朝比奈秋のレビュー一覧
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総合病院で医師として働く公河は、別の医院で産科医だった同期が過労死したことを知る。
公河もまた、昨日と今日の境目がわからないくらいに働き続けていた。
近隣の病院が夜間救急から撤退し、公河の病院が最後の望みであるためか、徹夜での治療や手術が寝る間もなく延々と続いていく。
外科手術の様子が仔細にある場面や睡眠がとれなくて麻痺している状態がこれでもか…と。
あまりにも過酷すぎる救命の現場に人の命よりも自分の命は考えられないのか、とさえ思ってしまう。
ここまでくると限界を通り越して、考えることすら停止してしまう怖さを感じた。
医師としての経験があるからこそ、すべてがリアルに思えて余計に衝撃の度合いが -
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読書備忘録899号。
★★★★。
芥川賞作家朝比奈さんの2023年作品。
サンショウウオ・・・は見かけ上1人の人間でありながら結合双生児という特殊な状況における心の物語でした。
正直、どのように捉えて良いのか難しい作品という印象でした。
この作品はサンショウウオに比べるとテーマが分かりやすい。
①国境を巡る紛争。侵略行為。一方、国境に縛られない民族という括り。
②生体移植。失われた人体機能を取り戻すために行われる生体移植。他人の一部を移植する。
国境という境目。生体移植の境目。この2つは実は同じなんだという物語。
そして、領土侵略、生体移植が成功するかどうかは境目を跨る相互意思に掛かって -
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医師でありながら小説家でもある9人の短編小説が詰まった作品でした。あんなに忙しそうなのに、いつ小説書いてるんだろうって不思議に思う凄い方々。
医師であるからこそのリアルな感じが伝わってきて、とても面白かったです。
特に空中テントは、認知症の家族を介護したことある人なら誰しも共感出来る部分がたくさんあると思いました。施設の入所は、家族を見捨てることではなく、プロがみてくれる安全な場所にいれるという考えが広がったらいいな。
私も主人公のお母さんにとても同情しました。介護する人は、自由が奪われて当然なのか、当事者じゃない人達から見捨ててるなんて文句言われる筋合いはほんとにない。文句を言うなら1週 -
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朝比奈秋さんの初読になります。
もしも自分の左手が他人の左手に移植することになったら。
舞台はハンガリーの病院での移植。
アサトは日本人、移植の手はヨーロッパ人の左手。手の肌の色が違うし、皮膚にあるうっすら生えているうぶ毛はブロンズ。そして右手と左手を見比べると指の長さ、掌の厚みなど部分的に大きさが違う。それだけでも気味悪くなるのに、そんな手術が誤診移植だったようでクラクラしてきます。
今度は移植後の幻肢もなかなか経験出来ない貴重なものでした。馴染んできたり、拒絶反応が出てきたりの繰り返し。
幻肢痛に、もがき続けるアサトの悩みが、経験者じゃないと描けないだろうと思い、ネットで朝比奈秋さんの -
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ハンガリーの外科医によって、左手を失った日本人患者に他人の手を移植手術する場面を軸に展開される話。
他人の手の移植にあたり、日本人は終始微笑して受け入れているように見えるが、徐々に本人にも耐え難い術後拒否反応が繰り返されることになる。
その反応を比喩として、ハンガリーの外科医は、日本人は健やかに笑っていているように見えても、何も(外国人を)受け入れない国民性に結びつける。
さらに、移植した手と本人の腕の境目を国境に見立て、日本人は四方に他国との国境があるヨーロッパとは異なり、似た者だけで排他的に暮らしながらも、自分たちは心優しい人種と思い込んでいる無知で幼稚な国民との印象を受ける。(移植した -
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医師でありながら作家でもある方々の医療小説9編。
私の知っている作家さん以外にこんなに多くの医師作家さんがいることに驚きました。どれも医師であるだけに小説の内容は臨場感が溢れていて迫力がありました。
中山祐次郎さんの『救いたくない命』は救急で運ばれてきた患者が犠牲者15人以上を出した通り魔事件の犯人と知り、葛藤をしながらも必死に命を救う姿に京アニ事件を思い出しました。
南杏子さんの『空中テント』は家族の介護の経験がある人は共感出来るはず。
どれも本当に良い作品ばかり。若手医師の過酷な労働時間、医療ミスの隠蔽、不都合な論文を闇に葬る等、医療小説が好きな人なら興味のある内容ばかり。でも朝比 -
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すごい作品だと思いました。
楽しいかと言われると、楽しくはないけどすごい。
硬質で、ドライで、知的。遠藤周作とか、大江健三郎と似たものを感じました。それってものすごい。雰囲気に圧倒されて、ストーリーがどうこう言いたくならない。
これと『受け手のいない祈り』を読んだら結構違っていた。『受け手のいない祈り』は本作に比べると感情的に思える。作品によって色々変えているのかもしれない(共通しているのはやっぱり医療関係というのと、グロいというかナンセンスというか、ちょっと胸が悪くなるような気持ち悪いシーンが入れてくるということ…)。
デビュー作と芥川賞受賞作も気になる。 -
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ネタバレ苦しい。苦しすぎる。
大学生で人工肛門と共に生きる葛藤。
半年だけと思って希望を持っていたのに
いざ蓋を開けてみたら
永久的に人工肛門になってしまった絶望。
人工肛門って外見の変化があるから
本人の受入れとか周囲の理解とか
私が出会ってきた医療現場の葛藤の中で
上位を争うくらい難しい課題。
少し前に比べたら
オスメイト対応トイレが増えてきて
世間の認知も上がってきたかもしれないけど
偏見とか誤解はすぐに変わらないから
当事者からしたらまだまだ大問題。
それに
事前に人工肛門になると説明されて
受け入れいても
いざ目の当たりにするとショックを受ける。
それなのに涼子は
バイト中に倒れ -
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ネタバレ9人の現役医師による医療小説アンソロジー。
医師作家でしか表現できないと思われる臨場感あふれる詳細な描写、ヒューマンでミステリアスなストーリーが魅力の作品集だ。
1〈研修医ヒナノの洞察〉
上司からパワハラを受けている研修医が患者の膠原病を見つけ上司を見返す痛快な話
2〈魚類譚〉
封建的で理不尽な医大の内部構造、詳細な手術シーンにミステリーとホラーの要素を取り入れた作品
3〈パイナップルのある光景〉
同じような引きこもり系の精神疾患でも、一方は入院治療、一方は家族による対処という示唆をする精神科医。専門的な見解が押し付けなく、ふわっと伝わってくる秀作
4〈救いたくない命〉
救急外来に運び込まれて -
Posted by ブクログ
「植物少女」から「あなたの燃える左手で」を通り 「サンショウウオの四十九日」を読んで、ここまで辿り着いた。朝比奈秋から 逃がれることができない。すっかり どハマり中!ざらりとした手触り感が なんとも言えない読後感で クセになる(個人の見解ですが笑)
人工肛門と共に生きることの戸惑いと衝撃もそうだけど ヒトもまた 生々しい生物なんだなと 認識させられた。「塩の道」は読み始めは 方言についていけなくて(笑)半分過ぎたあたりから するすると わかってきた。それぞれの看取りは それぞれで 正解も不正解もない。
再読したら また 別の思いがでてきそう! -