連城三紀彦のレビュー一覧
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〈またその花が夾竹桃と呼ばれる花であること――夏の盛りに太陽の炎を吸って自らも炎となって燃えあがる花であること。夾竹桃の葉や樹皮には毒があること――花弁の炎の色が、人の命を焼きこがすための色であること。そしてまたその毒のために、数時間後、壊れかけた防空壕のかたすみで、何とか生きて終戦を迎えた小さな命を棄てる運命にあったこと――〉
中堅作家の柚木桂作は一人娘の万由子から結婚を前提に考えている恋人を紹介される。民放テレビ局の報道班に勤めているその恋人と、柚木の著作でもある「虚飾の鳥」の話(太平洋戦争史の陰で暗躍した人物を題材にした大作)から、戦争の話に及び、柚木は彼から、仕事きっかけで知った戦地体験での逸話として、軍人でありピアニストでもあった「寺田武史」の話を聞かされる。奇蹟的に戦場から帰還しながらも、戦後の混乱期に偽り、最後には娼婦に殺された、という人物に対して、柚木は興味を持っていく――。
というのが、本書の導入です。運命的に絡み合ったすえに解かれた暗号が浮かび上がらせるのは、強烈な〈動機〉、そして〈個〉が抱える複雑な感情。まったく思いがけないところから、いきなり刺されてしまったような驚きがありました。色彩豊かな文章で紡がれた、哀しい愛の物語としても、切々と胸にしみいる作品でした。 -
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世評が高く、明らかに趣味嗜好に合致している。でもそんな作品に限って、いつか読もう読もう、と思っているうちに、あまりにも長い時間が経っていた、という経験はありませんか。私はよくあって、連城三紀彦のキャリア後期の代表作である本作『造花の蜜』も、私にとってそんな作品でした。読んで何故もっと早く読んでいなかったのか、と強く後悔してしまいました。
離婚を機に一人息子を連れて実家に戻った香奈子は息子の圭太を預ける幼稚園の先生と思わしき人物から、電話を受ける。圭太がスズメバチに刺されて救急車で病院に運ばれた、というのだ。だけど本当に幼稚園からだったのか、と病院に向かう途中、幼稚園に電話すると、先生はそんな電話を掛けてはおらず、「さっきお母さんが連れていかれたじゃないですか」と言いはじめる。「だって、私、お母さんに……あなたにちゃんと圭太クン渡したじゃないですか」自分とそっくりな『誘拐犯』の正体は何者なのか――これがあまりにも壮大な犯罪の幕開けだった。
上巻と下巻でここまで色合いが異なる作品もめずらしいかも、と思いました。どこまで語っていいのかとても悩みますし、とても曖昧な言い方になってしまうのですが、まさか〈誘拐〉という二字がこういう意味合いを持つとは、というひとつ目の驚きがあり、そのひとつ目の出来事さえもラストの衝撃の道具にしてしまうなんて……。主要人物はいつの間にか端役へと追いやられ、端役にしか過ぎなかった者は気付けば主演に躍り出ている。美しい文章と構造に惚れ惚れとするような誘拐ミステリでした。 -
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胸を撃ち抜かれた♡
大人の恋愛小説なんだけど、恋愛なんて軽い言葉で表現したくない。
「"惚れる”ということはこういうことを言うんだよ」と諭された。
年末に本棚を整理していたら見つけた昭和59年に書かれた本書。私のこの本は昭和62年版…装丁が違う…37年振りの再読となった。
37年前の小娘の私が、この小説の本当のトコロがわかるはずもなく。それでも、その後の結婚と数回の引越しでも捨てずに手元に連れてきたわけで。
面白い、心に響いていたことは間違いないのであろう。
『恋文』『紅き唇』『十三年目の子守唄』『ピエロ』『私の叔父さん』の5話。
直木賞受賞作。
また再読したい♡
今年の上位にランクインしそうな本を一発目に読んでしまったようだ。
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【ミステリーレビュー500冊目】自らの命よりも、美しく花を咲かせることの尊さとは… #戻り川心中
■はじめに
レビュー500冊目は、連城三紀彦先生の『戻り川心中』です。ミステリー史上、最も美しいとされている一冊で、どの作品も味わい深く文学的。人間が隠し持っている欲や業、そして愛情を描いた短編集です。
時は大正・昭和前期、日本独特の文化や風習が作品全体から漂ってくる。各作品ごとに花や植物が違和感なく小道具になっていて、耽美な雰囲気をよりかもし出してくれます。しかし、いつの時代も男と女の物語は美しくも哀しいですね…
謎解きとしても綺麗な論理性でまとめてくれるし、文芸作品としても質が高い。もしミステリー作家になりたいのならお手本になる一冊で、必ず読んでおくべき作品ですね。
■各短編のレビュー
●藤の香
色街に住む女と呉服屋の主人の出来事、街で発生した殺人事件に隣に住む代書屋が関係しているらしいが…
いつの時代も花街には無情さを感じます、いかに人間というのは弱い生き物なんだろう。物語は淡々と語られますが、命の描写があまりにも儚く、まるで夢をみているかのよう。事件の背景に感じた情け深さが耐え難い。美しいラストが必見の作品。
●桔梗の宿【おすすめ】
川辺で男の死体が発見される、手には桔梗が握られていた。亡くなった男は、ある娼家にいたことがわかり、刑事たちは女性たちに聞き取りを始める。そこの幼い少女が語るには…
この物語では誰が一番悪いのか、それは少女を売りつけて未来を摘んでしまった外道たち。この時代、きっと同じように不幸を抱えた子供たちがいっぱいいたと思うと耐えられない。そして彼女の覚悟があまりにも幼稚すぎて、ただ切ない…
●桐の柩【超おすすめ】
極道の世界で、兄貴に拾ってもらった男の物語。日々、舎弟として手足になるも、兄貴からある女を抱いて来いと言われるのだった。どうやらその女と兄貴には、暗い繋がりがあるようなのだが。
人と人の距離感が素晴らしい!これ映画化してほしい!これぞ色恋沙汰の傑作、謎解きの真相もハッとさせられました。
主人公、兄貴、女、ひとりひとりの情念と行動が罪深すぎるだろ、これ… 業にまみれた醜さと可憐さ、さらに生きることに対する誠実さを感じた一作。
●白蓮の寺
主人公の男は、幼年期の記憶が忘れられずにいた。それは母が血に染まった手で人を殺害している場面であったが… 彼の幼い頃の記憶の真相は。
長い長い幼年期の語りが幻想的で美しい。しかし想像した以上に深い事情で主人公がただ可哀想。後半の展開は見事で、墓場まで秘密にした覚悟が強烈な作品。
●戻り川心中【超おすすめ】
かつて天才歌人だった苑田岳葉、彼は二度の心中で二人の女性を葬ってしまった。さらにその時の想いを歌に残して自殺をしてしまうのだ。どんな背景があったのか…
これも現代の映像技術で映画にしてほしい作品ですね。イケメン俳優と和美人でキャスティングをお願いしたい。
しかしどんなにその人を愛していたとしても、この死生観は理解できない。ただ欲望としてはわからなくもないの。こういった男性が、何故か女性には人気だったりするんですよね。高次元で惹かれ合う、みたいな感じでしょうか。
道づれになった女性たちが憐れすぎるよ。命よりも大切なものはないはずなのに、それよりも美しく花を咲かせることを求めている… 情報化社会の合理性が求められる時代、この狂った恋愛物語を現代人たちはどう思うでしょう。
■さいごに
我々は何のために生きているんでしょうか?
多くの人は、日常は忙しく哲学的なことを考えている暇はない。ただ何か壁にぶつかった時、ふとこの疑問を思い出し、おそらくは何も結論が出ずに考えるのをやめてしまう。
本作の登場人物たちは、全員何のために生きるのか明確なんです。自らの命に代えても守りたいほど強い意志を持っている。それゆえ潔く美しいのですが、悲しくもありますよね。
これからの人生、誰しもゆっくりと死に向かってゆく。いつか絶望を感じた時、きっとまたこの本を読めば、なにか感じることがあるんだろうなと思いました。 -
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ネタバレ面白かった。米澤穂信が薦めていたのと評判が良かったので読んでみた。
「藤の香」
代筆屋という伏線。故郷への文と目の前の少女の行く末を考えて、さらに己の寿命まで考えると成敗したくなるのもわかるな。お縫の心情を推し量ろうとするまなざしが良かった。
「桔梗の宿」
二階の窓から花を散らすという仕草になんともいじさらしを感じてしまう。言葉にして直接伝えられない感情を感じる。福村も人形を操ることで何かを伝えていたとしたらそこが二人の共通点になるのかな。
「桐の柩」
主人公がなんか百合の間に挟まる男というか、二人の愛の渦中にいるというか、面白い立ち位置。
主人公のありようがあまりにも希薄なのが良い。
桐の棺というダイナミックな小道具、大道具?の使い方が良い。画面映えしそう。
「白蓮の寺」
花を埋めるという動作について考えたことも無かったので、そんな場面を見たら忘れられないし怖さも覚えるだろうなと思った。
前半の夢の部分はどうにも退屈だった。他人の夢ほどどうでもいいというがほんとそれ。映像化したら美しいだろうが。
なんとも奇妙な出来事を聞いたり覚えていたりで、じゃあ真実は?と探求していくのが面白かった。
母親が目の当たりにした春のあぜ道で女が突然死んだのは、母親の面影に誰か(女の夫か知りあい)を感じたからでは、という考察を見たが、なるほどと思った。それなら、母親も自分の子供が宗田に似てくるかも、似ていると感じるのもわかる。
「戻り川心中」
丹念に過去の場所を訪れて振り返るのが現場百篇って感じで面白かった。また、苑田の在り方が、とんでもすぎて西尾維新を思い出した。己の才のために人生を賭ける。そのまんますぎてすごい。すごいから常人ではないんだろうけど。それに付き合わされての心中はむごいな。トリックのために人を殺す麻耶雄嵩にも通ずるな。
全体的に花をモチーフにしてるが、説明てきではなくさりげなく小道具として、背景や形、匂い、色として登場しているので品があって面白かった。文体も読みやすい。大正時代も感じられて面白かった。