千年の黙 異本源氏物語

千年の黙 異本源氏物語

小説・文芸
968円 (税込)

4pt

【第13回鮎川哲也賞受賞作】帝ご寵愛の猫はどこへ消えた? 出産のため宮中を退出する中宮定子に同行した猫は、清少納言が牛車につないでおいたにもかかわらず、いつの間にか消え失せていた。帝を慮り左大臣藤原道長は大捜索の指令を出すが――。闇夜に襲われた中納言、消え失せた文箱の中身。縺れ合う謎に挑む紫式部を描いた第一部「上にさぶらふ御猫」。『源氏物語』が千年もの間抱え続ける謎のひとつ、幻の巻「かかやく日の宮」――この巻はなぜ消え去ったのか? 式部を通して著者が壮大な謎に挑む第二部「かかやく日の宮」。紫式部を探偵役に据え、平安の世に生きる女性たち、そして彼女たちを取り巻く謎とその解決を鮮やかに描き上げた華麗な王朝推理絵巻。

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千年の黙 異本源氏物語 のユーザーレビュー

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感情タグBEST3

    Posted by ブクログ

     第13回鮎川哲也賞受賞作で、森谷明子氏のデビュー作である。今年の大河ドラマの主人公紫式部が探偵役の平安ミステリーを再読した。時代的には長保元年(1000年)から、紫式部の没後の寛仁4年(1020年)までを描いている。

     本作は3部構成で、第1部「上にさぶらう御猫」では、紫式部は藤原宣孝と結婚して長女賢子が生まれたばかりである。「源氏物語」を書き始めた頃であり、のちに仕えることになる藤原道長の娘彰子は入内前。あたかも出産のために、宮中を退出する中宮定子に同行した帝ご寵愛の猫が行方不明となる。左大臣藤原道長は猫探索の指令をだすが、いったいどこへ?

     第2部「かかやく日の宮」では、存在していたかもしれないと言われる幻の帖「輝く日の宮」の謎を追う。作者は「存在説」に立っており、なぜ失われて後世に伝わらなかったのか謎を追う。
     
     第3部「雲隠」とは、題名だけで本文が存在しない帖のことである。もともと題名だけで本文は書かれなかったとする説と、本文はあったが紛失したとする説があるという。ここでも作者は、「本文は書かれていた説」に立っている。なぜ題名だけしか伝わっていないのか、本文は一体どうなったのか?

     読み終えると、全編を通じて藤原道長のラスボス感が、文章の底から浮かび上がってくるような印象がある。それから時々登場する藤原実資がいい味を出している。ちょっと言い過ぎかもしれないが、大河ドラマで演じている秋山竜次そのままかと。 

    0
    2024年05月24日

    Posted by ブクログ

     紫式部が探偵役を務める平安ミステリー。中宮定子の消えた猫の謎、堀河院真夜中の笛の音の謎、といった「日常の謎」を解決しながら、自身の作品の失われた一帖「かかやく日の宮」にまつわる大きな謎の解明に挑む。すごく面白かった。
     なお、紫式部という呼び名は本書では使われないが、ややこしくなるのでここでは紫式部と書くことにする。

     三部構成の第一部は、紫式部のもとで働く女童(めのわらわ)あてき視点で進んでいく。十二、三歳くらいだろうか。西の京のはずれで生まれ、母を早くに亡くし、ばばさまに育てられ、十歳のときに紫式部の屋敷にきたというあてきは、猫好きのおてんば娘。お食事を運んだり、お手紙の取り次ぎをしたり、御主(おんあるじ)の話し相手になったりとお仕えしながらも、迷い猫を見つけては屋敷に連れてきて飼い慣らしたり、こっそり屋敷を抜け出して遊びに行ったりと、意外にのびのびと暮らしている様子が面白い。
     あてきの初恋のゆくえと、中宮定子の消えた猫の謎解きとが第一部の本筋だが、それらを楽しむうちにすーっと物語の世界に入り込めていて、紫式部の人となり、左大臣藤原道長の政治力、後宮の人間関係などがわかってくる。それがこの後に控えるメインディッシュを楽しむための綿密な仕込みになっている。

     紫式部年表(ただしどれも正確なところは不明)と、本書で描かれている年代は下記の通り。

     九七三 誕生
     九九八 藤原宣孝と結婚
     九九九 賢子誕生 ←【第一部】
    一〇〇一 宣孝と死別
    一〇〇五 彰子宮に出仕 ←【第二部】

     没年は、一〇一四年説から一〇三一年説まである。本書では、【第三部】で語られる一〇一三〜一〇二〇の間に、出仕をやめ、亡くなっている。

     第二部、第三部と時を経るに従って、紫式部もあてきも、人生のステージが移り変わっていっているのがわかる。第二部ではついに、失われた一帖「かかやく日の宮」の謎に迫り、紫式部と道長の関係性にも変化が見られる。そして第三部は「決着」。紫式部は自分の作った物語が見舞われた運命に対しどう決着をつけたのか。また、「事はどのように成し遂げられたのか」という謎に対するミステリーとしての決着も鮮やか。見事としか言いようがない。

     丸谷才一と同じ問いを立てながらも、全く異なるアプローチでの解決を見せてくれた。今この瞬間の気持ちとしては、森谷明子さんの描いてくれた世界の方が断然、断然好きだな。でも、人々の「読む楽しみ」や物語作家の「書く苦悩と覚悟」に対する強い思いはどちらにも共通していると感じた。

    0
    2023年10月20日

    Posted by ブクログ

    本を手にしたときは厚さにちょっとビビりましたが、読んでみるとあっという間でした。

    紫式部が主人公なのか、それとも光源氏がそうなのかと思って読み始めたら、猫好きの女童(めのわらわ)、12歳の少女「あてき」目線で話が進む。
    あてきの仕えている御主(おんあるじ)が藤原の香子(かおるこ・のちの紫式部)である。

    当初は知る人ぞ知る程度の作品であった『源氏物語』。
    しかし宮廷生活を知らない彼女の書く物語は、貴族の暮らしぶりの細かな部分がまちがえているとのそしりも受けていた。
    だから、喜んで宮中に出仕したのかと思いきや、道長からの出仕要請をかたくなに拒み続ける香子。
    ではどうして紫式部は中宮・彰子に仕えることになったのか。

    というのが大きな謎として、消えた猫の謎とか、誰もいない密室から聞こえてきた笛の音とか、文箱の中身紛失事件とか、日常の小さな謎を、洞察力に長けた香子が推理していく。
    そしてこれらの謎を繋ぎ合わせたとき、大きな謎が解けてくるという壮大な仕掛け。

    あてきは、自由に動き回ることのできない貴族の女性である香子の目となり手足となって、その推理を支えるとともに、彼女にも解決しなければならない問題があって、私としてはこちらの方が面白かった。

    木登りやかけっこが得意なあてきが、初めて負けた相手が岩丸。
    それ以来岩丸のことが気になってしょうがないのだけれど、彼は何か問題を抱えているようで、なかなかゆっくり言葉を交わすことができない。
    追いつめられているように見える岩丸をなんとか救おうと、あてきはあちこち岩丸を捜しまわる。

    あてきは気づいていないけど、それを「恋」というのだよ。
    かわゆい。

    あてきの行動からすべてを推察した香子は、ことの顚末を伝えるべく彰子の元へ行く。

    彰子とつながりを持った後も、出仕を断り続ける香子の本心とは。
    ”自分の主のためには他人をおとしめることもしなければならない。わたしにそんなこと、できようはずもないのに”

    え?
    『紫式部日記』で結構人の悪口書いていませんでしたか?

    この作品の紫式部は口が堅く、人を嫌な思いにさせることは絶対に言わないし、しない。
    ある時届いた手紙を読んで、ショックを受けたらしい香子にあてきが「誰が何と書いてよこしたのか」を尋ねても答えようとはしなかった。

    ”どこからのとも、何が書いてあるとも、話してくれる気はなさそうだ。使用人がそれ以上ねだるわけにもいかない。阿手木(あてき)は部屋を出ながら決心した。あとで見てやろう。”
    ブラボー。

    『源氏物語』の失われた一巻『かかやく日の宮』。
    私はこのタイトルに、ずっと違和感があった。
    だって長いでしょ?
    『桐壺』とか『若紫』とか『明石』とか『末摘花』とか『花散里』とかに比べると、明らかに。
    だから『かかやく日の宮』なかった説を取っていたのだけど、この本を読んでいる時ふと思ったの。
    『輝日宮』なんじゃね?
    なら、ありかも。

    せっかくそこまで思ったのに、この作品では『かかやく日の宮』という表記であることが肝心なのね。
    むむう。

    12歳の少女として作品に登場したあてきは、物語の最後、夫に先立たれ寡婦として今は亡き紫式部の娘と再会する。

    道長の剣呑さや彰子の賢さもいい味出してます。

    0
    2023年08月23日

    Posted by ブクログ

    『深山に棲む声』がなかなか面白かったので、本作を読んでみました。デビュー作とのことです。
    平安の世、藤原道長が栄華を極めた時代。紫式部を探偵役とし、日常の謎解き(中宮定子の消えた猫、堀河院の笛の音)や、源氏物語の幻の巻「かかやく日の宮」「雲隠」についての考察があり非常に楽しめました。
    ワトソン役の側近の女房阿手木や、その年下の友達小侍従、式部の夫藤原宣孝、中宮彰子、左大臣藤原道長など、人物もイキイキ。特に小野宮実資が、式部の書いた物語を、所詮は女のはかないすさびごと…といって苦笑しながら読んでいたのに、気づいたらすっかり引き込まれて読み終えてしまった行。くすっと笑ってしまいました。また、阿手木と犬丸(義清)の恋愛も微笑ましかったです。
    三部作だそうなので、続きも読みたいと思います。

    0
    2013年05月12日

    Posted by ブクログ

    紫式部がまだそう呼ばれるよりはるか前から物語は始まる。まだ源氏物語も最初の一帖しか生み出されていないころだ。その藤原為時の娘、香子に仕える女童、あてきを語りに据えた中宮定子と帝の御猫さま失踪事件を扱う第一章、源氏物語の第一帖『桐壺』と第二帖『若紫』のあいだに存在したのではないかという『かかやく日の宮』の帖を巡る第二章、光源氏の最期を記した『雲隠』の帖に老いた道長が固執する最終章からなる。女童で登場したあてきが恋をし、初恋のきみとの恋を実らせさらには死に別れ出家するまでの物語でもある。面白かった。あてきが活躍する第一章が特に好きだ。御猫さまの行方はすぐ解るがミステリとしても面白く、あてきと岩丸の恋の話としても楽しい。第二章はありそうで読んでいてわくわくし、式部の気持ちに胸が傷んだ。全編において知った名前の人たちが動いたりしゃべったりしているのが不思議で引き込まれててさくさく読んだ。次作の文庫化を心待ちにしている。

    0
    2012年04月09日

    Posted by ブクログ

    なぜ源氏物語に欠損があるのか?

     という疑問に平安時代への愛と夢がたっぷり詰まった小説です。
    平安時代小説というと史実をなぞらえたり陰陽師が出てきたりするものが多いのですが、これは上手いこと創作を絡めていて楽しく読めました。
    実資の役割に思わず笑ってしまいました。

    0
    2009年12月29日

    Posted by ブクログ

    「日常の謎」を解きながら『源氏物語』の謎にも迫るという一冊で2度おいしい極上ミステリ。
    舞台は平安、藤原道長の照り輝く時代。
    時代小説としても楽しめるし、フツーにミステリとしてもよくできているし登場人物たちの個性がしっかりしてて面白い。
    なかでも探偵役の紫式部の切れ味の鋭さには舌を巻きます。
    そうだよね、なんたって『源氏物語』書いた人だもん。

    人は死なないし、紫式部主従たちの頭はいいけどほんわかしててかわいいし
    なんかこのふたり知ってる・・・と考え出したら
    『なんて素敵にジャパネスク』の瑠璃姫&小萩を思い出し、楽しく読みきってしまいました。
    3部作らしいので次回作の文庫化が待ち遠しいです

    0
    2009年10月07日

    Posted by ブクログ

    去年のうちに読んでおけば良かった本、その2。

    帝に愛猫がいたことも、源氏物語の失われた1帖があるという説も、ミステリーのための創作ではなく、史料に残っている。そんな歴史上のトピックを取り込み、謎に仕立て、当時の貴族社会の情勢も押さえつつ、しかもストーリーに無理がない。
    歴史小説であり、ミステリー小説。融合ぶりがうまい!

    0
    2025年04月13日

    Posted by ブクログ

    平安時代の謎解きにどっぷり浸かった鮎川哲也賞受賞作。紫式部がその名になる前、源氏物語を紡ぐその裏で何があったか、物語がどう伝わったか。源氏物語や紫式部を巡る謎解きも楽しく、全てわかった時には人の心や事情や立場、色んなことがこの時代にもあり深さを感じ取れる。知らないことばかりの平安時代の人々の背景も含めた物語が雅で華やかで、なのに人間臭くもあって読むのが楽しかった。失われた一帖、「かかやく日の宮」への解釈が特に素晴らしい。そしてあの時代、本はみんなで写本したことがとてつもない労力で想像するだけで舌を巻く。

    0
    2024年10月29日

    Posted by ブクログ

    あの紫式部が安楽椅子探偵!
    3章の時間の流れも良い。
    もちろん源氏物語のあの巻とあの巻の謎への解釈が良い。

    0
    2024年03月02日

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