佐藤正午のレビュー一覧
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ある夏、丸田君のスマホに届いた「今年の冬、彼女はおまえの子供を産む」というメッセージ。
心当たりはないものの、それをきっかけに、彼は遠い記憶の中から失った過去を少しずつ取り戻してゆく。
第三者である語り手(これもまた物語のキーになります)により明らかになる過去の不思議な事件。
丸田君そして周囲の人達はどう受け止め、未来へつなげてゆくのか。。。
なにか長い旅をしたような気分です。
二人の丸田君が作り出す混沌とした世界観と、困惑する登場人物たちに読者が巻き込まれるような形で物語が進んでゆきます。
好き嫌いが分かれそうですが、自分はとても好きな作品です。
直木賞受賞第1作まで7年とは、なかなか時間を -
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彼はこう思っていた。僕は大事なことを忘れているのかもしれない。何かとてつもなく大きな約束を果たさないまま生きているのかもしれない。漫然と、平気でいままで生きてきたのかもしれない。そしてそのせいできっと誰かに歯がゆい思いをさせている。失望させている。誰か、顔は見えないけれど、どこかにいるその誰かを、深く失望させている。
あの事故さえなければマルセイは有名バンドの一員になれたはずだと、同級生たちの噂話を認めさせたいのか。マルセイだけではなく、ほかの二人の未来も予定が狂って失敗だったと言わせたいのか。ではあの事故さえなければ、ひとは災難さえ避けて生きていれば、誰もが思い描いた未来をまるごと手にでき -
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佐藤正午「冬に子供が生まれる」
提示される世界は最初から揺らいでるし語り手も誰なのか信用できるのかもわからないし、ミステリなのかファンタジーなのかなんなのか、どういうふうに読んだらいいか判らないまま進んでいって、中盤あたりでふと、これは人の一生についての話なのかと気づいた。佐藤正午だもん。不確かな記憶、埋もれた真実、憶測と誤解で作られた事実、人の一生なんてそんなものかもしれないし。
中心の4人を除くあらゆる人物が下衆で多くの人物が精神を病んでいる。取り巻く死。終盤に向かうにつれ、その不快で下世話な世界が急に瑞々しく透明になっていく。桜の木の下のラストシーンは圧巻。余韻よ。。 -
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ひえー面白かった。このメタな物語世界に完全に飲み込まれてなにが事実(小説の中の)でなにが小説(小説の中の)なのかが渾然一体となるのを最高に楽しんだ。言ってみればずるいんだけど、とても技巧的でもある。類を見ない構造でめちゃくちゃ面白かった。時系列も視点も作中の事実も創作もさまざまな伏線と共にかなり激しく移り変わるので、答え合わせに今すぐ再読したいほど。なにひとつスッキリしないんだけど読後感は悪くないし、強い余韻を残した。作中で誰かに用いさせた表現をその後主人公がしつこく使うあたりがなんか好きだった。あと、登場人物が誰かの喋り方をそれつまんないですよ、とか評するのがなんだかが印象的だった。ところで
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非常にすっきりとした文章でした。
カバーイラストの背景は白で書名は薄いグレー、陰影は最小限に手とリンゴを描いているのも納得です。
リンゴを買いに行ったきり戻らなかったガールフレンドを追う主人公の独白です。
書き出しがかっこいい。
カクテルと靴の話から物語が始まるのですがこれは終わりまで、物語に浸った読者をジーンと響かせてくれます。
火薬を使うような派手な演出はないですが、物語の構成はサスペンスに富んでいて楽しいです。読者の疑問は主人公の緻密な推理と自然に重なっており心地良く読めます。
ガールフレンドとの馴れ初めのシーンがお洒落で好きです。
どんな人にこの本を勧めるのかといえば運命に打ちの -
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ネタバレ『鳩の撃退法』では、どこまでが現実の話で、どこまでか小説の話なのか理解するのに苦労した。
『月の満ち欠け』では、誰が誰の生まれ変わりなのか理解するのに苦労した。
そして本書『冬に子供が生まれる』では、どれがマルユウでどれがマルセイなのか理解するのに苦労した。
でも仕方ない。作者がそういう風に書いているのだから仕方がない。小説は、一度で理解できるように書かなければいけないという決まりはない。あえてミスリードするように書いているとすれば、それは登場人物たちの混乱を、そのまま伝える意味もあると思う。
しかし、それでもやっぱり謎は残る。この小説の書き手である湊先生も真相は知らないし、マルセイとマルユウ -
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この作品は映画を先に見た。というか、先に知った。エンドロールで原作があることを知り、佐藤正午……見覚えのある名前だ! たしか『月の満ち欠け』という小説を読んだことがある──それがきっかけだった。
本書の主人公は、津田という小説家である。津田は行きつけのドーナツショップで、ある男と相席になる。その男が読んでいる本の帯に、こう書いてあった。「別の場所でふたりが出会っていれば、幸せになれたはずだった」。津田はそれについてこう言う。「だったら、小説家は別の場所でふたりを出会わせるべきだろうな」。じつは、これが小説全体の大きな説明になっている。
津田が相席した男は幸地秀吉といった。この幸地秀吉が、その夜