【感想・ネタバレ】西洋中世奇譚集成 聖パトリックの煉獄のレビュー

あらすじ

12世紀、ヨーロッパを席巻した冥界巡り譚「聖パトリキウスの煉獄」「トゥヌクダルスの幻視」を収録。2人の騎士は臨死体験を通して、異界を訪問する。無数の悪霊の襲来から始まり、灼熱、悪臭、寒冷、虫、蛇、猛獣が跋扈する煉獄で、執拗な拷問と懲罰を受けた後、甘美にして至福の天国を見学し、現世へと帰還する。中世人の死生観を熟読玩味する。

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Posted by ブクログ

収録されてる「聖パトリキウスの煉獄譚」は、法華経の観世音菩薩普門品第二十五の念彼観音力の中世キリスト教版に当たる作品でしょうか。
「トゥヌクダルスの幻視」は挿絵がユーモラスです。

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2021年08月28日

Posted by ブクログ

ネタバレ

講談社学術文庫が送る「西洋中世奇譚集成」シリーズの第3巻であり、中世ヨーロッパににて流布した死後世界巡りの物語を二編収録した書。それぞれ12世紀に著された『トゥヌクダルスの煉獄(Visio Tnugdali)』、『聖パトリキウスの煉獄譚(Tractatus de Purgatorio sancti Patricii)』の邦訳を収録する。
本書は、中世ヨーロッパにて流布した二つの冥界巡り譚を訳したものである。「大洋(オケアノス)の最西端」、中世人にとっての世界の果てたるヒベルニア(アイルランド)を舞台とした両作品は、神の働きの下死後の世界を目撃した人間を主人公とするものである。神の計らいによって臨死体験をする騎士トゥヌクダルス、己が浄罪の為実在した煉獄「聖パトリックの煉獄」に入り込む騎士オウェインの前に現れるのは、凄惨極まる煉獄や地獄の拷問風景、或いは豪華絢爛なる至福の天国であった。そこには当時の人々の死後世界観が反映されると共に、生死を巡る観念までもが浮き彫りとなっている。個人的に目を惹かれたのは、『トゥヌクダルスの煉獄』において描かれる「異教」の事物(強欲者を喰らう獣アケロンとその口を支える「食客」フェルグシウスとコナルス、地獄の鍛冶場を仕切る「拷問人」ヴルカヌス)、また地獄の底に縛られた異形として描かれるルシフェルの姿であった。
本書には詳細な注釈や解説、更には関連する地名を付した地図が付いていて非常に分かり易い。特に両作品で描かれる死後世界の構造を図にしたもの(p204,p215)は、中世人の世界観を考える上で大いに興味深かった。

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2015年03月03日

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