国弘喜美代のレビュー一覧
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オースマ・ゼハナト・カーン『黒い滝 下』ハヤカワ文庫。
面白そうなタイトルに惹かれたのだが、完全にハズしてしまった。
移民、難民と様々な人種があふれるアメリカのコロラド州の田舎町の特殊なコミュニティで起きた悲劇の正体を明らかにしようと奔走する、自らもマイノリティの女性刑事。
日本も何時の間にか多民族の国になってしまった。コンビニの店員が外国人であるのは当たり前になり、温泉宿でも外国人が接客をし、インド・ネパールのカレー店が何店も開店し、中国人や台湾人の安い中華料理店が開店しては、潰れる。大企業もアジアを中心に積極的に優秀な人材を採用し、工場は労働力を確保するために外国人労働者を採用せざるを得ない状況である。さらには日本の不動産を中国人が買い漁り、田舎の土地は中国人により太陽光発電に変えられ、日本企業が何時の間にか中国や台湾の企業に買収されてしまうというおかしな時代になってしまった。
イスラム教徒の少女ラザン・エルカデルが殺害された事件を捜査するイナヤ・ラフマーン刑事はラザンの友人2人も失踪していたことを知る。
失踪した少女たちの親は同じ食肉工場で働いており、そこは町を牛耳る白人至上主義者たちと癒着していた。ラザン殺害事件と2人の少女失踪事件がつながっていると感じたイナヤ刑事は命令違反も辞せずに捜査を続ける。バイカー軍団の襲撃を躱し、食肉工場の最奥でイナヤ刑事は余りにも冷酷な真実を目にする。
本体価格1,640円
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オースマ・ゼハナト・カーン『黒い滝 上』ハヤカワ文庫。
面白そうなタイトルに惹かれたのだが、原題の『BLACKWATER FALLS』の直訳であることには驚いた。地名なのだから固有名詞と同じで、訳す意味のはおかしいように思うのだ。この事実に気付いた時点で、ハズしたなという諦めの気持ちが頭を過ぎる。
腐敗した町にイスラム教徒の女性刑事が立ち向かう社会問題を痛烈に描いた警察小説という触れ込みである。
これまでの国の繁栄を多くの移民や奴隷として連れて来られた黒人に支えられて来たアメリカは、大統領がトランプに変わってから手のひらを返すように移民に対する対応を変えてしまった。このことが国家の分断を生み、その怒りを外に向けるためかのようにロシアによるウクライナ侵攻に口を出し、イランに対してはイスラエルと組んで、軍事攻撃まで仕掛け、世界を混乱の渦に巻き込んでいる。
本作は、そんなマイノリティのコミュニティを舞台にそこで起きた少女の殺人事件を描いている。
著者自身も人種的なマイノリティのためなのか、マイノリティのコミュニティの話題ばかりで、なかなかストーリーは進まない。
コロラド州の田舎町の特殊なコミュニティでイスラム教徒で移民少女のラザン・エルカデルが殺害され、モスクの扉に磔にされた状態で発見される。少女と同じイスラム教徒のイナヤ・ラフマーン刑事は難民への迫害の末に起きた事件だと直感する。捜査を始めるが、白人至上主義のアディソン・グラント保安官に事件から手を引けと脅される。
さらにはキリスト教会が抱えるバイカー集団に襲われ、応戦したイリヤは首謀者を逮捕するが、その裏にはさらなる闇が潜んでいた。
本体価格1,640円
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最近にわかにはまっているフレドリックブラウンの短編集。
各短編をコースになぞらえ、オードブルから始まり食後のコーヒーで締めるフレドリックブラウンのフルコースが味わえるという美味しい1冊でした。
以下お気に入り作品。
「殺意のジャズソング」
友人と中古車販売業を営む主人公。ある日友人が何者かに暴行される事件が起こり、犯人の目星がつかないまま、今度は昔の音楽仲間の一人が殺される。
最後のオチが予想外だった。信頼できない語り手。
「死の10パーセント」
俳優崩れの主人公がとあるきっかけで出会った男にマネジメントされトントン拍子にスターへの階段を上っていく。男との約束は、すべての10%を取り分として男に払う、ということ。
主人公は死神とでも契約してしまったのか、悲惨な末路。そもそもその男と出会ったのが財布を拾って勝手にクレジットカードを使ってしまったからであって、悪いことはするもんじゃないなと思った。
「真っ白な嘘」「不吉なことは何も」に比べたらオチがよくわからなかったりする作品もあったけど、訳者によるものが大きいのかもしれない。たまたま上記2作品は前2冊と同じ越前敏弥氏訳のものだった。
3冊のフレドリックブラウンの著書を読んでみて、お酒を飲んだ後車を運転するシーンがたくさん出てくるんですが、飲酒運転が合法な世界なんだろうか。とかどうでもいいことが気になった。 -
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「悪の勝利に必要なのはただ……善人が何もしないことだ」(トルストイ『戦争と平和』)
9.11とアル・カイーダ殲滅作戦のあとのアメリカに、旅客機が落ちる。
テロであることをひたすら隠そうとする政府に対し、家族を失った元特殊戦闘員がプロの傭兵集団を使って独自にテロ組織を追い詰める。
ウィンズロウには珍しく、王道の冒険小説だ。
『ナヴァロンの要塞』など、個性的なメンバーを率いた戦闘物は、既にたくさんの作者に書かれている。
それでも、
「貪るように」、ドン・ウィンズロウの本を読む感覚は変わらない。
やはり、「アベンジャーズ的」なものは考えて読んではいけない。
これまでも、この後も、さまざまな小説を繰り出す、ウィンズロウの物語たちのことは、巻末にある杉江松恋氏の解説で良くわかる。
色々楽しませてくれる、やはりお気に入りの作家です。 -
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・フレドリック・ブラウン「死の10パーセント」(創元推 理文庫)を読んだ。私はフレド リック・ブラウンをほとんど知らない。どちらかと言ふとSF 作家だと思つてゐた。さうではあるがミステリー作家でもあつ た。「フレッドは“二面を持つ作家”で、SF作家としてもミステリー作家としても同じくら いよく知られていた。」(ウィ リアム・F・ノーラン「序文ーフレッド・ブラウンを思い起こして」13頁)ここではミステリー作家としてのブラウンである。本書では「序文」以外はフルコース仕立てになつてをり、 最初のオードブルから始まつて最後のコーヒーまで13編所収、うち3編は初訳で、それらはいづれも第二次世界大戦前の若い頃の作品である。
・オードブルは「5セントのお月さま」、これが「ブラウンの商業誌デビュー作で」(「編者解説」436頁)あり、初訳である。月を望遠鏡で5セントで見せようといふ男の話、最後はそれが「望遠鏡で犯行現場の見物、五十セントだよ!」(26 頁)と変はる。ごく短い作品である。記念すべきデビュー作ゆゑにオードブルにふさはしい。スープは「へま」、これも戦前の作品だが旧訳がある。ただし初出誌のみである。当時、敵国だつたドイツのスパイになれといふ、これもごく短いから、 スープにはふさはしさうであ る。以下、魚料理2,口直し1,コールドミート3,サラダ 1、ローストミート2,デザート1、コーヒー1と続く。魚や 肉料理はさすがに食ひ出があ る、いや、読み出がある。コー ルドミートの「フルートと短機関銃のための組曲」「死の警 告」は初訳、戦前のパルプマガジン発表作である。「組曲」がおもしろい。「日本の大家の有名な作品に類似のアイデアがある」(439頁)らしいが、私はそれを知らない。これも密室物なのであらうか。外から撃たれたといふのだから違ふのだらう、たぶん。個人的にはこのタイトルが気が効いていておもし ろいと思ふ。これがポイントになる。かういふ曲、フルートの 吹き方はどんな楽器でもあり、 それはミステリーにもなるのであらう。ミステリーをよく知つ てゐる人には当然のことであつても、私には決してさうではなかつた。「死の警告」には「犯人のしゃあしゃあとした登場ぶりが、最後まで主人公を苦しめるところ」(同前)とある。私にはこれよりも旧訳のある今一つのコールドミート、「球形の食屍鬼」の方がおもしろかつた。食屍鬼はもちろんグールとのルビがつく。これも戦前のパ ルプマガジン発表作、大江健三郎の「死者の奢り」みたいなも のだといふのはあまりに大雑把だが、検死局の死体置き場とい ふ点では似てゐるとも言へる。 主人公が学生であり、ここのバイトで稼いでゐる点も似てゐる。違ふのは事件性である。こ ちらは殺人事件が起きて主人公はそれに巻き込まれる。密室である。ただし、人が通れないほどの換気扇口が外に開いてゐる。主人公は第一発見者である。さてどうなるか。「金枝篇」を読む主人公ゆゑにポイン トは食屍鬼であらう。といふことで、大江とは全く別の世界が展開する。グールが出てくると ころなどはパルプマガジンにふさはしい。タイトルは原題の直訳である。勘の良い人ならばこれで犯人を推測できてしまひさうである。これ以外は戦後の作 品である。私にはエド・ハンター物2編以外はパルプマガジ ン所収作の方がおもしろかつた。さういふ作品を読んできた といふことがあるかもしれない。ブラウンであらうが誰であ らうが、古くて安つぽいけれど パルプマガジンはおもしろいのである。本書は日本オリジナル 傑作集であるらしい。短編全集もある作家である。それをこのやうに並べるのは一つのアイデ アであつた。 -
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スミソニアン博物館に鳥類画家として勤務するロニのもとに、歳の離れた弟から、実家で一人暮らしをしていた母親が手首を骨折して入院しているとの連絡を受ける。母親は、認知症のようだとも言う。介護休暇を申請して実家に戻ったロニは、母親の日記や手紙を読むうち、子どもの頃に事故で亡くなった父親の死の真相を探り始める。
当時10歳だったロニ、赤ちゃんだった弟。父親や母親への思いは微妙に違う。若い頃の知り合いと再会しながら、当時の状況を探るロニ。真実に気づいてからは一気にサスペンス感が加速していく。ミステリー風味の家族ヒストリーかな? ロマンス風味も少々。
スミソニアン博物館でもダウンサイジングの傾向にあるのだと、別なところにも反応してしまう。
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モーテル裏の湿地に、ふたりの女の死体が並んでいる。という冒頭から始まるのだが、犯人に関しての描写がことごとく少ないというか無いに等しい。
主に16歳の少女クララとカジノホテルのスパで働いているリリーのふたりの目線で描かれている。
クララは、叔母のクラブの稼ぎと占いの店で凌いでるのだが、家賃を滞納し、ついには叔母の段取りで、男の相手をすることになる。
もともとクララは、人が心にいだいている強い念を垣間見る力を持っていたのだが、次第に不気味で恐いビジョンを頻繁に見るようになる。
ふたりの死体から徐々に増えていく死体。
彼女たちが、どう関わっていくのか…
そして謎の行動をする清掃員のルイス。
さまざまな角度からそれぞれの声を聞いているようで…
それは、いろんな場所で虐げられている者たちの、顧みられることのない者たちの声だろう。
救いは、あるのか…とさえ思ってしまう事件であるのにスッキリ解決しない。
消化しづらい結末なんだが。