森谷明子のレビュー一覧
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とうとう読み終わってしまった。
最終巻は、宇治十帖をめぐる物語。香子(紫式部)の腹心、阿手木は遠い大宰府へ。そのため、香子の隠棲する宇治で起こった事件が、式部の視点からのみ描かれていることは、これまでと違った趣向だった。
ストーリーテラーである阿手木を香子から引き離してまで、作者は刀伊の入寇を、ひいては襲来後もしなやかに生きていく女たちの姿を描きたかったように思う。
『源氏物語』は光源氏の栄華の物語、因果応報の物語とも言われるが、大和和紀さんは『あさきゆめみし』で、女性の生きざまを前面に押し出して描いた。このシリーズも、藤原道長の栄光の影に隠れがちな、数々の女性たち(修子内親王をはじめ、一条帝女御の元子や敦明親王妃の延子など)にスポットをあてられ、女とはなんと不自由なのか、女とはなんと強いのか、さまざまな生き方を浮き彫りにした。
あとがきによると、このシリーズの1作目『千年の黙 異本源氏物語』でデビューした作者は、2作目に宇治十帖をめぐる作品を書きたかったそうだ。そうした背景もあってか、1作目のストーリーがうまく引き継がれ、ことに、失われた「かかやく日の宮」の問題が決着させられていたことは、最終巻にふさわしい仕掛けだった。 -
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寛弘年間~寛仁年間、11世紀前半は日本史上、政界の動きの目まぐるしい頃だ。
この時期を舞台に、『源氏物語』の「玉葛」~「真木柱」(玉葛十帖)と「若菜」の謎が取り上げられている。時代背景が生かされ、政界――とくに藤原道長の動向が、本書のストーリーにも大きく関わる。本作では、同シリーズの過去2作以上に、道長の視点による語りが多く、歴史小説としても楽しめ、さらに『源氏物語』が内包するテーマが重ねられ、日本史好きとしては、十分な読みごたえを感じた。というか、本作に限っては、ミステリーではなく、完全に歴史小説として読み、謎に対しては、あまり意識しなかった。
また、本書で扱っているのが「若菜」であることによって、物語は濃厚さを増したように思う。光源氏の栄光と喪失が、道長が極めた栄華とその後に重なる。また、史実を知っていると、本作のラストシーンの後に起こることが思い出されて、暗示的というか、落ち着かないというか、まだこのシリーズは終わらない、という雰囲気が漂う。大河ドラマ「光る君へ」のラストシーンのように。 -
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憧れて手に入れた仕事にも嫌な事はある。
こんな仕事辞めてやる!という仕事の中に、
笑顔になる一瞬がある。
生活の為に働くのだから割り切る、
という考えもある意味正解だと思うし、
この仕事が天職だと思っていたのに、
向いてないって挫折する事も多分ある。
大変そうだね、と言われる仕事に、
笑顔で楽しげに関わる人もいる一方で、
誰もが羨む職業に就いているのに、
人知れず悩んで塞いでいる人も多分いる。
早期退職に憧れた時期もあったけど、
社会の片方にしかいられない人生が楽しいのか、
自信がなくなってきた。
助け合って社会を作って生きていく上では、
誰もが自分の役割を「ちゃんと」する事が、
大事なのかもしれないな。
「常にベストを尽くせ。見る人は見ている。」
「スプーンひとさじのお砂糖」を探して。
あなたも。
わたしも。 -
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序・破・急の間に玉鬘十帖と若菜 下が入って5章立て。
『序』を読んだとき、今までのシリーズを通して、一番好きだと思った。
というのも、どろどろした権力闘争や、それに否応なく巻き込まれて辛く淋しい思いをする女性や子どもが出てこないから。
道長が庇護している瑠璃姫は、ほとんど人前に出ることもなく、道長すら顔を見ることもできないくらい内気で体が弱い。
高貴な生まれの瑠璃姫を大切に大切に扱う道長だが、彼の言動にはちょいちょい女子どもや身分の低いものを見下したものが垣間見えるのがイラっとするのだけど、本人は気づいていない。
「女はのんきでいいよなー」なんて世の中の苦労をひとりで背負って立っている気でいる道長だけど、実は裏で女たちが連携していいように道長を翻弄している。
なんだかちょっと可愛らしくも思えてくるほど、きれいに振り回される道長。
有名な「この世をば わが世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば」という歌は、学校で習ったようなおごり高ぶったものではなく、すべての者たちに気を配り、よきに働いているわたくしは、誰から恨まれることもないので、神罰などは与えずにくださいませという、神仏へのアピールなのだ、という解釈。
なるほどありかもねーと思ったのだけど。
第二章からは徐々にきな臭くなっていく。
自分の孫を早く天皇にするためには、それ以外の皇族は邪魔でしょうがない。
あからさまに冷たく接し、何なら仕事をサボタージュすることによって、道長の意を汲んだものが狼藉をはたらく。
定子を愛し、彰子をも大切にした一条天皇の急死から状況は一変。
この帝位をめぐる攻防から派生する、京の都で頻発する付け火や強盗。
式部の実家や、友人たちの家にも波及していく世の乱れ。
今回初めて、きらびやかな貴族の社会だけではなく、底辺の、食べていくだけで精いっぱいの人たちの暮らしにも目を向けることになる。
そして瑠璃姫だけではなく、和泉式部や阿手木など、式部の周辺の人たちも都から離れ、平安という時代をより広く知ることができるようになっている。
それにしても彰子。
26歳で皇太后だもの。
でもって、それに見合った貫禄もあり。
それに引き換え、儚く亡くなった定子や彼女の産んだ子供たちの幸の薄さよ。
荻原規子の解説がとてもいい。
『源氏物語』だけではなく、『枕草子』も読みこんだうえでの解説は、とてもわかりやすくて面白かった。