読みやすさに定評のある長谷川訳ではあるが、ついに読み通すことができたという感慨がある。
経済学のほうはたいして見るべきことはない。経済学史の授業で習うような事がわかっていればよいのだろう。
面白いのは、マルクスの疎外、外化の概念や類的存在の概念が説明されているところと、さらに面白いヘーゲル批判である
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マルクスのヘーゲル批判は、まず、マルクスは人間と生活手段を非理性的なもの、ヘーゲルは理性的になりうるものと考えていたという前提の違いから始まる。そしてマルクスは、ヘーゲルの論は意識に始まり精神で終わり、理念の域を出ないものであると批判する。さらに進んで価値の点で、ヘーゲルの考える人間は神、絶対知によって確証を得るが、マルクスはその否定と破棄によって確証されるという(p193)。それは人間の現実的な本質を生成するような運動であるというのだ(p.197)。この辺りが最高に面白い。その本質とはなにかについてもこの本の中に散りばめられているが、やや具体性に欠ける。僕の読解力不足か。
また、アレントの人間の条件を読んだあとだったので、アレントの概念に手伝ってもらいながら楽に読んだふしもあり、もう少し無垢な視点から読めるようになりたいとも思った。
最後に付け加えれば、長谷川氏の解説は学者の良心に基づいて大変簡素にまとめられているが、もうちょっとボリュームがあるとよかったろう。あるいは、彼の『初期マルクスを読む』を読めということか。
とにもかくにも、これは読める人は必ず読むべき本である。これは近代の最後の良心なのであるから。