朝比奈秋のレビュー一覧

  • あなたの燃える左手で

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    ネタバレ

    朝比奈秋、3冊目。作品としては一番荒削りかもしれないが(構成やテーマ、それに対する回答など)、私は本作が一番好きだ。端正にまとまっていない、言語化しきれていない、繋がりきれていない、かもしれないが、それでも私は最も心を動かされた。
    前作2作品は日本での医療を取り扱ったものであり、それはそれで新しい視点を提供されて面白かった。一方で、今回はウクライナ侵攻が起きる中、ウクライナ人を妻にもつハンガリーで働く日本人看護師・アサトを主人公に、誤診により切断された手、その後移植された手を、国境や領土を巡る紛争と同化のプロセスになぞらえると、場所もテーマも大きく転換したというか、拡大した、著者にとっても意欲

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    2024年12月09日
  • あなたの燃える左手で

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    左手の移植をメタファーに、国の併合への苦しみを描いている。国境線のない日本人と常に領土争いに巻き込まれてきた東ヨーロッパの人々の意識の違いを肉体感覚の深い部分で抉ってくる。
    最初の意識が朦朧した状態から、徐々に現状が明らかになるストーリー運びもうまい。妻への電話も埋められない喪失感として左手への幻肢痛とともに描かれてて、なんとも言えないもの悲しさを感じた。
    読後感は良くないが、戦争や自国が奪われることの理不尽な不気味さを肌で感じることができるすごい作品だと思う。

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    2024年11月11日
  • あなたの燃える左手で

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    «左手の移植»に詰まった著者の平和への願い。島国に住む日本人の国民性や、この世界の現状を«左手»を中心に巡り描いた祈願と受け止めた。受け止めるだけで次への有益な行動に移れぬのがもどかしい。純文学はメッセージ性が強いから弱った現在の身にはキツイけれど、今作は150ページを越えた辺りからのめり込んでしまった。ちょっとしたホラー要素はあるものの移植した左手と会話するファンタジーではない。そこは現実的。とても惹き付ける因子を持った作風。気になるなぁ。

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    2024年11月04日
  • あなたの燃える左手で

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    ネタバレ

    読んでいる最中から、やばいやばいやばい、と焦燥感が湧きあがった。

    「わたしは今、とんでもない本を読んでいる!」


    この小説は、喪失と受容の物語だ。

    主人公アサト(日本人)は、左手を失い、脳死した人の左手を移植される。

    「喪失」も「受容」も、比喩や仮託ではなく、そのものずばり、アサトの失われた左手を示す。それを諦める過程、新しい左手を得たものの、それは激しい拒絶反応を起こす。
    そしてこの「左手」は、ウクライナ・ハンガリー・ロシアの「国境線」ときっちり重ね合わせて描かれている。

    アサトが最初に失った左手は、80年代・ウクライナが強硬に併呑したハンガリー領土だったクリミアだ。ひじょうに理不

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    2024年09月25日
  • 夜明けのカルテ―医師作家アンソロジー―(新潮文庫)

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    フィクションなんだけど
    現実にあってもおかしくないくらい
    リアルなストーリーばかり。

    医療は全てが完璧じゃないから
    理想と現実にギャップがありすぎて
    理不尽過ぎることを言われることもあるし
    誰のために頑張ってるのか
    よく分からなくなることもある。

    だけどこの本を読みながら
    自分の捉え方次第かましれないとか
    もう少し頑張ってみようかなぁとか
    前向きに考えられるような気がしました。

    背中を押してくれる本って素敵ですよね。

    医療に関わる人も関わらない人も
    ぜひ読んで欲しい1冊です。

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    2024年08月15日
  • 夜明けのカルテ―医師作家アンソロジー―(新潮文庫)

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    最後の短編は感動致しました!素晴らしい。
    題名は、峠を越えてきた命、です。皆さんもぜひお読みになって下さい。

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    2024年07月14日
  • 夜明けのカルテ―医師作家アンソロジー―(新潮文庫)

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    現役の医師たちが綴る医療小説ということでどれも手に汗握るような臨場感で溢れていた。
    まだ読んだことのなかった作家の方も含まれていたので、また読みたい本が増えて嬉しい。

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    2024年06月16日
  • サンショウウオの四十九日

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    作者が医師というだけあって、不思議と違和感なく読めた。主人公ふたりの思考が入り交じる場面は、やや混乱したけど慣れると興味深く読めた。終盤は思いの外平坦な閉じ方で、少し物足りないかも。

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    2025年12月06日
  • サンショウウオの四十九日

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    第171回芥川賞受賞作。

    インパクトのある設定だったが、父親と伯父の設定にも驚く。
    想像していたモノとは異なり、物語自体は淡々と進む。
    私とわたし、主語が入れ替わるごとに姉妹の思考が入れ替わる。
    2人の過去の出来事や記憶が思い起こされ、両親は当たり前のように2人を感じ取り、1人がもし亡くなったらどうなるのか……
    何となく姉妹の片方は伯父に似、もう片方は父に似ている気も。
    意識はすべての臓器から独立しているのかどうかなど、哲学的要素もあり、ただラストは物足りないような、これでいいような、不思議な読後感。

    最初のインパクトが大きすぎて、朝比奈秋作品なら、他のものの方が、とも思う。

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    2025年12月06日
  • サンショウウオの四十九日

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    第171回(2024年)芥川賞受賞作品。朝比奈秋は史上6人目、男性作家としては初となる純文学新人賞三冠(芥川龍之介賞・野間文芸新人賞『あなたの燃える左手で』・三島由紀夫賞『植物少女』)を達成した。現役、消化器内科医師として働きながら二刀流で執筆。

    (帯より)伯父が亡くなった。誕生後の身体の成長が遅く心配された伯父。その身体の中にはもう一人の胎児が育っていた。それが自分たち姉妹の父。体格も性格も正反対の二人だったが、お互いに心を通わせながら生きてきた。その片方が亡くなったという。そこで姉妹は考えた。自分たちの片方が死んだら、もう一方はどうなるのだろう。なにしろ、自分たちは同じ身体を生きている

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    2025年12月05日
  • 受け手のいない祈り

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    この作品はフィクションだけれども完全なフィクションではないんだろうな。
    ただただ過酷な医師の日常を綴っている。
    重く暗く苦しい長い長いドキュメンタリーを観ているような感覚。
    自分なんかがコメントするのも厚かましいが、情景・気持ちが良く分かる。

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    2025年12月04日
  • 植物少女

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    「わたしにとって、母は会いに行く人物だった。」

    著者の朝比奈さんは現役の医者。
    家族を除けば、
    植物状態になってしまった人物を、
    長期間にわたって見つめることができる、
    唯一といってもいい立場。

    そこから見た、家族模様。

    娘の成長。
    父の逡巡。
    母の生と死。

    他家族との対比。

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    2025年11月28日
  • サンショウウオの四十九日

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    体はひとつ、だが心はふたつ、という結合双生児の姉妹のお話(?)。

    芥川賞受賞作。

    それまでの人生と家族との関係、生と意識と死、そしてこれから。

    自身の内と外との関係など、混乱してしまいそうにもなったが、なかなかに深く考えさせられた。

    胎児内胎児という父親と伯父の関係性、
    心と身体の持ち主、死生観などなど。

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    2025年11月27日
  • サンショウウオの四十九日

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    不思議な気分になる作品。
    一つの体に二つの生命。
    想像できない世界に戸惑いながらどうにかこうにか読み終えた

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    2025年11月26日
  • あなたの燃える左手で

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    ハンガリー在住の日本人の内視鏡技師の、
    失ってしまった左手。
    そして新たに、移植された他人の左手。

    ウクライナ、ロシア、ハンガリー、ドイツ、
    ポーランド、そして島国の日本。
    移植の前後の肉体感覚と、昨今の国際情勢、
    特にクリミア併合以降のウクライナ情勢が重なる。

    読みごたえありました。

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    2025年11月17日
  • サンショウウオの四十九日

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    第171回芥川賞受賞作
     読み始めてすぐに、『 ? 』理解が追いつかなくてもう一度読み返す。結合双生児のお話だと知っていながら、描かれる日常生活は想像を越え理解が追いつかなかった。パターンを理解すると、主人公の考える意識と肉体、生命の相関が頭に入ってくる。主人公の父親の出生のエピソードと主人公の在り方を交えて、意識の存在を考えていく。

     最終盤、一人とみられていた主人公の影からもう一人の存在があらわれるときの描写は長すぎると思う。ページが残り少なくなったところで、核心があらわれると思ったらちょっと肩透かしだ。

     強烈な個性の主人公なので、芥川賞作品ではなく直木賞作品に仕上げていたら、もっと

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    2025年10月16日
  • サンショウウオの四十九日

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    肉体、心と思考、そして意識は本当に自分自身のものであると言えるのか。意識は独立していると言えるのか。結合双生児である「二人の」主人公であるからこそ、抱える矛盾、違和感、安心感。陰陽魚の例えを使って、対立しながらも補い合う二者の在り方が表現されている。最後の一文では、杏と瞬の二人が陽中陰や陰中陽を体現し循環する存在になることができたと感じられて、読者の私として温かくも嬉しい気持ちになった。「私の身体や心は本当に私のものだと言えるんだろうか?私の意識は独立していて、全く他の介入を許さないなんて断言できるんだろうか?」単生児として生まれた私自身も自己の存在を疑う問いを与えられた物語だったように感じる

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    2025年10月13日
  • サンショウウオの四十九日

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    いや、やっぱ視点がスゴイ。異世界。植物少女に続き、襲撃だった。
    2人が1つの体で生きているなか、相手の感情や思考に飲み込まれそうになる圧や、痛みや辛さを相手に押し付けた後の輪郭だけのカンジ、自分の中に何かいると確信した熱感やむず痒さとか…こんな表現、しらない。
    杏と瞬、どっちの思考なのか混ぜこぜの描き方も、2人をうまく表現してる。
    医学では説明しようのない意識とは、感情や思考とはかけ離れているもの。死は客観的事実であり、肉体が死んでも意識は死なない?では意識が死ぬのはどんな時?
    自我とはなにか…哲学的なことを想うのに、おもしろい切り口だと思った。

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    2025年10月13日
  • 受け手のいない祈り

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    1日で読み終われそう、と思ったけど、とんでもない。読み進めていくと、どんどん胸が苦しくなって、休憩を挟まずにはいられない。
    小説とはいえ、救急の現場は実際にこのような状態なのだろう。睡眠もとれずに連続4日間の勤務。精神的にも肉体的にもあまりに過酷。ラストシーン、主人公は生きているのか?明日は?明後日は?

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    2025年10月12日
  • サンショウウオの四十九日

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    芥川賞作品はちょっと苦手でしたが、これは興味深い作品だった。短編の話から、ちょっとさくらももこ作品にも感じた。

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    2025年10月10日