佐藤正午のレビュー一覧
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シンボリックで満足感のあるエンディング。オープニングでは主人公の死んだおばさんの話から始まる。夜中に一人で熟柿に小さい穴をあけてじゅるじゅるすするという行動は、親戚中から嫌われている風変わりでドケチなおばさんのイメージを見事に象徴づけている。
ストーリー展開は、主人公の市木かおりの不遇で孤独な運命に、流されながらも自分を保ち、目的を見つけてなんとかサバイブする姿が描かれていく。後半までは感情移入できなくて、読み進めるのが辛かった。それでも、読者をちゃんと連れていくのは、人物描写の妙と、少しずつ意外な角度に跳ねる展開だろう。やがて訪れるクライマックス。予想通りの場面だが、ここでもそこに至る道のりに意外性を感じた。
最後のシーンは、かおりから土居への電話だ。かおりに好意を抱き、静かに見守る土居の誠実な人間性が透けて見える言動に惹きつけられた。あんな風に自分もありたいと思う。そして、自然にぽとりと落ちる熟柿のイメージが、かおりの未来への希望と重なる。ジーンとした余韻が残る素晴らしいエンディングでした。 -
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阿刀田高、黒川博行、佐藤正午、西村京太郎、馳星周、星新一、夢枕獏『一か八か ギャンブル傑作コレクション』角川文庫。
ギャンブル小説のアンソロジー。7編の短編を収録。西村京太郎、星新一のギャンブル小説はかなり珍しいのではないか。
自分はギャンブルは余りやらない。遥か昔、20代から40代の頃はパチンコをやっていたが、主に羽物という極めてギャンブル性の低い機種であった。羽物だと打止め台の開放を狙えば、少額ながらほぼ勝てた。
7編の短編のいずれも、麻雀、競輪、競馬、カジノ、賭け将棋とバレエティに富んだギャンブルをテーマにしており、いずれの作家も勝つか負けるかの真剣勝負のジリジリした感じを見事に表現しているのが面白い。
阿刀田高『ギャンブル狂夫人』。阿刀田高は久し振りに読んだ。最後に阿刀田高らしいオチが待ち構える短編であった。結婚1年目の夫婦が記念に奈良と京都に旅行する。旅先で見掛けた中年の夫婦は2人が行く先々に現れ、少しずつ挨拶を交わすようになる。結婚1年目の夫がホテルのバーで1人飲んでいるとそこに件の中年夫婦の夫人が現れる。夫人はタバコを吸っただけで銘柄を当てられると言い、30万円を賭けて勝負することになる。
黒川博行『東風吹かば』。昔、黒川博行はかなり読んでいたように思う。最後に読んだのは『後妻業』だったろうか。実を言えば、自分は関西弁の台詞が苦手で、次第に読まなくなったのだ。さて本作。バリバリの麻雀小説である。負けが混み、手持ちの資金も底を尽き、次第に焦る博打打ちの心情を上手く描いている。作家の黒田ヒロユキが編集者からの依頼で若手女性作家の花沢唯と麻雀を打つことになった。
佐藤正午『きみは誤解している』。佐藤正午の作品は余り読んだことがない。知らず知らずにギャンブルにのめり込んでいく浅はかな男の姿が残酷に描かれる。結婚を間近に控えたJR職員の男と車内販売員の女。男は父親の形見とも言うべき500円の当たり車券を元手に競輪で一点買いを続け、元手を200万円までに増やしていた。女はギャンブルにのめり込む男を諌めるが、男は言う事を聞かない。男は結婚とその後の幸せな人生を選ぶのかギャンブラーへの道を選ぶのか。
西村京太郎『三十億円の期待』。西村京太郎と言えば鉄道トラベルミステリーのイメージが強いが、ギャンブル小説も書いていたとは全く知らなかった。しかも、本作はディック・フランシスの競馬ミステリーのような味わいの短編だったことに驚いた。鉄道トラベルミステリーの傍らで、手慰みに書いた短編ではなく、レベルが高く、非常に面白かった。中央競馬会の職員である望月という男が本命馬に騎乗した佐々木騎手が落馬し、次のレースでも落馬、さらに次のレースでは手綱を引き、棒立ちになるというあり得ない失態を犯した原因を探るのだ。
馳星周『笑窪』。既読であった。『古惑仔』の中に収録されていた1編。まさに馳星周と言っても良いほどの馳星周らしいピカレスク小説。あらためてこういう類いの小説を読むと、最近は大人しい小説ばかり書いているような気がする。酒と博打と女に目が無い腕利きの板前が地下カジノでマレーシア人ディーラーの女にのめり込む。
星新一『四で割って』。星新一も物凄く久し振りに読んだ。ショートショートではなく賭け事をテーマにしたユーモラスな短編である。賭け事が好きな四人組が公営ギャンブル以外の様々な賭け事をする。やがて四人は賭博容疑で警察に捕まり、裁判に掛けられるが、ありとあらゆることを賭け事の対象にする。
夢枕獏『銀狐』。こちらも既読であった。真剣師の加倉文吉を主人公にした短編。『夢果つる街』に収録されていた1編。祭りで賑わう街の一角で金を賭けての詰将棋を商売をする木崎という男と加倉文吉が出会う。木崎の作った詰将棋を次々と詰んでみせる加倉に木崎は賭け金を釣り上げていく。
本体価格960円
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いや、こんな小説、あっていいのでしょうか。
自由すぎる。軽すぎる。なのに骨太。
こんなに分厚いのにページを捲る手が止まらない。
面白すぎました。
主人公が書いている小説がこの小説であり、いやむしろ、作中でこの小説を書きながら(私はそれを読みながら)物語が進んでいくのに、なぜか私はこの完成しているはずの小説を読んでいる。
割と早い段階からこの構造が明かされる上に、この主人公にとってのわずかな事実を、この主人公が勝手な解釈で脚色していることも明言されている。
つかみどころのない、のらりくらりとした文体に最初は戸惑いながらも、慣れてくるとその面白さに一気に引き込まれてしまう。
私は一体何を読まされているのだと思いながらも、そのストーリーが面白いものだから現実と作品と作中とがグラデーションになって立体的な面白さを生んでいる。
まだ読んでない人には、一体何を言っているのかわからないと思うけど、そういう小説なのだから仕方がないし、これがとにかく面白い。
騙されたと思って、我慢して最初の10ページだけでも読んでみてほしい。この独特の世界観から、きっと抜け出せなくなります。
読んでよかった。名作でした。 -
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八月の雨の晩にかかってきた電話。都立高校時代の同級生だと名乗る電話の主に、私は心当たりがなかった。だけど相手は『親友だった』と告げる。『キタガワ・タケシ』と名乗る二十五年前の同級生は、自分の身に起こった不思議な出来事を綴った物語を、〈私〉だけに読んで欲しい、と言う。後日、代理人を通して〈私〉の手に渡ってきたのは、一枚のフロッピーディスクと五百万円の現金。通帳の名義人になっている女性には覚えがある。
『人生をやり直したいと思ったことがありますか?』もしも冗談でなく大真面目に答えるとして、一片の迷いもなく、「ありません」と答えられるひとは少数派だと思います。後悔のない人生を歩むほうが難しいわけですから。本作はそういった繰り返される人生についての物語です。
本書の導入に、《あの日あの時刻に生じてしまった過去の事実を、もしいまから別のかたちに置き換えることができればと、長い人生の途中で誰もが一度は願ってみる奇跡を、本気で願いつづけた物語だ》という文章がでてきますが、やがてその物語が終わりに近づく時、まだこの物語が続いて欲しい、と願ってしまう自分がいました。 -
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ネタバレ題材
・アイリスイン、アイリスアウト(タイムリープ)
テーマ
・やり直したところで、最後は受け入れないといけない
誰が何をする話なのか
・北川が人生をやり直す話(二回やり直す)
最も伝えたかったこと
・小説の構造自体
何が新しいのか
・タイムリープに巻き込まれる主人公(主人公自体がタイムリープをするわけではない)
・SF×恋愛×ミステリ
キャッチコピーは何か
『アルファベットのYのように人生は右と左へ分かれていったー』
『彼女を救うためなら、何度だってやり直せる』
その他(心に残ったことなど)
・佐藤正午は何度も似通った題材やテーマ、小説の構造で書いている。その執念深さというか、変化しないことを恐れない作家道に敬服する。
・新しくなくていい、自分の周りにあるものを丁寧に書き込んでいく、その先に「熟柿」のような秀作が待っている