夢野久作のレビュー一覧
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夢野久作の短編小説集。だいたい、昭和一桁年頃の作品群のようだ。西暦で1930年前後。
相変わらず性的にどこかヘンタイっぽく妙な小説が多い。一人称体の作品は『ドグラ・マグラ』と同様の、延々とトートロジックに吐き出される独白の急流が見られる。この文体や主題の取り方・筋などはとてもケレン味が強く、やはり文壇の王道よりはかなりかけ離れているのだが、この怪しげな欲望の奔流は、単なる娯楽作品という枠に閉じ込めきれるものではない。カルトな芸術である。あまりにもリビドー放出が激しすぎてしばしば日本語が壊れてしまうところが凄い。
1編読み終えてみるとちょっとすっきりしないような終わり方の作品も幾つかあった。
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夢野久作の七篇構成の短編集。
瓶詰の地獄 ☆☆☆★★
兄妹の禁断の恋と、それに対する苦悩。順序の分
からない3つの手紙。兄と妹の互いの気持ちがリアルに伝わってきて苦しかった。
人の顔 ☆☆☆★★
母の浮気を子が知って、それを父に知らせると父
は子を睨み───。この続きがハッピーエンドに
繋がると考えるのは難しそうなのでつらい。
死後の恋 ☆☆☆☆★
これは素晴らしい恋愛作品。‥‥アナスタシヤ内親王殿下‥‥。この7つの作品の中では個人的に一番よかった。FGOでアナスタシアが好きな人は是非。
支那米の袋 ☆★★★★
これは微妙。
鉄鎚 ☆☆☆★★
まるで悪魔な叔父と更にその悪魔度を上回る伊奈子、しかし本当の悪魔はその2人のどちらでもなくなんと自分自身だったという伏線回収。結局最後の「伊奈子の真実」が何なのかが分からなかったが、もしも主人公の母親だとするのなら感動作品になっていただろう。
一足お先に ☆☆★★★
一言で現すと短編版ドグラ・マグラ。
冗談に殺す ☆☆★★★
「完全犯罪は成立しない」と主張していた主人公がとある女と出会い関係を深めていくのだが、段々とその女の悪魔のような性格に気づき始めついにはその女を殺してしまう。証拠を完璧に消し去り完全犯罪かに思われたが、一つの鏡がきっかけでその男は完全犯罪に失敗する。そう。「完全犯罪」は成立しなかったのである。 -
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ネタバレ夢野久作(1889-1936)の小品集。猟奇歌(抄録)、掌編、童話、エッセイ、ルポルタージュなど、他の作品集で選ばれることの稀なものが多い。
記者として勤めていたことのある『九州日報』に連載されたルポルタージュ「東京人の堕落時代」「街頭から見た新東京の裏面」が貴重でありかつ興味深い。記者杉山萌圓の視る大震災後の東京と作家夢野久作が描く作品世界とは、まるで断絶していない、ぞっとするほど地続きであることが、読めばすぐに感じられる。都市彷徨者としての夢野久作。都市も人物もどこか透明で実体が欠落しているよう。非人称的。
自己を自己たらしめている何かが実はただの虚無でしかなかった、という感覚。彼の描く人物は、みなどこか空っぽの印象を受ける。その内面の空虚に、自分の外のどこからかやって来る、誰のものとも云えない想念。空っぽゆえに却って世界そのものをも軽々と乗っ取って一緒に空っぽにしてしまう図々しさ。自己も世界も喪失して、ついに喪失し得る一切を喪失してしまった、その喪失の果てのいまここに、ぽつんと浮かんでいる。そんなものが顔をもたげてくる奇譚。能に関する評論「定型の根本義」に、このあたりの彼の美意識の一端が表れているように思う。
「人間の世界は有意味の世界である。大自然の無意味に対して、人間はする事なす事有意味でなければ承知しない。芸術でも、宗教でも、道徳でも、スポーツでも、遊戯でも、戦争でも、犯罪でも何でも……。/能はこの有意味ずくめの世界から人間を誘い出して、無意味の舞と、謡と、囃子との世界の陶酔へ導くべく一切が出来上っている。そうしてその一曲の中でも一番無意味な笛の舞というものが、いつも最高の意味を持つ事になっている。[略]。/かようにして舞台面の気持ちはやがて散文も詩も通り越し、劇も身ぶりも、当て振りも、情緒や風趣をあらわす舞も、グングンと超越して、全然無意味な、気分も情緒も何もない、ただ、能としての最高潮の美をあらわす笛の舞に入る。そのときに謡が美しく行き詰まりつつ消えて行く」(p87ー88)。
それでもアイロニーの強迫だけは、最後まで憑いて離れない。
「そうしてもうじきおしまいになるのよ」(p23)。
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その他の感想。
「月蝕」「髪切虫」美は喪失の裡に美となるのであり、そうした様式それ自体に美を見出すのが耽美か。「青ネクタイ」理性と狂気、真と偽、その決定不可能性。「虫の生命」ボルヘス幻想譚的円環。似たような話をどこかのアンソロジーに編んでいた。「硝子世界」奇想そのもの。何者でもない世界の美しさ。「縊死体」主体と客体の逆転という恐怖。
「工場」生を冷笑しそれを喰らう機械、死を創造する無機的な運動。機械に人間性を否定する死のイメージを視る、そしてそこに美的な何かを見出す感覚。「……人間……狂人……超人……野獣……猛獣……怪獣……巨獣……それらの一切の力を物ともせぬ鉄の怒号……如何なる偉大なる精神をも一瞬の内に恐怖と死の錯覚の中に誘い込まねば措かぬ真黒な、残忍冷酷な呻吟が、到る処に転がりまわる。[略]。すべての生命を冷眼視し、度外視して、鉄と火との激闘に熱中させる地獄の騒音……」(p229)。「しかも、それ等[工場の機械]の一切を支配して、鉄も、血も、肉も、霊魂も、残らず蔑視して、木ッ端の如く相闘わせ、相呪わせる……そうして更に新しく、偉大な鉄の冷笑を創造させる……」(p230)。
「ビルディング」「空中」「病院」ドッペルゲンガー。自己と他者とは、論理的階層が異なる、形而上学的境位が異なる。自己が他者に向ける眼差しと、自己が自己に向ける眼差しとは、区別される。超越的/超越論的の区別。同一であるはずの自己が、他者として自己から分離して自己の眼前に現れ、他者として当の自己自身と対向関係に入りこちらへと向かってくる、という恐怖。自己に対して自己関係的機制の裡にあるはずの自己が、その捉えがたい円環構造を一気に脱け出て、全き他者として直線的に対向してくる、という恐怖。「空中」の、極限まで切り詰められた、名指し得ぬ純粋な恐怖そのものを形象化した美しさは、本書の白眉。
「線路」自殺の可能性としての、自然を超越する可能性としての、実存の絶対的自由という逆説、嘗て自分も似たようなことを考えたことがあった。「……自分で自分の運命を作り出し得べき最簡単な、且つ完全な機会は今を措いてほかに無い。あらゆる人類生活の条件と因縁とを離れて、自分自身の運命を絶対の自由さに支配し得る、唯一無常の快い刹那は、今しも眼前数秒の裡に迫っている。此快い刹那を捕えるのは、私が持っている最後の権利である」(p281)。「こうして私の死は永久に無意義に葬られるであろう」(p284)。 -
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ネタバレ夢野久作らしくも読み易い小品集。
「瓶詰地獄」以外は初めて読んだのですが、不気味で不可思議な輪廻転生を綴った「魔の章」から始まり怪奇あり幻想ありでバラエティに富んだ作品集でした。
「空中」は恐らくバミューダトライアングルを題材としており、これが現実に起きている怪事件と思うと夢野久作の描く不思議な物語たちも強ちフィクションではないのかもしれない..と感じました。
「病院」は「ドグラ・マグラ」に繋がる部分があり、論文の為に自分自身を追込みキチガイ地獄へと放ったもう1人の自分とは一体誰なのか?という謎が非常に面白かったです。
本当に短く読み易い作品ばかりですが、個人的には他の夢野久作作品を読んでからのほうが色々な発見があり楽しめるのでは、と思いました。 -
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夢野久作の中篇3作が収められた本書は、
全て書簡形式で遺書という面白い組み合わせでした。
時代背景や地域は様々ながら全作を通して死際に打ち明ける秘密であり、様々な愛の形が散りばめられていました。
「氷の涯」は戦時下の露西亜を舞台にしており様々な思想や主義などの背景が描かれる中、所謂ヒロイン的でも悪女でもなく(今時の表現で大変失礼かとは思いますが)まさにキルビルの如く強く生き生きとしたニーナはとても格好良かったです。
夢野久作の作品に登場する女性はどこか妖艶で陰のある人物像が多いので、意外に感じつつとても好きになりました。
「押絵の奇蹟」は押絵そのものの繊細な描写が非常に美しく純愛を彩っていました。
探偵小説のような事件のトリックはないのですが、今現在に於いて昔の出来事がどのように関係してくるかというトリックを美しく仕上げる手腕は見事だと改めて感じました。 -
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ネタバレ犬神博士・・・というタイトルから私がイメージしていた話とは程遠い話だった。
新聞連載ということを知って納得。面白くて読むのが止まらない娯楽作品という印象。博打を売って爺さんを任そうとしたあたりでは、いくらなんでもチイが大人すぎて頭が良すぎて、そんなわけないだろうと思ったが、ハンマの源を手ぬぐいで打ち負かした辺りで、もうこれは利発な少年の痛快武勇伝でいいのだなと思った。ただ、それにしては、裏の政治背景があまりにややこしすぎて読み飛ばしてしまったが・・・後でわけわかんなくならないだろうか、と心配してるうちにチィは走りだし、作品は未完を迎えるわけである。