佐藤正午のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
『熟柿』を読んで、罪を背負って生きることと、物事には適切なタイミングがあるということについて考えさせられた。
罪は消えない。一生向き合い、背負って生きていかなければならない。決して許されることではないが、だからといって、一生光が差さないわけではない。罪を償った後は、その罪を背負いながらも、前を向いて生きていくことは許されるのだと思った。
特に胸が苦しくなったのは、ラストのかおりと息子の拓の会話だった。
拓は母親に会えて、話したいことがたくさんあるはずなのに、照れくささから素直になれない。一方のかおりも、本当は名前を呼んで抱きしめたいはずなのに、その気持ちを抑えて冷静に振る舞っている。
限られた時間が終わりに近づき、ようやくお互いの気持ちを吐露し合う姿が印象的だった。
元夫がかおりにだけ罪をなすりつけていた事実には腹が立った。それでも、かおりはそのことを知った後も、拓の中にある父親の像を壊さないように努めていた。その姿が余計に辛かった。
これまで拓のために必死に働き、ただ一目でいいから息子に会いたい、成長した姿を見たいと願い続けてきたかおり。その思いがようやく報われたのだと思うと、涙が出た。それが同情からなのか、かおりの心境が自分に重なったからなのかはわからない。ただ、泣けた。
再会によって、かおりは救われたのだと思う。これからもたまにでいいから会って、色んな話をしてほしい。そして、これからは拓のためだけでなく、自分自身のためにも生きてほしいと思った。
また、「熟柿」というタイトルの意味も印象に残った。物事には適切なタイミングがある。かおりと拓が再会したのも、幼稚園の頃でも、小学校の入学式でもなく、あのタイミングだったからこそ、お互いに向き合って話せたのだと思う。
ただ、それも結果論なのかもしれない。実際にその時を迎えるまでは、何が適切なタイミングなのかはわからない。だからこそ、何でも自分の思いどおりに進めようとするのではなく、できることをしながら、ある程度は流れに身を任せることも大切なのだと思った。
罪を背負いながらも前を向いて生きること。そして、焦って答えを出そうとせず、時の流れに身を任せること。
この2つのことを考えさせられた作品だった。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ轢き逃げ事故を起こした母親が獄中出産し、その後息子に会えるまでの長い時間を追う作品。
事故の原因になった自己中メンヘラ不倫女の親友にもイライラするし、感情が昂ると突飛な行動をとってしまう主人公にもイライラしてしまうのだが、この愚かな人が自分の産んだ子どものためならここまでできるのか…と母親の子どもに対する愛情や執着の大きさに感心させられる。
きっと少し変わった人なんだろうけど…それでも子どものためならあそこまで頑張れる。罪に問われた人ではあるが、過去がバレて居場所を追われたり、必死に貯めたお金を盗まれたりと、苦労が多く読んでいて苦しい。
息子に会えたこと、未来を見据えられるパートナーに出会えたこと、少し救われる終わりで良かった。
それにしても、もし自分が事故を起こしてしまったらと考えると恐ろしくなるな。 -
Posted by ブクログ
設定だけを取り出せば、かなりぶっ飛んだ話だと思う。27歳の人妻が20歳の青年に恋をして、実らなかった恋の続きを求めるように、別の子どもへと生まれ変わっていく。そのたびに、生まれ変わった先の親子の人生まで揺さぶられる。それなのに、読んでいる間は、その突飛さが不思議なほど気にならなかった。
佐藤正午の書く人物の語りには、「小説の文章を読んでいる」という感覚を忘れさせるものがある。まるでその人が本当に実在して、自分のブログに身の上話を綴っているような自然さ。語り口は淡々としていて、ことさらに感情を盛り上げるわけでもないのに、少しも飽きず、その人の独白をいつまでも聞いていられる。
そうして読んでいるうちに、登場人物との距離がいつの間にか近くなりすぎている。最初は奇妙に思えた話も、その人にとっては切実な現実なのだと感じられて、思っていた以上に深く感情移入してしまう。途方もない設定に納得したというより、語っている人の気持ちから離れられなくなる感覚に近い。
生まれ変わってまで誰かを想う気持ちと、その想いに巻き込まれる家族の戸惑い。恋をする当人たちだけでなく、周りの人にもそれぞれの人生があるから、ただ一途で美しい恋の話としては読み切れない。淡々とした語りに引き込まれ、気づけば簡単には割り切れない感情まで抱えている。その読書体験こそが、この小説の面白さなのだと思う。 -
Posted by ブクログ
ネタバレまず表紙の静かな感じに、とても惹かれました。本の内容にも合っていると思います。
どんな状況になっても主人公が腐らず、直向きに社会の中でやっていこうともがいていく姿が良かったです。
ただ、登場人物が自己中な人(鶴子さん、斉藤さん、元旦那など)が多くて読んでいてイライラしたのもあります。主人公もたいがい自分のことしか考えていない!もうちょっと事故を起こしてしまった相手のご老人のことも考えてもいいのに⋯。向こうも家族がいるかもしれないし。
そうかと思ったら、時々ものすごく善良な人(久住呂さん、慶太くん、仕事の先々の人)もいて、その人たちが神様仏様みたいに思えました。そんなに他人に尽くすことができる人なかなかいないです。
最後にようやく惰性でなくきちんと自分の道を歩こうとすることができたのは本当に良かったです。逃げずに一つ一つのことと向き合って、過去を乗り越えていってほしい。
晴子伯母さんがキーパーソンになるかと思ったら、そんなに出てこなくて残念でした。最初のインパクトが強すぎました。
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Posted by ブクログ
ネタバレ主人公の言動に歯がゆくなったり、報われなさにもどかしくなったりしつつ、常に先が気になる展開で、あっという間に読み終わった。
故意や過失がなくても、誰にでも、事故の加害者になる可能性はある。ただ、起きたことにどう対処するかが、事故そのものよりも影響が大きいのかもしれない。主人公はそこで間違った選択、取り返しのつかないことをしてしまう。奪った命にも産んだ命にも。
主人公の親友が終始浅慮で言動が不快なのに、なぜ縁を切らずに繋がり続けるのか最初は不可解だった。きっと主人公は、あまり人に入れ込まない、人は人という一定の距離を保てるタイプだから逆に彼女のような人間も許せるのかしらと解釈した。
そして主人公は体力おばけ。孤独でも貧乏でも健康で体力さえがあれば大体何とかなるのでは?と思う。
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Posted by ブクログ
晴子伯母さんの家の庭に柿の木があるんだって?
あるけど渋柿だよっ!
かおりの友達鶴子のしゃべり方が鼻につく
読みすすめるうちにイライラする気持ちがたかまっていくっ!
若白髪隠しのカラーリングをしていたらパトカーのサイレンが聞こえてきた
かおりの心臓の鼓動はとくとくとくと鳴り止まないっ!
一晩ゆっくり体を休めても気力は戻らない
ベッドで毛布にくるまり蓑虫のように過ごすっ!
傘をさしてスタッフ通用口の外にでたところで 市木さん と声をかけられる
先輩の吉野さんという人だっ!
岐阜での仕事に誘ってくれた中乃森さん
一年後の夏の真っ盛り、彼女は別れを切り出したっ!
結婚することに決めたのだという…
岡山にやってきたかおり
ここでも息子の拓への一人語りがとまらないっ!
「どうしようか、拓」
まさに不審者だっ!
九州で仕事を紹介してくれた馬渡さんは偉ぶらない
なんていい人なんだっ!
久住呂百合は墓じまいを目的とした旅で九州へやってきた
かおりがホテルの仕事を辞めてからちょうど一年が過ぎる頃だっ!
午前十時にわたしは別れた夫と再開
思いもよらぬ話を聞かされることになるっ!
コーヒーをもっとのむといい 朝ごはんも食べながらでいいから話をちゃんと聞いてくれっ! -
Posted by ブクログ
すべて真夜中の恋人たち が好きな人は好きそう。
とんでもなく暗い泥沼の中を彷徨っていたけれど、少しずつ陸が見え、かと思えば日がまた登り、また歩き出していけるようになる、みたいなストーリーでした。
過去の大きな過ちが、愛する人、自分のたらればの未来を奪う。
先の見えない不安の中で、どうしても生きていかねばならない。
期待はすれど、事態がそう簡単に上手く転ぶはずもなく。
次々と主人公に不幸が襲いかかってくる展開は、とても痛々しいですが、半ば諦めながらも必死にもがき生きる姿に勇気をもらえました。
友人関係も、恋愛も、自分の過去が裏付けたものの見方のせいで、堂々巡りになってしまう時もありますが、
それでも良い。
熟柿のようにその時がくるまで待っていればいい。
最後のシーンには奥行きを感じました。
なんとなく、いい方向に向かっていきそうだと読者に感じさせてくれるので読後感はとても良いです。