打海文三のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
作者が亡くなったために未完の大作。永遠に完結することはありませんが、それでも読む価値のあるシリーズです。
装丁で誤解するかもしれませんが、ハードな戦争ものです。軽い気持ちで手を出すと火傷するエログロバイオレンス。だけど、希望のちりばめられた物語でもあります。
少年兵と双子の少女が戦争をどうやって生き抜くかというストーリー。
今も世界のどこかで戦っている少年兵がいて、彼らの気持ちは私には到底想像できないし、理解もできない。
ただ、生まれた時から隣に死が寄り添っていて、当然のように戦いに身を投じた彼らは自分の意志というよりも環境に振り回されているだけな気がします。
でも、いくら理不尽だろうがなんだろうが、環境はそこにあって、そこに生きている以上は適応していくしかない。
本シリーズは日本が舞台であり、案外近い将来こういう事態が起こってもおかしくないのかもしれません。 -
Posted by ブクログ
日本海に面した、架空の国際犯罪多発都市の警察とマフィアをめぐるクライムノベル。
構造は難解だし、公安警察と下級警官のテロ組織とが、何重もの潜入捜査とスパイ合戦を繰り広げるので、人物相関も複雑。
しかし、それを補って余りあるのが、魅力溢れる登場人物で、特にすべてを操る孤高の黒幕には、男も女も夢中になる。
曰く、言葉、声、仕草、振る舞いにゾクッとくる色気があり、決断力と実行力は申し分なく、知性とユーモアがあり、
意表をつく行動、奔放なイマジネーション、眠らないポテンシャル。
映画化するなら大森南朋にやってほしいなあ、と当てながら読みました。 -
Posted by ブクログ
未完の長編となった戦争小説の傑作。この作品は三部作の第一部に当たる。今月ついに「覇者と覇者」が文庫化されるということでもう一度読み返すことに。本当に何度読んでも面白い。
日本国内で起こる内乱戦争が孤児兵の佐々木海人と、海人に助けられた双子の姉妹の月田桜子・椿子の視点で描かれる。上巻は妹と弟を守るために兵士になる海人の視点。
戦争小説と言っても戦争の醜くて悲惨な所ばかりではなく、妹と弟を守るために戦い続ける海人の成長がしっかり描かれていて読み始めると止まらなくなる。厳しい戦争状態の中にあっても、自分を見失わずに前を見据え続ける海人のかっこいいこと。海人も含めて登場人物がいきいきと動いているし、作品内に漂う明るいムードが不思議と重さを感じさせない。だからこんなにも引き込まれるのだろうか。
まだまだ物語は序盤。下巻も早く読みたい。 -
Posted by ブクログ
アジア情勢の混乱によって、日本に大量の難民が押し寄せる。日本の経済秩序は破綻し、法秩序も崩壊し、急激なダイバーシティへの反動として、あるいは新しい秩序が生まれる過程として、たくさんの人が死んでいく。
超越的に醒めつづけている主人公たち。
熱狂し、騒乱する戦闘不良少女。
「正当」のありかを見失い、それでも正当であろうとする日本人の男たち。
ありとあらゆるマイノリティ。
そしてビジネスマン達。
彼らは淡々と、日本を先にすすめていく。
それを綴る著者の醒めた超越的な言葉と修辞。
淡々とその世界に居座り続けられるという、
矛盾した逃避への充足感。
(そしていつでもこちらへ帰ってこられるという、
さらに矛盾した安心感。)
他者であることの幸福と、
他者であることの疎外感。
逃げる世界が、落ち着ける世界があるということ。
著者が急逝し、おそらく未完となった。
言い換えれば、超越者が去り、彼らの世界は永久性を保障された、のかもしれない。
何年か経ったら、ちょっとしたノスタルジーでもって、
写真のアルバムをめくるように、
もう一回読むことになるだろう。 -
Posted by ブクログ
海人の成長の話だった上巻に対し、下巻は上巻で海人に助けられ親しくしてきた月田姉妹の話。
しかし、スピンオフなどではなく完全に直列な話。
海人が孤児部隊の司令官として上り詰めていく一方で、狂った社会に「適応」する為、マリファナを吸いながら昏睡強盗をし、AK片手に長距離トラックの運転手を経て、軍隊に楯突いて女の子だけのマフィアを組織するに至る。
そう書くと冷静で冷徹な感情を動かさない人物像を想像してしまうが、佐々木兄弟やその仲間達と団欒して笑ったり、死者を想って泣いたり、義挙の為に自ら死地に飛び込んだりもする。
やはり海人の場合と同じ様な性格の素直さが、この混沌とした世界を舞台とした物語に後腐れのなさを与えていると思う。
内乱下の戦争孤児という決定的に不自由な立場にありながら、欲望の赴くままに徹底的に自由に生きている姉妹は実に格好良い。
桜子と椿子という二人を敢えて書き分けず、二人で一人であり続けたのも面白い。ちょっと、「暗黒館の殺人」の美鳥と美魚の姉妹を思い出した。今後どうなるのだろう。
(2/10) -
Posted by ブクログ
いまの世の中で、正しく生きることを時代遅れ、または不器用と呼ぶのだとこの作品は言う。「人生さっさと降りちまった方が勝ち」だと姫子の父は言うが、その「勝ち」に、いったいどんな価値があるというのか。……すいませんダジャレでした。
終盤の阪本と犯人の激しい駆け引きの場面に、事実の羅列しか書けない下手な小説につけられるお世辞とは違うホンモノの「疾走感」「スピード感」「緊迫感」を感じた。(ここに詳しく感想を書きたいけど、ネタバレになるので伏せます)謎解きを楽しむミステリではなくて、人間の闇の部分を描くための枠組としてのミステリ。それでいて温かい作品。トリックに驚きたい人には向かないかもしれないが、ニセモノの「疾走感」を覚えてしまっている人に、是非読んでいただきたい作品。傑作。