本を手にしたときは厚さにちょっとビビりましたが、読んでみるとあっという間でした。
紫式部が主人公なのか、それとも光源氏がそうなのかと思って読み始めたら、猫好きの女童(めのわらわ)、12歳の少女「あてき」目線で話が進む。
あてきの仕えている御主(おんあるじ)が藤原の香子(かおるこ・のちの紫式部)であ
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当初は知る人ぞ知る程度の作品であった『源氏物語』。
しかし宮廷生活を知らない彼女の書く物語は、貴族の暮らしぶりの細かな部分がまちがえているとのそしりも受けていた。
だから、喜んで宮中に出仕したのかと思いきや、道長からの出仕要請をかたくなに拒み続ける香子。
ではどうして紫式部は中宮・彰子に仕えることになったのか。
というのが大きな謎として、消えた猫の謎とか、誰もいない密室から聞こえてきた笛の音とか、文箱の中身紛失事件とか、日常の小さな謎を、洞察力に長けた香子が推理していく。
そしてこれらの謎を繋ぎ合わせたとき、大きな謎が解けてくるという壮大な仕掛け。
あてきは、自由に動き回ることのできない貴族の女性である香子の目となり手足となって、その推理を支えるとともに、彼女にも解決しなければならない問題があって、私としてはこちらの方が面白かった。
木登りやかけっこが得意なあてきが、初めて負けた相手が岩丸。
それ以来岩丸のことが気になってしょうがないのだけれど、彼は何か問題を抱えているようで、なかなかゆっくり言葉を交わすことができない。
追いつめられているように見える岩丸をなんとか救おうと、あてきはあちこち岩丸を捜しまわる。
あてきは気づいていないけど、それを「恋」というのだよ。
かわゆい。
あてきの行動からすべてを推察した香子は、ことの顚末を伝えるべく彰子の元へ行く。
彰子とつながりを持った後も、出仕を断り続ける香子の本心とは。
”自分の主のためには他人をおとしめることもしなければならない。わたしにそんなこと、できようはずもないのに”
え?
『紫式部日記』で結構人の悪口書いていませんでしたか?
この作品の紫式部は口が堅く、人を嫌な思いにさせることは絶対に言わないし、しない。
ある時届いた手紙を読んで、ショックを受けたらしい香子にあてきが「誰が何と書いてよこしたのか」を尋ねても答えようとはしなかった。
”どこからのとも、何が書いてあるとも、話してくれる気はなさそうだ。使用人がそれ以上ねだるわけにもいかない。阿手木(あてき)は部屋を出ながら決心した。あとで見てやろう。”
ブラボー。
『源氏物語』の失われた一巻『かかやく日の宮』。
私はこのタイトルに、ずっと違和感があった。
だって長いでしょ?
『桐壺』とか『若紫』とか『明石』とか『末摘花』とか『花散里』とかに比べると、明らかに。
だから『かかやく日の宮』なかった説を取っていたのだけど、この本を読んでいる時ふと思ったの。
『輝日宮』なんじゃね?
なら、ありかも。
せっかくそこまで思ったのに、この作品では『かかやく日の宮』という表記であることが肝心なのね。
むむう。
12歳の少女として作品に登場したあてきは、物語の最後、夫に先立たれ寡婦として今は亡き紫式部の娘と再会する。
道長の剣呑さや彰子の賢さもいい味出してます。