川野芽生のレビュー一覧
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装丁に一目惚れし、あらすじを読んでも絶対に好きだと確信した一冊。角や、翼や、鉤爪や、鱗を、失って久しい者達が、再びそれらを得るまでの物語。とても古くて遠い場所にいる彼らを思い描いていたが、己が今いる世界の彼らでもあった。美醜に囚われ、結婚と子孫繁栄を至上とする者達。反して、周囲からは枷にしか見えないであろう「びょうき」や「しょうがい」によって、呪縛から漸く解き放たれる者達。その姿に、つくづく障壁は社会が作るものだと痛感した。また、自身の非常に強い固定観念にも気付かされた。「写字生」「画家」と読み、イメージする性別が固定化されてしまっている。
掌編、短編、中編から成る本作、まるで音楽の様に楽しめたのが印象的だった。様々な旋律が転調し、反復し、重なり合う。「この物語は何の意味もない言葉で、何の意味も持ったことのない言葉で、綴られるべきなのだ。ほんとうは。」とあるように、本来は何か別の言語で謡われていた曲を、著者が現代の日本語に訳してくれただけなのかもしれない。読むよりも、目を瞑って耳を傾けたい物語だった。 -
Posted by ブクログ
登場人物が苗字やニックネーム、外見の特徴は徐々に分かるようになっており、性別を曖昧にしたところに作者の優しさを感じた。真砂を受け止めてくれる滝上や宇内がいるのに、他人の優しさに触れる度、自分に対する違和感が強くなり、変えられない身体に悩む真砂だった。高校の時は、まだ、限られた人しか関わらないため、自分を保てていたが、大学生になって、広い世界に出た時、社会という大きな枠組みを認識した途端、自分のゲシュタルト崩壊を起こした。真砂が好きになったのは、ズブズブと自ら不幸にハマっていく女の子で、救いたい一心から、自分の性別を変える決断をする。たかが1人の女で、と思うが、愛されること、愛すことに対し、違和感を感じる自分がいるため、素直に好きだという気持ちを認識できた葉月を前にすると変わりたいと思ってしまうのは、真砂なのだからだと思う。彼女のために自分を捨て、それでも手に入らなくて。人魚姫とそっくり。しかし、物語のように簡単に泡になることもできず、もがいていた。しかし、滝上のタトゥーに救われ、どんなに自分という枠組みからは抜け出せないけれど、なりたい自分にカスタマイズできることを知った。他人に受け入れられない自分を受け入れる強さが持てた時、本当の自分としてようやく生きていけるのではないだろうか。ブルームーンの話や、人魚姫の世界と並行して物語が進んでいて、劇を観ながら登場人物たちの隠れた真実に辿り着くようなお話。皆、何かを抱えて生きている。自分以外にはなれやしないけれど、なりたい自分になるために足掻くことはできるよと、救いもなく見捨てる訳でもなく、青より水色のような儚い物語だった。滝上が個人的に好きで、「燃やしに行く?」というセリフが好き。
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ネタバレ高校時代,女性としての本来の形を取りつつも,ある女性との出会いを契機に男性の形を受け入れようとした結果,大きな葛藤に苦しむ主人公をはじめ,
矛盾や離散感をそのままの形で受け入れながら自分の形を形造る滝上や,自己犠牲的でありながらも幸福そうな宇内,大好きな家族のために自ら地元に残る判断をした水無瀬,飄々としている栗林など,今作に通底したテーマは「自己の在り方」なのだろうという感想.
自己の在り様は,それすなわち魂と言い換えて良いかと思うが,今作では人魚姫から転じてキリスト教世界の解釈へ話の裾野を広げているところが印象的だった.
今作は著者がロリータに対する批判などについて,積極的に取り組んでいる点を踏まえて読むと,大変腹落ちする作品であった.
また個人的な話として,滝上が私に並々ならぬ影響を与えた人物によく似ていて,純文学特有の精細な描写故に,複雑な気持ちになったのも良かった -
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東京創元社のSFアンソロジーの二巻目。二〇一九年十二月刊行。まだコロナ禍やリモートばかりの生活を知る前の作品だけど、「あれ、なんだか今っぽい」と感じられるものもあって、フィクションの奥深さを思った。一巻を読んだときに比べて私のSF受容力も上がったのか、どれもそれぞれ大変楽しめた。
■高島雄哉『配信世界のイデアたち』
昔、かこさとしの『ほしのほん』シリーズを読んで、宇宙には「銀河」というものがたくさんあるということを知ったとき、もしかしたらはるかかなたの銀河のどこかに、私みたいな女の子がいて今同じように宇宙の本を読んでいるかもしれない…という想像をした。そんなことを思い出した。
■石川宗生『モンステリウム』
物語の舞台がいつのどこなのかよくわからないが、町に巨大な怪物が現れ、何もせず立っている。それは異常事態として始まったけど、いつしかそれも日常になる。そしていつか終わるが、日常は続く。私たちの日常力は、意外と強靭だし、意外と滋味深い。
■空木春宵『地獄を縫い取る』
近未来のアメリカ。首筋のスロットにケーブルをつなぐことで他人の感覚や感情をも追体験できる、そんな世界で、二人の女性が、小児性犯罪者摘発のための囮となる少女AI開発プロジェクトに取り組んでいる。一方、室町時代の日本。遊女の閨房で、遊女の体に地獄絵図を縫い取る謎の客人。この二つの場面が交わったときには、火の鳥異形編をちょっと思い出した。これはSFなどという括りを越えて読まれるべき作品では。揺さぶられ度はピカイチ。
■川野芽生『白昼夢通信』
そうか白昼夢か。幻想的に滲む色彩が美しかった。思い浮かぶのはラヴェルの水系ピアノ曲…。
■門田充宏『コーラルとロータス』
ここでパキパキわかりやすい作品になって安堵。アンソロジー楽しい。さて、ここも、うなじのスロットに様々な装置を挿し込める世界。精神的支配や共依存の蟻地獄に巻き込まれた憧れの同僚を、世間では一般に障碍と思われている過剰共感能力を用いて救い出す、心理学系ヒーロー(女性だけど)SF。短さと痛快さと頬の赤らめぶりに、走れメロス味もある。
■松崎有理『痩せたくない人は読まないでください。』
ダークなのにユーモアがあって、リアルなのに虚構めいてて、センス抜群だなあ。前作に比べるとオチがいまいちな気はしたけど、もっと読みたい。
■水見稜『調律師』
小説のかたちをした音楽論みたいなところはあるが、やっぱり生身が一番という感覚。 -
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新進気鋭の作家様によるSF中短編書き下ろしプラス創元SF短編賞受賞作アンソロジー
自分の裡に形成される「SF固定概念」を毎回アップデートしてくれる最先端を走るシリーズ
ティプトリーを読み涙していた頃、このような未来型が到来すると露ほども予測せず、また今後どのような作品が紡がれてゆくのか、想像するだけで萌えます
読みごたえあります!
『未明のシンビオシス』
南海トラフ大規模地殻変動が発生、列島の姿すら変わってしまった日本
荒廃した世界で生き延びる主人公たちの微かな希望を描いた近未来SF
『いつか明ける夜を』
光のない闇の世界が、夜と昼に別たれた
言い伝えの神馬と少女は、世界の救世主になれるのか? 世界の真実とは?
詩的に描かれた作品
『1ヘクタールのフェイク・ファー』
気がついたらブエノスアイレスに居た…主人公の日本人男性…好意で拾ってもらった女性に部屋から追い出され…めくるめく思考を文字で綴った興味深い作品
『時間飼ってみた』
動画生配信でリアルSF考察する《ときときチャンネル》シリーズ
絶え間なく入るコメントも愉快で、まさに新世代の作品
『ラムディアンズ・キューブ』
電車内で目があった男女…恋愛に発展、、ではなく、壮大な物語が待ち受ける骨太の中編バトルSF
『ほんとうの旅』
“ほんとう”って、何だろう?
事実は人の捉え方によって違うものだし…
列車に乗り合わせたふたりの垣根のない会話に癒される作品
『神の豚』優秀賞
「兄貴が豚になった」
連絡を受けた主人公リリーは急ぎ実家に戻るが、そこに居たのは兄らしからぬピンクの可愛い子豚だった…
食糧、感染症、世界は未だ問題が山積だけれど、伝えてゆきたいことがある、若者たちの熱いメッセージが込められた近未来SF
『射手座の香る夏』正賞
「意識転送中」で横たわっているだけの作業員の「生身の体」が忽然と消えた
まるでミステリーのような物語は、調査する警察官と若者たちの流行「動物への意識転送」が互いに絡み、伝説の狼へそして真実へと導かれる近未来SF
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Posted by ブクログ
あなたには、世界がどう見えているの。読んでいて苦しくなった。こんなに切実に、生きていくことの空しさや身体を持つことの違和感を言葉にしているのに、ひたすら美しい。
読み始めは、難しい言葉ばかりでこのまま読み進められるだろうかと感じていたけど、ひとつひとつ調べて解釈のできそうな部分は考えて、川野さんの世界を受け取りました。
中盤、あなたの歌に感情移入してしまって苦しかった。泣かないでと思った。だけどあなたの悲しい怒りの世界は言い表しようもないくらいに美しくて、わたしはあなたを慰めてしまってもいいのだろうかと躊躇する。当たり前にそんな関係も権利もないのに。
川野さんの水晶体はクリスタルでできているんじゃないかと思った。気高く美しい。
〈 薔薇もやうのドレスのためのトルソーとなるときゆるすおのが軀を 〉