あらすじ
感染症の拡大を背景に周囲の病院の救急態勢が崩壊する中、青年医師・公河が働く病院は「誰の命も見捨てない」を院是に患者を受け入れ続ける。長時間の連続勤務による極度の疲労で、死と狂気が常に隣り合わせの日々。我々の命だけは見捨てられるのか――芥川賞受賞の気鋭が医師としての経験を元に描いた、受賞後初の単行本。
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Posted by ブクログ
はじめは、あまりに過酷な労働環境に、お医者さんて大変だなあ、たまに行く総合病院のお医者さんも、皆疲れていて、お休みあるのかなあ、なんて思っていたので、同情するような気持ちで読んでいましたが。
だんだんとみんなが狂ってきて、怖くなってきて、これからどうなるの?と気になって、あっという間に読み切りました。こんなに早く読んだのは久しぶりです。
確かに、医者が昼も夜も働き続けるドキュメンタリーやドラマって、医者をヒーロー化して、医者は特別な人として捉えていて、こんな働き方おかしい!って思ったこと無かったかもしれません。
私が年老いた頃には、もう医者が少なすぎて診てもらえなくなるかも、と怖くなります。
どうしたら良いんでしょうかね?
朝比奈秋さんの本はたぶん全部読んでいますが、1番読みやすいと思いました。
Posted by ブクログ
背骨を立てて浴室で死ぬ。光が眩しい 何日寝てないか分からない。過労死とは。絶え間なく搬送される患者に真摯に対峙する医師たち。医者なら当たり前なんだろうか。ニュースで過労死した若い医師を知らせている。小説を超えた臨場感。
Posted by ブクログ
行き場のない絶望感が伝わってきました。
自分がぼろぼろでも、立ち上がり、治療に臨まなければならない状況に、やるせない気持ちになりました。
読み進めるにつれて、どんどん追い詰められてゆく感覚があり、突然訪れるラストシーンでふと置いていかれるような感覚を抱きました。
命を守る人の命も大切にされる世の中でありますように、と願わずにはいられない物語でした。
Posted by ブクログ
本の帯につられて読んだが、あまりにも重く、苦しく、悲しい。この本を手に取るには相応の覚悟が必要に思うが、それでも、この世のすべての人が一度は読むべき本と感じたし、こういった本を本屋大賞に選出すべきと感じた。
本作では、救急医療の現場の実態やそこで働く医師の苦悩がリアルに描かれているだけでなく、所謂カスハラ患者や地方医療の姿、対照的な働き方をする皮膚科女医の様子など、多くの医療現場の要素が詰まっている。その中でも、公河の過労に向かう心境や体調の様子がどうにも苦しく、たびたび読み飛ばしたくなる。また、手術や患者の病態の描き方も細かく(この辺はさすがに著者が医師なだけあると感じる)、医者からの見え方がよく伝わる。
私自身、労働は対価のために行われるものだと信じており、本作はここに尽きると思うのだが、良心や使命感から搾取する労働、本作における医師をはじめとした職業(ほかにも学校教員や官庁職員などが挙げられるか)は、早く労働環境を改められてほしいし、そういったことを行える立場に立って是正していきたいと強く感じる。公河からは節々に医師としての使命感が読み取れるし、医師を志す人の多くはそういった利他的な想いを持っていると思うが、その点を国も患者もそれ以外のすべての人々も理解して、お互いに尊重し合い、守り合える社会にしていかないといけないと思わされる。利他的な精神だけでは世界はまわらない、皆が相手のことを想像して、思いやって生きる、そんな社会になったらいいし、したい。
Posted by ブクログ
1日で読み終われそう、と思ったけど、とんでもない。読み進めていくと、どんどん胸が苦しくなって、休憩を挟まずにはいられない。
小説とはいえ、救急の現場は実際にこのような状態なのだろう。睡眠もとれずに連続4日間の勤務。精神的にも肉体的にもあまりに過酷。ラストシーン、主人公は生きているのか?明日は?明後日は?
Posted by ブクログ
現役医師が書いたこの小説、フィクションではあるがエピソードは事実に基づいていると想像すると、医師の労働条件とはなんて過酷なんだろう。連勤中の心理描写は、ただただ泣かせる。
後半、主人公の意識が拡張し、デフォルメした描写があらわれる。私にとって、これは不要な描写だ。写実に近い表現の方が、長時間労働と命に関わる重責につぶされ派生する狂気を表現できたのではないか。
BSテレ東で放送されている『あの本読みました』に出演されている著者を観て、本書を手に取ったが、現在、著者がパートタイムの勤務をされている理由がわかる気がする。
Posted by ブクログ
ただひたすらに救急医の凄まじい勤務実態~長時間の連続勤務~を描いた作品です。
著者は消化器内科医だそうですから、作品に登場する小谷という内科医が著者の分身かもしれません。
私も若い頃、結構な長時間勤務をしました。休みは月に1日だけ、休出の土曜も含め毎日終電近くまで残業、日曜日くらいは「定時で帰ろう」、そんな数カ月。肉体的にはしんどかったけど前は向いて居れました。期限は見えてたし、ある種の達成感も有りました。そして不足気味とはいえ毎日一定時間の睡眠は取っていた。それに比べると無茶苦茶ハード。しかも終わりが見えない。
内科医で作家の南木佳士さんは、末期癌患者を見送り続けてパニック障害に陥ったそうです。南木さんもハードな勤務もったようですが、何となく感じるのは精神的な「静かな死」・鬱。それに対しこの救急医は、他の救急病院や仲間が一人一人と過労死で倒れるなか、まるで太平洋戦争中の日本軍の兵士の様に物資もなければ支援もない中、ただ前に進むしかない肉体・精神両面での壮絶な戦闘死(死んでは無いけど)。不眠不休によって思考は完全に混乱しながらも手は手術を続ける主人公。凄まじい表現が読み応えがある。このあたり、流石に芥川賞作家。
ただな~、私の様なヤワな読者としては、物語として、もう少しサイドストーリーや救いが欲しいな。
Posted by ブクログ
地域の基幹病院に掛かっているが、ほぼ予約診療でありながら、待って待って…ものの2、3分で終わる診察。もっと話ししてほしい、聴いてほしい、と不満だが、医師のワークライフバランスに思いを馳せると言えない。
救急医療の大変さは、それどころではないようだ。いっそ病に倒れた方が、死んでしまった方がマシじゃないか、と医師が思うのが不思議ではない過酷な勤務状況の描写。重く苦しい読後。
関西弁がナチュラルで、そこが救いなところ。
Posted by ブクログ
朝比奈秋、ハズレが無い!
やりがいに搾取され、逃げ場のない労働者が、睡眠をもぎ取られるとどうなってしまうか。
それを医師という職業で、表現してくれた、ということだ。
追い詰められた人間がどうなっていくか、公河の内面を追うことで読者に見せてくれる。
恐ろしや恐ろしや。
医師って、子どもたちが目指すいい仕事のはずなんだけど…。直美(ちょくび)もわからなくはないね。
Posted by ブクログ
予備知識なしで読み始めたのだが、、、つらすぎる。
医師の芥川賞作家が、救急病棟の医師の過酷な労働環境をひたすら綴っている。
仮眠、徹夜、過労死、退職、廃業、
街に救急病棟がなくなる、でも急患はなくならない。
地獄だ。
若い医師を犠牲にする今の医療体制。
この小説を読んで思う。
日本でトリアージが当たり前になる日は近い。
いや、もう始まっているのかもしれない。
119で救急車を呼んでも助からない急患はこれから増加することだろう。
自分の命は自分で守らなければならない。
健康でいなければいけない。
事故に遭ったら後は運任せだ。
若い医者は圧倒的に足りない。
増える見込みもない。
老人は増え、若者は減る。
老人には諦めてもらえばいいが、出産のトラブルで母子が危険になっては本末転倒。
ますます若いものが減る。
今の日本はそれを知っていながら手を打たない。知らぬふり。
自分だけよければよい。
トリアージしかない。
Posted by ブクログ
医療現場の過酷さは、想像を絶するものだった。ここまでに、医師が命を削って、心身共に病んでしまうとは。
内臓や手術の表現が、映像よりも生々しく、ちょっと抵抗はあったものの、この表現が医師の心の中を写しているようでもあり、気分は良くないながらも惹き込まれてしまった。
これが現実に近い医療なのか‥。
Posted by ブクログ
どこの医療現場でも医者不足、看護師不足はよく耳にするけれど、ここまで切迫した医療現場を覗かせてもらう体験は初めてだった。
いや、覗くというよりも、主人公に憑依してその現場に居るような感覚で読み進めてしまっていた。
朝比奈さんの作品は初めてだったけど、これだけ読者を引っ張り込むことができる文章表現は、現役の医者だけが理由じゃないんだろう。
Posted by ブクログ
救急受け入れの減っている現状,残っている病院にかかる負担の過酷さに言葉が無い.同期の過労死や自分も仮眠すら取れない状況で神経を蝕まれていく.
背骨が持つ熱や爛れていく内臓描写に気持ち悪くなりながらも惹き込まれた.
Posted by ブクログ
過酷すぎる医療現場で心身をすり減らし、少しずつ体にも精神にも異常をきたしていく医師たち
祈りは誰のため、何のため
「背骨がたったまま」と繰り返し使われる
背骨を立たせて生活するのは人間だけ、背骨を横にして眠る時間は死に近づくのか、原始に戻っているのか
治療する側が健康でなければ、というのがおためごかしなのが分かる
そうしたいわけでもないのに、自分を犠牲にして患者を受け入れる虚しさ
医師である作者の実体験なのかもと思うと苦しい
Posted by ブクログ
芥川賞作家。激務のために肉体も精神も病んでしまう若い医師の話。
周りはなぜ気が付かないのだろうか。人手不足の職場だと、誰もが自分のことで手一杯になってしまうのか。
誰の健康も害することなく回っていく仕組みが作れたら良いのに。
Posted by ブクログ
総合病院で医師として働く公河は、別の医院で産科医だった同期が過労死したことを知る。
公河もまた、昨日と今日の境目がわからないくらいに働き続けていた。
近隣の病院が夜間救急から撤退し、公河の病院が最後の望みであるためか、徹夜での治療や手術が寝る間もなく延々と続いていく。
外科手術の様子が仔細にある場面や睡眠がとれなくて麻痺している状態がこれでもか…と。
あまりにも過酷すぎる救命の現場に人の命よりも自分の命は考えられないのか、とさえ思ってしまう。
ここまでくると限界を通り越して、考えることすら停止してしまう怖さを感じた。
医師としての経験があるからこそ、すべてがリアルに思えて余計に衝撃の度合いが増した。
Posted by ブクログ
しんど過ぎて途中何度も挫けそうになった
でも極限状態の人間の狂気的な描写はかなりリアルなんだと思う
私の父も外科医で、幼い頃はそれこそ当直もあり、論文書きながら、手術もこなし、幾度となく夜呼び出されて、家族旅行の思い出なんてほぼないし、学校行事に来たことなんて一度もない…結局急逝する2年前、79歳まで医師として仕事を続けたけれど、父が読んだらどんな感想言うだろうなぁ〜とふと思った
Posted by ブクログ
この主人公は、作者ご自身であると決めつけている。
テレビで観た朝比奈さんの印象そのものだった。
医療現場の労働環境がここまで来ているとは。同情なんて申し訳なさすぎるほど。
「一日」という単位の繰り返し。睡眠がその単位を区切っている。
その区切りなく、人の生死に関わらざるを得ない人間。その人たちがいるから安心して「一日」を生きている俺。治してもらわないと困るけど、当たり前と思ってはいけないな。勝手なもんだ。
「何十時間も横にならんかったら、縦に連なった内臓がな、重みで潰れていくんや」
Posted by ブクログ
コロナ禍で地方のいくつかの病院が崩壊した現実があった。今でも、地方では医師不在、救急病院不足の現状がある。
舞台は大阪近郊の総合病院。近隣の病院が次々と夜間救急から撤退、この病院でも医師が次々といなくなり、青年医師の公河は徹夜に次ぐ徹夜で70時間を超える連続勤務で肉体、精神ともに蝕まれていく。
限界を過ぎても断れない救急。患者の命は救われるが、医師の命は捧げなければならないのか。医療との免罪符を手に無数の患者の生命と向き合い続けた罪悪感が精神を追い詰めていく。
私たち全員が向き合うべき現実がここに存在している。衝撃の問題作。
Posted by ブクログ
2025/05/17予約40
本当の話なのか、と思うほど過酷な労働、連続72時間勤務…救急医療をする側のほうが病んでいる。本来の仕事である医師を真っ当な精神、健康状態で行える環境を整えてほしい。もしかすると救急搬送患者を選別することにつながるのかもしれないが、暴走族やヤクザの救急医療を一般の患者と同じように扱うのが正しいのか考える時期に来ているように感じた。
最後まで救いのない本。
Posted by ブクログ
最初から最後まで重苦しかった。
救命救急の現場の過酷さが、一人の外科医目線で描かれる。
近隣の総合病院が救急から撤退する中、外科医の公河が務める病院は「誰の命も見捨てない」を院是に掲げ、患者を引き受け続ける。
公河らは70時間以上の連勤を余儀なくされ、心身共に極限に達している。
そして他病院でも、公河と医学部同期だった産婦人科医の過労死。誰の命も見捨てないという“命”に、医師の命が含まれていない現状。
医師はどんどん辞めていき、病院は赤字経営、現実に起こっている地方中核病院の撤退や、たらい回しが頻発する救命医療の崩壊は今後加速度的に進んでいくのだろう。
人の命を救うのが仕事とはいえ、医師の命を犠牲にして成り立つ医療って何?と思う。
救急車を呼べば当たり前に助けてもらえる救急医療がなくなる未来はすぐそこに来ているのかもしれない。
全体として良かったけど、ユカリの手術シーン以降の公河の行動や思考過程にはどうにもついていけなかった。まあ、この部分が芥川賞作家による作品たらしめているのかもしれないけど。
Posted by ブクログ
一つひとつの描写が息が詰まるほど重い。救急医療の現場で救う側の医師の命が磨り減り破綻に向かっていく様は、コロナ禍が収束した今日という日にもなお存在する壮絶な矛盾の地獄である。命は尊いという疑うことすら許されない言葉によって、むしろ積極的と言って良いほど蔑ろにされ犠牲となる命を前にして、祈る先を持つ者の中でその尊さは大きく揺らぐ。
Posted by ブクログ
救いがなく感じられて読んでいて辛かった
現実と虚構が混ざり合ってわからなくなる感じに主人公の疲労の深さを感じて怖かった
フィクションなんだろうけど
どこかであることなんだろうか?
あるのか…やはりそうなのか…
Posted by ブクログ
他人の命を救うためとはいえ、自らをここまで犠牲にしなければいけないとは。医師の経験を持つ朝比奈さんなので、リアルな体験を踏まえて書かれたものなのだろうけど、想像を超えた過酷さだった。
そもそも、医師にはこれまで残業規制がなかったことも初めて知った。働き方改革で規制ができたけど、そのラインが960時間!普通に多いわ。
これだけ長時間、しかも神経を使う仕事をやり続ければ、身も心もおかしくなってしまう。
内臓のグロテスクな描写が、医師の心の中を表しているようで、こちらまでちょっと気分が悪くなりながら読んだ。
Posted by ブクログ
タイトルの意味にはわりと冒頭で気づけるが、その意味はあまりにも虚しい。途中から現実なのかそうでないのかがわからなくなってくる。この作者はその描き方が絶妙で、その感覚が好きで本作品も手に取ったが、今回は心があまり揺れ動かなかった。現実味がありすぎたからだろうか。