浅田次郎のレビュー一覧

  • 天子蒙塵 2

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    ぼろぼろに泣きながら読んだ。誰も死なないで、生きてと唱えながら読んでいる。

    本当に孤独な者は、自分が孤独であると理解できない。溥儀のモノローグから始まる第二巻。満洲国がいよいよできてしまった後の話。
    吉永中佐は陸軍大学校の教官として予備役から現役復帰する。

    "軍人が国民から敬せられる悪い時代になったと、吉永はつくづく思った"
    "「いかに有能であれ、一人の人間に権力が集中するのは、国家にとっていいことではありません」"
    "もしやわが国では、国会という機能そのものが、さほど重要視されていないのではあるまいか。「世界の一等国」としての体面を保つための、シンボルに過ぎぬのではないかと思う"

    上記の、吉永が教官となったあとの描写がもう、もうこのご時世と重なって仕方がない。

    鬼門の艮の方角、東北に流れていく溥儀。長春の街でいよいよ神経衰弱となっていくが、彼を取り巻く思惑は止まらない。誰も止められず進む。暗澹たる気持ちにすらなってくるがすいすい読ませるのは流石浅田次郎の筆だな。

    戦いをやめて銀花と文瑞を幸せにするために生きることにした春雷。春雷と春雲の兄弟が関わりを持っていてよかったな。

    そして第二巻の終盤、文秀と玲玲は故郷に帰る。春児が豊かにした、あんなに荒れ果てた大地だったのに小麦の実る楽園のようにした故郷に帰る。もう涙が止まらなかった。二人を監視するために同行した酒井大尉が、法律を学んだ聡明な人でよかった。
    "「人間の不幸の多くは、法律の不備に起因します。よって、法律家のはしくれとして、やはりお詫びをさせていただきます」"
    もう涙が止まらなかった。まだあと後半の二巻分ある。塵を被って逃げる天子の話はどこへ行き着くんだろうか。

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    2023年04月04日
  • 天子蒙塵 1

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    一気に読み切ってしまいました。何故あんまり評価が高くないのかわからないくらい、とにかくひたすら面白かったです。

    蒼穹の昴シリーズも11巻目に来ました。この、一人の女性が語る話の運び方が本当にわかりやすくて面白くて、今のところシリーズ内で一番好きです。
    「女性の本性は政治ではなく、真実の愛を求めること。老仏爺が教えてくれました」という台詞があって、それは傷ついた文繍には癒しだったかもしれない。でも、どうしても生きることは政治に繋がってしまう。貧しくとも読み書きができなくともという話なのかもなと思いました。自分の運命は絶対に変えられるのだと。

    "でも、これだけは言える。神と悪魔はけっして対峙する存在ではなく、ひとりの人格の、あるいは一つの国家の併せ持つ、ふたつの貌だということ。"

    "国家にも人間にも善悪はないと思います。みずから善行と信じたものが、他者にとっては悪行となるだけです。"

    どちらも納得のいく言葉でした。

    史上初、中華皇帝と離婚した皇妃、文繍が歳をとった春児と朝日新聞記者で史了の早稲田の教え子、北村記者に紫禁城を追い出されてから「満洲国」に至るまでに何が起こったのか、家族とは何か、離婚によって得られる自由とは何かを語る話。

    1
    2023年03月31日
  • マンチュリアン・リポート

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    行こう、雨亭。鉄路はどこまでも続いている。皇帝でも総欖把でも大元帥でもない永遠の少年を乗せて、私は走りたい。それこそ鋼鉄の公爵の名にふさわしい、栄光の旅だと信ずるから。

    張作霖が爆殺されてから一年後、昭和天皇の密命を受けてなぜ彼は殺されたのかを探る軍人の報告書と、彼を乗せた豪華機関車のモノローグが交互に挟まる蒼穹の昴シリーズの10巻目。巻を増やすごとに面白くなっていきます。

    吉永中佐が大好きです……当時からこうやって引き裂かれた人はたくさんいたはずなんだ……雨亭が中佐に最後にかけた言葉も好きです……

    どうか最終章まで読んでいただきたい……あの「ああ……」としか言えない感覚を多くの方に味わっていただきたいです。

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    2023年03月29日
  • 椿山課長の七日間

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    面白れぇー。楽しく読めて、じんわりと涙する。エンターテイメントのツボを押さえた傑作。身を正して生きないといかんなと我が身を振り返った。遅いかもしれないけど。

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    2023年03月23日
  • 姫椿

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    生き物の死を通して生き方を考えさせられる短編集。好きすぎて何回も読み返しとる。

    先週観た『灼熱の魂』の、"死は痕跡を残す。物語は終わらない"的なセリフが印象的で好きなんじゃけど、この短編集のコンセプトもまさにそれ。残された側は悲しいけど、その人の人生は続いていく。死と向き合って何を感じて、その後どう生きるか。

    いい意味で、人は死んだら終わりじゃないんだって気づかされる。

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    2023年03月23日
  • 蒼穹の昴(4)

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    4冊のうちこのお話が1番面白かった!シリーズ読んでみて、今まで全く知らなかった中国の歴史に興味を持ちました。架空の人物も多いけど、実際にいた人たちもいて調べてみると面白い。

    特にタンストンと玲玲のとこは泣けた。でも玲玲って文秀のこと好きなのかと思う描写もあって、タンストンなんだか可哀想だった。だけどそれでも最後まで愛し抜いたタンストンはかっこよかった。男の中の男だ!

    あと文秀達の脱出劇も面白かった。作戦が素晴らしいけど、バレるんじゃないかとどきどきした!

    毛沢東が出てきたり、ついに春児が偉くなったり、歴史が大きく動いたりとこれからまた面白くなりそうな予感。義母からシリーズたくさんお借りしてるのでゆっくり読んでいこう。

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    2023年03月20日
  • 鉄道員(ぽっぽや)

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    流石です。心に残る短編集。
    不器用に生きる人たちの物語で
    人間の優しさが感じられる話が
    多いですね。
    どれも捨てがたいけれど、私は
    「うらぼんえ」が最も心に残りました。
    また読み返したい作品です。

    0
    2023年03月13日
  • 中原の虹(4)

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    いよいよ読み終わってしまった。蒼穹の昴も好きだが中原の虹の方がすいすい読めた気がする。
    長城を越えろ。中原の虹を追いかけろという話……
    以下読んでいて印象的だった箇所など。


    正義。何という残酷な言葉だろう。正義なき時代にそれを全うしようとすれば、人は悪女となり、落人となるほかはない。

    賢人支配による専制は、愚民思想に基く。はたして、この駅頭に集う諸君が愚民か。ならはいったい、誰が賢人だというのだ。おやそ人間の賢と愚とが、わずかに一歩を隔てた、いや一筋の毛ほどのちがいでしかないことを私は知っている。

    トム、トム、嘘でしょう。漁父、嘘でしょう。こんなに、こんなに輝かしい希望が見えたのに。どうして。

    いったい何ゆえ歴史を知らねばなるのか。おのれの歴史的な座標を常に認識する必要があるからである。

    過去の歴史を鑑み、現在の状況を思料し、もって未来の他者に利をもたらすこと、それが人としての上善である。

    袁世凱は死ねず、虚無よりも残酷な宇宙を彷徨うというのがまた残酷だったな……

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    2023年03月12日
  • 一路 (下)

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    「浅田次郎」の長篇時代小説『一路〈上〉〈下〉』を読みました。

    『終わらざる夏』、『残侠―天切り松 闇がたり〈第2巻〉』、『王妃の館』に続き、「浅田次郎」作品です。

    -----story-------------
    〈上〉
    父の急死により家督を相続、交代寄合蒔坂家の御供頭として、江戸への参勤行列を差配することになった「小野寺一路」、十九歳。
    家伝の『行軍録』を唯一の手がかりに、中山道を一路、江戸へ――。
    「浅田次郎」がおくる、時代エンターテイメント。

    〈下〉
    中山道を江戸へ向かう「蒔坂左京大夫」一行は、次々と難題に見舞われる。
    中山道の難所、自然との闘い、行列の道中行き合い、御本陣差し合い、御殿様の発熱…。
    さらに行列の中では御家乗っ取りの企てもめぐらされ―。
    到着が一日でも遅れることは御法度の参勤交代。果たして、一路は無事に江戸までの道中を導くことができるのか!
    〈解説〉「檀ふみ」
    -----------------------

    「中央公論新社」の総合雑誌『中央公論』の2010年(平成22年)1月号から2012年(平成24年)11月号に連載された時代小説、、、

    第3回「本屋が選ぶ時代小説大賞」を受賞した作品… 観てはいませんが、2015年(平成27年)にはNHK BSプレミアム『BS時代劇』にて「永山絢斗」主演でテレビドラマ化されているらしいです。

     ■其の壱 御発駕まで
     ■其の弐 左京大夫様御発駕
     ■其の参 木曽路跋渉
     ■其の四 神の里 鬼の栖(すみか)
     ■其の五 風雲佐久平
     ■其の六 前途遼遠
     ■其の七 御本陣差合
     ■其の八 左京大夫様江戸入
     ■地図 蒔坂左京大夫参勤行列が歩んだ中山道
     ■解説 「一路」の一所懸命 檀ふみ

    1862年(文久2年)師走、参勤交代の全てを取り仕切る供頭(ともがしら)「小野寺家」の嫡男で19歳の「小野寺一路(おのでら いちろ)」は、国元、西美濃田名部郡の屋敷で父親が失火で命を落としたとの報せを受け、急きょ田名部へ戻る… 田名部の地を治める「蒔坂左京大夫(まいさか さきょうのだいぶ)」は無役の旗本で、石高は7500石と決して多くないが、大名と同等に扱われる交代寄合表御礼衆を務めるため、隔年の参勤を果たさなければならなかった、、、

    殿様からの拝領屋敷を焼失したという大失態は家名断絶にも等しい不祥事だったが、参勤の出立が間近に迫っていたため、重臣の「蒔坂将監(まいさか しょうげん)」や家老の「由比帯刀(ゆい たてわき)」の口添えにより、一路は家督を相続し供頭としての務めを果たすこととなった… しかしながら、一路は江戸で生まれ育ち田名部の地を知らないだけでなく、まだ若く現役だった父から仕事について何も教わっていなかった。

    焼け跡から見つかった文箱から、先祖が記した約230年前の参勤の記録「行軍録」を見つけた「一路」は、古すぎて参考にならないと一度は諦めかけるが、旅籠で出会った易者の助言で、時代を経て省略されてきた古式床しい行列の作法を復活させようとする… 親戚からも家中の仲間らからも徹底して協力を拒まれる中、仕立てた羽織一式を人目を忍んで届けてくれた許嫁の「国分薫」に初めて会う、、、

    つつがなく務めを終えるようにと祈ってくれた美しい「薫」に心を奪われた一路は、行列を何事もなく成功させ、その暁には「薫」を娶りたいという思いを一層強くさせる… 行列に不手際があればお家取り潰しは確実、古文書の「参勤交代は行軍、戦そのものである」との言葉を胸に、背水の陣の覚悟で臨み、一所懸命におのれの本分を全うしようとする「一路」に、真冬の中山道の難所が立ち塞がり、難題は次々と振りかかる。

    雪深い峠越え、殿様の発熱による到着の遅れ… そして、何よりも重大な難事は、「将監」らが主君「左京大夫」の命を狙う陰謀を企てていることだった、、、

    いやぁ… 久しぶりに時代小説を読みましたが、笑えて、泣けて、面白くて、感動できる、そんな魅力たっぷりの作品でしたね。


    父親の急逝により、参勤交代の全てを取り仕切る供頭という大役を任されることとなった若侍の「一路」が人間として成長する姿、一所懸命に自らに与えられた役割を全うしようとする姿に感動できたし、

    「一路」が古式床しい行列の作法を復活させようとすることに応え、御殿様を支えよう・守ろうとする行列関係者たちの和や絆… 忠義・忠節を重んじる考え方に共感したし、

    私利私欲のために主君「左京大夫」の命を狙おうとする「将監」等の謀略が、物語に冒険活劇要素を加え、懲悪勧善的な面白さが愉しめたし、

    「左京大夫」の、うつけ・馬鹿呼ばわりされても、愛すべき田名部の民のことを常に考えて行動・判断する姿に魅力を感じるし(江戸屋敷留守居役で老齢の「楢山儀右衛門(ならやま ぎえもん)」も同じような魅力を持っていましたね)、トップとしての苦悩も巧く描かれていて、奥の深い重層的な物語に仕上がっていると感じました。

    時代小説も面白いですねー


    以下、主な登場人物です。

    【蒔坂家(田名部)】

    「小野寺 一路(おのでら いちろ)」
     参勤道中の全てを取り仕切る供頭を代々務める小野寺家の嫡男。19歳。
     江戸で生まれ育ち、故郷というべき田名部にも一度も帰ったことがなく、
     父・弥九郎から仕事について何の引き継ぎもしていなかった。
     北辰一刀流の免許皆伝、東条学塾の塾頭まで務めた穎才。

    「蒔坂 左京大夫(まいさか さきょうのだいぶ)」
     蒔坂家39代当主、14代左京大夫。西美濃田名部郡を領分とする7500石の旗本。
     交代寄合 表御礼衆。
     江戸在勤の折は、3日と開けず芝居に通い、
     過去には役者の出待ちをしているところを町方に見つかり謹慎処分を下されたこともあるなど、
     「うつけ者」と見なされている。

    「国分 七左衛門(こくぶ しちざえもん)」
     勘定役。薫の父。小野寺弥九郎とは昵懇の間柄だった。

    「国分 薫(こくぶ かおる)」
     七左衛門の娘。
     一路とは親同士が決めた許嫁で、一路は顔も知らなかったが、美しい顔立ちで、
     皆から冷たくされる中、道中羽織を仕立てて忍んで旅籠まで届けてくれた。

    「栗山 真吾(くりやま しんご)」
     供頭添役。
     前年の秋に父が卒中で急死し、
     一路と同じく仕事の引き継ぎを全くやっていない状態で参勤に挑む。

    「佐久間 勘十郎(さくま かんじゅうろう)」
     蔵役。
     前年までは30人徒士の行列だったため参加したことはなかったが、
     一路が取り仕切る今年は50人となったため、駆り出され、
     派手な衣装を身に着けて道中先触れを務める。
     おつむの足らない武辺者とされているが、面倒な世事に関わらないために、
     あえて馬鹿なフリをしている向きもある。

    「矢島 兵助(やじま ひょうすけ) / 中村 仙蔵(なかむら せんぞう)」
     10俵3人扶持の組付足軽。同い年の従兄弟同士。
     兵助は「猿(ましら)の兵助」の異名を取るほど身軽。
     7つ下の真吾とは又従兄弟で、子供の頃からひ弱でいじめられっ子だった真吾を気にかけてきた。

    「蒔坂 将監(まいさか しょうげん)」
     左京大夫の後見役、叔父(正しくは先代の従兄弟の子)。
     男子に恵まれなかった先代左京大夫の養子に入った矢先に、
     側室が懐妊し当代が生まれ、廃嫡された。
     当代からは実の兄のように慕われている。

    「由比 帯刀(ゆい たてわき)」
     蒔坂家家老。

    「伊東 喜惣次(いとう きそうじ)」
     側用人。
     長年、将監の元で禄を食んできたため、左京大夫より将監に忠義が深い。

    「ぬい」
     左京大夫の側室。将監の娘。左京大夫からは内心では嫌われている。

    「辻井 良軒(つじい りょうけん)」
     医師。大坂の適塾で蘭方医術を修め、先年の夏に召し抱えられた。年は27、8。
     将監と帯刀にお家のためと騙され、一路の父と七左衛門に毒を持ったが、
     うつけ者呼ばわりされている左京大夫の真の聡明さに気付き、
     医師としての本分を全うしようと思い直す。


    【行列関係者】

    「空澄(くうちょう)」
     田名部陣下の浄願禅寺の住職。
     弥九郎の死後、江戸までの道中を往復し、行列の出発後は先行して一路の助けとなる。

    「朧庵(ろうあん)」
     田名部のほとんどの宿で投宿を断られた一路が、
     街道の端の博打場も兼ねる旅籠で出会った道中筮(易者)。
     一路の面相が大変優れていると褒めちぎり、
     参勤道中についても庶民の立場からの忌憚のない意見を伝える。

    「丁太(ちょうた) / 半次(はんじ)」
     筋骨隆々の双子の馬喰。
     行列の先頭で家康から下賜されたと伝わる朱塗りの槍を持つ役目を任せられる。

    「新三(しんざ)」
     髪結い。鼻筋の通った細面の顔立ちに、剥いたゆで卵のような肌をしている。
     一路に腕を見込まれ、道中髪結いとして行列に付いていく。

    「ブチ」
     丁太と半次が市場で売り切れなかった斑馬。殿様の替え馬となる。

    「白雪(しらゆき)」
     殿様の愛馬。名前の通り、白雪のように美しい白馬。何度も参勤道中を経験した老馬。


    【中山道中の人々】

    「スワ」
     馬籠宿で生まれ育った。
     前年の暮の大火事で両親を亡くし、スワは庄屋に、6つになる弟は中津川の遠縁に引き取られた。

    「檜山 角兵衛(ひやま かくべえ)」
     福島関所番頭。
     与川崩れを迂回せずに渡ったという一路の言を信じなかったが、現場を見て変心し、
     行列が谷に捨てざるを得なかった宝物類を拾い集め、宿場まで届けた。

    「大賀 伝八郎(おおが でんぱちろう)」
     下諏訪宿の宿場役人。
     幕閣に参与していた主君、諏訪因幡守の小姓として江戸詰めだったが、
     5年前、20歳の時に、父の急逝に伴い、宿場役人の家督を継いだ。
     「鬼の栖」の異名を取る和田峠を急ごうとする一路を諌める。

    「内藤志摩守 正誠(ないとう しまのかみ まさあきら)」
     信州佐久郡岩村田藩1万5千石の当主。17歳。奏者番。
     10歳の時に父が自害したため、若くして祖父の跡を継いだ。
     内藤家と蒔坂家は江戸の本所屋敷が隣同士で交誼が深く、
     病に臥せていた先代が左京大夫に正誠の行く末を託し、
     自身も幼くして家督を継いだ左京大夫は兄のように正誠を導いた。
     血筋及び先代である祖父の功績により、父祖代々の念願であった築城を許され、
     陣屋大名から城主大名になったことで、ふてぶてしい態度が一層悪化した。
     家督を継ぐ前の名は「?一郎(ひいちろう)」。

    「浅井 条右衛門(あさい じょうえもん)」
     内藤家家臣。軽々しい言動が多い正誠を諌めるが、聞き入れられない。

    「乙姫(おとひめ)」
     加賀藩前田慶寧の才色兼備の妹。
     実母ではないが、父の正室は11代将軍・家斉の娘。国元で育ったが、
     輿入れに相応しい年齢(16歳)になったため、江戸下屋敷へ移り住むことになる。
     行列は300人余に達し、速度も遅いため、
     時には休憩や見物を兼ねて渋滞した後ろの旅人らを先に通らせる。
     蒔坂家が早駆けで行列を追い抜いていった際、一路に叶わぬ恋をし、身に付けていた簪を与える。

    「鶴橋(つるはし)」
     乙姫のお付女中。
     女としての幸せ(=恋が成就すること)を体験できないまま老境を迎え、
     乙姫の叶わぬ恋をせめてもの思いで応援する。

    「板倉主計頭 勝殷(いたくら かずえのかみ かつまさ)」
     上野国安中城主。42歳。
     武芸の基礎は駆け足であるとの信条の持ち主で、自分や家来はもちろん、領民にも駆け足を奨励する。
     先代の頃から始まった、
     城下から碓氷峠頂までの7里を走って往復する「安中の遠足(とおあし)」は名高い。
     口癖は「よおっし!」。

    「根本 国蔵(ねもと くにぞう) / 石塚 与八郎(いしづか よはちろう) / 海保 数馬(かいほ かずま)」
     安中藩家来。走術の免許皆伝、直近の遠足で好成績を残した3人の武士。
     「風陣の秘走」で、左京大夫の発熱による江戸到着遅延の知らせを、
     松井田から江戸表までの32里を三刻半で届けるよう命じられる。

    「ひぐらしの浅(あさ)、又はひぐらし浅次郎(あさじろう)」
     その日暮しの博打打ち。色男。
     元は田名部生まれの武士で、郡奉行を務めていた父があらぬ罪を被せられ、一家もろとも放逐された。
     遠縁を頼って、隣国彦根で田畑を買ったが、父母は流行病で死去。
     秋の終わり頃に、浅次郎の恩人である貸元の親分が、
     彦根を訪れた七左衛門から将監一派の企みと行列の助っ人になってほしい旨を依頼され、
     将監は浅次郎の親の仇も同然だからと任される。
     父から「田名部と関らぬよう」言い残されているため、煩悶する。

    「黒岩 一郎太(くろいわ いちろうた)」
     牧野家の道中供頭。19歳。急な卒中で昏倒した父親に代わり、供頭の大役を初めて任される。
     父から役目の引き継ぎもしていなければ、道中にお供したこともなく、父は卒中で口が利けない、
     頼みの綱の添役は、前任者が尊皇攘夷にかぶれて出奔したため代役であるという、
     一路と似た境遇の持ち主。

    「牧野遠江守康哉(まきの とおとうみのかみ やすとし)」
     信州小諸藩1万5千石藩主。井伊直弼の肝煎りで若年寄に抜擢されたが、
     桜田門外の変後に罷免された。
     3年間の激務がたたって体を壊し、領分で死にたいという意思を公儀に認められ、
     小諸へ戻る途中、深谷宿本陣で田名部と差し合い(宿泊藩が重複すること)になる。

    「井上河内守(いのうえ かわちのかみ)」
     寺社奉行。氷川神社参拝の折に左京大夫と行き合う。

    「海老沢 吉三郎(きちざぶろう)」
     大宮宿代官支配の公事方手付(領民の揉め事を裁量し、領内の治安に携わる助役)。
     代官の留守中に氷川神社の参道で蒔坂家家来2名が討死する事態に見舞われる。


    【江戸の人々】

    「すず」
     左京大夫の正室。笑顔が地顔。
     歴代の妻は高家や同格の交代寄合、大名家から輿入れする倣いだったが、
     実家は1200石の両番筋、父親は書院番組頭。
     向島の下賤な出会茶屋で逢瀬を重ねていたが、妊娠していることが分かり、
     父が蒔坂家に乗り込み祝言を上げた。
     決して美人ではないが、見ようによっては美しく、使用人たちとともに台所で立ち働き、
     子育ても人任せにしないため、家中では大変人気がある。

    「楢山 儀右衛門(ならやま ぎえもん)」
     蒔坂家江戸屋敷留守居役。77歳。

    「せつ」
     一路の母。

    「神崎 又兵衛(かんざき またべえ)」
     すずの父。作事奉行。左京大夫が最も苦手な一人。
     蒔坂家の行列が江戸に到着したのと同日、大目付(諸大名の監督)への昇進と、
     道中奉行兼任の内示が下る。

    「松平豊前守(まつだいら ぶぜんのかみ)」
     老中。丹波亀山藩5万石の藩主。
     楢山儀右衛門とはかつて寛永寺の茶会で知り合って以来、茶の道の師と仰いでいる。

    「徳川家茂(とくがわ いえもち)」
     将軍。優秀な人材を求めて、左京大夫の真の姿を御庭番に探らせる。
     左京太夫が江戸に到着した日、おしのびで市中へ行き彼の様子を見つめていた。

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    2023年02月28日
  • 一路 (上)

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    「浅田次郎」の長篇時代小説『一路〈上〉〈下〉』を読みました。

    『終わらざる夏』、『残侠―天切り松 闇がたり〈第2巻〉』、『王妃の館』に続き、「浅田次郎」作品です。

    -----story-------------
    〈上〉
    父の急死により家督を相続、交代寄合蒔坂家の御供頭として、江戸への参勤行列を差配することになった「小野寺一路」、十九歳。
    家伝の『行軍録』を唯一の手がかりに、中山道を一路、江戸へ――。
    「浅田次郎」がおくる、時代エンターテイメント。

    〈下〉
    中山道を江戸へ向かう「蒔坂左京大夫」一行は、次々と難題に見舞われる。
    中山道の難所、自然との闘い、行列の道中行き合い、御本陣差し合い、御殿様の発熱…。
    さらに行列の中では御家乗っ取りの企てもめぐらされ―。
    到着が一日でも遅れることは御法度の参勤交代。果たして、一路は無事に江戸までの道中を導くことができるのか!
    〈解説〉「檀ふみ」
    -----------------------

    「中央公論新社」の総合雑誌『中央公論』の2010年(平成22年)1月号から2012年(平成24年)11月号に連載された時代小説、、、

    第3回「本屋が選ぶ時代小説大賞」を受賞した作品… 観てはいませんが、2015年(平成27年)にはNHK BSプレミアム『BS時代劇』にて「永山絢斗」主演でテレビドラマ化されているらしいです。

     ■其の壱 御発駕まで
     ■其の弐 左京大夫様御発駕
     ■其の参 木曽路跋渉
     ■其の四 神の里 鬼の栖(すみか)
     ■其の五 風雲佐久平
     ■其の六 前途遼遠
     ■其の七 御本陣差合
     ■其の八 左京大夫様江戸入
     ■地図 蒔坂左京大夫参勤行列が歩んだ中山道
     ■解説 「一路」の一所懸命 檀ふみ

    1862年(文久2年)師走、参勤交代の全てを取り仕切る供頭(ともがしら)「小野寺家」の嫡男で19歳の「小野寺一路(おのでら いちろ)」は、国元、西美濃田名部郡の屋敷で父親が失火で命を落としたとの報せを受け、急きょ田名部へ戻る… 田名部の地を治める「蒔坂左京大夫(まいさか さきょうのだいぶ)」は無役の旗本で、石高は7500石と決して多くないが、大名と同等に扱われる交代寄合表御礼衆を務めるため、隔年の参勤を果たさなければならなかった、、、

    殿様からの拝領屋敷を焼失したという大失態は家名断絶にも等しい不祥事だったが、参勤の出立が間近に迫っていたため、重臣の「蒔坂将監(まいさか しょうげん)」や家老の「由比帯刀(ゆい たてわき)」の口添えにより、一路は家督を相続し供頭としての務めを果たすこととなった… しかしながら、一路は江戸で生まれ育ち田名部の地を知らないだけでなく、まだ若く現役だった父から仕事について何も教わっていなかった。

    焼け跡から見つかった文箱から、先祖が記した約230年前の参勤の記録「行軍録」を見つけた「一路」は、古すぎて参考にならないと一度は諦めかけるが、旅籠で出会った易者の助言で、時代を経て省略されてきた古式床しい行列の作法を復活させようとする… 親戚からも家中の仲間らからも徹底して協力を拒まれる中、仕立てた羽織一式を人目を忍んで届けてくれた許嫁の「国分薫」に初めて会う、、、

    つつがなく務めを終えるようにと祈ってくれた美しい「薫」に心を奪われた一路は、行列を何事もなく成功させ、その暁には「薫」を娶りたいという思いを一層強くさせる… 行列に不手際があればお家取り潰しは確実、古文書の「参勤交代は行軍、戦そのものである」との言葉を胸に、背水の陣の覚悟で臨み、一所懸命におのれの本分を全うしようとする「一路」に、真冬の中山道の難所が立ち塞がり、難題は次々と振りかかる。

    雪深い峠越え、殿様の発熱による到着の遅れ… そして、何よりも重大な難事は、「将監」らが主君「左京大夫」の命を狙う陰謀を企てていることだった、、、

    いやぁ… 久しぶりに時代小説を読みましたが、笑えて、泣けて、面白くて、感動できる、そんな魅力たっぷりの作品でしたね。


    父親の急逝により、参勤交代の全てを取り仕切る供頭という大役を任されることとなった若侍の「一路」が人間として成長する姿、一所懸命に自らに与えられた役割を全うしようとする姿に感動できたし、

    「一路」が古式床しい行列の作法を復活させようとすることに応え、御殿様を支えよう・守ろうとする行列関係者たちの和や絆… 忠義・忠節を重んじる考え方に共感したし、

    私利私欲のために主君「左京大夫」の命を狙おうとする「将監」等の謀略が、物語に冒険活劇要素を加え、懲悪勧善的な面白さが愉しめたし、

    「左京大夫」の、うつけ・馬鹿呼ばわりされても、愛すべき田名部の民のことを常に考えて行動・判断する姿に魅力を感じるし(江戸屋敷留守居役で老齢の「楢山儀右衛門(ならやま ぎえもん)」も同じような魅力を持っていましたね)、トップとしての苦悩も巧く描かれていて、奥の深い重層的な物語に仕上がっていると感じました。

    時代小説も面白いですねー


    以下、主な登場人物です。

    【蒔坂家(田名部)】

    「小野寺 一路(おのでら いちろ)」
     参勤道中の全てを取り仕切る供頭を代々務める小野寺家の嫡男。19歳。
     江戸で生まれ育ち、故郷というべき田名部にも一度も帰ったことがなく、
     父・弥九郎から仕事について何の引き継ぎもしていなかった。
     北辰一刀流の免許皆伝、東条学塾の塾頭まで務めた穎才。

    「蒔坂 左京大夫(まいさか さきょうのだいぶ)」
     蒔坂家39代当主、14代左京大夫。西美濃田名部郡を領分とする7500石の旗本。
     交代寄合 表御礼衆。
     江戸在勤の折は、3日と開けず芝居に通い、
     過去には役者の出待ちをしているところを町方に見つかり謹慎処分を下されたこともあるなど、
     「うつけ者」と見なされている。

    「国分 七左衛門(こくぶ しちざえもん)」
     勘定役。薫の父。小野寺弥九郎とは昵懇の間柄だった。

    「国分 薫(こくぶ かおる)」
     七左衛門の娘。
     一路とは親同士が決めた許嫁で、一路は顔も知らなかったが、美しい顔立ちで、
     皆から冷たくされる中、道中羽織を仕立てて忍んで旅籠まで届けてくれた。

    「栗山 真吾(くりやま しんご)」
     供頭添役。
     前年の秋に父が卒中で急死し、
     一路と同じく仕事の引き継ぎを全くやっていない状態で参勤に挑む。

    「佐久間 勘十郎(さくま かんじゅうろう)」
     蔵役。
     前年までは30人徒士の行列だったため参加したことはなかったが、
     一路が取り仕切る今年は50人となったため、駆り出され、
     派手な衣装を身に着けて道中先触れを務める。
     おつむの足らない武辺者とされているが、面倒な世事に関わらないために、
     あえて馬鹿なフリをしている向きもある。

    「矢島 兵助(やじま ひょうすけ) / 中村 仙蔵(なかむら せんぞう)」
     10俵3人扶持の組付足軽。同い年の従兄弟同士。
     兵助は「猿(ましら)の兵助」の異名を取るほど身軽。
     7つ下の真吾とは又従兄弟で、子供の頃からひ弱でいじめられっ子だった真吾を気にかけてきた。

    「蒔坂 将監(まいさか しょうげん)」
     左京大夫の後見役、叔父(正しくは先代の従兄弟の子)。
     男子に恵まれなかった先代左京大夫の養子に入った矢先に、
     側室が懐妊し当代が生まれ、廃嫡された。
     当代からは実の兄のように慕われている。

    「由比 帯刀(ゆい たてわき)」
     蒔坂家家老。

    「伊東 喜惣次(いとう きそうじ)」
     側用人。
     長年、将監の元で禄を食んできたため、左京大夫より将監に忠義が深い。

    「ぬい」
     左京大夫の側室。将監の娘。左京大夫からは内心では嫌われている。

    「辻井 良軒(つじい りょうけん)」
     医師。大坂の適塾で蘭方医術を修め、先年の夏に召し抱えられた。年は27、8。
     将監と帯刀にお家のためと騙され、一路の父と七左衛門に毒を持ったが、
     うつけ者呼ばわりされている左京大夫の真の聡明さに気付き、
     医師としての本分を全うしようと思い直す。


    【行列関係者】

    「空澄(くうちょう)」
     田名部陣下の浄願禅寺の住職。
     弥九郎の死後、江戸までの道中を往復し、行列の出発後は先行して一路の助けとなる。

    「朧庵(ろうあん)」
     田名部のほとんどの宿で投宿を断られた一路が、
     街道の端の博打場も兼ねる旅籠で出会った道中筮(易者)。
     一路の面相が大変優れていると褒めちぎり、
     参勤道中についても庶民の立場からの忌憚のない意見を伝える。

    「丁太(ちょうた) / 半次(はんじ)」
     筋骨隆々の双子の馬喰。
     行列の先頭で家康から下賜されたと伝わる朱塗りの槍を持つ役目を任せられる。

    「新三(しんざ)」
     髪結い。鼻筋の通った細面の顔立ちに、剥いたゆで卵のような肌をしている。
     一路に腕を見込まれ、道中髪結いとして行列に付いていく。

    「ブチ」
     丁太と半次が市場で売り切れなかった斑馬。殿様の替え馬となる。

    「白雪(しらゆき)」
     殿様の愛馬。名前の通り、白雪のように美しい白馬。何度も参勤道中を経験した老馬。


    【中山道中の人々】

    「スワ」
     馬籠宿で生まれ育った。
     前年の暮の大火事で両親を亡くし、スワは庄屋に、6つになる弟は中津川の遠縁に引き取られた。

    「檜山 角兵衛(ひやま かくべえ)」
     福島関所番頭。
     与川崩れを迂回せずに渡ったという一路の言を信じなかったが、現場を見て変心し、
     行列が谷に捨てざるを得なかった宝物類を拾い集め、宿場まで届けた。

    「大賀 伝八郎(おおが でんぱちろう)」
     下諏訪宿の宿場役人。
     幕閣に参与していた主君、諏訪因幡守の小姓として江戸詰めだったが、
     5年前、20歳の時に、父の急逝に伴い、宿場役人の家督を継いだ。
     「鬼の栖」の異名を取る和田峠を急ごうとする一路を諌める。

    「内藤志摩守 正誠(ないとう しまのかみ まさあきら)」
     信州佐久郡岩村田藩1万5千石の当主。17歳。奏者番。
     10歳の時に父が自害したため、若くして祖父の跡を継いだ。
     内藤家と蒔坂家は江戸の本所屋敷が隣同士で交誼が深く、
     病に臥せていた先代が左京大夫に正誠の行く末を託し、
     自身も幼くして家督を継いだ左京大夫は兄のように正誠を導いた。
     血筋及び先代である祖父の功績により、父祖代々の念願であった築城を許され、
     陣屋大名から城主大名になったことで、ふてぶてしい態度が一層悪化した。
     家督を継ぐ前の名は「?一郎(ひいちろう)」。

    「浅井 条右衛門(あさい じょうえもん)」
     内藤家家臣。軽々しい言動が多い正誠を諌めるが、聞き入れられない。

    「乙姫(おとひめ)」
     加賀藩前田慶寧の才色兼備の妹。
     実母ではないが、父の正室は11代将軍・家斉の娘。国元で育ったが、
     輿入れに相応しい年齢(16歳)になったため、江戸下屋敷へ移り住むことになる。
     行列は300人余に達し、速度も遅いため、
     時には休憩や見物を兼ねて渋滞した後ろの旅人らを先に通らせる。
     蒔坂家が早駆けで行列を追い抜いていった際、一路に叶わぬ恋をし、身に付けていた簪を与える。

    「鶴橋(つるはし)」
     乙姫のお付女中。
     女としての幸せ(=恋が成就すること)を体験できないまま老境を迎え、
     乙姫の叶わぬ恋をせめてもの思いで応援する。

    「板倉主計頭 勝殷(いたくら かずえのかみ かつまさ)」
     上野国安中城主。42歳。
     武芸の基礎は駆け足であるとの信条の持ち主で、自分や家来はもちろん、領民にも駆け足を奨励する。
     先代の頃から始まった、
     城下から碓氷峠頂までの7里を走って往復する「安中の遠足(とおあし)」は名高い。
     口癖は「よおっし!」。

    「根本 国蔵(ねもと くにぞう) / 石塚 与八郎(いしづか よはちろう) / 海保 数馬(かいほ かずま)」
     安中藩家来。走術の免許皆伝、直近の遠足で好成績を残した3人の武士。
     「風陣の秘走」で、左京大夫の発熱による江戸到着遅延の知らせを、
     松井田から江戸表までの32里を三刻半で届けるよう命じられる。

    「ひぐらしの浅(あさ)、又はひぐらし浅次郎(あさじろう)」
     その日暮しの博打打ち。色男。
     元は田名部生まれの武士で、郡奉行を務めていた父があらぬ罪を被せられ、一家もろとも放逐された。
     遠縁を頼って、隣国彦根で田畑を買ったが、父母は流行病で死去。
     秋の終わり頃に、浅次郎の恩人である貸元の親分が、
     彦根を訪れた七左衛門から将監一派の企みと行列の助っ人になってほしい旨を依頼され、
     将監は浅次郎の親の仇も同然だからと任される。
     父から「田名部と関らぬよう」言い残されているため、煩悶する。

    「黒岩 一郎太(くろいわ いちろうた)」
     牧野家の道中供頭。19歳。急な卒中で昏倒した父親に代わり、供頭の大役を初めて任される。
     父から役目の引き継ぎもしていなければ、道中にお供したこともなく、父は卒中で口が利けない、
     頼みの綱の添役は、前任者が尊皇攘夷にかぶれて出奔したため代役であるという、
     一路と似た境遇の持ち主。

    「牧野遠江守康哉(まきの とおとうみのかみ やすとし)」
     信州小諸藩1万5千石藩主。井伊直弼の肝煎りで若年寄に抜擢されたが、
     桜田門外の変後に罷免された。
     3年間の激務がたたって体を壊し、領分で死にたいという意思を公儀に認められ、
     小諸へ戻る途中、深谷宿本陣で田名部と差し合い(宿泊藩が重複すること)になる。

    「井上河内守(いのうえ かわちのかみ)」
     寺社奉行。氷川神社参拝の折に左京大夫と行き合う。

    「海老沢 吉三郎(きちざぶろう)」
     大宮宿代官支配の公事方手付(領民の揉め事を裁量し、領内の治安に携わる助役)。
     代官の留守中に氷川神社の参道で蒔坂家家来2名が討死する事態に見舞われる。


    【江戸の人々】

    「すず」
     左京大夫の正室。笑顔が地顔。
     歴代の妻は高家や同格の交代寄合、大名家から輿入れする倣いだったが、
     実家は1200石の両番筋、父親は書院番組頭。
     向島の下賤な出会茶屋で逢瀬を重ねていたが、妊娠していることが分かり、
     父が蒔坂家に乗り込み祝言を上げた。
     決して美人ではないが、見ようによっては美しく、使用人たちとともに台所で立ち働き、
     子育ても人任せにしないため、家中では大変人気がある。

    「楢山 儀右衛門(ならやま ぎえもん)」
     蒔坂家江戸屋敷留守居役。77歳。

    「せつ」
     一路の母。

    「神崎 又兵衛(かんざき またべえ)」
     すずの父。作事奉行。左京大夫が最も苦手な一人。
     蒔坂家の行列が江戸に到着したのと同日、大目付(諸大名の監督)への昇進と、
     道中奉行兼任の内示が下る。

    「松平豊前守(まつだいら ぶぜんのかみ)」
     老中。丹波亀山藩5万石の藩主。
     楢山儀右衛門とはかつて寛永寺の茶会で知り合って以来、茶の道の師と仰いでいる。

    「徳川家茂(とくがわ いえもち)」
     将軍。優秀な人材を求めて、左京大夫の真の姿を御庭番に探らせる。
     左京太夫が江戸に到着した日、おしのびで市中へ行き彼の様子を見つめていた。

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    2023年02月28日
  • 終わらざる夏 下

    Posted by ブクログ

    「浅田次郎」の戦争小説『終わらざる夏』を読みました。

    「半藤一利」の『新装版 太平洋戦争 日本軍艦戦記』に続き、第二次世界大戦関連の作品です。

    -----story-------------
    〈上〉
    1945年、夏。
    すでに沖縄は陥落し、本土決戦用の大規模な動員計画に、国民は疲弊していた。
    東京の出版社に勤める翻訳書編集者「片岡直哉」は、45歳の兵役年限直前に赤紙を受け取る。
    何も分からぬまま、同じく召集された医師の「菊池」、歴戦の軍曹「鬼熊」と、「片岡」は北の地へと向かった。
    ―終戦直後の“知られざる戦い”を舞台に「戦争」の理不尽を描く歴史的大作、待望の文庫化。
    第64回毎日出版文化賞受賞作。

    〈中〉
    「片岡」の一人息子「譲」は、信州の集団疎開先で父親の召集を知る。
    「譲」は疎開先を抜け出し、同じ国民学校六年の「静代」とともに、東京を目指してただひたすらに歩き始めた。
    一方、「片岡」ら補充要員は、千島列島最東端の占守島へと向かう。
    美しい花々の咲き乱れるその孤島に残されていたのは、無傷の帝国陸軍、最精鋭部隊だった。
    ―否応なく戦争に巻き込まれていく人々の姿を描く著者渾身の戦争文学、中編。

    〈下〉
    1945年8月15日、玉音放送。
    国民はそれぞれの思いを抱えながら、日本の無条件降伏を知る。
    国境の島・占守島では、通訳要員である「片岡」らが、終戦交渉にやって来るであろう米軍の軍使を待ち受けていた。
    だが、島に残された日本軍が目にしたのは、中立条約を破棄して上陸してくるソ連軍の姿だった。
    ―美しい北の孤島で、再び始まった「戦争」の真実とは。
    戦争文学の新たなる金字塔、堂々の完結。
    (解説/「梯久美子」)
    -----------------------

    集英社が出版している月刊小説誌『小説すばる』の2008年(平成20年)6月号から2009年(平成21年)10月号に連載された作品で、第64回毎日出版文化賞受賞作です… 歴史の闇の中になかば隠れつつあった太平洋戦争終戦後(もしくは終戦準備・戦闘停止 期間中)における占守(シュムシュ)島での戦いにスポットをあてた物語、、、

    1945年(昭和20年)8月9日、ソ連は日ソ不可侵条約を一方的に破棄して対日参戦… ポツダム宣言受諾により太平洋戦争が停戦した後の8月18日未明、ソ連軍は占守島も奇襲攻撃し、ポツダム宣言受諾に伴い武装解除中であった日本軍守備隊と戦闘となり、戦闘は日本軍優勢に推移するものの、軍命により21日に日本軍が降伏して停戦が成立、23日に日本軍は武装解除されたが、捕虜となった日本兵はその後大勢が法的根拠無く拉致され、シベリアへ抑留された という史実を忠実に辿りながら、アメリカとの和平交渉の通訳要員として兵役年限直前の45歳で招集された翻訳書編集者「片岡直哉」、岩手医専卒・東京帝大医学部の医学生で軍医として招集された「菊池忠彦」、大陸でたてた手柄で金鵄勲章を授与された鬼軍曹で4回目の招集で占守島に送られた「富永熊男(鬼熊)」の三人の登場人物を軸に、過酷な状況下での人間の本質を照射しつつ、それぞれの場所で、立場で、未来への希望を求める人々を描いた巨編(上・中・下で約1,050ページ)です。

    重層的で物語の奥行が深く、人物造形にも優れている作品だったので、読んでいるうちに、どんどん作品の中に引き込まれていき、登場人物の目線で物語が展開していく感覚で読み進めていくことができました… 『終章』では、辛いとか、哀しいというよりは、胸が苦しくなるような気持になり、「鬼熊」の母親に宛てた手紙や、少年兵「中村末松」の遺した押花帖が出てくる場面では、涙が止まりませんでした、、、

    戦争は終わったのに、戦闘が始まる… この大いなる矛盾の中で、戦う兵、死にゆく兵、戦争の禍々しさと非情さ、そして愚かさに胸を打たれましたね。

    終盤の戦闘シーンは、その少し前から登場していたソ連の現場第一線の兵からの目線で描かれているのですが、彼らもまた、終わったと思っていた戦争で、再び命を賭して闘わなければならないという矛盾を抱えながら行動しており、戦争というものの非情さや非人間的な部分が、巧く描かれていたと感じました、、、

    この戦闘の矛盾を訴えた「アレクサンドル・ミハイトヴィッチ・オルローフ中尉(サーシャ)」の報告書には共感する部分が多かったですね… 略奪を目的とした大義なき作戦行為は、現場では誰も望んでいないんですよね。

    不条理な戦争(戦闘)に、国土とそこに暮らす人々を守るために誇り高く戦った人たち… 軍人も民間人もそれぞれの誇りと愛するものを守るために戦ったんですよねぇ、、、

    久しぶりに読書しながら泣いちゃいました… 涙が止まらないほど感動した、忘れられない作品でした。



    以下、主な登場人物です。

    「小松少佐」
     大本営参謀。参謀本部編制課動員班の動員担当者

    「甲斐中佐」
     陸軍省軍事課員。参謀本部編制課に合流

    「佐々木曹長」
     盛岡聯隊区司令部第三課動員班長
     
    「蓮見百合子」
     盛岡聯隊区司令部の庶務係。岩手高女の女学生

    「遠山敬一郎大佐」
     盛岡聯隊区司令部司令官。地元の名士

    「佐藤金次」
     滝沢村役場の戸籍係兼兵事係

    「勇」
     滝沢村役場の給仕の少年

    「片岡直哉二等兵」
     東京外国語学校卒の翻訳書編集者。岩手県の寒村出身。
     英語通訳として招集され占守島に向かう

    「片岡久子」
     片岡の妻。女子高等師範卒の文学書編集者

    「片岡譲」
     片岡の息子。国民学校四年生。信州に集団疎開しているが疎開先を抜け出す

    「吉岡静代」
     譲と同じ国民学校の六年生。信州に集団疎開している。譲とともに疎開先から東京を目指す

    「小山雄一」
     国民学校の教師。四年男子学級の担任

    「朝井マキ子」
     国民学校の教師。六年女子学級の担任

    「岩井萬助」
     渡世人。懲役に服していたが、召集のため放免される

    「尾形貞夫」
     片岡と同じ出版社に勤める、翻訳書出版部の部員。
     警視庁で洋書や英文記事の検閲を行う

    「尾形佐江」
     尾形の妻。夫妻で久子の住まいに引っ越す

    「野中良一」
     久子の異父弟。フィリピンで戦死

    「野中きぬ」
     久子の母。久子の父親との離婚後、良一の父親と暮す

    「安藤仁吉」
     東京で岩手県出身者たちの面倒をみる篤志家

    「菊池忠彦軍医少尉」
     岩手医専卒の医師。東京帝大医学部に在籍。
     招集されて占守島の軍医となる

    「富永熊男軍曹」
     盛岡のタクシー運転手。金鵄勲章を授与された軍曹。
     四回目の招集で占守島へ向かう

    「吉江恒三少佐」
     第五方面軍司令部参謀。敗戦処理の任務を負う

    「大屋与次郎准尉」
     戦車第十一聯隊第二中隊段列長。旭川出身

    「中村末松兵長」
     戦車第十一聯隊第二中隊段列の少年兵。東京出身

    「池田大佐」
     戦車第十一聯隊長

    「岸純四郎上等兵」
     南方帰りの船舶兵。三陸の宮古出身

    「工藤軍医大尉」
     野戦病院の軍医。菊池の岩手医専での先輩

    「渡辺中尉」
     第九十一師団副官。札幌出身

    「森本健一」
     日魯漁業社員。占守・幌筵島の漁場と缶詰工場の責任者

    「石橋キク」
     缶詰工場で働く女子挺身隊員。函館高女の卒業生総代

    「沢田夏子」
     缶詰工場で働く女子挺身隊員。キクの同級生

    「ヤーコフ」
     占守島出身のアイヌ。色丹島の診療所で助手を務める

    「池田大佐」
     戦車第十一聯隊長

    「アレクサンドル・ミハイトヴィッチ・オルローフ中尉(サーシャ)」
     ソ連軍の将校。シベリアに住むコサックの子孫

    「ボクダン・ミハイトヴィッチ・コスチューク兵長(ボーガ)」
     ウクライナ出身のソ連兵

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    2023年02月27日
  • 終わらざる夏 中

    Posted by ブクログ

    「浅田次郎」の戦争小説『終わらざる夏』を読みました。

    「半藤一利」の『新装版 太平洋戦争 日本軍艦戦記』に続き、第二次世界大戦関連の作品です。

    -----story-------------
    〈上〉
    1945年、夏。
    すでに沖縄は陥落し、本土決戦用の大規模な動員計画に、国民は疲弊していた。
    東京の出版社に勤める翻訳書編集者「片岡直哉」は、45歳の兵役年限直前に赤紙を受け取る。
    何も分からぬまま、同じく召集された医師の「菊池」、歴戦の軍曹「鬼熊」と、「片岡」は北の地へと向かった。
    ―終戦直後の“知られざる戦い”を舞台に「戦争」の理不尽を描く歴史的大作、待望の文庫化。
    第64回毎日出版文化賞受賞作。

    〈中〉
    「片岡」の一人息子「譲」は、信州の集団疎開先で父親の召集を知る。
    「譲」は疎開先を抜け出し、同じ国民学校六年の「静代」とともに、東京を目指してただひたすらに歩き始めた。
    一方、「片岡」ら補充要員は、千島列島最東端の占守島へと向かう。
    美しい花々の咲き乱れるその孤島に残されていたのは、無傷の帝国陸軍、最精鋭部隊だった。
    ―否応なく戦争に巻き込まれていく人々の姿を描く著者渾身の戦争文学、中編。

    〈下〉
    1945年8月15日、玉音放送。
    国民はそれぞれの思いを抱えながら、日本の無条件降伏を知る。
    国境の島・占守島では、通訳要員である「片岡」らが、終戦交渉にやって来るであろう米軍の軍使を待ち受けていた。
    だが、島に残された日本軍が目にしたのは、中立条約を破棄して上陸してくるソ連軍の姿だった。
    ―美しい北の孤島で、再び始まった「戦争」の真実とは。
    戦争文学の新たなる金字塔、堂々の完結。
    (解説/「梯久美子」)
    -----------------------

    集英社が出版している月刊小説誌『小説すばる』の2008年(平成20年)6月号から2009年(平成21年)10月号に連載された作品で、第64回毎日出版文化賞受賞作です… 歴史の闇の中になかば隠れつつあった太平洋戦争終戦後(もしくは終戦準備・戦闘停止 期間中)における占守(シュムシュ)島での戦いにスポットをあてた物語、、、

    1945年(昭和20年)8月9日、ソ連は日ソ不可侵条約を一方的に破棄して対日参戦… ポツダム宣言受諾により太平洋戦争が停戦した後の8月18日未明、ソ連軍は占守島も奇襲攻撃し、ポツダム宣言受諾に伴い武装解除中であった日本軍守備隊と戦闘となり、戦闘は日本軍優勢に推移するものの、軍命により21日に日本軍が降伏して停戦が成立、23日に日本軍は武装解除されたが、捕虜となった日本兵はその後大勢が法的根拠無く拉致され、シベリアへ抑留された という史実を忠実に辿りながら、アメリカとの和平交渉の通訳要員として兵役年限直前の45歳で招集された翻訳書編集者「片岡直哉」、岩手医専卒・東京帝大医学部の医学生で軍医として招集された「菊池忠彦」、大陸でたてた手柄で金鵄勲章を授与された鬼軍曹で4回目の招集で占守島に送られた「富永熊男(鬼熊)」の三人の登場人物を軸に、過酷な状況下での人間の本質を照射しつつ、それぞれの場所で、立場で、未来への希望を求める人々を描いた巨編(上・中・下で約1,050ページ)です。

    重層的で物語の奥行が深く、人物造形にも優れている作品だったので、読んでいるうちに、どんどん作品の中に引き込まれていき、登場人物の目線で物語が展開していく感覚で読み進めていくことができました… 『終章』では、辛いとか、哀しいというよりは、胸が苦しくなるような気持になり、「鬼熊」の母親に宛てた手紙や、少年兵「中村末松」の遺した押花帖が出てくる場面では、涙が止まりませんでした、、、

    戦争は終わったのに、戦闘が始まる… この大いなる矛盾の中で、戦う兵、死にゆく兵、戦争の禍々しさと非情さ、そして愚かさに胸を打たれましたね。

    終盤の戦闘シーンは、その少し前から登場していたソ連の現場第一線の兵からの目線で描かれているのですが、彼らもまた、終わったと思っていた戦争で、再び命を賭して闘わなければならないという矛盾を抱えながら行動しており、戦争というものの非情さや非人間的な部分が、巧く描かれていたと感じました、、、

    この戦闘の矛盾を訴えた「アレクサンドル・ミハイトヴィッチ・オルローフ中尉(サーシャ)」の報告書には共感する部分が多かったですね… 略奪を目的とした大義なき作戦行為は、現場では誰も望んでいないんですよね。

    不条理な戦争(戦闘)に、国土とそこに暮らす人々を守るために誇り高く戦った人たち… 軍人も民間人もそれぞれの誇りと愛するものを守るために戦ったんですよねぇ、、、

    久しぶりに読書しながら泣いちゃいました… 涙が止まらないほど感動した、忘れられない作品でした。



    以下、主な登場人物です。

    「小松少佐」
     大本営参謀。参謀本部編制課動員班の動員担当者

    「甲斐中佐」
     陸軍省軍事課員。参謀本部編制課に合流

    「佐々木曹長」
     盛岡聯隊区司令部第三課動員班長
     
    「蓮見百合子」
     盛岡聯隊区司令部の庶務係。岩手高女の女学生

    「遠山敬一郎大佐」
     盛岡聯隊区司令部司令官。地元の名士

    「佐藤金次」
     滝沢村役場の戸籍係兼兵事係

    「勇」
     滝沢村役場の給仕の少年

    「片岡直哉二等兵」
     東京外国語学校卒の翻訳書編集者。岩手県の寒村出身。
     英語通訳として招集され占守島に向かう

    「片岡久子」
     片岡の妻。女子高等師範卒の文学書編集者

    「片岡譲」
     片岡の息子。国民学校四年生。信州に集団疎開しているが疎開先を抜け出す

    「吉岡静代」
     譲と同じ国民学校の六年生。信州に集団疎開している。譲とともに疎開先から東京を目指す

    「小山雄一」
     国民学校の教師。四年男子学級の担任

    「朝井マキ子」
     国民学校の教師。六年女子学級の担任

    「岩井萬助」
     渡世人。懲役に服していたが、召集のため放免される

    「尾形貞夫」
     片岡と同じ出版社に勤める、翻訳書出版部の部員。
     警視庁で洋書や英文記事の検閲を行う

    「尾形佐江」
     尾形の妻。夫妻で久子の住まいに引っ越す

    「野中良一」
     久子の異父弟。フィリピンで戦死

    「野中きぬ」
     久子の母。久子の父親との離婚後、良一の父親と暮す

    「安藤仁吉」
     東京で岩手県出身者たちの面倒をみる篤志家

    「菊池忠彦軍医少尉」
     岩手医専卒の医師。東京帝大医学部に在籍。
     招集されて占守島の軍医となる

    「富永熊男軍曹」
     盛岡のタクシー運転手。金鵄勲章を授与された軍曹。
     四回目の招集で占守島へ向かう

    「吉江恒三少佐」
     第五方面軍司令部参謀。敗戦処理の任務を負う

    「大屋与次郎准尉」
     戦車第十一聯隊第二中隊段列長。旭川出身

    「中村末松兵長」
     戦車第十一聯隊第二中隊段列の少年兵。東京出身

    「池田大佐」
     戦車第十一聯隊長

    「岸純四郎上等兵」
     南方帰りの船舶兵。三陸の宮古出身

    「工藤軍医大尉」
     野戦病院の軍医。菊池の岩手医専での先輩

    「渡辺中尉」
     第九十一師団副官。札幌出身

    「森本健一」
     日魯漁業社員。占守・幌筵島の漁場と缶詰工場の責任者

    「石橋キク」
     缶詰工場で働く女子挺身隊員。函館高女の卒業生総代

    「沢田夏子」
     缶詰工場で働く女子挺身隊員。キクの同級生

    「ヤーコフ」
     占守島出身のアイヌ。色丹島の診療所で助手を務める

    「池田大佐」
     戦車第十一聯隊長

    「アレクサンドル・ミハイトヴィッチ・オルローフ中尉(サーシャ)」
     ソ連軍の将校。シベリアに住むコサックの子孫

    「ボクダン・ミハイトヴィッチ・コスチューク兵長(ボーガ)」
     ウクライナ出身のソ連兵

    0
    2023年02月27日
  • 終わらざる夏 上

    Posted by ブクログ

    「浅田次郎」の戦争小説『終わらざる夏』を読みました。

    「半藤一利」の『新装版 太平洋戦争 日本軍艦戦記』に続き、第二次世界大戦関連の作品です。

    -----story-------------
    〈上〉
    1945年、夏。
    すでに沖縄は陥落し、本土決戦用の大規模な動員計画に、国民は疲弊していた。
    東京の出版社に勤める翻訳書編集者「片岡直哉」は、45歳の兵役年限直前に赤紙を受け取る。
    何も分からぬまま、同じく召集された医師の「菊池」、歴戦の軍曹「鬼熊」と、「片岡」は北の地へと向かった。
    ―終戦直後の“知られざる戦い”を舞台に「戦争」の理不尽を描く歴史的大作、待望の文庫化。
    第64回毎日出版文化賞受賞作。

    〈中〉
    「片岡」の一人息子「譲」は、信州の集団疎開先で父親の召集を知る。
    「譲」は疎開先を抜け出し、同じ国民学校六年の「静代」とともに、東京を目指してただひたすらに歩き始めた。
    一方、「片岡」ら補充要員は、千島列島最東端の占守島へと向かう。
    美しい花々の咲き乱れるその孤島に残されていたのは、無傷の帝国陸軍、最精鋭部隊だった。
    ―否応なく戦争に巻き込まれていく人々の姿を描く著者渾身の戦争文学、中編。

    〈下〉
    1945年8月15日、玉音放送。
    国民はそれぞれの思いを抱えながら、日本の無条件降伏を知る。
    国境の島・占守島では、通訳要員である「片岡」らが、終戦交渉にやって来るであろう米軍の軍使を待ち受けていた。
    だが、島に残された日本軍が目にしたのは、中立条約を破棄して上陸してくるソ連軍の姿だった。
    ―美しい北の孤島で、再び始まった「戦争」の真実とは。
    戦争文学の新たなる金字塔、堂々の完結。
    (解説/「梯久美子」)
    -----------------------

    集英社が出版している月刊小説誌『小説すばる』の2008年(平成20年)6月号から2009年(平成21年)10月号に連載された作品で、第64回毎日出版文化賞受賞作です… 歴史の闇の中になかば隠れつつあった太平洋戦争終戦後(もしくは終戦準備・戦闘停止 期間中)における占守(シュムシュ)島での戦いにスポットをあてた物語、、、

    1945年(昭和20年)8月9日、ソ連は日ソ不可侵条約を一方的に破棄して対日参戦… ポツダム宣言受諾により太平洋戦争が停戦した後の8月18日未明、ソ連軍は占守島も奇襲攻撃し、ポツダム宣言受諾に伴い武装解除中であった日本軍守備隊と戦闘となり、戦闘は日本軍優勢に推移するものの、軍命により21日に日本軍が降伏して停戦が成立、23日に日本軍は武装解除されたが、捕虜となった日本兵はその後大勢が法的根拠無く拉致され、シベリアへ抑留された という史実を忠実に辿りながら、アメリカとの和平交渉の通訳要員として兵役年限直前の45歳で招集された翻訳書編集者「片岡直哉」、岩手医専卒・東京帝大医学部の医学生で軍医として招集された「菊池忠彦」、大陸でたてた手柄で金鵄勲章を授与された鬼軍曹で4回目の招集で占守島に送られた「富永熊男(鬼熊)」の三人の登場人物を軸に、過酷な状況下での人間の本質を照射しつつ、それぞれの場所で、立場で、未来への希望を求める人々を描いた巨編(上・中・下で約1,050ページ)です。

    重層的で物語の奥行が深く、人物造形にも優れている作品だったので、読んでいるうちに、どんどん作品の中に引き込まれていき、登場人物の目線で物語が展開していく感覚で読み進めていくことができました… 『終章』では、辛いとか、哀しいというよりは、胸が苦しくなるような気持になり、「鬼熊」の母親に宛てた手紙や、少年兵「中村末松」の遺した押花帖が出てくる場面では、涙が止まりませんでした、、、

    戦争は終わったのに、戦闘が始まる… この大いなる矛盾の中で、戦う兵、死にゆく兵、戦争の禍々しさと非情さ、そして愚かさに胸を打たれましたね。

    終盤の戦闘シーンは、その少し前から登場していたソ連の現場第一線の兵からの目線で描かれているのですが、彼らもまた、終わったと思っていた戦争で、再び命を賭して闘わなければならないという矛盾を抱えながら行動しており、戦争というものの非情さや非人間的な部分が、巧く描かれていたと感じました、、、

    この戦闘の矛盾を訴えた「アレクサンドル・ミハイトヴィッチ・オルローフ中尉(サーシャ)」の報告書には共感する部分が多かったですね… 略奪を目的とした大義なき作戦行為は、現場では誰も望んでいないんですよね。

    不条理な戦争(戦闘)に、国土とそこに暮らす人々を守るために誇り高く戦った人たち… 軍人も民間人もそれぞれの誇りと愛するものを守るために戦ったんですよねぇ、、、

    久しぶりに読書しながら泣いちゃいました… 涙が止まらないほど感動した、忘れられない作品でした。



    以下、主な登場人物です。

    「小松少佐」
     大本営参謀。参謀本部編制課動員班の動員担当者

    「甲斐中佐」
     陸軍省軍事課員。参謀本部編制課に合流

    「佐々木曹長」
     盛岡聯隊区司令部第三課動員班長
     
    「蓮見百合子」
     盛岡聯隊区司令部の庶務係。岩手高女の女学生

    「遠山敬一郎大佐」
     盛岡聯隊区司令部司令官。地元の名士

    「佐藤金次」
     滝沢村役場の戸籍係兼兵事係

    「勇」
     滝沢村役場の給仕の少年

    「片岡直哉二等兵」
     東京外国語学校卒の翻訳書編集者。岩手県の寒村出身。
     英語通訳として招集され占守島に向かう

    「片岡久子」
     片岡の妻。女子高等師範卒の文学書編集者

    「片岡譲」
     片岡の息子。国民学校四年生。信州に集団疎開しているが疎開先を抜け出す

    「吉岡静代」
     譲と同じ国民学校の六年生。信州に集団疎開している。譲とともに疎開先から東京を目指す

    「小山雄一」
     国民学校の教師。四年男子学級の担任

    「朝井マキ子」
     国民学校の教師。六年女子学級の担任

    「岩井萬助」
     渡世人。懲役に服していたが、召集のため放免される

    「尾形貞夫」
     片岡と同じ出版社に勤める、翻訳書出版部の部員。
     警視庁で洋書や英文記事の検閲を行う

    「尾形佐江」
     尾形の妻。夫妻で久子の住まいに引っ越す

    「野中良一」
     久子の異父弟。フィリピンで戦死

    「野中きぬ」
     久子の母。久子の父親との離婚後、良一の父親と暮す

    「安藤仁吉」
     東京で岩手県出身者たちの面倒をみる篤志家

    「菊池忠彦軍医少尉」
     岩手医専卒の医師。東京帝大医学部に在籍。
     招集されて占守島の軍医となる

    「富永熊男軍曹」
     盛岡のタクシー運転手。金鵄勲章を授与された軍曹。
     四回目の招集で占守島へ向かう

    「吉江恒三少佐」
     第五方面軍司令部参謀。敗戦処理の任務を負う

    「大屋与次郎准尉」
     戦車第十一聯隊第二中隊段列長。旭川出身

    「中村末松兵長」
     戦車第十一聯隊第二中隊段列の少年兵。東京出身

    「池田大佐」
     戦車第十一聯隊長

    「岸純四郎上等兵」
     南方帰りの船舶兵。三陸の宮古出身

    「工藤軍医大尉」
     野戦病院の軍医。菊池の岩手医専での先輩

    「渡辺中尉」
     第九十一師団副官。札幌出身

    「森本健一」
     日魯漁業社員。占守・幌筵島の漁場と缶詰工場の責任者

    「石橋キク」
     缶詰工場で働く女子挺身隊員。函館高女の卒業生総代

    「沢田夏子」
     缶詰工場で働く女子挺身隊員。キクの同級生

    「ヤーコフ」
     占守島出身のアイヌ。色丹島の診療所で助手を務める

    「池田大佐」
     戦車第十一聯隊長

    「アレクサンドル・ミハイトヴィッチ・オルローフ中尉(サーシャ)」
     ソ連軍の将校。シベリアに住むコサックの子孫

    「ボクダン・ミハイトヴィッチ・コスチューク兵長(ボーガ)」
     ウクライナ出身のソ連兵

    1
    2023年02月27日
  • 蒼穹の昴(4)

    Posted by ブクログ

    それぞれの結末。散った仲間もいれば、未来へ命を繋いだ者たちも…
    4巻通して大変面白くわかかりやすかった。政治的な話も、日本の記者を視点に話が展開したため読みやすい。最後の春児、玲玲、文秀の迎えるエンディングは感動的。一見無関係と思われる郎世寧がそう関わるかあ、と素晴らしい構成にうなされっぱなし。

    0
    2023年02月24日
  • 蒼穹の昴(3)

    Posted by ブクログ

    列強に脅かされる清国の状況が、ジャーナリストたちの目線で描かれていく。春児や文秀だけの目線でなく外部からの状況を書くことで、緊迫感が伝わってくる。

    0
    2023年02月23日
  • 地下鉄に乗って 新装版

    Posted by ブクログ

    一代で国際的な大企業を築き上げた父。しかし、家庭では母を蔑ろにし暴力的であったため反発した兄は家を飛び出し、自殺。次男である主人公も、その時からはっきりと反発心が芽生え、家を出る。後に母も家を出て次男と暮らすようになる。結局、三男である弟が家業を継ぐ流れになっているが、妻は子どもを置いて実家に帰ってしまい苦労している。
    主人公、真次は地下鉄の駅から時間を遡って、戦後の闇市で商才を発揮している父、戦時中のソ連軍の攻撃から逃れる父、徴兵され入営する父、祖父の借金の為に必死に働いてる父…自分の知らないいろんな父の姿を見ることになる。そして、兄の自殺の本当の理由も知ることになる。
    また、自分の不倫相手が、異母兄妹であったことが判明、、悲しいお別れもあります。
    自分が生まれる前の親の姿は意外なものかもしれません。
    ただ、それを知って今の親のことを深く理解できても、許せるかといえばそれはまた別の話ですね。無理して許すことはないと私も思います。

    0
    2023年02月19日
  • 輪違屋糸里(下)

    Posted by ブクログ

    浅田次郎の新選組モノの女性目線版。
    いやはや面白かった。一気に読んでしまいました。

    物語としては文久三年の夏から芹沢鴨が暗殺される9月16日までの短い間の新選組とその周囲の女性達の物語。
    一部沖田総司を語り部とする部分はあるが九割方は女性目線のお話。

    この物語の面白いところは、史実上は我侭、酒乱、癇癪持ちの芹沢鴨を実に人間味豊かな本物の武士として描いている。
    その反面、近藤勇は少し頼りなく、土方歳三は頭の切れる冷血漢として描かれています。

    ペンの力の凄さを感じるこの作品は、題材が史実なだけに「大和屋の焼き討ち」「禁門の政変」最後のクライマックス「芹沢鴨暗殺」等の出来事は実際に起こったことですが、その史実に浅田次郎の推察(創作を含)で面白く味付けしてあり、史実を冷静に捉えないでこの小説だけ読むとまるで事実かと思ってしまう人が出るのでは?

    もちろん浅田流の泣かせる部分もしっかりありました。

    浅田次郎恐るべし!

    0
    2023年02月19日
  • 大名倒産 下

    Posted by ブクログ

    なんだか集中しきれない上巻を頑張って読んだ流れで挑む下巻は、打って変わってあらゆるものがひとつになってフィナーレに進んでいく小気味良さが素晴らしい。

    0
    2023年02月09日
  • 一刀斎夢録 下

    Posted by ブクログ

    同著者作品「壬生義士伝」に同じく、流石の読み応え。

    新選組斎藤一の語りに入ってすぐにページを捲る手が止まらず、どっぶりと幕末から明治の時代に引きずり込んでくれる。
    齋藤の若い頃から歳を経るごとに、少しずつ少しずつ変化していく人と鬼の心情の狭間が描かれており、ラストに向けては感情の大波と小波の連続で、激動を生き抜いた一人の人生が流れ込んでくる感覚だった。

    0
    2023年01月19日
  • 大名倒産 上

    Posted by ブクログ

    浅田次郎さん、初めて読んだ。
    昭和26年生まれらしいので、さぞお固い文章書くんでしょ?と思ってたら、お固い文章とコミカルな文章の対比がよく、ところどころ文章だけで笑ってしまうことがあった。
    最初の文章がやたら固かったのはわざとなの…?とすら思った。
    主人公はもとより、他の登場人物も魅力的で、越中守いい人やん、と心から思った。その他、貧乏神は出てくるし、血の繋がった弟は出てくるし、仁王丸は今後どう絡んで来るのかとか、下巻が楽しみすぎる!

    ところで主人公、人たらしっていう最高のスキルの持ち主やん。

    0
    2023年01月19日