相場英雄のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
とても読み応えがあり面白かった。一事件から当時世間を賑わせた食品問題、大企業と政治、警察の複雑な要素が絡み合う。初めて読む作家だったが、徹頭徹尾伏線を回収し全ての小道具や人物像ですらうまく機能していたのには圧巻。主人公の田川が足で稼ぐタイプの古いデカという点も好感が持てた。
タイトル、意味がそのままでもあるし大手スーパー名にも掛けてあるダブルミーニングも見事。日本の食品にかける安全システムが他国より優秀であること、企業は利益をあげるために何処までギリギリで運営しているのかと思うこと、表面の対外的な事実が事実とは限らないこと。複雑な思いが次々に湧いてくる。田川と記者・鶴田のその後の会話が気になり -
Posted by ブクログ
相場英雄『ゼロ打ち』ハルキ文庫。
タイトルの『ゼロ打ち』とは、選挙の開票開始直後、開票率0%に近い時点で特定候補者の当選確実を報じることらしい。
先日、参議院選挙があったが、投票日の投票締切り時間の20時の時点で続々と当選確実の一報が出ていたが、あれが『ゼロ打ち』かと納得。確か出口調査の結果などで当選の判定をするのではなかったか。
自分の住む福島選挙区では投票締切り直後では立憲民主党の男性候補が出口調査の結果で1位だったのだが、開票が進むうちにカルトの旧統一教会と深い関係を築き、政治資金パーティーで集めた金を還流させて282万円の裏金を作り、ブライダル補助金の見返りにブライダル会社からは -
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相場英雄『覇王の轍』小学館文庫。
骨太の社会派警察小説。
先に読んだ高村薫の合田雄一郎シリーズ『我らが少女A』よりは遥かに面白い警察小説であった。『我らが少女A』は主人公の合田雄一郎が積極的ではないし、未解決殺人事件も有耶無耶にされて消化不良も良いところだった。
では本作の方はと言えば、現代社会に巣食う巨大組織による犯罪や重大事故の隠蔽や官僚天下り、贈収賄、政治のパワーゲームといった日本社会の闇に真っ向から斬り込み、二転三転するストーリーが非常にスリリングで面白かった。
清廉潔白、潔癖、実直の警察キャリア官僚の樫山順子が着任したばかりの北海道警捜査二課で、国交省のキャリア技官の稲垣達 -
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ネタバレ「日本は日が昇る国だと、ベトナムにいる頃思ったね。でも、とっくに日が沈んだ国、貧乏人ばかりの国だよ。」
「これから、日本人が景気の良いアジアに出て、仕送りする日が来るね。」
「国民総中流社会」も今は昔、コロナ禍以降、分厚い中間層がごっそり下流へ滑り落ち、上流と下流にニ極化する新しい階級社会へ加速度的に移行しつつある現状を次々と突きつけられ暗澹たる気持ちに。劣悪な労働環境下で働く技術実習生たちの日々は、明日は我が身、に迫り来る。
労働環境問題改善のために、大企業によるCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)の取り組みが持つ重大性と意義を知る。前 -
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ネタバレ「日付は止まったまま。日付が変わらずとも、沿岸の人間はなんとか生きていかなければならんのです。」
物語の主人公と同じように、被災地を自分の足で歩き回り、自分の目で見、被災者に寄り添って、被災者の言葉に自分も同じように傷つきながら筆者が集めたエピソードの数々は、とてもリアルで胸にずしりと来るものがある。東日本大震災という一個の事実に対し、被災した人の数だけの真実があることをひしひしと感じた。
絶望し、打ちのめされて、途方に暮れてもなお、懸命に前を向いて行こうとする被災地でさえ、容赦なく貧困ビジネスや詐欺、役人の不正や私欲に走るNPO団体が横行するのは、本当に許しがたい。
ミステリーとしてはいま