藤井太洋のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレ銀英伝公式同人誌な短編集6編。どの作家さんも普通に外伝を読んでいる気持ちになって懐かしく嬉しい。同盟派なのでヤンの士官学校時代の仲間とのやり取りには終始にやにやしてしまう。著作既読は小川さん石持さん太田さんの3人だったけど皆それぞれの持ち味も上手く混ざっていて流石だと感心した。特に石持さん「士官学校生の恋」におけるキャゼルヌ夫人の名探偵っぷりが正に石持さんでまたこんな過去があるから皆頭上がらないのねー、と本編に繋がりそうな違和感の無さが凄い。藤井さんの「晴れ上がる銀河」ゴールデンバウム王朝初期時代といった一見枠外に思わせて実は礎だったのがとても良かった。締めも効いてる。第二弾あるかな。
-
Posted by ブクログ
東京に原子爆弾を仕掛けたテロリスト。予告時刻は3月11日の午前0時。それを阻止するため、公安部やCIAが動く。
題名の「ヌーク」とは核という意味。東京に原子爆弾を仕掛けたということで、それぞれの登場人物にスポットをあて、同時進行で物語が進行するので、昔の「24」を見ているような躍動感がありました。危機が迫る中での勢いが読み手にまで伝わり、約600ページという量でしたが、あっという間な感じがしました。ただ、詳細に見てみると、これはどういった状況?といった情報量の多さや今の状況が、頭の中で整理しづらかった部分もありました。登場人物も多く、最初のところで一覧表があってもよかったかなとも思いました。
良いも悪いも、それぞれのプロフェッショナルが活躍していて、その状況下での裏切りや疑惑が二転三転と変化していくので、色々楽しめました。
原子爆弾だけでなく、福島での原発問題も取り扱っていて、重いテーマだなと思いました。風評やデマといった問題が、特定の人々を傷つけ、やがて最悪な状態へと変貌するのは、読んでいて辛かった部分もありました。
そのために爆弾を作ることやその行動においては、理解し難い部分がありました。人それぞれ、色んな考えを持っていますが、人を傷つける行為という点はいかがなものかと思いました。
日本人は平和ボケされていると捉えられているかもしれませんが、その背景には多くのプロに支えられているんだなと改めて感じました。その人たちがいるからこそ、未然に防ぐこともできますし、最小限に抑えることができます。
周りと安易に前へ倣えではなく、きちんとした情報、冷静な判断を常に持つことが大事だなと思いました。
改めて、多くのプロフェッショナルたちに感謝を述べたいです。 -
Posted by ブクログ
カチッ、カチッ、カチッ……
まるでドラマ『24』のように、短期間で時系列、複数場面の同時進行が、読む人を夢中にする。
夢中になり過ぎて、久しぶりに帰宅時にひと駅乗り過ごすとこだった。
2020年3月6日から11日までの5日間のお話。ーー「東京に核爆弾⁉︎」
多くの人が昨年3月にリアル読書を試みたと思うが、スルーしてしまったので、改めて一年遅れで読んでみた。
読んでみて「東日本大震災後10年」の今年の方が、読む意義が大いにあった。
あの日自身が体験した戒厳令下のような東京のこと。
その後、テレビで伝えられる「ツナミ」や、続々と襲いかかるような「フクシマ」の情報のこと。
あれから10年、「核」の脅威を二度も体験した日本は、今、「核」に対して正しい道を歩んでいるのか……。
まぁ、エンターテイメント性抜群の展開で、意義など考えなくても十分おもしろいから…。
-
Posted by ブクログ
いわば二次創作なので読もうか迷っていたのですが、店頭で見かけちゃったのでつい買ってしまった…(笑)
正伝外伝の新しい供給がないので列伝に手を出してしまうのも致し方ない…が、やはり二次創作なのでイマイチイメージ違うなぁというのもあり、その辺の嫌いな方は読まない方がいいのかな。
執筆されてる作家さん全員を知ってるわけではありませんが著作を読んだことのある方もいて、それぞれの個性が出るものだなぁと。
石持浅海さんの描くオルタンス嬢がすごくすごく碓氷優佳さん(石持氏の作品のヒロイン)っぽかったです(笑)。オルタンス嬢を探偵役に持ってくるところが上手いなぁと。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ銀河の歴史がまた一ページ。
公式アンソロジーというものが好きなので、有無を言わずに入手。オーベルシュタインの安楽椅子探偵などと聞いたら読むしかなかった。しかしそれ以上に女装して演劇するヤンにびっくり。しかもミス・マープルもびっくりな安楽椅子探偵がもう一人いらしたという。1となっていますが、ぜひ続けてほしい企画。
「竜神滝の皇帝陛下」ギャグですか。ヒルダとエミールに対して一生懸命になったとき、途端に面白い超天然陛下になるラインハルト様の魅力がたっぷり。思わず吹き出してしまうくらい。
「士官学校生の恋」名探偵オルタンス・ミルベール。未来のキャゼルヌ夫人が華麗に推理を披露する物語。相変わらずヤンに"利用されてる"キャゼルヌ先輩が拝めます。キャゼルヌ先輩推しの方にとてもオススメ。
「ティエリー・ボナール最後の戦い」この人もなんだか伊達と酔狂で生きているような。こういう二次創作アンソロジーには珍しい感じの艦隊戦。
「レナーテは語る」名探偵オーベルシュタイン。ハードボイルドです。多分。レナーテさんがこういうタイプの探偵に組み合わせられるワトソン役として定番のキャラクター。揺らがないオーベルシュタインのキャラクターには安心感があります。みんな大好きオーベルシュタインの犬も登場。
「星たちの舞台」ヤン・ウェンリー、士官学校生時代の人助け。アッテンボローやキャゼルヌ先輩も活躍。ラップとジェシカももちろん登場。しかしこの話はヒュパティアを好きになれるかどうかが肝。フレデリカに思い入れがあるとちょっとショックかも。
「晴れあがる銀河」ラストであっ!となる銀河帝国過去の話。ルドルフ大帝に対するスタンスと、相手を認める大切さ。 -
購入済み
あくまで原作に忠実な作品集
ミステリーものが主体で、一個だけ艦隊戦ものがあります。中には少しひねりすぎた感じのもあるけどおおむね原作の世界を再度楽しめる良作だと思います。
-
Posted by ブクログ
ユリアン「・・・」
ヤン『どうしたんだい、ユリアン。そんな浮かない顔をして』
ユ「て、提督。この報告書を読まれましたか?」
ヤ『あぁ、なかなか良く出来てるじゃないか。何か不満でもあるのかい?』
ユ「そりゃ、ヤン提督は活躍が報告されてますけど、僕は、言え、私の事はどこ
にも書かれてないんです。不公平じゃないですか!」
ヤ『そうは言うけどね、ユリアン。あのキルヒアイスやロイエンタール、
ミッターマイヤーについても書かれていないよ』
ユ「で、でも提督。あのオーベルシュタインなんて、大活躍じゃないですか」
ヤ『確かに。ユリアン、君は何歳だい。今回報告されているのは、それなりに
年齢を重ねている人の昔話がメインなんだ。君はまだ若い』 『それに、キャゼルヌ
少将のを読んだかい』
ユ「もちろんです、それにしてもキャゼルヌ夫人、すごいですね、
少将もかたなしって感じでした」
ヤ『キャゼルヌ先輩は、本来とても優秀な人だ、なのにあの描かれようだ』
ユ「私は、まだこれからと言う事でしょうか」
ヤ『まぁ、そう言う事だよ。ただあまり期待してはいけないよ。他にもまだまだ
優秀な人材はいるからねぇ。シェーンコップはもちろん、ビュコック提督なんて、
若い頃の話を探し出したらキリがないはずだよ』
フレデリカ ❛私なんて、エル・ファシルにいた頃、当時のヤン中尉にサンドイッチ
とコーヒーを差し入れた話しぐらいしか思い出話が出てこないのよ。これでも
士官学校を次席で卒業してるのだから、他にももっとありそうなものでしょ、
そうは思わない、ユリアン?❜
ユ「・・・」
ヤ『・・・』
フ❛あら、わたし、何か変な事を言ったかしら❜
とまぁ、こんな短編集です。 -
Posted by ブクログ
東京のど真ん中で原子爆弾を爆発させようと試みる但馬樹(たじまいつき)とサイード・イブラヒムだが、二人の目的は微妙に違っていた.長崎型の原爆を日本で組み立てるという難題を彼らは難なくこなすが、中核になるプルトニウムの純度が問題になる.20 or 70%.但馬は20%でも起爆させることを企画して3Dプリンターなどを駆使しているが、イブラヒムは但馬が放射能汚染だけに留めることを見破る.防御側のシアリー・リー・ナズ、舘野健也らと但馬との攻防が面白かった.原爆に関してかなり正確な仕様が出てきたが、起爆装置で重要なEBW(Exploding Bridgewire)雷管の記述がないのが残念だった.知っている人はいるはずだが.但馬のようなキャラクターが現実に存在するかは疑問だが、近い人物はいるだろうし、このようなテロを誘発した3/11について熟慮が必要だと痛感した.
-
Posted by ブクログ
被爆者として、核の恐怖を世界に知らしめたいムフタール・シェレペット。
途上国の悲惨な現状を先進国に知らしめるため、使命に燃えるイブラヒム。
放射能のプロフェッショナルとして、事態の収束にあたる舘野とそのチーム。
日本国内でのテロ行為を未然に防ぐために奔走する、警視庁公安部。
そんな彼ら/彼女らを全て出し抜いて自らの想いを遂げようとする、最強最悪のテロリストにして美貌の革命家・但馬樹。
エモい。その一言に尽きます。
作中世界は、2020年3月6日から同10日のたった5日間を中心に、もの凄い密度で展開していきます。現実の東日本大震災の9年後、未だ生まれ故郷に帰還し得ていない人の想いをベースに、現実の2020年世界とそれほど齟齬のない、地続きの世界観の中で物語が進んでいきます。人に寄って様々な解釈が可能だと思いますが、鴨的にこの作品は「鎮魂」を目的としたものであり、第三者がとやかく言っても前に進まないものであると理解しました。
藤井作品の特徴である、「登場人物が全員優秀過ぎて鼻白む」側面は、この作品においても顕著です。誰もが自分の信念に基づいて善かれと思ったことをしているだけなのに、あらゆる物事が悪い方に向かってしまう、この悲劇。
特に、物語のドライバーである但馬樹の行動原理が、鴨にはどうしても理解できませんでした。私費を投げ打って地元・福島の除染を果たし、「戻っておいで」と呼びかけた友人がそれをプレッシャーに感じて自死を選択した、それを「自分の責任ではない」と納得するためだけに首都圏の臨界汚染を目論んだ・・・という展開が、ただの自己愛にしか感じられず、物語全体の説得力が一段下がった感じ。まぁでも、この辺は極めて主観的な受け止め方なので、それぞれの想いがあってしかるべきだと思いますし、それを否定できる人はいないと鴨は思います。 -
Posted by ブクログ
面白かった。各分野のプロフェッショナルが集結し、それぞれが死力を尽くして戦う構図が熱くてかっこいい。SFでありサスペンスであり、そのどちらの視点からも素晴らしいエンタメ作品として楽しめた。
ただ、主人公チームの能力がほとんどチートと言っていいほど高すぎるために難問が難問として機能しておらず、ただ主人公チームの「凄さ」を強調するための装置としての役割しかなくなっていることが惜しく感じた。
また、「なんてやつだ!」「たったこれだけの時間でこんなことを!」のような持ち上げが多すぎて途中から「はいはいすごいすごい」と感じてしまったのが正直なところだった。
しかし、最後は大団円を迎えて読後感も非常に爽やか。重ねて面白かった。 -
Posted by ブクログ
処女作にして、セルフビルドで構築された電子書籍をもとに加筆されたもの。
近未来の遺伝子組換植物のエラーが引き起こす物語を描いている。ここ数十年で世界各地の農業の多様性を破壊したモンサント社や、それに対して活動する環境NGOの対立を彷彿とさせる部分があり、個人的に既視感が強い作品と感じた。
著者の生まれた奄美大島は、世界自然遺産登録候補である。日本は生物多様性の宝庫で在来種も多い。その中で琉球列島は地域固有種が多く、生物だけでなく文化の多様性も豊かである。奄美群島では近年、海外資本の豪華客船ルート誘致や、オサガメの産卵地である自然海浜の護岸工事等、観光や環境の影響が懸念される事件が複数あり、更にそれに対立する市民団体の活動も伺える。
東日本大震災をきっかけとして著述開始したという著者の今後の作品に、グローカルで土着的な要素が描かれ、更なる世界観が構築されることを期待している。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ目次
・公正的戦闘規範 藤井太洋
・仮想(おもかげ)の在処 伏見完
・南十字星 柴田勝家
・未明の晩餐 吉上亮
・にんげんのくに Le Milieu Humain 仁木稔
・ノット・ワンダフル・ワールズ 王城夕紀
・フランケンシュタイン三原則、あるいは屍者の簒奪 伴名練
・怠惰の大罪 長谷敏司
どの作品も伊藤計劃の気配を漂わせているけれど、特に濃厚なのは王城夕紀の作品(ハーモニーの世界観)と、伴名練の作品(屍者の帝国の世界観)。
この2作品は好きだなあ。
特に伴名練作品のナイチンゲールは夢に出てきそうなくらい恐ろしい。
単純な幸福はない。
幸福に正解はない。
けれどどの作品も屈託がありすぎて、胸が苦しくなる。
本の分厚さもあって、心身ともに体力を必要とする読書でした。 -
Posted by ブクログ
若者の貧困をテーマの一つとして描かれていますが、そこを力強く駆け抜けていく姿に希望を抱ける良作です。仮想通貨が世界中を席巻していますが、日本ではまだまだ広がっていないし、僕自身まだpaypayもLinepayも使っていません。なんとなく必要性を感じていないからというのが大きいです。それでも殆ど買い物も支払いもクレジットなので、現金使用しなくなって来ていますが。
この中ではN円という仮想通貨を巡って、3人の若者が事件に巻き込まれていきますが、上田岳弘の「ニムロッド」の仮想と現実との境界線があやふやになるような漠然とした不安感とは真逆で、肉体的で汗ほとばしる青春作です。
国家という傘から弾き飛ばされた若者たちは、同じく国家の傘に元々は入っていない多国籍なアンダーグランドな世界の経済にもぐりこみ、自分達の新たな居場所を求めて東京を駆け抜けていきます。
彼らは日本円を殆ど持っておらず、N円で生活している為、日本の交通機関を使う為に日本円に換金しなくてはならなかったり、まるで日本国内で別の国での生活を展開しているかのようです。次第に日本円に固執している自分の方に違和感を覚えてくる位、登場人物が活き活きと躍動しています。
この後筆者の書く「東京の子」も同じベクトルの本です。やはり肉体的かつ未来的な良作です。