読売新聞の日曜日の朝刊の読書欄に「ビジネス5分道場」と
いうコーナーがある。そこで紹介されていた。紹介者は
梅田望夫。『ウェブ進化論』『ウェブ時代をゆく』などの
著書がある。
以下の文を読んでこの本を知り、茂木健一郎のファンという
こともあってさっそく買って読んでみた。この書評を読んだ
時は、今後
...続きを読むこの本をたくさんの人が読み、オフィスでの会議
などで対立意見が出たら
「ちょっと待って、補助線を引いてみようじゃないか」などと
なるのかと思っていた。
【教訓】対立概念に補助線を引け
「AかBか」と問われたときの大抵の正解は、脳科学の
見地からいうと「AとBの両方」なのです。
茂木健一郎は講演などでよくこう語る。しかし、たとえ
「両方」が正解だとしても、質問者はそんな答えでは満足
しない。「A」か「B」を選べばそれ以上考えずにすみ楽に
なるが、「両方」となれば、さらに深い思考を継続しなければ
ならないからだ。
新著『思考の補助線』(ちくま新書)で茂木は、対立する
概念に身を挺して補助線を引くというアプローチによって、
「AとBの両方」を追及し続ける。「科学と思想」「理系と
文系」「厳密性とあいまいさ」「同化と個性化」「現実と仮想」
「総合と専門」といった現代のさまざまな問題に、鮮やかな
補助線を次々と引いていく。小林秀雄の名著『考えるヒント』
を彷彿させる。
「芸術を愛する経験的自然科学者から、現象学的経験をも
視野に含めた『自然哲学者』へと変貌した」
茂木は本書冒頭で自らの今をこう語る。彼のライフワークは
「精神と物質」の間に補助線を引き「なぜ脳に心が宿るのか」を
解明することだ。専門に閉じこもるのではなく、「この世の
森羅万象の中に飛び込み、さまざまなことに接し、感じ、涙し、
取り入れ、つかみ、整理し、開くプロセス」によって、茂木は、
「突き抜けた達成」を目指そうとしている。
本書は、多彩な関心とマルチな才能、旺盛な行動力を武器に
「現代社会の補助線」たらんと疾走する著者の生きざまが
結晶した、情熱的な好著である。
私たちを取り巻く現代ビジネス社会も、対立する概念に
満ちている。「個と組織」「競争と協力」「社会貢献と
営利重視」「長期雇用とコスト」「環境と経営」「創造性発揮と
内部統制」「情報共有と情報漏洩」・・・。
一つひとつの難題に対して私たちは、安易に「AかBか」を
選択するのではなく「AとBの両方」を追及しなければならない。
身を挺して「思考の補助線」を引く本書のような知的で真摯な
営みが、ビジネスの世界でも求められる時代なのだ。
しかして読んでみた印象は全然違った。「補助線」はあくまで
象徴の言葉で、この本にまとめられた2年間にわたる文章の
ひとつひとつにはそれぞれの味がある。
本当に、実に、思いだせないほど久しぶりに線を引きながら
読んだ。書き込みもした。ついに、といった感じ。解放された
気分である。一度読みとおしたので気になるところを好きな
ように読み返して赤線を引いたり書き込んだりできるわけだ。
気がねなく。よいね。
「言語の恐ろしさ」から
村上春樹の作品が、最初から翻訳可能な文体で書かれている
ことは、意識されたものであるかどうかは別として高度に
戦略的である。
なぜか?ぜひ本書を。
「現実と仮想の際にて」「『みんないい』という覚悟」
どれも大変よい。
『「脳」整理法』も読み返したくなった。
この本も新書だし大いに売れることだろう。読んだ人と話して
みたくなる一冊だった。読まないとピンとこないと思うが
世界全体を引き受ける概念の吟遊詩人になろうじゃないか。