あらすじ
終戦から間もない降誕祭(クリスマス)前夜、焼け跡の残る横浜・中華街の片隅で、隻腕の男が他殺体となって見つかる。犯人と思しき女性は更に娼婦を殺したのち自らも崖に身を投げて、事件は終結したかに見えた。しかし、二十年以上の時を経て、奇妙な縁からひとりの小説家は、殺された隻腕の男が陸軍大尉で、才能あるピアニストでもあった事実を知る。戦争に音楽の道を断たれた男は、如何にして右腕を失い、名前を捨て、哀しき末路を辿ったのか。そして、遺された楽譜に仕組まれたメッセージとは──美しき暗号が戦時下の壮大な犯罪を浮かびあがらせる推理長編。/解説=米澤穂信
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Posted by ブクログ
〈またその花が夾竹桃と呼ばれる花であること――夏の盛りに太陽の炎を吸って自らも炎となって燃えあがる花であること。夾竹桃の葉や樹皮には毒があること――花弁の炎の色が、人の命を焼きこがすための色であること。そしてまたその毒のために、数時間後、壊れかけた防空壕のかたすみで、何とか生きて終戦を迎えた小さな命を棄てる運命にあったこと――〉
中堅作家の柚木桂作は一人娘の万由子から結婚を前提に考えている恋人を紹介される。民放テレビ局の報道班に勤めているその恋人と、柚木の著作でもある「虚飾の鳥」の話(太平洋戦争史の陰で暗躍した人物を題材にした大作)から、戦争の話に及び、柚木は彼から、仕事きっかけで知った戦地体験での逸話として、軍人でありピアニストでもあった「寺田武史」の話を聞かされる。奇蹟的に戦場から帰還しながらも、戦後の混乱期に偽り、最後には娼婦に殺された、という人物に対して、柚木は興味を持っていく――。
というのが、本書の導入です。運命的に絡み合ったすえに解かれた暗号が浮かび上がらせるのは、強烈な〈動機〉、そして〈個〉が抱える複雑な感情。まったく思いがけないところから、いきなり刺されてしまったような驚きがありました。色彩豊かな文章で紡がれた、哀しい愛の物語としても、切々と胸にしみいる作品でした。
Posted by ブクログ
美しいミステリ。美しい暗号。
戦後の混乱の中の一つの殺人事件。二十数年後にその被害者のことを知り、それを題材にしようとする小説家。雑誌掲載を止めさせようとする謎の女性。
全滅が予想される出撃の前夜、月明かりの中で指を重ねて運指を伝えるシーンがあまりにも美しくて、悲しくて、心に残った。
Posted by ブクログ
連続殺人事件と残された楽譜の謎
楽譜の謎はさっぱりわかりませんでした
人間関係も入り組んでいて大変でしたが
楽しめました
それにしても創元推理文庫は字が小さい・・・
Posted by ブクログ
解かれた暗号が暗示する、空前絶後の殺人事件。これはすごいや。筋の運びは偶然だよりが過ぎる気もするが、その分、メインプロットの展開には無駄がない。なんというか鮮やか。