【感想・ネタバレ】あんぽん 孫正義伝のレビュー

あらすじ

異端経営者はなぜ生まれたのか。

今から一世紀前。韓国・大邱で食い詰め、命からがら難破船で対馬海峡を渡った一族は、豚の糞尿と密造酒の臭いが充満する佐賀・鳥栖駅前の朝鮮部落に、一人の異端児を産み落とした。

ノンフィクション作家・佐野眞一が、全4回の本人インタビューや、ルーツである朝鮮半島の現地取材によって、うさんくさく、いかがわしく、ずる狡く……時代をひっかき回し続ける男の正体に迫る。

在日三世として生をうけ、泥水をすするような「貧しさ」を体験した孫正義氏はいかにして身を起こしたのか。そして事あるごとに民族差別を受けてきたにも関わらず、なぜ国を愛するようになったのか。そしてなぜ東日本大震災以降、「脱原発」に固執し、成功者となったいま、再び全米の通信業界に喧嘩を売りにいこうとするのか――。飽くなき「経営」の原点が本書で明らかになる。

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Posted by ブクログ

ここに書かれているのは我々が知ることがなかった孫正義一族の三代に渡る『海峡』の物語です。ありきたりなサクセスストーリーとは一線を画す『血と骨』を凌駕するような凄まじい「物語」の上に彼の存在があります。




この本は2011年に週刊ポストに連載されていたものを中心として掲載後にあきらかになった事実を加筆したものです。

雑誌に掲載されていた当時、僕はパラパラと飛び飛びに読んでいましたが、こうして単行本化されたものをじっくりと読むにつけ、ここ近年自分が読み進めてきた本の数々は、実はこの本を読むためにあったのではないかと錯覚してしまうほどでありました。

『孫正義とは何者か?』ここに描かれている彼の姿は筆者の真骨頂による徹底した取材力で全4回の本人取材はもちろんのこと、近親者への徹底した聞き込みや彼の一族のルーツである朝鮮半島の現地取材によって僕もある程度は読み込んでいましたが、彼自身の華々しいコンピュータや通信事業を中心としたサクセスストーリーとは一線を画すような『血と骨』を中心とする梁石日の小説を地で行くような孫正義の理屈抜きの生々しい世界を抉り出しております。

僕が読んでいてのっけから孫正義をして『無番地』と言わしめたバラックの中で豚に酒粕を食わせて育て、その豚をしめて正肉やホルモンをとって売り歩き、雨が降って豚の糞が浮かぶ水が床上や床下から浸水するところで孫正義氏はヒザまでその水に漬かりながら机にかじりついて勉強をしていた、というまことにもってみもふたもない『破壊力』抜群の話が全編にわたって描かれております。

『孫正義本人も知らない孫正義』を描き出している、ということで、彼の人格形成をする上で決定的な影響を与えたといわれる父親の三憲や『海峡』を14歳で渡ってきてリアカーにドラム缶をつめて飲食店から残飯を集め、養豚や『頼母子講』という小口の金融業まで行った祖母の李元照の『仔豚に自分の乳を含ませて母乳を与えていた』というまさに常軌を逸したエピソードがものすごく印象に残っていてページをめくりながらその一つ一つに圧倒されてしまいました。

『3.11』後の原発事故の際、孫正義は100億円の義捐金をポンと出し、その後も反原発、脱原発の旗を振り続ける彼の母方の叔父に、かつて日本の『国策』としてエネルギーを担っていた炭鉱で過酷な労働に従事し、筑豊炭鉱の爆発事故で命を落としたという箇所は以前読んだ山本作兵衛翁の書いた著作や画文集が、本当に彼らの実態を類推するために非常に役立ちました。その中で事故の描写は作兵衛翁の事故の絵と自筆による解説の画文が頭の中にありありと思い浮かんできました。

時は流れて日本の『国策』で推し進められた原発に反旗を翻す孫正義の姿に、すさまじいばかりの『縁』というかなんというか…。並々ならぬ深い『業』という一筋ならないものを感じて戦慄を憶えました。

筆者は彼ら三代に渡る血脈を『魑魅魍魎』という言葉で表現しましたけれど、そうでもしなければ生きていくことが出来なかった彼らのことを想い、同じく『海峡』を渡ってきた半島にルーツを持っている人間の物語、僕は伊集院静、梁石日、そして柳美里の小説やエッセイに描かれている物語の数々を連想し、そうした『物語』を一身に体現した存在が孫正義なのだということを読んだ後に思いました。

ありきたりの『成功物語』という範疇にはまずくくられることのない、『孫正義』という『怪物』の物語は筆者いわく『日本のスティーブ・ジョブズの物語を描きたい』という大願に沿うものであると思いました。

僕はジョブズの評伝も読みましたけれど、彼のドラマチックな人生に勝るとも劣らないすさまじいばかりの三世代にもわたる人生の記録がここに記されております。

※追記
本書は2014年9月5日、小学館より『あんぽん 孫正義伝 (小学館文庫)』として文庫化されました。

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2025年02月12日

Posted by ブクログ

値が上がるとヤフーの株を売ったり、下がると買い戻したり。一方で巨大ソフトバンクグループを率いる孫正義。

このずるい手法を用いる一方で、抜群の成果を上げてきた孫正義はいかにして生まれたかを深く解き明かした作品。

川の氾濫で糞尿が浮くような豚小屋で育ったも同然な孫の出自を丹念に取材。これまでの軌跡を明らかにした。

氾濫時には膝まで水に浸かりながらも孫正義は勉強したいたとか。

人を果物ナイフで刺すほど気合の入った口がひたすらに悪い父親や、小学校時代の孫正義のませたポエム。

入院中には本を3千冊読んだとか。1日10冊ペース?

周囲に気を配るリーダーの中学時代。ビジネスを興そうとする高校時代や、ビジネスについてひたすら父親と議論していたエピソードや、喫茶店経営にも孫正義のコーヒー無料券で成功に至ったケース。

たしかに片鱗を感じさせるエピソードばかりだった。

頭がいい、人間味がある。そしてちょっとずるい。

原発既得権益者に喧嘩を売り、NTTにもケンカを売る。

めっちゃ面白かった。

孫正義の人間性が好きになると同時に、佐野真一さんもすげえと思った。

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2019年10月07日

Posted by ブクログ

この本で読んでふと思ったことは、
孫正義と言う人は、
自分が在日であることに、
異常なまでの「コンプレックス」を抱いて生きているんだな思った。

また、その「コンプレックス」を隠すのではなく、原動力としている。
原動力というか、感謝といっても良いと思う。

少なくない人間が様々なコンプレックスを持って生きている。
それに押しつぶされてしまう人もいれば、それを利用して逞しく生きる人もいる。
負の感情というのは、利用次第では、爆発的なエネルギーを生む。

孫氏がITにこだわっているのも、その世界に差別がないからだと思う。

個人的には、「何かを継続すること」にも、コンプレックスが深く関わっていて、
その葛藤なしに何事も達成できないかもしれないと思った。

佐野氏の筆致が、余計、孫氏のこれまでの「生き方」の凄みと、
その負の面を喚起させる。もし、自分なら、佐野氏を名誉棄損で、
訴えると思う。
ただ、その孫氏は、自身の境遇に、
「感謝してます」と言ってのける。

これが、凡人と超人の差だと思う。
見下せれ、差別され、泥水をすすってきた幼少時代、
今でも、陰口を言われるが、何とも思っていない。

凄い人間だと思う。

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2017年11月09日

Posted by ブクログ

佐野眞一と言えば、数年前、橋下徹をハシシタと呼び出自を侮蔑する事で悪名を上げたが、本来はバリバリの実力派ルポライターで、私は里見甫を取り上げた戦前の満州阿片利権の書により、彼の取材力の高さ、その魅力に取り憑かれた。その彼がハシシタ騒動以前に書き上げたのが、この孫正義伝。ライター大御所としてのプライドもあろう、他の著者による孫正義伝の取材不足を折々引き合いに出しディスりながら、如何に自分が優れたジャーナリストかを誇示する様はやや興ざめではあるが、しかし、実力は間違いない。孫正義が育った部落の航空写真を手土産にするなんて所作は、一流商社マンでも中々思いつくまい。彼の垣間見る我欲の強さは、これは取材への厚かましさ、執着心に繋がり、だからこそ読み手の目を楽しませてくれると考えれば、多少の傲慢さなどご愛嬌である。

さて、孫正義であるが、出自や発想の独創性、それに加えた本心が見え難い部分も助長し、アンチも多い。本著でも佐野眞一が何度も、いかがわしさという言葉で評しているが、つまりは、孫正義自身の腹の中が分からず、どうしてもビジネス優先のコマーシャリズムに通じて、彼を見てしまうのだ。ズバ抜けた行動力が、却って浅薄な動きにも見えてしまい、情緒が落ち着かないような印象を残す。こうした道理で、いかがわしさを生むのではなかろうか。しかし、本著で西和彦(元アスキー社長)が語るように、そもそものスケールが違うのだから、我々には理解できぬ部分はあるのだろう。

後半、著者により書かれるが、本著は、孫正義の家族を掘り下げての在日の生き様を描く事にも主眼が置かれている。正直、孫正義の家族の表し方は、遠慮なく、語られる本人が不快に感じる箇所も多いだろう。全然関係のない私などは、迫力のある取材に興味をそそられるが、やはり、この手法がハシシタ騒動の序曲となった感は否めないのである。

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2016年10月20日

Posted by ブクログ

今や日本を超え、世界的経営者となった孫正義氏の、生い立ちから両親、祖父母の血脈、どのようなバックボーンが稀代の経営者の人格形成に影響を与えたかなど、綿密な取材に基づいた作者渾身の一冊だと感じた。
「孫正義という人間は何となくうさんくさい」という、作者の目線が、批判でも賞賛でもない独自の深みを醸し出しており、また私が今まで抱いていた孫正義氏のイメージとも重なっていたことから、最初から最後まで興味を持って読むことができた。

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2015年01月02日

Posted by ブクログ

偉大な経営者孫正義がどうやって出来上がったか。幼少期の壮絶な貧困体験、差別を受けた経験。もともとあった地頭の良さに環境が作用して覚醒した。
人間は修羅場を超えると強くなる、図うずうしくないと勝ち上がれないと感じた。

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2023年01月29日

Posted by ブクログ

ソフトバンク創業者孫正義氏の評伝。孫氏の親戚や祖先を訪ね、且つ本人にも取材して、孫正義という人物がどういうふうに生まれ、成長したのかについて描いている。
佐野眞一氏のやり方は、取材対象者の先祖を何代か前まで遡って取材していく方法で、批判されて大問題となった『ハシシタ 奴の本性』も同じ手法だ。『あんぽん』でも使われているが、批判の声を聞かない。著者が孫氏を取材の過程で、評価するようになったいき、孫氏も佐野氏を信頼していることが、文中からわかるからかもしれない。
孫正義氏の幼少期の貧しさ、父母やその兄弟、祖父母などに見られる気性の激しさなどは、本当に驚かされた。
佐野眞一氏の筆からも熱量が感じられる。
本書は構成などが上手いとは言えないと思うが、
非常に熱を感じさせる良作である。

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2022年06月12日

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凄まじい執念で描かれた孫正義伝。
「人間を背中や内臓から描く」と言ってのける、この佐野という筆者にこそ興味をそそられた。

日系三世の血と骨の物語はきっと事実。
人間は面白い。素晴らしい。

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2021年11月09日

Posted by ブクログ

おもしろかった。
黒澤映画の「羅生門」のような話で、語るヒトによって、同じ内容がこうも違うのか...ということを痛感させられた。
個人的には、中国韓国日本は、どこかでつながっていて、いろいろな諸問題は、磁石の+と+のようなものだと思っている。

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2021年02月19日

Posted by ブクログ

ノンフィクション作家の大御所、佐野眞一が書いたソフトバンク
の孫正義の生い立ちや両親のルーツを書いた本。

「週刊ポスト」に連載されていたものに、大幅加筆したもの。

孫さんが佐賀の鳥栖駅前の朝鮮部落で育った事や、その環境の
凄まじさ、幼少期からの天才ぶりなど、読みどころは多い。

ただ佐野眞一さんが孫さんに敵意を持っており、タイトルのあんぽんも孫さんの日本名「安本」を侮蔑した呼び方だったり、無駄に扱き下ろす描写が多い。

というか佐野さんの本は面白いものも多いけれど、いつもちょっとくどかったり人間性にクエスチョンなものも多々あったりなのだが・・・。

「そこそんなに細かく調べなくていいから」とつっこみたくなる炭鉱の部分とか、終盤グダグダだったりとかしょうもない部分もあるが、孫正義氏に興味のある人は読んでみる価値のある本だと思います。

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2020年12月26日

Posted by ブクログ

ネタバレ

言わずと知れた有名人、孫正義の生い立ちからいまに至るまでを、本人、家族等に取材し、書き上げたルポ。
孫正義にも、ソフトバンクにも正直あまり興味がなかったのですが、好意的なイメージよりは、胡散臭い、ネガティヴなイメージだったので、ちょっと彼に関する本を読んでみようと思い。
以前、どこかで「おすすめ本」として紹介されていたのもうっすら記憶にあったので、本書を読んでみることにしました。

しょっぱなから、「本当!?」と訝しんでしまうような情報が次々と紹介され、面白くて惹きつけられる反面、読むのにすごくエネルギーを消費したように思います。
孫正義は「在日」であることのコンプレックスを力に変えて、がむしゃらに突っ走って来たのでしょうか。
以前は氏の「日本が好きだから」を胡散臭く聞いていましたが、本書を読んだ後では、なんとなく、本心であるような気がしてきました。

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2018年02月10日

Posted by ブクログ

在日でありながら日本一の金持ちになった実業家・孫正義の一冊。

これまでの立志伝とは違い、在日であることにスポットを当てているので彼の生い立ちや、彼の両親のルーツに迫っている。
ソフトバンク創設後以降の記述が淡白なので、それを期待するものにはお勧めできないものの、彼のルーツを知ることができて面白かった。

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2016年02月07日

Posted by ブクログ

在日三世として貧困から身を起こした孫正義とそのバックグラウンドを描いたノンフィクション。孫正義の生い立ち、家族、これまで歩んで来た道が描かれ、興味深く読んだ。

孫正義がたった一代でSoftBankをNTT、KDDIと肩を並べる通信キャリアに成長させた事は驚異である。方や官の天下りによる後ろ盾で通信キャリアの頂点に君臨していたNTTやKDDIも陰りを見せている。完全なる民のSoftBank、いや、孫正義の戦略、経営思想の勝利であろう。

孫正義は在日という事で、Twitterなどでは酷い攻撃を受けているが、孫正義の飄々とした返しが面白い。常に世界に目を向けている孫正義と島国根性の塊の輩の人間の大きさの違いを見るかのようである。

文庫化にあたり、改めて加筆したようだ。

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2014年09月20日

Posted by ブクログ

ソフトバンク前身の日本ソフトバンク立ち上げ時、銀行から融資を拒否された際に、シャープの佐々木氏が自身の退職金額と自宅の評価額を算出した上で孫さんの融資の保証人になったエピソードは、他の優れた経営者を支援する

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2023年09月26日

Posted by ブクログ

・父は孫正義を社会の子として扱う
・出自からして差別部落で育ち、
・あえて周りに隠さず韓国の孫の苗字で勝負し、
・病床の頃は3年間で3,000冊の本を読む
・全く一般人の手の届かない程の人生を歩んでいる
・孫正義は日本の国民以上に日本国民である
┗ 東日本大震災での脱原発・自然エネルギーに向けた動き
・この本で分かった事は孫正義の出自、特に家族や親族に焦点を当てて、どのような背景で孫正義という人間が生まれたか。

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2021年03月05日

Posted by ブクログ

孫正義のルーツを探る。
生臭い話があって、ただの英雄譚ではない。
こんな人間にはなれないなと。生きてきた人生、ルーツが違いすぎる
共感できることが少なく、嫌悪感も少しある。

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2015年10月03日

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