を遂げたところから始まる。
意外にも、かつての"恐怖の館"を含め、ひとまとまりの遺産が遺されることになり、遺言執行人に指名されたレックスは兄妹達と連絡を取り、相応しいと思う使い道への合意への道を歩み出す過去との対峙の物語。
少年A(長兄イーサン)、少女B(次女デライラ)、少女C(三女イーヴィ)、、、とかつての兄妹達との再会の過程に織り込まれるフラッシュバックシーンで明らかにされる壊れゆく過去の日々とその中で育んだイーヴィとの絆。
からの現在への希望が重く、ただただ切ない。
裏表紙の紹介文では”衝撃の結末”なんて言葉で煽っているけど、そういった瞬発的なものを期待するのではなく(あるにはあるが)、過去の清算に対するドラマ性を味わうべき物語。
なんとも寂寥感溢れる展開ではあるのだが、レックスが学生時代に幸運にも得ることのできたオリヴィアとの友情という宝物が凛と輝く物語であったと思う。
現役Google社員(?)とのことなので驚き。
どうやってこんな物語書く時間作るの? -
Posted by ブクログ
ネタバレボードウォークというアイデンティティを持ち、かつてカジノで栄えた町、ニュージャージー州アトランティックシティ。
今やかつての精彩は消え、多くのカジノ、ホテルが閉鎖されゆく中、しがみつくように残っている商業施設と共に冴えない日々を送っている町の人々。
この物語が焦点を当てるのは、この寂びれた町に人生を翻弄され、泥沼にはまり込んでしまった、あるいははまりそうなところを何とか抜け出そうともがいている女性達。
町がら、カジノでのカクテルウェイトレスとして若さを売ることで対価を得ることにも華やかさや誇りを持てた時代があったが、次第に町自身の低迷と共にそうした者達の地位は下がり、またある者は年を重ねることで昔ほどうまくは行かなくなっていくことを身を持って知らされる。
そしてまたある者は、他の地から自己を解放し、何かを求めるようにこの地へたどり着くが、程なくして行き場のない夢物語だったことに気付く。
そひて手を伸ばすのが、身売り、ドラッグ。
何もかもの希望を飲み込んでしまうこの町においては、這い上がろうにも這い上がるチャンスがない。
日々の生活には先立つものが要る。
そして、その辛さから逃避するための道具も。
そんなこんなで慎重に越えたはずの一線に、ことごとく足をすくわれ、墜ちていく女性達とそれを食い物にする男達。
行きつく先は、商売女に白羽の矢を立てるシリアルキラー狙われ、うらぶれたモーテルの裏の湿地に次々と並べられていく身元不明死体(ジェーンドゥ)。
途中3人称で淡々と語られるジェーンドゥ達の人生の振り返り方が、何とも言えないやるせなさを感じる。
決して彼女達だけが悪かったのではない。
救いのチャンスもあった。
だが、残酷にも彼女達の命は奪われていく。
この事件、なんと犯人は捕まらない。
捕まらないどころか、ほとんど輪郭すら現れないし、警察の捜査もない。
それぐらい、うんざりするような世界を相手に生きていかなければならない、ある立場に置かれた女性達の救いなき戦い、悲しみに焦点を当てたかったのだろう。
試みは正当だと思う。
確かにこの物語において犯人なんてどうでもいい。
ジェーンドゥ達の悲しき物語。 -
Posted by ブクログ
元スノーボード選手だった著者ならではの作品。
シーズンオフのスキー場の山頂のホステルに、10年振りに集められた元スノーボード選手の5人組。誰の招待か謎のまま、雪山に閉じ込められた状況の中で、じわじわと恐怖が進行する。5人の中のひとり、主人公ミラの語りのもと、事件の契機となった10年前の出来事と、現在が交互に語られ、謎が深まりを見せてくる。限られた登場人物の中、犯人は誰か、目的は何か、憶測が裏切られながらも、結末へと迫る展開は心地よい。数少ない登場人物の人となりや心理戦を通じて、犯人に焦点を絞り込めるか、読者への挑戦を受け止めることができるだろうか。 -
Posted by ブクログ
いやもうすさまじい。「ストリートキッズ」のリリカルな世界から遠く離れて、これは「犬の力」をしのぐ血と暴力にまみれた物語だ。
元デルタフォース隊員の主人公デイブは、飛行機事故で妻子を失う。それはイスラム過激派によるテロだったのだが、政府により隠蔽され「事故」とされる。そのことを知ったデイブは「世界最強の傭兵チーム」とともに、自らの手で報復する決意をする。
と、こういう紹介を読んで、これって政治的な陰謀がどうとか利権がどうとか、そういう話なのか(あんまり好きじゃない)とちょっと思っていたのだけど、いやそっち方面にはまったく行かない。ほぼ全篇、デイブと仲間たちが、テロリストを追い標的を追い詰めて行く過程が、ウィンズロウの圧倒的筆力で、これでもかとばかりに真に迫って描かれる。
いや実に「迫真」とはこういうことかと何遍も思った。冒頭、ミサイルに撃墜され墜落する飛行機内の様子なんかリアルすぎて、そうかエンジンが爆発したら乗客はこんな風に死ぬのか、ああ当分飛行機乗れないよ~と震え上がった。ミリタリー関係はとんと疎いので、微に入り細をうがって描写される武器のスペックがどれほどのものなのかほとんどわからないが、「本物」の持つパワーが放射されていてねじ伏せられてしまう。
短くたたみかけていくような展開で、冗長さは皆無。ダイハードなデイブの内心の苦悩や、傭兵チームのメンバーそれぞれの背景なども、くどくど語られないのに、きっちり伝わってくる。やはりウィンズロウは当代きっての書き手の一人だ。
まったくすごい。すごいのだが…、「犬の力」のように手放しで「いやあおもしろかったー」とは言えない読後感が残る。「犬の力」では、闘う相手は麻薬マフィア=絶対悪であった。ここではイスラム過激派。イスラム=敵、という図式にそう簡単に乗る気にはなれない。対イスラムという形は「わかりやすい」。エンターテインメント小説では大事なことなんだろうとは思うが、そこにどうしても引っかかりを感じてしまうのだ。
もちろん、ウィンズロウなのだからして、そんな安っぽい単純な描き方はしていない。テロリストたちは信仰を捨てた者であり、テロ行為はなによりも私利私欲を満たすビジネスであると明示されている。傭兵チームの一人アミールはパレスチナ人のムスリムで、彼がここにいる理由も説得力を持って語られる(このアミールがデイブよりも同情を誘うかも)。アメリカ政府は、都合が悪ければ、国のために闘った兵士たちを躊躇なく泥沼に追い落とすようなことをする存在として描かれる。
ここでは、テロの首謀者を殲滅することは、デイブ個人の復讐だ。当然ながら、復讐を成し遂げても妻子が戻るわけではない。それがわかっていてなお、死地へと駆り立てられていくデイブの姿を、作者は時に突き放したように描く。死や暴力や危険は、一面ひどく魅力的で、人を惹きつけてやまないが、それはどこにも行き着かない。アメリカ人の好きなヒーローも、今やひどく孤独なものだなあと思う。