あきのレビュー一覧
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“「怖がるなよ。『薔薇色』がロンドンからここに移転したってことは知っていたけど、来たのははじめてだ。リンダはどうなって?知らないのか?そんなことはどうでもいい。俺が頼みたいことはただひとつ」
「頼みたい――こと?わたしに……」
「あんたは、リンダの娘だろう。誰にも作れないドレスを作る」
頭がくらくらする。だけれど、今倒れるわけにはいかない!ああ、パメラ!
「パトリシアのドレスを、闇のドレスにするんだ。闇の布を使って、闇の心をとき放つ。リンダ・パレスの娘なら、つくれるだろう、クリス」
「つくれません」
クリスは答えた。あとずさりし、ひとり掛けの椅子の背を持つ。手がふるえて、椅子の脚がいやな音をた -
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“シャーロックはフリルの茶色い瞳を見つめる。フリルが両手を頬にあてた。
「……なんだかリル、おにいさまに見つめられたら死んでしまいそうになりましゅわ」
「ばかなことを言ってるなよ。このこと叔母上は――」
「もちろん知りませんわ。おかあさまも、ハクニール伯母様も。これからも言わないでいてさしあげてもよろしいでしゅわ。ただし、リルの条件をおにいさまがきいてくだされば」
最後のパンを食べ終わって、バスケットを閉めようとしていたシャーロックは眉を寄せた。この赤毛の伯爵令嬢は、この年齢にしてすでに知略というやつを身につけている。
「条件とは?」
「もちろん、リルも一緒に連れていってくださることですわ」
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“「なんだよ、それは!」
「あれ、違うの?」
「違うよ。……違うよ!ただ……」
「ただ、何だ」
かたん、とグラスをテーブルに置き、シャーロックはひとりごとのようにつぶやいた。
「……止まっていれば追いかけて来るくせに、こっちが追えば逃げるというのが、わからん。追ってくると思って待ってたって、絶対に一定以上はちかよってこないのは、なぜだ」
ケネスは数秒、黙った。
それから、爆笑した。
「なんだおまえ……それ、近所の野良猫の話か。それとも、寄宿学校の初恋か!」
シャーロックは、さきほどまでのうしろめたそうな表情が嘘のように腹をおさえてげらげら笑っているケネスを見たが、酔いのせいもあってなぜ笑われて -
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“「舞台の役をお願いしたいのよ、パメラ」
マーガレットが言った。ゆっくりとひびく声だった。声をはりあげているわけでもないのに、言葉が胸に落ちていく。強気を装おうとしているパメラでさえ、なんとなくききいってしまうようだった。
「役――ですって?」
パメラがつぶやいた。
マーガレットの右手がつと動き、帽子のヴェールをゆっくりとめくった。
「あなたのような人を待ったいましたのよ、パメラ」
満足そうに、マーガレットは言った。むきだしになった顔は驚くほど白く、少女のように邪気がない。
「あなたなら女優になれるわ。あなたのための役があるの。ディモス――悪魔の役ですわ。そう、あたくしの新作、『楽園』の、美し -
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“「今は、いいピンクの生地が入ってないんですよ」
「まさか!ピンクがないだなんて」
バーンズ夫人は大げさに首を振り、目を見開いた。
「それはないのじゃありませんか?わたくしが何のためにこのお店にきたと思っていらっしゃるの。もちろん評判をきいたからですわ。思っていたほど、大きなお店じゃないけれど、『薔薇色<ローズ・カラーズ>』といえば、そのう、その――」
「『恋をかなえるドレス』を仕立てる店ですって――?」
「そうそう、そのドレスですよ!恋のドレス。わたくしのかわいいミラルダのデビューにこれほどふさわしいお店があるかしら。だからわざわざ、二頭立ての馬車を仕立てて来たんじゃありませんの。それなのに