1990年代、アメリカでは「脳の10年(Decade of the Brain)」と言われた。しかし、同時期の日本はまだ「心の時代」だった。事件が起きればワイドショーで犯人の「心の闇」が語られ、エヴァンゲリオンが人気を呼び、大学の心理学科は10〜20倍の競争率だった。その頃に著者は、いち早く脳に着目していた。
しかし、この本は題名から想像されるような「脳がわかればすべてがわかる」という内容ではない。むしろ「人間は脳にわかることしかわからない」という限界について述べたと言ってもいい。つまり、人間は脳の中に閉じ込められている。
それはソフトだけでなくハードにおいても同じである。都会とは要するに脳が設計した空間である。その中には、脳にとって予測不可能なもの=自然は存在してはならない。だから街路樹は植えてもいいが、雑草は引っこ抜く。しかし、どれだけ自然を排除しても、最後にどうしても残る自然がある。それはわれわれの身体である。ここでも脳は限界に直面する。
脳ブームに先行しながら、脳神話の矛盾さえもすでに見通していた、時代の一歩も二歩も先を行った本。いまなお多くの示唆を与えてくれるエキサイティングな論考と言える。