松浦理英子のレビュー一覧
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「自分は人間でなく犬に生まれるべきだった」幼少期から犬化願望を持つ八束房恵は理想の「飼い主」とでも言うべき女性・玉石梓と出逢う。「あの人の犬になりたい」と願う房恵に「その望みを叶えるかわりに魂をもらう」と謎の契約を迫る朱尾献が現れた。果たして本当に犬となり、梓の犬・フサという新たな生を梓と共に生きようとするが、フサは牝犬ではなく牡犬に変えられてしまっていた。更に、兄をはじめとする問題を抱えた梓の家族のこと、梓が兄の彬に肉体関係を強要されていることも知ってしまい――
主要人物二人の名前が明らかに八犬伝意識(八房と玉梓。あと、思えばフサと伏姫のフセは語感が似ている)の作品で興味があったから読んで -
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ネタバレ松浦理英子は、僕の学生時代に『親指Pの修業時代』が大ベストセラーになったが、それ以来ご縁のなかった作家。と言っても、もともと寡作な人らしく親指P以降、長編小説はこの『犬身』(2007年)含めて 3作くらいしか出ていない。
妙にフェティッシュな犬への憧憬が描かれる序盤から、バーテンダー朱尾が本性を表わしておどろおどろしい雰囲気を醸し出す中盤、そしていびつな家族とその崩壊を描く終盤と、まったく先の見えないジェットコースターのようなストーリー。作者の発想の奇抜さもあいまって、次の展開がまったく判らないので、最悪の事態を想像して血圧が上がることしきりだったが、まあそれなりの終末に収束していただいて、 -
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本当にまあ、最後まで、生々しくてグロテスクな小説だった。
兄や母の存在はまさに、「憎い」ではなく「肉い」と書き表すのが最適だったように思う。最終局面に至って、兄と母の狂気ぶりはもはや人間味すら失い、心を閉ざしたように淡々とそれに応じる梓もまた、逆方向のベクトルで人間性を欠いている。そこに流れ出した血の匂いと温度で物語は急展開を迎え、一気に結末へと向かうのだけれど、その辺りのゾクゾク感がすごい。「血」の匂いと温度によって、もしくは血そのものによって「肉」が洗い清められたみたいにして、物語は新しい始まりとしての結末に繋がっていく。
血と、肉と、それから魂と、人間も犬も、その3つからできているのに違 -
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犬が飼い主恋しさに人間になる話は今まで読んだ気がするけれど、その逆は初めてかも^_^前者は犬を飼っていたら誰もが想像し願望する事もあると思うけど、自分自身が犬とは…かなりの犬マニアかド変態か(||゚Д゚)くらいに思ってちょっと引いてたのですが。
読み進めていくうちに、この突拍子もない状況も楽しめる程引き込まれていました。
房枝は犬になっただけでなく、牡犬になって性まで変えられてしまうのですが、全く無になった自分に向けられるものは、何の計算も性欲もない見返りを決して求めない唯の無垢な愛情。これこそ究極の愛情なのではないか、と思ってしまう。
背景には房枝の愛する梓の不幸がある訳ですが、それが今後ど -
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セックスの介在しない、個と個の愛を犬と飼い主の関係で描いた作品。男女はもちろん、男と男、女と女でも性器への接触なしで恋愛は成り立つだろうか?男女でそういう状況を描いた先行する作品はあるけれど、やはりどちらかが我慢している部分があるように思う。本作中、性欲から出発しない触れ合いたい気持ちが書かれていても、フサが梓に感じているのは、やはり恋愛感情ではないか。これが男女の関係では「体で受け止めてもらえないと、お互いたいせつにし合ってるっていう実感が起こらないんだよ」となる。だからこのテーマを描くには、人が犬に変わるというファンタジー要素は必要なんだな。
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ネタバレ苦手かも、どう読み解いていいかわからないな、と思いながら読み進めたけど、最後の「わたしたち」が生み出したエピローグとしての真汐の独白と、村田沙耶香の解説が良かった。
〈物語〉の中で行われていることに対する、薄っすら伴う嫌悪感と自分との距離の遠さは、私がこの行為をきちんと自分事として解体できてないからなのかもしれない。
美織の両親が日夏に行った「闘う価値のないものと闘うより、ひとまず離れた方がいいよ」という教え、参考になる。日夏は閉ざされた世界から離れて、閉ざされた荒れた世界を地均ししにまた戻ってきてほしい。と「わたしたち」目線でただ願う。 -
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牛尾は彬に、息子とともに家を出て行った彬の妻の佐也子がひそかに書いていたブログを見せます。そしてその直後、梓と彬の関係を思わせるような内容のブログが、インターネットで公開されていることがわかります。
フサは、牛尾がブログの執筆者ではないかと疑いますが、やがて彬が梓の立場に身を置いて、自分につごうのよい物語をつくっているのだと考えるようになります。ブログを目にした梓は目に見えてふさぎ込むようになり、フサはそんな彼女を元気づけたいと願います。
犬にすがたを変えることで、慕っていた相手のゆがんだ家庭事情を知ることになるという上巻から引き継がれた枠組みのなかでストーリーが進行していきます。梓のあら