森鴎外のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
主人公の金井君の、どこか不器用な人物像に思わずクスッとしてしまった。これは哲学者として名を馳せるようになった金井君が、自伝的に自身の性の目覚めやこれまでの経緯(主に学生時代)について振り返る形で始まる物語。彼の性の自覚は比較的早く、男女の性差に興味を持った幼少期には悪知恵を働かせて、近所の女の子に着物を捲らせて下半身を覗き見る行動に出ている。しかしそのように頭が回ったかと思えば、外語学校に入学し寄宿舎に身を寄せると、自身に好意を抱く男色家の先輩の手管に見事引っ掛かり、危うく貞操の危機に瀕していたりもする。このエリートなんだか、ポンコツなんだか分からないブレ幅のあるキャラクターが良い。
金井君は実際学業も優秀なのだが、性には酷く鈍感なところがあるらしい。堅物、と呼んでもいいかもしれない。年頃の男子達が集まる寄宿舎、先輩と後輩同士で惚れた腫れたの色恋沙汰が起きていても、金井君は基本無関心だ。「そういうことがあるらしい。僕には理解できないが」というように、我々読者に淡々と報告してくる。
なお、その鈍感さは先に述べた学生時代のエピソードもそうだが、ある程度大人になっても発揮されてしまう。とある依頼で新聞に原稿を寄稿した金井君は、その打ち上げの席でなんとハメられ、行くつもりもなかった遊郭に強制連行されてしまう。元々は終了次第、お母さんの待つ自宅にきちんと直帰する予定だったが、それが叶わなくなってしまったのだ。あれよあれよと部屋に上げられ、段取りが整い、目の前に女性が現れる。ここまできて「帰ります!」なんて言えない。そこで金井君は、覚悟を決めて布団に横たわる。「別にその場に流されたわけではない。僕も少し興味はあったのだ」と若干カッコつけながら。
そんな突発的に起きた童貞喪失トラブルの後、自宅でお母さんに「遅かったじゃないの」と出迎えられた金井君が、後ろめたさを感じているのがまた面白い。その後冷静になって「性病にかかってはいないか」と心配する様も。金井君、なんとも愛すべきこじらせ主人公だ。
また金井君はどうやら自身の容姿にコンプレックスを持っているようで、金井君の友人には数名の美少年や美青年が登場するのだが、金井君は彼らの説明をする度、自身の容姿を引き合いに出し、どこか自嘲的になる節がある。
金井君にとって恋愛や性愛というものは、自身とは別の世界線で起きていることのように思っているようで、これがそうした「隙」に繋がるのかもしれない。
熱心な読書家でもある金井君は学生時代に様々な本を読み漁る。しかし恋愛をテーマにした小説に関しては「これは容姿端麗な男女によって紡がれる、夢のような世界の話なのだ(よって、女性に好かれる姿形をしていない自身に縁はない)」と結論付けている。このように、自分への自信のなさから異性との交流、あるいは恋愛に対しても消極的になってしまう人は現代にもいるような気がする。
当時掲載された雑誌は発禁処分となったようだが、正直言って内容はそんなにエロくはない。馴染みのないドイツ語が文中に頻繁に入り混じるために注釈がないと読みにくいのが難点だが、これはエリート金井君の視点で書かれる物語なので致し方ない。(余談だが、ドイツ語にするとどんな下ネタ用語もやたら格好良く聞こえる。幼少期の金井君がワクワクして辞書を捲っていた気持ちがなんとなく分かってしまう。)金井君という、愛すべきこじらせ男子の"青春"を温かく見守ってあげよう。 -
Posted by ブクログ
20年漬けた梅酒みたいな一冊。よーーーーく味わってみると、たしかに費やされた長い年月に相当する滋味のようなものを感じることができる。
舞姫いいなぁ。古文調だからこその文章の美しさがある。妊娠の事実さえなければ国語の教科書に載りそうなのに勿体無い(何様か)
「余を以て色を舞姫の群に漁するものとしたり。(17頁)」
「貧きが中にも楽しきは今の生活、棄て難きはエリスが愛(23頁)」
舞姫○
うたかたの記×
鶏△
かのように×
阿部一族○
堺事件○
余興△
じいさんばあさん△
寒山拾得△
森鴎外、それにしても扱うジャンルが広く深い。歴史物、社会科学、ときて本業医者か。普通に天才では? -
Posted by ブクログ
山椒大夫に売られた安寿と厨子王の姉弟の話。母に再会する涙の話のように覚えていたが、姉の安寿の機転で逃げ延びた厨子王が出世して政道を正しくし、人身売買をやめさせ、そして偶然母に再会という淡々とした話だった.高瀬舟は安楽死を取り上げていて、苦しんで自殺しかけた弟に頼まれ、楽に死なせてあげる喜助の話だが、殺人幇助だが現代でも十分考えさせられる話だ。阿部一族は殉死の矛盾をついた話。同じく主人の跡を追って自害したのに、周りの冷たさ、薄情さは悲劇としか言えない。最後の一句や 寒山捨徳など短い話だけど ふっと笑える話。森鴎外の作品は、現代文に慣れた僕には最初読みづらかったが、脚注を見ながら読み進めると面白いと思った。でも、正直短編だから読めたのだとおもう。