佐藤多佳子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
もう23年前に発表された作品になりますが、
当時「本の雑誌が選ぶ年間ベストテン 第一位」にも選ばれた、
傑作エンタテイメント小説が本作です。
また、1万円選書でおなじみのいわた書店・店主氏のおすすめ本のひとつでもあります。
主人公はまだ真打にあがっていない、
二枚目の序列にある落語家、今昔亭三つ葉。
ふとしたきっかけで、
しゃべることに難を感じている4人が、
三つ葉のもとで落語を習い始めます。
その、日常ドラマがとても楽しく、そして尊いものに感じられました。
巻末の北川次郎氏による解説には、
物語を構築しつつも物語の背後にあって素人目には気付けないような
作者の文章技術についてが書いてあります。
恥ずかしながら、僕は物語そのものと、
ごくごく狭い範囲の文章術にだけ気を取られてしまい、
北川氏が見抜いたような構造には、
まるで意識的になれませんでした。
本文読後になってようやく「そうだったか!」と得心しました。
それがどんな技術かといえば、
かいつまむと、物語の起伏においてなんですが、
物語がポジティブに進行していくところで、
すこし狭い範囲の文章、段落で、マイナスのイメージを
読者に与えるような書き方をしていることがそれでした。
つまり、登場人物の表情などの描写、
主人公の心理、などなどが、ネガティブに書かれている。
それは、人と人がわかりあったり、心理的に近づいたりすることって、
それほど単純にはいかないものだという作者の洞察があるし、
登場人物たちがしゃべりに困っている、つまり、
自己表現に困っている人たちなのだから、
なおさらネガティブな心理が的を射るし、
物語に深みを与えるし、
真に迫るんだと思いました。
僕が自分で書くときも、それなりに考えてはいるのですが、
今作品のような考え方を未だしたことがなかったので、
勉強にも参考にもなりました。
しっかり考えて執筆に臨めば、
必然的に物語の背後からこういう技術が要求されるものだろうとも思うわけで、
執筆に取り組むときの気持ちをちょっとでもないがしろにしてはいけない、と、
まあ今後もそうするつもりは微塵もないのですが、しっかり覚えておこうと思います。
そうはいっても、先に書いたような技術点など考えずにいて、
物語の面白みが減ってしまうわけではないです。
逆に、物語に没頭することで、すごく楽しませてくれる作品です。
出合えてうれしい大切な小説をまたひとつ、
知ることができた喜びをひしひしと感じています。 -
Posted by ブクログ
十代(小学五年生も辛うじて十代だ)の女の子たちを主人公にした短編小説集。
それぞれの短編の関連はない。
ただ、どれも少女たちの心を繊細に描いていく中で、音楽が重要な役割を持つという共通性がある。
鼓笛隊の「あまりもの」、ピアニカ組になった男女のグループ。
全体としてはちょっとやさぐれた感じが漂う彼らの秘密基地、第二音楽室。
主人公フーミンは、江崎という男子がモーツァルトの15番のソナタを、特に目的があるわけでもないのに少しずつ練習していく姿に、恋愛感情というのではなく、心惹かれる。
「デュエット」は一番短く、ここの作品の中では最ものんびりした雰囲気。
(申し訳ないけれど、あまり印象に残らなかったかも。)
「FOUR」は、もっと恋愛要素満載の短編。
卒業式での演奏のために、選抜された男女4人のリコーダーカルテットの物語だ。
中学一年のスズは、リコーダーの演奏技術に内心自身がありながら、うまく歌えないことをコンプレックスに感じている。
カルテットのメンバーである、同級生の中原に惹かれているのに、それをうまく表現できないのも、きっとそんな彼女の性格に関わっている。
中三が手の届かない大人に見えたり、うまく気持ちを伝えられなくて自分自身がもどかしかったり、という姿が、共感をそそる。
最後の作品、「裸樹」は、打って変わって痛々しい。
中学の時、些細なことからいじめを受け、高校に入った現在も、フラッシュバックに苦しむ望。
不登校に陥った彼女を支えたのが、インディーズでカリスマ的な人気を誇る裸樹の曲を歌ってくれた人。
高校ではノン太というお笑いキャラを作り、何とかやっていこうとしているが、ちょっとした発言、周りからの評価で立場が危うくなるのではというヒリヒリした気持ちは、読んでいて辛くなる。
そんな彼女が軽音部に入り、居場所を作って、少しずつ前に進んでいけるようになる。
十代の痛みって、こんなだったなあ、と思い出されてきた。 -
Posted by ブクログ
青春小説は嫌いだ。正確には青春小説に出てくる「登場人物」が嫌いだ。
彼らは自分勝手で思い上がっていて中途半端で性に飢えている。
恥ずかしい過去の自分と重なってしまう。だから嫌い。
タイトルに惹かれて手にとった本作。
読みはじめて気づいた。青春じゃないか。
読むのをやめようかどうしようか、そう迷っているうちに、迷っていることも忘れ読み終えてしまった。
あろうことか余韻に浸りながら。
確かに青春濃度はかなり高く、そういった意味では間違いなく青春小説なのだが、登場する人物は決して「登場人物」ではなく、木島悟と村田みのりという二人の人間なのだ。
彼らは真っ暗な道をか細い懐中電灯(よく電池切れになる)の光を頼りに進むしかないあの不安と闘いつつ、時に逃げ時に真正面からぶつかっていく。
陳腐な表現ばかりになってしまうが、懸命に生きている。
何かある度すぐ死んだほうがマシというくせに、ちゃんと生きている。
ともすれば自分なんかよりもずっと。
なんだよ、青春小説はうんたらかんたら言って、汚い自分から逃げていたのはぼくのほうじゃないか。
このままではぼくは死んだ魚の目になってしまう。
願わくば黄色くありたい。 -
Posted by ブクログ
音楽を題材にした小説が好きで、もっというと音楽室が風景に出てくる小説が好き。
中高と吹奏楽部に所属をし、青春時代の大半を音楽室で過ごしただけあって自分にとって大事な場所だからなのか。
第二音楽室は吹奏楽部員の物語ではなく、音楽に触れたことのない子や音楽に救われた子等、様々な子達が様々な楽器(声)に出会いその中で葛藤し、成長する短編小説だ。
音楽に触れ合う中で青春を謳歌する彼女達に昔の自分を重ねたり、音楽で周りが変わるこの感じがとても良かった。
個人的には最初の「第二音楽室」、「FOUR」が好きだった。
リコーダーの種類があんなにあるのも驚き。
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Posted by ブクログ
ネタバレ1巻の最初はぜんぜん面白くありませんでしたが、途中からちょっと惹かれてきて、2巻目読み終えました。
シリーズものでも、だいたい1巻ごとに話がまとまってるものが多い中、この作品は、どーんと最後までぶっとうしでいく心意気が見られました(笑)。そう思うと、登場人物それぞれの視点で描かれて、ぐるぐる立ち位置が変わりながら物語が進んでいくのも、まあ、いいかなと思いました。
小学生の子供たちが主人公ですが、安易に話が進んでいかないところも、ちょっと現実に寄り添ってて面白かったです。すぐに受け入れられないってのも、そりゃそうだよなーと思いつつ、それだと物語が進まないだろうなと思います。なので、そこら辺の葛藤は、割愛されるの多い中、ちゃんと大事にして視点をあてて書いてるってのもいいなと思いました。
後半、そこを含めて、最後に何をもってくるのかわくわくします。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ「俺は不言実行のコーチだからな。ハッタリはかまさんよ」
三輪先生は俺の頭をハタきながら、そんなことを言う。
「実行するのは選手だ。コーチが不言でどうする? そんなコーチはいらんだろう」
大塚先生がイライラしたような口調で言った。三輪先生は笑っている。
「何が不言実行だ。いつも適当な目標をぺらぺら言って、ろくにクリアしたことないじゃねえか」
「そりゃ、選手時代の、高校の時の話でしょう、先生」
「指導者になって変わったか?」
「そりゃ違いますよ! 自分のことはいいですけど、生徒は傷つけたくないですよ。適当なことなんか言いませんって」
「高い目標を立ててやれ。引っ張り上げてやれ。尻を押してやれ。それが指導者だ。不可能を可能にしてやれ。夢を持て。おまえが一番大きな夢を持て」
大塚先生は厳しい口調で静かに言った。くぼんだ目が三輪先生に食いつきそうにギラギラ光っている。
夢は各自が持てーーというのが三輪先生の持論だった。自分から強く望まなければ絶対に実現しないからと。だから、先生の言葉には本当にびっくりした。
「やったなあ…」
根岸は低くつぶやいた。
「見たか? おまえ、蓮が思い切り出たぞ」
根岸は泣きそうな顔をしていた。
「俺ん時はな、あれができなかったんだよ。蓮は俺を待ってて、すげえゆっくり出てくれたんだ。そんなの4継じゃねえんだよ。やっと本物になった」
「ああ、そうだな」
俺はうなずいた。総体優勝云々より、何より根岸が望んでいたことなのかもしれない。蓮がリミッターをはずし、持てる力のすべてを出すこと。4継のメンバー全員がMAXの力で走れること。それが根岸の夢だ。