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男友達もなく女との恋も知らない変わり者の中年男・本田をとらえたのは、レズビアンの親友・七島の女同士の恋と友情だった。女たちの世界を観察することに無上の喜びを見出す本田だが、やがて欲望は奇怪にねじれ……。熱い魂の脈動を求めてやまぬ者の呻吟を全編に響かせつつ、男と女、女と女の交歓を繊細に描く友愛小説「奇貨」と、著者26歳の時に書かれた危うい思春期小説を併録。
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Posted by ブクログ
津村記久子のあとがきが素晴らしい。まさに「読者のイメージを借りない」、ゼロ距離の文章の温かみに酔いしれた。でも本田も七島も、当然ながら実在しない「他人」であり、彼らと読者の間には厳然たる距離が存在する。しかしその距離が前提にあるからこそ、松浦の筆によって描かれる二人のシェアハウスで繰り広げられる、あまりに自然なリアリティの応酬を読者は存分に味わえる。それに留まらず、どうしても埋めきれない距離を極限まで縮めようとする動機が自ずと湧きさえする。この時、まさに我々も本田と同じく「盗聴」をしているのだ。扉一枚を隔てるからこそ、人はその向こうに計り知れない好奇心を抱く。つまりは、絶対的な距離をとって初めて、シェアハウスの一員となるよりむしろ親密な、関係性の快い熱とでも言うべき感覚の迸りを肌身に感じることが可能になる。
「悪貨は良貨を駆逐する」とグレシャムは言ったが、奇貨はその間を飄々と、しかしどこか満たされない切なさを湛えながら流れ往くのだろう。
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