あらすじ
【第170回 芥川賞候補作】
割りあてられた「男」という性別から解放され、高校の演劇部で人魚姫役を演じきった。
そんな真砂(まさご)が「女の子として生きようとすること」をやめざるをえなかったのは――。
『人魚姫』を翻案したオリジナル脚本『姫と人魚姫』を高校の文化祭で上演することになり、人魚姫を演じることになった真砂は、個性豊かな演劇部のメンバーと議論を交わし劇をつくりあげていく。しかし数年後、大学生になった当時の部員たちに再演の話が舞い込むも、真砂は「主演は他をあたって」と固辞してしまい……。
自分で選んだはずの生き方、しかし選択肢なんてなかった生き方。
社会規範によって揺さぶられる若きたましいを痛切に映しだす、いま最も読みたいトランスジェンダーの物語。
感情タグBEST3
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登場人物が苗字やニックネーム、外見の特徴は徐々に分かるようになっており、性別を曖昧にしたところに作者の優しさを感じた。真砂を受け止めてくれる滝上や宇内がいるのに、他人の優しさに触れる度、自分に対する違和感が強くなり、変えられない身体に悩む真砂だった。高校の時は、まだ、限られた人しか関わらないため、自分を保てていたが、大学生になって、広い世界に出た時、社会という大きな枠組みを認識した途端、自分のゲシュタルト崩壊を起こした。真砂が好きになったのは、ズブズブと自ら不幸にハマっていく女の子で、救いたい一心から、自分の性別を変える決断をする。たかが1人の女で、と思うが、愛されること、愛すことに対し、違和感を感じる自分がいるため、素直に好きだという気持ちを認識できた葉月を前にすると変わりたいと思ってしまうのは、真砂なのだからだと思う。彼女のために自分を捨て、それでも手に入らなくて。人魚姫とそっくり。しかし、物語のように簡単に泡になることもできず、もがいていた。しかし、滝上のタトゥーに救われ、どんなに自分という枠組みからは抜け出せないけれど、なりたい自分にカスタマイズできることを知った。他人に受け入れられない自分を受け入れる強さが持てた時、本当の自分としてようやく生きていけるのではないだろうか。ブルームーンの話や、人魚姫の世界と並行して物語が進んでいて、劇を観ながら登場人物たちの隠れた真実に辿り着くようなお話。皆、何かを抱えて生きている。自分以外にはなれやしないけれど、なりたい自分になるために足掻くことはできるよと、救いもなく見捨てる訳でもなく、青より水色のような儚い物語だった。滝上が個人的に好きで、「燃やしに行く?」というセリフが好き。
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最近好きな作家さんが芥川賞候補になってて嬉しい。物語の底に流れてる空気感が合うのかな。心理描写としてTwitterの投稿使うの、好きだな。私はコロナ禍をびよびよに生きて潜り抜けて謳歌してるけれど、時間が流れてしまったことで取り戻せないものってきっとたくさんあった。
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高校の演劇部の5人を描いた前半から、卒業後に再会した時の関係を描く後半まで、トランスジェンダーである真砂の視点から描く。アンデルセンの人魚姫をモチーフに、マイノリティの精神的な苦悩ばかりでなく社会的な差別や圧倒的な不利益までを赤裸々に著し、読む者を深く考えさせる傑作。
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青色が好きで、青に纏わる物語なら読んでみたいと思ったのが購入のきっかけ。でも、ページをめくり始めると最初に目に飛び込んでくる注意書き。読んでみると確かに昨今話題のテーマ。でもそれだけではなくて、人としての優しさとか葛藤とか、いろんなものが詰まっていた。
個人的に滝上がとても好きなキャラ。私とは真逆な設定だけど、こんな風に強いけど柔らかい人でありたいと思った。
うん、好き。
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第170回芥川賞候補作。
主人公は身体が男性のトランスジェンダー。
高校生の時にいったんは女性として生きていこうとするが、大学生になって男性に戻ってしまう。
とても切なさが残る物語。
作中に多様な性のあり方談義が飛び交う。
シスジェンダーでヘテロセクシャルで、それこそが唯一の普通だと思い込んで育ってしまった僕にとっては、時に刺激的で、時についていけずぼんやりとしてしまい…
芥川賞という感じではない。
でも今読むべき小説の一つ。
♫Moonlight/XXXTENTACION(2018)
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現代もなお、ジェンダーに囚われている社会だが、狭い世界に属している間くらいは「自分の性」であろうとする高校生たちの暗黙の結束のようなものを感じる物語だった。同性を好きになってもいいし(もちろん叶うとは限らない)一人称も僕、俺、私、どれであってもかまわない。恐るべき迫害という行為はなくとも、若い人達を縛ろうとする現実が目前に立ちはだかっていることは事実だ。負けないでというよりは躱していってほしいと願った。躱した先にこそこの子たちの求める現実というものがあるから。押しつけられようとした現実こそ実は虚構でしかなかったことに気づくから。
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高校時代,女性としての本来の形を取りつつも,ある女性との出会いを契機に男性の形を受け入れようとした結果,大きな葛藤に苦しむ主人公をはじめ,
矛盾や離散感をそのままの形で受け入れながら自分の形を形造る滝上や,自己犠牲的でありながらも幸福そうな宇内,大好きな家族のために自ら地元に残る判断をした水無瀬,飄々としている栗林など,今作に通底したテーマは「自己の在り方」なのだろうという感想.
自己の在り様は,それすなわち魂と言い換えて良いかと思うが,今作では人魚姫から転じてキリスト教世界の解釈へ話の裾野を広げているところが印象的だった.
今作は著者がロリータに対する批判などについて,積極的に取り組んでいる点を踏まえて読むと,大変腹落ちする作品であった.
また個人的な話として,滝上が私に並々ならぬ影響を与えた人物によく似ていて,純文学特有の精細な描写故に,複雑な気持ちになったのも良かった
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「いま の わたしたちはそれをtransformと呼ぶべきではないようにかんじているわたしは ずっとそれであったのだからtransformではない」という一文に襟を正された。この作品はジェンダーについて本音と本音をぶつけた作品だと思う。最初に引用した文章にあるように“トランスジェンダー”という単語自体がマイノリティに対する失礼な言葉ではないかと考えるようになった。作品自体は思春期の不安定な性自認の話を含むが、この作品で読み解くのはもっと長いタイムスパンのジェンダーについてだと思う。現時点でジェンダー問題の先を行く問題を提示していると思う。
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滝上の書いた人魚姫全編まとめて読ませてくれ…!めっちゃくちゃ繊細な文章で愛についての物語であの人魚姫読みたすぎるよ…
愛とは?から自分とは?何を持って自分とするのか?みたいな根源的なテーマを読みやすく書いてあった。高校生が「好きになるってどういうこと?」みたいなの語ってるのすごいいいなーと思った。個人的には宇内の「見るだけじゃない情報を実はたくさん受け取ってて、それで一目で好きになったり」って説いいなって思った。言語化できる部分もあるけど、言語化できないまたはしなくてもいいグレーの部分って実は人生の中で多いにあるんじゃないかなって思ってる
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演劇がモチーフとされている作品だが、そうでなくても、美しい舞台を観ているような感覚にとらわれる作品だった。植物園で咲く花々を、遠くからだったり近くからだったり見て回るような、素敵な世界観だった。
青というよりは、透き通った銀色かな、と思う。
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登場人物の区別にまず性別を考えてしまっていたから頭の中がごちゃごちゃしてしまっていた
しかし、性別の判断に一人称や見た目だけでは本当のことは分からない
トランスジェンダーの就職の苦労、金銭面の負担
トランスジェンダー/人魚姫
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女の子のような名前なのに、僕や俺といった一人称が飛び交い、あれ?誰が男で誰が女?と、思いながら読み進めていくと、そもそも男女の定義をしようとしていたことが間違っていたことに気が付く…。
世間一般で言う男性が限りなく排除された人間関係が心地よく、同時にどこか息苦しく、読み終わった後に、大きく深呼吸していました。
人魚姫の歴史的背景や宗教的解釈の知識も盛り込まれ、なかなか興味深い作品でした。作者の川野さんは文学研究者…なるほど。
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タイトルの意味を知って、うーんと唸ってしまった。読後感が、個人的に「正欲/朝井リョウ」に似ていて、身近にいないわけではないのだろうけど、自分事として捉えることが難しい内容だったように思う。ただ、だからこそ、小説として楽しめた。
大学生の頃に告白されたことを思い出した。性別ってなんだろう?あのとき、この本を既に読んでいたらなにか変わっただろうか。結果は変わらずとも、もう少し違う返事になっていたのだろうか。
胸がチリチリ、ヒリヒリしている気がする。
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あまり整理できていないがひとまず感想。
性に悩む、いわゆるトランスジェンダーである学生達の物語。登場人物の名前や言葉使いから性別が判断しづらいため、具体的な人物像をイメージできないまま読み進めるという珍しい体験ができた。
波のない夜の海のごとく淡々と話が進んでいくため驚きは少なく、完全にのめり込むことのないまま終わってしまった。そのため、様々な解釈が生まれる作品だと思う。
深く考えさせられたのは、アイデンティティは他者との関係性によって定まるということ。真砂は自分の人生に意味を持たせるために葉月と付き合おうとしたり、葉月と付き合うために「男」であろうとしたりした。「周りの目を気にせず自分らしく」とよく言うが、自分らしくするためには他者が必要であり、自分だけで自分を作ることなどできないのだと感じた。
それと、
滝上のペンネーム・・・kagaribitakibi →篝火焚火→照らすもの暖めるもの→太陽
真砂のSNSの名前・・・ムーンライト→月
は何か意味があるのかな
とにかくしばらくしてから再読したい。
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トランスジェンダーをテーマにした演劇部の学生たちの物語。劇中作と同時進行していくスタイルで、読み応えがありました。真砂の心の中の葛藤はとても痛ましく感じたけれど、周囲に少しでも理解者がいることは救い。
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途中まで、ビジュアルがイメージできず、名前と登場人物が一致しなかった。それは私が性別を前提にしているということ。
改めて冒頭を見返して、台本になっているけれど、どういう設定なんだろう?
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イマドキっぽい小説だが、SNS・就活市場でのトランス差別や、恋愛のどうにもならなさ・名前のつかなさを書いているのは好印象だった。映画の名前も沢山出てきて魅力的だった。最後は哲学科のミステリアス人物に委ねすぎだとも思う。
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感想
トランスジェンダーの手術費用の捻出、貧困、鬱に自殺率の増加、就職までに、カミングアウトの問題。色々問題山積みなんだな。
性に対する問題を垣間見た。
あらすじ
学校の演劇部。
人魚が王子に恋をする物語。滝内という女性のオリジナル脚本。
その脚本の内容や時代背景について議論する。
演劇部では性のあり方について悩むメンバーがいた。
それから数年経ち、大学生になったメンバーが再会する。マサはコロナでバイトができず、性転換できなかったことで見た目通りのまま男として生きていくことを余儀なくされていた。
人魚姫の人間になりたい願望の中での不完全さとマサのトランスジェンダーとしての心と身体の不一致がオーバーラップして表現される。
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登場人物は一般的によく使われる喋り方や立ち振る舞いをしていないから、読みにくい部分がある。
そういう人物たちが活動する高校の演劇部が前半の舞台である。
主人公のトランスジェンダー女性、真砂は主役と して劇に出る。
しかし、大学入学後、真砂は女性として生きるのをやめてしまう。
そのきっかけの一つとなった葉月の話を読んで、なかなか難しいなと思った。
真砂(後に眞靑になる)はなりたい性別として生きられる社会を望んでいる。でも、葉月が葉月のやりたいように生きることを肯定できない。
誰にも迷惑をかけていないと言っても、誰かがある生き方を選択することで、その人以外にも影響があるかもしれない。何より、その人自身がその選択で傷つく可能性が高いとき、周りが肯定することは難しい。
作者はこの社会にあるトランスジェンダー差別があることをはっきり否定している。
私はそこまではっきり否定しきれない。トランスジェンダーの人をその人が望む性別で扱わなければ差別なのか?という疑問があるから。
それでも、はっきりしきれない人間を書いているこの作品は面白かった。
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はじめ、登場人物が誰が誰だか分かりにくい。
読み進めるうちになんとなく個性を感じられてきて。属性を早く明らかにしたいと思ってしまうけど、属性ではなく個人を見ないとという事なのか。
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はじめの勢いがものすごかったけれど、全体としてシャトルランのような印象、かな、?
どれみふぁそらしど、ど、どしらそふぁみれど、ど⤴︎︎︎みたいなはい、はいつぎ!つぎ!もっと行けるぞ!ってかんじ?()
川野芽生さんは幻想やユートピアを得意とする作家さんのイメージがあって、特に短歌なんて、圧倒的なわからなさを見せつけられるような、、、
この作品は学生生活のトランスの生きづらさなので!トランスの人のモヤっとする部分をしることができました!
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登場人物それぞれの身体と心の性別がよく分からないまま読み進めたが、意外とそういうことが明確でなくても大丈夫のような気もした。
もちろん当事者にとっては深刻で、コロナ禍でホルモン治療が継続出来ず…なんて話は考えたこともなかったけど。
性別のことだけでは無く、束縛男に惚れてしまう女の子とか、自分とは違う人に対して地雷を踏まない接し方とは?なんてことを考えるともう面倒で引きこもりたくなった。
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作者の意図は確りと感じるものの、もう一押し欲しいところです。
トランスジェンダーの方を、人にも魚にもなれない人魚に喩える表現は、自分は腑落ちしましたが、皆さんはどうでしたか?
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冒頭、演劇部の部員が会話しているシーンで混乱する。一人称が「僕」だったり「わし」だったり
複数の男女が会話しているかのように見えるが、実際は(外見は)女性ばかり。
そもそも私は物語の登場人物の性自認がどうあれ嫌悪感はないが、どこかで薄らと(この人は女性の見た目だが元は男性)等と答えを知りたくなってしまう。
そのことが悪いことなのか分からないが、やはり決めつけようとするのは良くないのだろう。
真砂が性転換手術をしようとしたとき、両親は止めた。止めた理由がそれらしい理由なので、何となく納得してしまったし、実際真砂も止めてしまったのだが、何かモヤモヤした感じが残った。
踏み切って手術していれば、真砂はもっと自由に生きていたんじゃないかとも思う。言いきれないが。難しい。
トランスジェンダーは就職も不利なのか。どこまで行っても差別は続く。見た目が男性の方が就職や賃金に有利という考え方をさせられるこの世の中が、寂しい。
真砂は最後、想い人に告白するが、返ってきた言葉に絶句することになる。真砂も結局、自分の考え方を相手に押し付けていたのだ。
知らず知らずの内に私たち人は、他人がこうするべきだ、こうあるべきだと押し付けてしまっているのかもしれない。
そして押し付けていることに気づくことは、難しい。
Posted by ブクログ
読み始めてすぐ、あれれ?ってなります。
登場人物たちの造形イメージを頭の中に描こうとすると強い違和感が出てくるのです。
読み進めていくと、そういうことなのねって納得するんだけど。
この小説を読むとトランスジェンダーに対する見方が一変します。
肉体的にも精神的にも苦痛を感じつつ耐え忍びながら社会で生きている大変さに驚かされます。
川野芽生の「Blue」はそういった現状を当事者たちの視点から心理面に寄り添うことで自分のことのように感じられる小説です。
私自身、今回トランスジェンダーの方たちへの知識の乏しさから無意識ながら偏見を抱えていたことに気づかされました。
専門書を読むより切実な当事者感を受けることができます。
また一つ学びが深まりました。
ラストの電話での別れを告げられるシーンは、かなりつらいです。心が痛みました。
Posted by ブクログ
すばる 2024年8月号より
舞台はとある、高校の演劇部。
人魚姫を演じる主人公、真砂とメンバー達。一人称の使い方が、それぞれ僕、私
俺、わい?みたいにそれぞれの性別がわからない。最初は皆、女の子と思っていたが、ん?なんか違和感…みたいな感じで
登場人物の容姿と名前が一致せず、掴みづらい。その後、何年か経て再開したメンバー皆の苦悩、葛藤の今。
現在、トランスジェンダーに対しての社会的偏見は少なくなってきているとしても、当人が抱える息苦しさを人魚姫にシンクロさせる。人魚姫のストーリーって、どんなだっけ?と人魚姫を調べた。やはり、納得いかず。笑
今、読んでおきたい本であり、非常に良い読書時間であった。