佐野眞一のレビュー一覧
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ノンフィクションの巨人が描く震災と原発事故で浮き彫りになった日本人の姿。そこには美もあれば醜もあって、読む人間を「真実」の世界に引き込んでいきます。
いまだ復興のめどが立たないまま、時間だけがただ流れている。そんな印象が否めないのは果たして僕だけでしょうか?この本はノンフィクションの巨人といわれる筆者が震災直後に実際に現地を歩いて丹念な取材の元に書かれたルポルタージュです。
震災に関する報道に関しては正直『真実』が報道されていないなぁ、という印象がものすごくあって、本当は実際に自分の目で確かめることが一番なのでしょうけれど、諸般の事情でどうすることもできず、というときに出会いました。
圧巻でした。自分が知りたいのはここに書かれてることだったのだとはたと膝を打ったことを覚えています。ここには『紋切り型』の報道ではなく、津波で行方不明となった新宿ゴールデン街の名物オカマと筆者との再開のエピソードや、津波にあいながらも九死に一生を得て筆者のインタビューに答える日本共産党元幹部の「津波博士」との邂逅。
津波で財産や船をなくして慟哭する『日本一』の猟師。彼らの言葉や息遣いが生々しいもので、以下に今回の震災および津波は彼らの心に残した爪あとが深いものだったかということを思い知ることができました。
そして、中盤の同じ筆者の手による『巨怪伝』で取り上げられていた正力松太郎と、天皇・原発のトライアングル。この話は執念深さとどろどろしたものが渦巻いていましたね。
そして後半部の福島原発の立っている土地は江戸時代には飢饉にあえぎ、戦時中には旧陸軍の飛行場として使われ、西武の堤康次郎に買収されて現在のようになった、ということが丹念な取材によって明らかにされており、まだまだ知らないことがこんなにもあったのかと、唖然とする思いでページをめくっておりました。
いま、震災の復興がどの程度まで進んでいるのか?原発事故はどこまで収束されているのか、まったくわからない状態でこの記事をしたためていますがこれからも、この問題には最低でも数年。場合によっては数十年のスパンで見ていかなくてはならないな、ということを再確認する次第になりました。
※追記
本書は2014年2月14日、講談社より『津波と原発 (講談社文庫 さ 96-2)』として文庫化されました。著者の佐野眞一氏はが26日、肺がんのため千葉県流山市内の病院で死去しました。 75歳でした。 -
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ここに書かれているのは我々が知ることがなかった孫正義一族の三代に渡る『海峡』の物語です。ありきたりなサクセスストーリーとは一線を画す『血と骨』を凌駕するような凄まじい「物語」の上に彼の存在があります。
この本は2011年に週刊ポストに連載されていたものを中心として掲載後にあきらかになった事実を加筆したものです。
雑誌に掲載されていた当時、僕はパラパラと飛び飛びに読んでいましたが、こうして単行本化されたものをじっくりと読むにつけ、ここ近年自分が読み進めてきた本の数々は、実はこの本を読むためにあったのではないかと錯覚してしまうほどでありました。
『孫正義とは何者か?』ここに描かれている彼の姿は筆者の真骨頂による徹底した取材力で全4回の本人取材はもちろんのこと、近親者への徹底した聞き込みや彼の一族のルーツである朝鮮半島の現地取材によって僕もある程度は読み込んでいましたが、彼自身の華々しいコンピュータや通信事業を中心としたサクセスストーリーとは一線を画すような『血と骨』を中心とする梁石日の小説を地で行くような孫正義の理屈抜きの生々しい世界を抉り出しております。
僕が読んでいてのっけから孫正義をして『無番地』と言わしめたバラックの中で豚に酒粕を食わせて育て、その豚をしめて正肉やホルモンをとって売り歩き、雨が降って豚の糞が浮かぶ水が床上や床下から浸水するところで孫正義氏はヒザまでその水に漬かりながら机にかじりついて勉強をしていた、というまことにもってみもふたもない『破壊力』抜群の話が全編にわたって描かれております。
『孫正義本人も知らない孫正義』を描き出している、ということで、彼の人格形成をする上で決定的な影響を与えたといわれる父親の三憲や『海峡』を14歳で渡ってきてリアカーにドラム缶をつめて飲食店から残飯を集め、養豚や『頼母子講』という小口の金融業まで行った祖母の李元照の『仔豚に自分の乳を含ませて母乳を与えていた』というまさに常軌を逸したエピソードがものすごく印象に残っていてページをめくりながらその一つ一つに圧倒されてしまいました。
『3.11』後の原発事故の際、孫正義は100億円の義捐金をポンと出し、その後も反原発、脱原発の旗を振り続ける彼の母方の叔父に、かつて日本の『国策』としてエネルギーを担っていた炭鉱で過酷な労働に従事し、筑豊炭鉱の爆発事故で命を落としたという箇所は以前読んだ山本作兵衛翁の書いた著作や画文集が、本当に彼らの実態を類推するために非常に役立ちました。その中で事故の描写は作兵衛翁の事故の絵と自筆による解説の画文が頭の中にありありと思い浮かんできました。
時は流れて日本の『国策』で推し進められた原発に反旗を翻す孫正義の姿に、すさまじいばかりの『縁』というかなんというか…。並々ならぬ深い『業』という一筋ならないものを感じて戦慄を憶えました。
筆者は彼ら三代に渡る血脈を『魑魅魍魎』という言葉で表現しましたけれど、そうでもしなければ生きていくことが出来なかった彼らのことを想い、同じく『海峡』を渡ってきた半島にルーツを持っている人間の物語、僕は伊集院静、梁石日、そして柳美里の小説やエッセイに描かれている物語の数々を連想し、そうした『物語』を一身に体現した存在が孫正義なのだということを読んだ後に思いました。
ありきたりの『成功物語』という範疇にはまずくくられることのない、『孫正義』という『怪物』の物語は筆者いわく『日本のスティーブ・ジョブズの物語を描きたい』という大願に沿うものであると思いました。
僕はジョブズの評伝も読みましたけれど、彼のドラマチックな人生に勝るとも劣らないすさまじいばかりの三世代にもわたる人生の記録がここに記されております。
※追記
本書は2014年9月5日、小学館より『あんぽん 孫正義伝 (小学館文庫)』として文庫化されました。 -
購入済み
読み応えあり
この事件は結構インパクトのある事件として記憶していたので、どこまで掘り下げられているのか興味が湧いて読んでみた。なかなか奥の深い色んな組織の思惑までも暴露していく内容に感心しながら読ませてもらいました。
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攘夷から幕臣に転じ、明治維新以降の偉業を成し遂げた渋沢栄一についてはそれなりに知るところではあったが、その子である篤二と孫の敬三についてそれぞれ激動の人生であった事については初めて知っただけにその驚きは大きかった。
あまりにも壮大な一族の繁栄から没落までの流れはただただ感嘆するばかりで、一言では語れない。
渋沢家三代が日本経済に残してくれたものは大きいし偉大だ、と言う事が実感として強く残る。
最後に著者が語っている事を心に残った言葉としてここにそのまま残しておきたい。
『事業にしろ遊芸にしろ学問にしろ、自分の信ずるせかいにこれほど真摯に没入していさぎよく没落していった一族が、ほかにいただろうか。渋沢家三代のおおいぶりな健全さとなにもかも心得たふところの深さは、日本人の精神からことごとく消えてしまった。』 -
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次回大河ドラマの主役渋沢栄一、その息子で廃嫡される篤二、民族学で名を残す敬三。渋沢家の三代を通じて見つめる日本近代史。
渋沢栄一だけでなく、その子、孫。さらに一族本家まで俯瞰した新書としては守備範囲の広い意欲作だろう。
何代かに渡って一族を眺めると、勤勉と遊蕩の血が交互に出てくるのが面白い。渋沢一族としてみるとむしろ著名な栄一が異例でありどちらかというと学術、芸術家肌が多い。渋沢敬三しかり本家筋の澁澤龍彦など。
渋沢栄一の志士から一点一橋慶喜に仕えパリへ。官僚から実業界という波乱の人生。そのサクセスストーリーの陰で犠牲となったとも言える篤二、そして日銀総裁などを務めつつも柳田国男との出会いを機に趣味の民俗学を極めた敬三。
豊富な資料から冷酷なまでの鋭い視点は筆者の独壇場。敬三を主題とした「旅する巨人」のアナザーストーリーとして楽しめます。 -
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値が上がるとヤフーの株を売ったり、下がると買い戻したり。一方で巨大ソフトバンクグループを率いる孫正義。
このずるい手法を用いる一方で、抜群の成果を上げてきた孫正義はいかにして生まれたかを深く解き明かした作品。
川の氾濫で糞尿が浮くような豚小屋で育ったも同然な孫の出自を丹念に取材。これまでの軌跡を明らかにした。
氾濫時には膝まで水に浸かりながらも孫正義は勉強したいたとか。
人を果物ナイフで刺すほど気合の入った口がひたすらに悪い父親や、小学校時代の孫正義のませたポエム。
入院中には本を3千冊読んだとか。1日10冊ペース?
周囲に気を配るリーダーの中学時代。ビジネスを興そうとする高校時代や、ビジネスについてひたすら父親と議論していたエピソードや、喫茶店経営にも孫正義のコーヒー無料券で成功に至ったケース。
たしかに片鱗を感じさせるエピソードばかりだった。
頭がいい、人間味がある。そしてちょっとずるい。
原発既得権益者に喧嘩を売り、NTTにもケンカを売る。
めっちゃ面白かった。
孫正義の人間性が好きになると同時に、佐野真一さんもすげえと思った。
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この本で読んでふと思ったことは、
孫正義と言う人は、
自分が在日であることに、
異常なまでの「コンプレックス」を抱いて生きているんだな思った。
また、その「コンプレックス」を隠すのではなく、原動力としている。
原動力というか、感謝といっても良いと思う。
少なくない人間が様々なコンプレックスを持って生きている。
それに押しつぶされてしまう人もいれば、それを利用して逞しく生きる人もいる。
負の感情というのは、利用次第では、爆発的なエネルギーを生む。
孫氏がITにこだわっているのも、その世界に差別がないからだと思う。
個人的には、「何かを継続すること」にも、コンプレックスが深く関わっていて、
その葛藤なしに何事も達成できないかもしれないと思った。
佐野氏の筆致が、余計、孫氏のこれまでの「生き方」の凄みと、
その負の面を喚起させる。もし、自分なら、佐野氏を名誉棄損で、
訴えると思う。
ただ、その孫氏は、自身の境遇に、
「感謝してます」と言ってのける。
これが、凡人と超人の差だと思う。
見下せれ、差別され、泥水をすすってきた幼少時代、
今でも、陰口を言われるが、何とも思っていない。
凄い人間だと思う。 -
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先日論語と算盤という本を読んだ際に、気になった本です。
非常に面白かったです。
栄一という近代日本資本主義の父の実の子たちに降りかかる重圧。
それを女性であったり、学問に救いを求めたり、とにかく厳格に、
渋沢の家の人間という事を誇りに思い、重視したりと
何かバランスを崩してでないと生きていけないような姿を
様々な文献を読み解き、抜粋し伝えてくれる一冊。
昔の住所を調べてみたり、名前は歴史の時間に聞いたことがある、
レベルの人について調べてみたりしながら、
夢中になって読みました。
江戸時代末期から昭和にかけての人物像がくっきりと浮き上がる中、
自分の今までの不勉強を恥じ、このような人が生き生きとしている本と
出会って、歴史を自分の中で認識していくしかないな、と思います。