松浦理英子のレビュー一覧
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舞台は私立玉藻学園高等部2年の女子クラス。彼女達は、クラスメイトの日夏、真汐、空穂の3人をパパ、ママ、王子様と模した『わたしたちのファミリー』の推し活をしていた。
人生の経験が不足し、知識、自意識が肥大化している彼女達の妄想は、それゆえに現実的な制約を受けずに理想の家族像を紡ぎ出し、『わたしたちのファミリー』に投影・神格化していく。
女子高校生純度が高そうな内容で、読み始めてすぐ「あ、苦手なやつだ」と思ったのだけれど、なぜだか引き込まれてしまった。
居心地が良いのだ。この居心地の良さは、『わたしたち』が物語りを語ると言う画期的なシステムによるものだと思われる。一人の語り部ではなく、皆で共 -
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ネタバレわけの分からない胸の痛みで涙が出て仕方なかった。
とても巧妙な構成で高校生の女子達の心の中をのぞく。どの子も賢く、好奇心に溢れ、仲間想いで、観察眼が鋭い。
家庭環境、親との関係に痛みをかかえる真汐、日夏、空穂の関係性の変化を”わたしたちのファミリー”として観察(想像、捏造?)する同級生たちの視点から心象が描かれる。
真汐の最初の作文でいきなり引き込まれて、読んでいる間中今も心にある痛みがずっと胸で疼くような感じがした。
真汐に自分は近いと思った。心を鍛えなければ、といい、心に蓋をして懸命に傷つかないように自分を保とうとする姿。
うまく言葉にできないけれど、高校生の女子たちの賢さ、優し -
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訳者後付けでも解説されているように、一葉の作品には句点、段落があまり見られない。もちろん当時はカギ括弧のような様式も主流ではなかったのだろうが、21世紀の我々が馴染んだ文体ではない。
しかし、訳者の努力の賜物なのだろう。非常に読みやすかった。「たけくらべ」はロマンスともジューブナイルとも分類できない複雑さがあり、充分に面白い。
「たけくらべ」以外の短編たちもよい。「うもれ木」なんかは私の好みだった。恋愛:人間的成長=8:2くらいの混ぜ具合。当時の主流だっただけなのか、一葉が個人的に恋愛を関心事としていたのかはわからないのだが、何はともあれ良い作品だと思った。 -
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制覇はしていないものの、読んできた松浦理英子作品では一番好きだった。私もこの学園で過ごしたかった。あらゆるタグに囚われることなく友達を愛したかった。真汐と日夏には『ナチュラル・ウーマン』の容子と花世の面影があったけれど、彼女たちへの眼差しは温かく柔らかかった。
それなりに物事の分別もつき、且つ社会に出る直前、教室の中で世界が完結する微妙な未分化を表すのに女子高生を主人公に据えること、真汐、日夏、空穂の関係性を見守るクラスメイトたちの距離感と「わたしたち」という主語、単語と関係性の再定義、全てが、上手いな〜とうっとりしてしまったのだった。
とにかく真汐がいとおしくてしかたがない。 -
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八束房恵は、腐れ縁の久喜洋一とともに『犬の眼』というタウン誌を発行する仕事をしています。彼女は幼いころから「犬になりたい」という願望をもっており、自分が人間として生まれてきたことに違和感をもつ「種同一性障害」だと自分のことを理解するようになります。
房恵は、ナツという犬を飼っている陶芸家の玉石梓という女性に出会い、彼女の飼い犬になりたいと願うようになります。そんな房恵に対して、「天狼」というバーを経営する朱尾献という男が、彼女を梓の飼い犬にする代わりに、彼女の魂をゆずらないかという契約をもちかけてきます。そんななかで、ナツが死んでしまうという事件が起こり、房恵は半信半疑ながらも牛尾と契約を結 -
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ネタバレ『コンビニ人間』の村田紗耶香さんが解説で
「家族」の中での肉体というものについて考えた、と書き、
「大切な、信頼できる相手の前で、心地よく筋肉が弛緩すること。・・誰かの体温の中を安堵しながら漂うこと・・・
身体が相手を家族だと認識し、そうした反応をするなら、現実での関係性の名前がどうであるかなど関係なく、肉体にとってその人は『家族』なのではないかと思う。」
と書いている。
夫の日夏、妻の真汐、王子様=最愛の子どもに空穂という三人の女子高生を中心に、家族関係を妄想する周りの友だちたち。
どう定義できるのか分からなかった「家族」が、
三人の肉体の反応を通して、村田氏が指摘するように
とても -
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「どれだけ美しければ世間にだいじにされるのだろう。どれだけ性格がよければ今のわたしが全く愛せない人たちを愛せるのだろう。」
とても純度の高いものを読んだ気分だ。でもそう言葉にしたら、やや違和感も覚えた。
「疑似家族」と「三人をアイドル視する周囲」という女の子同士の甘さ、十代のきれいさ、というとちょっと違って、でも違わなくて、上手く言えない。
若手作家じゃないからこそ書ける女子高生、という印象を受けた。
ちょっと風変わりだけれど奇をてらっているとは思わない、地に足の着いた無二さ。
みんな微熱を帯びていて、それでいて過度に浮かされすぎない冷静さを感じる。
筆致の所為もあるだろうか?
濃くて、あ