Posted by ブクログ
2018年10月23日
ふと気づくと、あなたは見知らぬ場所を歩いている。なぜ、ここにいるのだろう、まったく思い出せない。そのまま歩き続けると、おびただしい数の老人であふれかえるビルにたどり着く。そこで、あなたはあなたの人生が終わったことを知らされ、遣り残したことを清算するため、7日間の現世滞在が許される(現世滞在中は生きて...続きを読むいたときとはまったく違った姿となる)。あなたは、この7日間をどのように過ごしますか? 本書は、主人公である椿山課長の、この7日間(実際には3日間)の物語である。 46歳の椿山は、呆けた父親、34歳の妻、7歳の息子を残し、突然、過労死した。その後、前述のビルで知り合ったヤクザ(拳銃で撃たれた)と、子供(交通事故死)とともに、7日間の現世滞在が許される。一家の大黒柱を失って路頭に迷うだろう家族や、遣り残した仕事の整理をつけるため、また、昔の女友達との関係を確かめるため、彼はこの7日を使う。これにより、「実は呆けてなかった父親」、「自分の部下と不倫していた妻」、「息子の父親は、妻の不倫相手」、「女友達は、椿山を今でも愛している」、「高卒ノンキャリがゆえ仕事に不満を持つ椿山は、実は会社ではだれからも愛される存在」などの自分を取り巻く事実が明らかになってゆく。知るべきでないことまで知ってしまった椿山。一方、残してきた子分たちの行く先と自分が殺された理由を追い求めるヤクザ。自分の出生の秘密を知り、最後に実の親へのお別れを言いたい子供。それぞれの人生がオーバーラップする。彼らの心中を思い、私の耳の奥で桑田圭介の「切ない胸に風が吹いていた」がこだました。涙なしでは読み進められない。出張帰りの新幹線の隣の席が珍しく空いていたことがありがたかった。 この複雑な人間模様は、椿山の父親により一本の糸に紡ぎ上げられ、なんとも爽快なエンディングを迎える。その時、ちょうど東京駅に着いた私の頭の中には、「千の風になって」が鳴り響いていた。