川野芽生のレビュー一覧
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トランスジェンダーの女の子が高校の演劇部で人魚姫役に立候補する冒頭から軽快なストーリーと思いきや、一気に三年ほど時がすすむ六十二ページあたりから、主人公の自己同一性が大きく揺らぎ陰鬱な展開になる。高校の演劇部という、人と人とがじかに顔を合わせて言い合ったりはしゃいだりする関係性が過去のものとなり、TwitterやLINEやZoom越しの関係性に主人公はのめり込んでいく。それはコロナ禍のせいもあるのだろうが、明らかにそれだけではない。自分自身のために生きる。それがまずできていなければ、他者と共存できない。恋愛と差別は紙一重。主人公が、自分に素直に生きていけるといいな。
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Posted by ブクログ
ネタバレまず、「トランスジェンダー」とはなにかから自分は調べて、それからこの小説を読みました。本の厚さは中編小説くらいでそれほど厚くなく、時間もかからずに最後まで読めましたが、何回も見返すってことをしました。
物語は高校時代と、その三年後の時代に分かれています。高校時代の舞台は女子高だったのが共学化されます。主人公は「朝倉真砂」という人物で本名は「朝倉正雄」という男として生まれてきたのですが、自分は女だと言ってきいます(公的書類には正雄と書くのですが、私的書類には真砂と書きます)。高校三年生で演劇部に所属しています。この演劇部には他にも何名か部員がいて、いっつも男性の役ばかりやらされる人もいます。
その演劇部が学校の文化祭で「姫と人魚姫」という演劇を発表することになります。「人魚姫」はアンデルセン童話「人魚姫」であり、それを参考にしたオリジナルの劇です。脚本は「滝上ひかり」という学生です。
そして3年後、再び元演劇部員が集まって再びあの演劇をやろうとします。しかし主人公の真砂は「誰かに代わってもらって」と乗り気ではありません。「葉月」という女性に恋をしてしまったから。真砂は男性として(名前を眞靑と名乗る)この葉月という女性に勇気を振り絞って電話をする、という流れです。
「人魚姫」という童話についてざっとですが調べました。「人魚姫」が思っていた以上に深く考えさせられる童話でした。それを踏まえたうえでの「姫と人魚姫」を発表するという設定が自分には衝撃的でした。「誰とも同性にも異性にもなりたくない」という主人公のセリフが印象に残りました。トランスジェンダーと人魚姫の共通点が、はっきりとした答えは出ないのですが自分なりに少し見えたような気がします。
いろいろ衝撃を受けた小説でした。芥川賞作「コンビニ人間」以上の衝撃で面白かったです。 -
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滝上の書いた人魚姫全編まとめて読ませてくれ…!めっちゃくちゃ繊細な文章で愛についての物語であの人魚姫読みたすぎるよ…
愛とは?から自分とは?何を持って自分とするのか?みたいな根源的なテーマを読みやすく書いてあった。高校生が「好きになるってどういうこと?」みたいなの語ってるのすごいいいなーと思った。個人的には宇内の「見るだけじゃない情報を実はたくさん受け取ってて、それで一目で好きになったり」って説いいなって思った。言語化できる部分もあるけど、言語化できないまたはしなくてもいいグレーの部分って実は人生の中で多いにあるんじゃないかなって思ってる -
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ネタバレあまり整理できていないがひとまず感想。
性に悩む、いわゆるトランスジェンダーである学生達の物語。登場人物の名前や言葉使いから性別が判断しづらいため、具体的な人物像をイメージできないまま読み進めるという珍しい体験ができた。
波のない夜の海のごとく淡々と話が進んでいくため驚きは少なく、完全にのめり込むことのないまま終わってしまった。そのため、様々な解釈が生まれる作品だと思う。
深く考えさせられたのは、アイデンティティは他者との関係性によって定まるということ。真砂は自分の人生に意味を持たせるために葉月と付き合おうとしたり、葉月と付き合うために「男」であろうとしたりした。「周りの目を気にせず自分らしく」とよく言うが、自分らしくするためには他者が必要であり、自分だけで自分を作ることなどできないのだと感じた。
それと、
滝上のペンネーム・・・kagaribitakibi →篝火焚火→照らすもの暖めるもの→太陽
真砂のSNSの名前・・・ムーンライト→月
は何か意味があるのかな
とにかくしばらくしてから再読したい。
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Posted by ブクログ
ネタバレ(以下あらすじをコピペ)
奇病が流行った。
ある者は角を失くし、ある者は翼を失くし、ある者は鉤爪を失くし、ある者は尾を失くし、ある者は鱗を失くし、ある者は毛皮を失くし、ある者は魂を失くした。
何千年の何千倍の時が経ち、突如として、失ったものを再び備える者たちが現れた。物語はそこから始まる――
妊婦に翼が生え、あちらこちらに赤子を産み落としていたその時代。
森の木の上に産み落とされた赤子は、鉤爪を持つ者たちに助けられ、長じて〈天使総督〉となる。
一方、池に落ちた赤子を助けたのは、「有角老女頭部」を抱えて文書館から逃げだした若い写字生だった。
文字を読めぬ「文字無シ魚」として文書館に雇われ、腕の血管に金のペン先を突き刺しながら極秘文書を書き写していた写字生は、「有角老女頭部」に血のインクを飛ばしてしまったことから、老女の言葉を感じ取れるようになったのだ。
写字生と老女は拾った赤子に金のペン先をくわえさせて養うが、それが「〈金のペン先〉連続殺人事件」の発端だった……
(コピペ以上)
と、いうあらすじをあまり気にせずに、半分くらいは掌編小説集として読んだ。
毎週末に限定して、ひとりで、矯めつ眇めつ、ゆっくりと、忘れたり思い出したりしながら。
そうしたら後半、いや掌編が、そして短篇が寄り集まることでできた、正しく長編小説なのだな、と全体の結構に嘆息。
具体的には何も言えないが、いい小説。
先日読んだ山尾悠子「仮面物語」が本格長編なのに対して、本作は「変格長編」……んな言葉ないけれど。
朝宮運河によるインタビューが深い水準に達していて、あ、この著者の作品だけでなく、インタビューやtwitterによる発信も、好きだな、と改めて思った。