藤井太洋のレビュー一覧
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面白かった。各分野のプロフェッショナルが集結し、それぞれが死力を尽くして戦う構図が熱くてかっこいい。SFでありサスペンスであり、そのどちらの視点からも素晴らしいエンタメ作品として楽しめた。
ただ、主人公チームの能力がほとんどチートと言っていいほど高すぎるために難問が難問として機能しておらず、ただ主人公チームの「凄さ」を強調するための装置としての役割しかなくなっていることが惜しく感じた。
また、「なんてやつだ!」「たったこれだけの時間でこんなことを!」のような持ち上げが多すぎて途中から「はいはいすごいすごい」と感じてしまったのが正直なところだった。
しかし、最後は大団円を迎えて読後感も非常に爽や -
Posted by ブクログ
処女作にして、セルフビルドで構築された電子書籍をもとに加筆されたもの。
近未来の遺伝子組換植物のエラーが引き起こす物語を描いている。ここ数十年で世界各地の農業の多様性を破壊したモンサント社や、それに対して活動する環境NGOの対立を彷彿とさせる部分があり、個人的に既視感が強い作品と感じた。
著者の生まれた奄美大島は、世界自然遺産登録候補である。日本は生物多様性の宝庫で在来種も多い。その中で琉球列島は地域固有種が多く、生物だけでなく文化の多様性も豊かである。奄美群島では近年、海外資本の豪華客船ルート誘致や、オサガメの産卵地である自然海浜の護岸工事等、観光や環境の影響が懸念される事件が複数あり、更に -
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ネタバレ目次
・公正的戦闘規範 藤井太洋
・仮想(おもかげ)の在処 伏見完
・南十字星 柴田勝家
・未明の晩餐 吉上亮
・にんげんのくに Le Milieu Humain 仁木稔
・ノット・ワンダフル・ワールズ 王城夕紀
・フランケンシュタイン三原則、あるいは屍者の簒奪 伴名練
・怠惰の大罪 長谷敏司
どの作品も伊藤計劃の気配を漂わせているけれど、特に濃厚なのは王城夕紀の作品(ハーモニーの世界観)と、伴名練の作品(屍者の帝国の世界観)。
この2作品は好きだなあ。
特に伴名練作品のナイチンゲールは夢に出てきそうなくらい恐ろしい。
単純な幸福はない。
幸福に正解はない。
けれどどの作品も屈託があり -
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若者の貧困をテーマの一つとして描かれていますが、そこを力強く駆け抜けていく姿に希望を抱ける良作です。仮想通貨が世界中を席巻していますが、日本ではまだまだ広がっていないし、僕自身まだpaypayもLinepayも使っていません。なんとなく必要性を感じていないからというのが大きいです。それでも殆ど買い物も支払いもクレジットなので、現金使用しなくなって来ていますが。
この中ではN円という仮想通貨を巡って、3人の若者が事件に巻き込まれていきますが、上田岳弘の「ニムロッド」の仮想と現実との境界線があやふやになるような漠然とした不安感とは真逆で、肉体的で汗ほとばしる青春作です。
国家という傘から弾き飛ばさ -
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ネタバレある日ふと「大豆(遺伝子組み換えでない)」ってどういうことだろう?と思い、そういえば遺伝子操作の小説があったなと思い出して読んだ本。
遺伝子デザイナー林田が主人公で、過去の仕事(遺伝子設計)にバグが出て、それを解決するために調査をしていたら……というお話。
舞台は2037年。通信技術も生活様式も、インターネットの在り方も大きく変化した時代。
拡張現実内での描写がほとんどで、とんとんと困難な調査が進んでいく。
読み終わって、「この怒涛の出来事が4日で終わったなんて」という感じに。良い意味で。
遺伝子設計された稲が問題になるので、なんとなく「食」に対する意識を、読みながら感じていた。
黒川さん -
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ビッグデータを握ったものが、世界の覇者になれると思われる。GAFAが個人情報の元締めとなる。
インターネットが、実に便利になったと喜んでいたが、実は、個人情報がダダ漏れである事実の中で、それを意識的に統合しようとするものは、その情報自体が、マーケティング手法にとって大きな商品になるばかりでなく、あらゆるものがデータ化されて分析されていく。収入、貯金、ポイントカードの購買記録、その嗜好、犯罪者、病気履歴、親族関係、人脈。思想経歴、エッチサイト閲覧経歴、遺伝情報、などなど。ネットで繋がる限り、もはや個人情報を守ることができない。フェイスブックに顔写真を載せれば、監視カメラにより行動履歴はもはや全て -
Posted by ブクログ
SFの定義に当てはまるかわからないけど、マイナンバー制度の抜け穴や、IT開発の多重請負構造など、現代社会の闇に、焦点を当てた作品。
マイナンバーを利用した個人情報収集とは…。
プライバシーマーク掲げて仕事してる人達がキレそうな内容だわ。
プライバシー保護がいかに善意に基づいて成り立っているか、あらためて思い知らされた。
中国とかすでに顔紋導入されてるし。
犯罪者の検挙とか、功績は上がってるだろうけど、一方で個人情報の漏洩と、冤罪リスクの危機も恐ろしいわー。
とりあえず、アプリをダウンロードするときは、ちゃんと、連絡先へのアクセス許可をしてくるか、それは正当な理由かを確認した方がいい。 -
Posted by ブクログ
ITエンジニアの誘拐事件を取り扱った警察小説。マイナンバーや公設民営施設といったトピックを物語の中に上手く盛り込みつつ、その裏側を垣間見せられてちょっと恐ろしくなります。IT業界の労働環境って…。
同じ著者の「オービタル・クラウド」ほど仕掛けは大きくないのですが、ディテールが緻密でそれぞれのシーンに物凄く説得力があるのは相変わらず。物語も中盤からは疾走感を持って進むし、キャラも描き込まれていて感情移入できます。
ただ、それゆえに一部の登場人物の動機は「そこまでかなぁ…?」と思ってしまったところも。あと、個人的な好みのレベルですが結末はちょっと残念。
最新のトピックを表層的でない形で(しかも