水上勉のレビュー一覧
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櫻守は、桜に合う土、桜の配置、桜の保存や接木の仕方
桜の楽しみ方までをも主人公の弥吉が時に感動し、
時に落胆しながら語ってくれています。
師匠の竹部(モデルあり)曰く、染井吉野は日本の桜でも
いちばん堕落した品種だそうです。
本当の日本の桜というものは山桜や里桜だという。
「櫻守」にしても「凩」にしても
合理性の名の元に本来の姿を壊し、また別物を生み出し
保存という都合の良い解釈の上に胡座をかき、
魂の入らないモノに囲まれて満足している現代と呼ばれる時代の
姿勢に対しての痛烈な風刺であると共に、守り継いで行くという
本当の意味を教えてくれる作品だったと思います。
あぁ~すごいモノを読んでし -
Posted by ブクログ
表題作「櫻守」が特によかった。
表現が美しいのに現代語らしいテンポをうしなわず、情景や会話の様子が目に浮かぶようだ。
二人の男の人生を丹念に描きながら、樹齢四百年の古桜を移植する大仕事、人生の終焉までをあたたかく、時に哀しく描く。
信念と技のある人が理解者をもってやりたいことをする様は清々しい。
それに比べて「凩」は人生の悲哀の色が濃すぎて、若輩の私にはつらかった。
こちらも宮大工の男の晩年を描き、丹念で素晴らしいのだが、子供たちの世代の、古いものをいたずらに古いからと切り捨てるやり方に憤りを覚えながら、死への恐れを見つめて自分の技を注ぎこんだお堂を建てる。
そこにはそれを見つめる友の目線もあ -
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戦後すぐ、台風が迫る中青森を出航した青函連絡船層雲丸が転覆する。この事故で何百名という乗員と乗客が海に投げ出され、帰らぬ人となった。
そして、この遭難で回収された遺体の中で二体だけは引き取り手が現れなかった。
この二名は一体誰なのか。
一方で同じ日、海峡を挟んだ北海道の岩内では大火が起き、街が灰燼に帰した。しかし、その焼けた中の質屋の家屋からは、火事ではなく強盗にあって亡くなったのではないかと思われる遺体が見つかった。
この大火は殺人犯が火を放った放火だったのではないか?
青森の大湊の娼家で働く杉戸八重は六尺もあろうかという大男と一夜を過ごすが、彼は八重に新聞紙に包んだ大金を渡して去ってい -
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最近福井県がブームとの事で、俺たちの水上勉さんをフィーチャーしてみました。
氏の作品は『飢餓海峡』のみでしたが、古い作品ながらも最高に面白かったですね。もちろんレビュー済。そして今回もよかった。私はこのような湿気を帯びた話が好きなんですね。湿気最高!でも梅雨は辛いぞ、糞!
先ず『鴈の寺』。エロ坊主が小僧に殺されるお話。しかも完全犯罪。コナン君だと直ぐ犯人を当ててしまうレベルだが、時代背景がそうさせない。小僧の生きる辛さが伝わってきます。慈念君、生き抜くんやでー。
『越前竹人形』。鴈の寺と同様に顏が残念で背が低いコミ障キャラが主人公。この時点で鬱屈とした物語が始まる予感がしましたが、最後の最 -
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日経の春秋で「五十三年も生きていた梅干し」の話が引用されて興味を惹かれて購入。なるほど少年時代に京都の禅寺で奉公した経験を元に軽井沢で隠遁生活?をしている食と料理を中心とした月ごとのエッセイ。
『めしを喰い、その菜のものを調理するということは、自分のなりわい、つまり「道」をふかめるためだということがわかってくる。一日一日の食事を、注意をぬいて、おろそかにしていれば、それだけその日の「道」に懈怠が生じるだろう。』
これが全てかな。食材への感謝。そもそもの食材やそれを育てた土や風土の声を聞くこと。手間を惜しまず工夫を重ねる。それこそ『精進』料理であると。何かとコスパ・タイパが重視されがちな今だから -
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ネタバレ「飢餓海峡」と同時期に出された作品で、上昇メロドラマ要素も強いと感じましたが、ヒロイン夕子を見守る、夕霧楼の女将のかつ枝さんが良かったです。夕子が櫟田から渡された粉薬を服用して寝込むあたりでは、櫟田が唯一とも言える自身の理解者である夕子の死期を悟りつつも失いたくないというように感じました。一方の夕子の櫟田に対する見方の中に「かわいそうな人」とありますが、優秀な頭脳を持ちながら吃音症のため、周囲に理解されない、受け入れられない彼を(精神的妹として)守りたいという意思を感じました。
本作品の16年後、三島由紀夫の「金閣寺」へのアンサーとして「金閣炎上」を発表されましたがそこへたどり着くまでの習作的