養老孟司のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
欧米の大学では、研究者どうしが廊下で立ち話する光景がよく見られるという。そこから研究のヒントが見つかることも少なくないだろう。しかし、日本ではこれがほとんど見られない。自分の専門領域に踏み入られるのが気に食わないのだ。
本書はまさに、2人の科学者がお互いの分野を超えて自由闊達に語り合うといった雰囲気で、読んでいてとても面白い。とくに、養老さんが「蝶などの完全変態する昆虫は、進化の過程で別の生き物が混ざってしまった結果ではないか」という仮説を展開する。それにとても興味を持った宮崎さんが、実際に実験をするのだ。もし幼虫と成虫で違う生き物由来だとすれば、両者のゲノムが異なるのではないか。
対談は3回にわたって行なわれ、宮崎さんはその合間に実験を行なって、最後に養老さんにプレゼンする。口で説明すると簡単な実験に思えるが、実際には膨大な時間とお金がかかる。宮崎さんがおこなったことはほんの最初の段階に過ぎないが、とても示唆的な実験結果だと思う。
こういうのこそ本物の科学ではないか。科学がシステム化された結果、科学者は研究費をもらうために理由を作り、有名科学誌に載せてもらうために論文を書く。手段と目的が転倒してしまうのだ。お二人の語らいには、そうしたしがらみに束縛されない自由で開かれた空気があった。 -
Posted by ブクログ
アインシュタインは国際連盟からの「今の文明(1932年時点)でもっとも大切な問い」について、好きな相手を選び手紙を書く、という依頼に対して、ヒトはなぜ戦争をするのか。を主題にフロイトに手紙を出し、フロイトからの返事を書いた本書。
アインシュタインは、「すべての国家が一致協力して、一つの機関をつくりあげ、この機関に解決を委ねる」そのためには「各国が主権の一部を完全に放棄し、自らの活動に一定の枠をはめる」という解決策を提案している。ほかの方法では、国際的な平和は望めないのでは?と添えて。
そして、人を戦争に駆り立てる要因として、「人間には本能的な欲求が潜んでいる。憎悪に駆られ、相手を絶滅させようとする欲求が!」と述べている。
フロイトは、権利(法)もまた暴力によって行使される、としている。人を戦争に駆り立てる要因としては、「性の欲動(エロス)」と「破壊の欲動(タナトス)」をあげ、二つの欲動は分かち難く、何かを手に入れようとすれば奪いとろうとする欲動が必要になる。と述べている。
戦争は自然界の掟に即しており、生物学的なレベルでは健全で避けがたいものであるにも関わらず、なぜ、私たちは戦争に強い憤りを覚えるのか?
それは、文化の発展により、人間の心のあり方に変化が起きたからだと述べている。
そして、これは夢想的な希望ではない、として、
文化の発展を促せば、戦争の終焉へ向けて歩みだすことができる!
と、強い言葉で、手紙を締め括っている。
このあと、ナチス政権が台頭して、ユダヤ人であるアインシュタインとフロイトは米英に亡命せざるをえなかった。
結局、戦争はいまでもある。
けれど、フロイトがいう文化の発展を促せば戦争は終焉を迎える、という言葉を私も信じたい。
インターネットが発展して、異文化を理解し、多様性を理解することができるようになった。
大きな集団の中にも、一人ひとり、涙を流し、血を流し、精一杯生きている同じヒトがいることを理解できるようになった。
無教養な、無知ゆえの無意識下の差別をしないように努力して、欲しいから奪うという原始的な欲動を制御し与えるものへと転換して、私は前に進んでいきたい。
そのためには、やっぱりたくさん本を読もう。
-
Posted by ブクログ
普通は敢えて考えないようにしている難しい問題。歪んでいても日常生活は支障ない(もしくは支障ないものとして打ち捨てておける)。
自分自身で考えられない私のような人間は、このような本を読むとなるほどなぁと大いに感心し、勉強になる。
立派な先生方のおっしゃることをある程度は理解したり共感したりすることで、自分は我が国の抱える問題について無関心ではない、どちらかというと意識高い系の人間であるかのように思ってそれだけで満足感を得ている部分もあるが。
歪みを持ってるのは日本だけじゃないと思うし、歪みについて偉い先生方が鼎談したところで解決するものでもないだろう。しかし、ちょっと立ち止まって考えるのは意味があると思いたい。
この本が多くの人に読まれるといいと思う。
個人的には3人の中では養老先生が好きだ。 -
Posted by ブクログ
ヒトの壁
著:養老 孟司
紙版
新潮新書 933
帯に、「他人の顔色をうかがい過ぎていないか」とあり
また、「人がヒトであるという実感から問い直す」ともある
まあ、素直ではなく、一言多い、皮肉屋としてのことばであろうと、読んでいきました
80のじじいだから、放言しても影響はないのだが、そうでなければ、そうとうの物議を醸しだすことは明白であろう
気になったのは、以下です
「世のため人のため」:教育勅語の「一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ」をいつの間に覚え、いまだに忘れていない
「良いことは、人に知られないようになりなさい」、つまり悪いことと同じだなぁ
不要不急は、実は若い頃からのなやみだった。不要は不用に通ず
ヒトとウィルスの、不要不急の関係がいかに深いか
それはヒトゲノムの解析が進んで分かったことである
ヒトゲノムの4割がウィルス由来だとする報告を読んだことがある
その4割がどのような機能を持つか、ほとんどまったく不明である
部分を見れば全体はボケる
ウィルスがわかった分だけ、細胞がボケる
これを私は認識における不確定性原理と読んだことがある
認識は世界を変える
同時に自分を変えてします
なにしろ風邪一つでも世界は変わるのだ
その認識のもとになる理解は実は、「向うから」やって来る
アッ、わかった、というのは、「向うから」来るのだ
ヒトの一生とは、「起きて半畳、寝て一畳」の世界であろう
ジョブズ 「夜には死ぬという前提で毎日を始める」
ゲーテ ファウストは世界のすべてを知りたいために悪魔と取引をする
現代では、自然科学教、工学技術教が正統と化し、それが自己隠蔽する
「コンピュータが囲碁の名人に勝った」と書かれることがある
本当は、プログラムを書いた技術者と、彼を雇った会社が勝ったのだ
ほとんどだれもそれを指摘しない、犯人は隠ぺいされている
「わかったこと」は、要するに世界は不可解、「わからないということ」だったというのである
だんだん理屈というものを信用しなくなってきた。
別に理屈が嫌いというのではない
好きなんだけど、信用しない
イチローが引退するときに、近頃の野球は面白くなくなったというふうに言ったという
理屈通りになっていくから、面白くないのであろう
ヒトは適応性の高い生きもので、極寒の地に住むイヌイットから、熱帯雨林に住むピグミーまで存在する
同様にして、ヒトは、AI社会に適用してしまう可能性が高い
その意味でじつは、AIがひとに似てくるのではない、ヒトがAIn似てくるのである
生きること自体に努力が必要になる
そういう状況では、人は生きることを実感する
戦前がウソなら、戦後日本もウソの塊だと思えたらよかったので、「一億玉砕」「本土決戦」と、「平和」「民主主義」を同じようなものだと見れば済んだのである
厳密に言うなら、私は、日本社会そのものを受け入れていなかったので、一種のヨソ者として現代社会を生きて来たのだと思う
死は人称関係だと考えるようになって、人間関係を見直すようになった
なせばなる、なさねばならぬ、なにごとも、ならぬは人の、なさぬなりけり:なせばなる日本
目次
1 人生は不要不急か
2 新しい宗教が生まれる
3 ヒトはAIに似てきている
4 人生とはそんなもの
5 自殺する人とどう接するか
6 なせばなる日本
7 コロナ下の日常
8 ヒト、猫を飼う
ISBN:9784106109331
出版社:新潮社
判型:新書
ページ数:208ページ
定価:780円(本体)
発売日:2021年12月20日 -
Posted by ブクログ
96歳の年寄りの介護をしている者として、何時も死について考えているけれども、先生の本を読んで考え方やっぱりこれでいいんだな、と感じた。
なるようにしかならないし、考えたって仕方ない。
常に死について考えている母を看ていると、可哀想になるけれどこればっかりは、優しくはできない。変に優しくしていると寄りかかって来てこちらの精神が巻き込まれてしまうから。何事も客観的に前向きに捉えることだ。
今、生きることも、死んでいくことも、経過にしかない。
客観的に観ながらの介護、死に対する考えを母に教えてもらって毎日である。
それもそんなには続かないんだからな。 -
Posted by ブクログ
科学も知性も、また、考えることや文字を読むことも含めて、「要約して、前進する」ということが、生物が培ってきた遺伝子の成長にも似て、私たちの住む世界の大切なことを教えてくれたように思えました。
私はどちらかというと、リベラルというよりは、伝統保守の気持ちを含む者です。総じて歴史とはまさに、前述の大切なことそのものだと思えたのです。先人たちが残してきたものを、要約して、自分たちなりに理解し、少しだけ前進する。時代を壊さず、かといって停滞もせず、そのときに生きる人々の価値観や心のゆとりに寄り添って、ゆっくりと、けれど確実に少しずつ進んでいくこと———それこそ、歴史や伝統が胸を打つ面白さだと、そう信じたくなりました。 -
Posted by ブクログ
「自分」の壁
著:養老 孟司
紙版
新潮新書 576
最初の主題はいわゆる「自分」という問題です。
残りはなんとなくそれにも絡んだ、さまざま話題です
気になったのは、以下です
・戦後、日本人は、「自分」を重要視する傾向が強くなりました
これは欧米からの影響によることころが大きいでしょう
その結果、個々人の「個性」「独創性」が大切だとさんざん言われるようになったのです
教育現場ではもちろんのこと、職場などでも「個性の発揮」を求める風潮が強くあります
・そんなものがどれだけ大切なのかは疑わしい。これまでにもそのことを繰り返し書いて、話してきました。
・個性は放っておいても誰にでもあります。だから、この世の中で生きていううえで大切なのは、「人といかに違うか」でなくて、人と同じところを探すことです。
・世間に押しつぶされそうになってもつぶれないものが、「個性」です
結局、誰しも世間と折り合えない部分は出てきます。それで折り合えないところについては、ケンカすればいいのです。それで世間が勝つか、自分が勝つかわかりません。でも、それでも残った自分が、「本当の自分」のはずです
・弟子入りの最初の段階から、「個性を伸ばせ」などと言っても意味がない
・外国にも「顔色を読む」といった表現があるのかどうか、少なくとも私は知りません
日本語には他にも、「血の巡りが悪い」、「人の痛みを感じる」といった言葉があります
・20世紀の終わりに、多くの科学者を対象にした調査をまとめた「The End of Science」(科学の終焉)という本が出版されました。ここで科学者のほとんどが、「科学はすべてを解明しない」と答えています。
・すんなり馴染めないからこそ、私は世間を関心の対象としてきました。そして、わからないからこそ、何とかそのルールを明文化したいと考えた。
・日本には世間というものがあります。世間のメンバーではない人はメンバーとは別の扱いを受けます
しかし、これは差別意識の産物ではありません。あくまでも会員制クラブのメンバーかどうか、ということです
・日本にとって必要な思想は、全部、無意識のほうに入っているのです
「それはまずいでしょう」
それがなぜ、どういう理由で、どのへんがどう、まずいか。
その理屈は、いちいち言語化されない。誰も説明しない。でも、まずい、のは、当たり前、なのです
それは、無意識で共有されている
・江戸時代も同じで、合議制がベースとなっていました
将軍は決して独裁者にはなれなかった
・豊かさのなかの自殺
不況のせいで日本人の自殺が増えている、という考え方は少し違うのではないか、と思います
・世間といじめ
あんなものなくなるわけがない。それが結論です。
むしろ考えておくべきなのは、いじめられたときの対処法です
軍隊のいじめが過酷なのは、逃げ場がつくれないからです
・人を信用するとコストが低く済むのです
相手を信用していないと、何でもいちいちたしかめなくてはいけなくなります。これは手間暇、すなわちコストがかかることです
・だから本当は、契約書なんて交わさなくて、なにか問題が起きて、どうしても解決できないときにだけ弁護士が出てくる、くらいでいいのです
・絶対反対、と、絶対賛成、が二項対立という、構図になると、コストがかかるし、具体的な話ができなくなります
・しかし、もともと私は、選挙というものについて、あまり期待をしていません。
いつも次のように言ってきました。
紙に名前を書いて箱に入れるだけで、ないか変わると本気で皆さん思っているのですか、それはおまじないと同じではないですか、と。
・日本が国際化することは、日本人がもっとウソつきになるということです。
ああいうウソつきは、外国には昔から当たり前にいるからです
・国があなたに何をしてくれるかではなく、あなたが国に何ができるかだ ケネディ大統領
・かっては、そんなに簡単に変わらないことがわかっていたし、そのほうがいいことも常識でした。その変わらないものが、「世間」であり、「大和魂」だったのです。
「世間はそう簡単にかわらないよ」これが世間の常識だったのです
・ある程度年を取ってからでいい。大器晩成でいいのです
・一生役に立たないこともあるかもしれません。それを中国では、「英雄時を得ず」と言ったのです
・パソコンやケータイに限らず、人は便利なもの、面白いと思うものに慣れていく。
こういう流れは、逆に戻すことはできないものです
「ただ、考えておいたほうがいいのは、ではそれによって人がどう変わるのか、という点です」
・情報過多というのは、別の言い方をすれば、身はつかない情報ばかりが増えていくことです。
知っていても、役に立たない
・情報過多になり、知らず知らずのうちにメタメッセージを受け取り続けていくと、本当に何が大事なのか、そのバランスが崩れてしまうように思えます
・情報をたくさん仕入れたからといって、役に立つとは限らない
・先生によれば、「よくない教科書というのは、よくできすぎている教科書、説明が至れり尽くせりの教科書だ」
そういう教科書で学ぶ疑問が生じない
・なにかにぶつかり、迷い、挑戦し、失敗し、ということを繰り返すことになります。
しかし、そうやって自分で育ててきた感覚のことを、「自信」をいうのです
目次
第1章 「自分」は矢印に過ごない
第2章 本当の自分は最後に残る
第3章 私の体は私だけのものではない
第4章 エネルギー問題は自分自身の問題
第5章 日本のシステムは生きている
第6章 絆には良し悪しがある
第7章 政治は現実を動かさない
第8章 「自分」以外の存在を意識する
第9章 あふれる情報に左右されないために
第10章 自信は「自分」で育てるもの
ISBN:9784106105760
出版社:新潮社
判型:新書
ページ数:224ページ
定価:800円(本体)
発行年月日:2014年06月
2014年06月20日発行
2014年08月20日7刷