I-IVのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
前巻の穏やかな空気を少しだけ引きずる前半部
特にシンの告白を有耶無耶にした上でキス逃げという前代未聞の振る舞いをしたレーナの醜態は面白いけど酷い(笑)
だからこそレギオンとの戦いが始まってからの、エイティシックスが戦う場所とはどのような場所かを思い出させる熾烈極まる絶死の戦場の悲惨さが際立つのだけれど
ゼレーネによって齎された戦争終結の手段。ひとまずフレデリカという存在の重要性は穏便に扱われたものの、まず秘匿司令部の場所を調べなければならないようで
それを思えば事はそう簡単ではないのだけど、これまで戦争に終わりがあるなんて想像すら出来なかった点を思えば、終わりが在ると知れただけでも充分過ぎる前進
それもあってか、この巻の前半部では戦争に関わらない要素が幾つか散見されたね
エイティシックスを匿ってくれた共和国民との再会、戦争が終わった後にやりたい事
それらは絶死の戦場に身を置かざるを得なかったかつての彼らには距離の在った筈の代物
そんな中でセオは別種の寂しさを見せているね
多くを得たシンは大きく変わり、ライデンはそんなシンを暖かく見守っている。アンジュはダスティンと良い感じになりそうだし、クレナもレーナをライバルと認めつつ託す判断をしている
そういった者達を代表にエイティシックスは変わり始めている
けどセオだけはあの頃と目立った変化は見せていないね。勿論あの頃とはレーナへの認識は大きく変わっているだろうけど、彼自身は過去と未来についてあやふやにしたまま
それというのも作中で言及されていたように彼は未だに戦隊長の死を自分の中で消化出来ていなかった。それが出来なければ彼は進み方を決められない
思えば今回のエピソードはそこに重点が置かれていたのかも
今回の舞台となった船団国群で戦い続けるイシュマエル達
希望の薄い戦場で血の繋がりより誇りの繋がりで戦い続ける彼らの在り様は〈シリン〉とは別角度からエイティシックスとの相似性を見出させるものだったね
だというのに、彼らは決定的な部分をエイティシックスとは異にする
〈シリン〉はその死に様によってエイティシックスの行く末を明示して、彼らに絶望を叩き込んだ
対して船団国群は戦い続けるという誇りすら擲ってレギオンに立ち向かうことで、エイティシックスが掲げ続けた誇りの本質を問い直しているね
船団国群は傍目に見えている以上の多くを失っている。国は荒廃し戦う為の力を失い。そもそも自分達だけで戦い続ける事が出来ず連絡が取れたばかりの他国に救援を求めている時点できっと彼らの誇りはズタズタだ
それでも少しでも多く生きて、勝利を目指して
死に様ではない生き様はエイティシックスが、特にセオが見出だせていなかったものをしかと見せるものに成る
何かを無くしたら無くしたままになってしまうのか?運が良くなければ何も手に入らないのか?そもそも自分は何を手にしたかったのか?
イシュマエルの生き様はそれをセオ達エイティシックスにとことん投げかける
そんな苦悩を抱えたまま始まった戦闘はやはり絶死の一言
そもそもからして以前登場したボスキャラを強化した上で量産するじゃないよと言いたくなる。この作品って何処までもエイティシックスに優しくない……
更に途中でシンがまさかの脱落をするなら尚更に戦闘は厳しくなる。
これまではシンの異能によってエイティシックスは戦えていた。いわばシンに寄りかかっていた状態
それが無くなってしまったなら、彼らは彼ら自身の力で戦場に立ち続けなければならない。それは生半可な覚悟だけで今更出来る事ではない。その感覚がセオに急激な成長を促すなんてね
最初に遭遇した時はシンですら苦戦した高機動型。複数になったそいつを相手に大立ち回りを演じてみせたセオは間違いなく強くなった
それは戦闘技術だけでなく心の強さも。だからこれまで答えを出せなかった戦隊長の死への向き合い方を漸く決められる。その感覚を自分の芯に据えられる
セオの戦果、そして戦闘中に彼が見せた心の輝きは称賛に値するほど
様々な助けの上にレギオン撃破があったとしてもセオの奮闘が無ければあの結果は得られなかった
だからこそラストの喪失に絶句してしまう
生きて幸せになると決めて戦った彼は生きてはいる。けれど戦う術は失ってしまったわけで
イシュマエルから受け取った想いはどのような変化を以って彼を支えてくれるのだろうか……? -
Posted by ブクログ
まさかこの作品で休暇を楽しむエイティシックスの面々が一巻丸々描かれるなんて想像もしなかったなぁ…
戦場に出れば死も無情も恐れぬ戦模様を見せつけるエイティシックス。けれどこうしてホテルに宿泊して観光や休息に勤しむ彼らを見ていると、やはり芯の部分は少年少女だったんだなぁなんて今更感じてしまったよ
前巻にてまたもや恥ずかしい告白みたいな事をしたシンとレーナ。もはや二人の想いは周囲の知る所となっているわけだけど、当人達はそこまで思い至ってないしそもそも直面する自分の想いにあわあわし続けている印象
このあまりにもゆったりとしていて、誰かに急かされる事もない時間と空間は二人に自分の内面を直視する時間となったようで
その分、恋に慣れぬ幼子のように勝手な想像で気分が上向いたり沈んだりといった様相は面白いね
……まあ、いい加減くっつけよという周囲の煩わしさも判らなくもないのが更に面白い所なのだけど(笑)
二人共同じ場所を目指して戦ってきた同志だから心が合わぬ訳では無い。けれどこれまでに歩んできた道があまりに壮絶だから安易な恋に溺れる事を良しとしないし、そういった行為に慣れていない
レーナが同朋の言葉に揺れて自分を「白ブタ」だなんて思い出す点や、なかなか切り出せないシンもそういった話。勿論、良い雰囲気になりかけたのに邪魔されてしまうパターンも有ったから何から何までシンとレーナの問題というわけでもないんだけれど
過酷な生き方をしているから思わずに居られない「自分は相手に相応しい存在なのか」
二人は相応の立場に在る人間だから、恋と責任がごっちゃになりかねない危うさがある。おまけにレーナは大攻勢により持てる殆どを失ってからそれほど時間が経っているわけではないから、もしシンに振られてしまったらなんて余計な事まで考えてしまう
これは一種のドツボに嵌った状態だよね。本来ならそんな事考える必要なんて無い。けれどただ恋に溺れられるような情勢じゃなくなってしまったから、恋に現を抜かす事が難しくなっただけで
ここでレーナと同じように多くを失ってきたエイティシックスやアネットが発破を掛ける展開は良いね
レーナはかつて一人になってもシン達を追い掛けると心に決めてここまで来た。でも実際に近くまで来て、あの頃は想像もしていなかった想いも抱くようになって
いわば今のレーナはキャパオーバーに近い状態だったのかも。だからレーナの抱えた想いが、これまで進んだ道がどのようなものだったのか思い出させる相棒が必要だったわけだ
恋物語だけに終止せず、一応のシリアス要素がこの巻にて有るとすれば、それは捕らえられた〈無慈悲な女王〉の件か
多くの犠牲と苦節の果てに捕らえたレギオン。何か聞き出せるなら聞き出したい。けれど相手は口を割る様子はなく
これに対峙するのがシンの役目となってしまうのがなぁ……
唯でさえ彼には戦闘面の負担も有るし、戦隊長としての責任もある。またこの巻では恋に振り回されても居るし
あまりにシンに課された役目が多すぎて彼はこの事態をどう受け止めているのかと気になってしまう
でも読み終わってみれば、〈無慈悲な女王〉もまたシンの受け止め方をずっと気にしていたのか。シンの反応が望んだものではなかったから、一度は口を閉じた
でも本質の部分でシンとゼレーネが同質であると会話によって通じ合う流れには良い意味で驚かされた
幾千万の悲壮を生み出したレギオン、その生みの親が抱える想い、シンが最近自覚した想いとリンクするなんてね。これもレーナとの関わりによってシンが得た変化の一つなのだからやはりレーナの存在はシンにとって掛け替えの無いものだと再認識できるよ
ゼレーネによって明かされた事態打開の鍵。ただ、これは扱い方を間違えれば今度こそ人類救済の策は失われるし、それどころか人類同士の内輪もめに終わってしまう可能性もある
唯一の希望はこの判断を行うのがあのエルンストである点だろうけど……
懸念事項は一応片付いて最終夜のダンスパーティーはやはり本作らしからぬ光景が展開されたね
戦いに明け暮れていた彼・彼女らが、まるで戦争とは関係ない無垢な存在であるかのようにダンスに興じる。それは常と違うものだから、常では言葉に出来ぬ想いも口に出来るチャンスが生まれる
周囲のお膳立てを散々に受けて、あまりに多くの回り道をして
そして漸く確かな形となったシンの感謝と恋心。いや、本当にここまで長かった!焦らされてきた身としてはあの場面でも余計な茶々が入っておじゃんになるのでは?と怖かったよ
…からのレーナの急進な行動には更に驚かされたけど
あんなに想いを口にする事を迷っていたのに、その先の行為はあっさりやってしまうのかいと言いたく成るね
まあ、本人としても想いが昂ぶった結果の行動だったようだけど
次巻は次巻で二人の恋物語は幾らかの迷走を見せそうだ(笑) -
Posted by ブクログ
共和国北域の地下ターミナルに潜むレギオンには人として大切なものを削り捨てていくエイティシックスと何処か類似性が見られた。だから前巻を読んだ時点ではレギオンを通して、エイティシックスのどうしようもなく誤ってしまった部分にスポットライトを当てていくのかと思いきや、この巻では更にエイティシックスの在り方をトレースするような存在が登場したね
むしろエイティシックスの信念を貫徹させた場合に到達すべき境地の存在と言うか……
今回の舞台となるのは北の連合王国。共和国とも連邦とも異なる方法でレギオンに抗ってきた国家
考えてみれば、レギオンによって窮地に陥った世界で清廉たらんとしていた連邦がちょっとおかしいのであって、普通は何処か歪みのある戦い方をしてしまうもの
ただ、連合王国の戦い方は王家やヴィーカによって洗練された歪み方をしていた気がしないでもないけど
共和国は人間を人間と扱わない事で人が死なない戦場を作った
連邦は王侯貴族から勝ち取った自由と平等を尊び自らが戦う事を誇りとした
対して、連合王国は人造妖精に戦わせる道を選んだのか……
共和国では棄民政策やレギオンの稼働限界への誤解からエイティシックスを使い潰す点が優先されたけど、エイティシックスへの対応だけを取り上げれば、連合王国の遣り方はある意味で共和国がやろうとした事の理想形
だからエイティシックスがレギオンと戦う為に人として大切なものを削り捨てていった先にある理想形が〈シリン〉と言えるか……
これまでは普通に生きてきた人間や普通に戦ってきた軍人と比較された為に化け物めいた非人間性がフォーカスされてきたけど、エイティシックスが辿り着くべき理想形が〈シリン〉として目の前に有る為にエイティシックスの歪みが際立ってくるね
特に前巻ラストにてレーナから根源的な歪みを指摘されて以来揺れているシンは尚更
一方でエイティシックスの側だけを完全な間違いとして扱うのではなく、エイティシックスだから見える連合王国の気味悪さも描いているのは本作が持つ巧さだね
〈シリン〉は死人の脳情報を使用しているものの、そこに生前の面影はなく身体も機械。極言すればレギオンに似た存在
そんなものを連合王国のハンドラーは恋人や妹のように可愛がる。生きていない物を、人間でない者を、人間のように大切にして戦場に送り込む歪み
その点はヴィーカの考えが一つの答えになるのかもしれない
「そもそも戦場自体、人がいるべき場所じゃないんだ」との台詞。命を極限まで削ってしまう場所は人が居るべきではない。だからヴィーカは戦場に人間より人造妖精を送り込んだ
ならそんな場所で生き延びてしまったエイティシックスは人で無くなったのかと言えば、それはまた別の台詞が反証となってくるのが本当に面白い
大切なものを幾らでも削り捨てて、残ったものは矜持だけ…。それでもレルヒェが言うようにエイティシックスは『生きている』んだよね。レギオンに勝つ為に機械の身体を得るわけでもなく、かといって自死に逃げるでもなく
歪みとしては中途半端。なら、そこに在るのは歪んでいても生きている人間と言えるか…
そうして戦場の理想形たる〈シリン〉が最後に魅せた『生きていない』者の矜持が凄まじい……
かつてのエイティシックスが「死ぬまで戦い抜く」を矜持としていたように、〈シリン〉は「人の代わりに死ぬ」事が矜持なのかもしれない……
戦場の無惨さに慣れたエイティシックスをして心底戦慄した〈シリン〉の在り様。でも、それはエイティシックスがエイティシックスで在ろうとするならいずれ辿り着く場所だからかもしれなくて…
レーナ、レルヒェの指摘によって自分の欠けた部分に気付いてしまったシンが求め見てしまうのはレーナですか
シンが86区で地獄を見たように、レーナも共和国防衛戦で地獄を見たはず。それでも世界の美しさや人間の優しさを信じられるのは何故なのか?
レーナはシンを追って共和国の外へ続く道を切り開いた。今度はシンがレーナを追って自分の進むべき道を見つける番かな? -
Posted by ブクログ
前巻ラストにて同調の網から逃れ自由の旅を始めたシン達。第1巻本編と2年後のエピローグ。それを軸に考えるとこの巻で描かれるのはその間を繋ぐエピソードといった扱いと思ってしまうが、むしろエイティシックスと蔑まれていた彼らの本質を描く新たな物語となっているように感じられたよ
そもそも冒頭こそその後のレーナを描きつつも、続く本編では何も説明無く戦闘に身を投じるシン達の姿が描かれるね
場所が変わっても変わらぬレギオンとの闘争、獅子奮迅の活躍を見せるシン。それはもしかしたら読者が待ち望んだ姿かもしれない。けれど同時に見えてくるのは変わらず差別される彼らの姿
共和国に居た頃は有色種であるというだけで人権も何もかも取り上げられたが為に悲惨な立場に追い遣られていた。普通に考えれば全く異なる土地へ行けば、そもそも異なる色が共存する国へ行けば差別なんてされないように考えてしまう
確かにギアーデ連邦はエイティシックスの立場を彼らなりに理解し温情を与えようとする。でもエイティシックスはその手を受け付けない。そこにこそ、もしかしたら彼らが差別の中で会得してしまった異常性が存在しているのかも知れず、同時にそんなエイティシックスを差別せずにはいられない人間の弱さが潜んでいるのかもしれない
そんな事を本書の様々な場面で感じ取ってしまったよ
何はともあれアニメから入った身としては少し驚くような構成だったかな。アニメでは基本的に時系列で描かれていたこともあり、ユージンの扱いも何となく行き先は想像出来つつもいざその場面が映された時には衝撃を覚えたものだった
けど原作ではいきなりあの戦闘シーンなのか……。ユージンが何者か判らず、そもそもシンが何故ギアーデで戦っているかも判らず極限の戦闘は繰り広げられ、あの場面へ至る
場所が変わっても、恐らく戦う理由が変わっても、そして差別される理由が変わっても。死神としての職務が何も変わらないシンの在り方。それは一見すると彼が86区の中に囚われたままのように映るけれど、実際の問題はもっと根深いのだと判るのが続く形で描かれた時間を遡ってのお話だね
運と兄の優しさによって辿り着いた迫害を受けずに暮らせる国、ギアーデ連邦。そこでシン達は一応の平和を享受していたね
こう見ると馴染めないわけではないのだろうし、そもそも最後まで戦い抜くと志して戦争に身を投じていたわけだから、自分達の戦争が終わって他の国に辿り着いたなら平和を享受する権利がある。エルンストが言うこの理論は多くの読者も納得できる筈のもの
だからこそ平和に背を向けて戦場こそ自分達の居るべき場所と考える彼らに衝撃を受けてしまう
共和国で彼らを地獄の中でも進むべき道と誇りを失わずに戦い続けさせたロジックが平和を拒む理由になってしまう点に驚き哀しみを覚えてしまう……
そうして再び戦場へ舞い戻る日々の中で特異な存在として登場するのはやはりフレデリカだろうね
前巻において死地を戦うエイティシックスに関わる事になったのは脳内花畑なレーナだった。けれど彼女は彼女の理想を押し通して最後まで関わるのを止めようとしなかったし今も関わり続けている。どれだけ侮辱されても軍属として戦い続ける彼女は一角の戦士と言える
フレデリカは生まれによる部分もあるのだろうけど達観した面がかなり有り、更にはエイティシックスの意志も尊重する度量を持っているし、大統領のエルンストと遣り合う程度の賢さも有る。同時に自分一人では何も出来ない幼さを持っている点は彼女が本質的には庇護される対象であると示しているね
そういった意味ではシンにとってレーナはもしかしたら戦友足り得た人物かもしれないけれど、フレデリカは年長者として守らねばという感覚にさせられるのかな?
それは兄に守られる形でギアーデに辿り着き、同時に兄の大切さを思い出したシンにとってフレデリカは扱いに困る相手と言える
一方でフレデリカもかつて自分を守護していたキリヤとシンを重ねている点にこの二人の関係性のややこしさが見えるのだけど……
大切な者を守るためではなく、かと言って仲間を連れていくためでもなく。エイティシックスは何のために戦っているのかと問いたくなる絶望的な戦場
フレデリカが見てしまったシンとキリヤの共通項。そして遂に牙を剥いたかつて守っていた者による凶弾
守るのか守られるのか。誰のためか自分のためか。価値観の曖昧さや緊迫感が際立つ中で次巻に続くか…… -
購入済み
読むのが先かアニメが先か!
アニメが面白かったので原作も!派です。
内容はネタバレになるので、感想だけ。アニメ視聴後も原作読了後も後味同じ!という珍しいタイプの本でした。その上で、どちらを先にするか迷っている方の参考になれば。
「戦車砲」と聞いて、戦車砲がイメージできる方は原作から。戦車砲がイメージできない方はアニメからのが楽しめるかなーと思います。
戦闘描写が多く、細かく描写されているのですが、描写されても知らんものはイメージ出来ない私のような人間には、アニメでの戦闘描写を見てからの方が文章内の戦闘がイメージしやすく理解しやすかったです。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ無人兵器「レギオン」の攻勢に共和国は同じく無人機による対抗策を打ち出していた。
共和国市民に知らされる戦況は良く、無人機のため死者はゼロ。
しかし本当は自分たち以外の人種をないとされる86区に押し込め戦闘機に乗せていた。彼らは人ではないとして。
欺瞞の中で戦わされるエイティシックスの少年少女と、共和国の奥深くで指揮を執るエリートの少女。
彼らは感覚の一部を同調させるだけで対面したことはない。
しかし本当に心を通わせることができた時、世界はどう変わっていくのか。
アニメを見ていたのですんなり世界に入り込めた。アニメもすごく良かった。 -
Posted by ブクログ
アニメの影響で読み始めた原作小説、ようやく第1巻を読み終わりましたよ…
アニメとは受ける印象が異なるシーンが多々有る本作。中でもトップクラスに感じたのはレーナとエイティシックス達の交流シーンかな
アニメではパート分けを利用して両者の住む世界は異なるものだと示していたが、原作小説では流石にそこまでしていないね。その代わりに目立つのは些細な心情伝達の不備
知覚同調を利用して離れた場所にいる人間とスムーズな遣り取りが可能になった世界。知覚の同調によって下手な無線よりも通じ合える筈なのに、レーナとエイティシックスと呼ばれる者達の会話は何処か不通気味
言葉は過不足無く遣り取り出来ても、言葉以外のものを遣り取りしていないから全てを伝え合えるわけではない。だから言葉が全てとなり、レーナより過酷な状況に身を置くエイティシックス達にはレーナの言葉の軽さが目立ってしまうわけだね
けれどレーナは自分を誠実な人間だと思いこんでいるから、自分の軽さに気づかない。それがコミュニケーションを成立しているようで成立していない代物に貶めてしまう
それにしても、本作にて何度も形を変えてレーナの常識をぶち壊す事になるエイティシックスの境遇はあまりに悲惨なものだね。悲惨すぎて言葉で簡単に彼らの境遇を解釈してしまう事に躊躇いを覚えるほど
その境遇にレーナを含む白系種の人間達は彼らを追い詰めたわけだから、そこには断絶が生じ、余りある憎しみが生まれたって可怪しくない
けれど、この局面においてもエイティシックス達の過酷な境遇が活きてくるというのは皮肉な話か
彼らは共和国内部でぬくぬくと生きる白系種よりも多くの極限に触れてきたからこそ現状を単純な対立だけで捉えていない。別に白系種への憎しみがないわけではない。けれど全てを憎しみで終えようとしていない。
この絶望的な状況下で自分達の人生をどう終えるのか、どう自由に扱うのか。それを命の限りに生き抜こうとしている
そんな彼らの心情を知覚同調だけではレーナはすぐに理解できないし、むしろ昔に直接会話したレイの言葉の方が印象深いから、エイティシックスとの会話に理想を求め当て嵌めて、そして彼らとの溝を深くしてしまったわけだ
作中でレーナが何度も衝突する事になる断絶の壁。普通なら心挫けてエイティシックスに関わる事を止めてしまうこれにレーナが何度も挑み続けるのは不屈の主人公らしさに溢れていて良いね
彼女は確かに何にも理解していないし、自分の理想を押し通そうとする若さも見える。でも自分の誤りを理解し、愚直なまでに彼らと関わり続けようとする姿勢はただ理想を追い求めるだけの人間には出来ない行動
壁をぶち破っていこうとする彼女の有り様が遠い場所で戦うシン達に少しずつ届いていく様子は好ましく映る
ただ、それでもこの第1巻においてレーナはシン達が居る場所に辿り着けない点が深い断絶をそのまま表しているのだけど……
知覚同調によってレーナとシンは幾度も遣り取りし、多くの情報を交わしレーナは知らなかった真実を知っていく。それでもレーナの耳に届く以上の声を聞き続けてきたシンはより多くの真実を知っている。共和国に未来がない事も仲間達が何を願って逝ったのかも
白系種よりも多くを知るエイティシックスの中でもシンはより多くを知っている
そんな彼が理解しきれずに居たのは兄の真意か
レーナとシンが知覚同調により断片的な遣り取りで相手を理解しなければならない為に意思の不通が生じたように、シンも兄のレイが最後に発した断片的な言葉だけが纏わり付きコミュニケーション不全を起こしていた
兄の憎悪だけが耳と記憶に残り兄を正しく覚えていられなかった
逆に言えば、レイの言葉と理想を正しく覚えていたレーナの存在はシンにとってどれだけの救いとなったか……
それだけでなく、絶望的な任務の中で生じた兄との死闘にもレーナは追い縋り、シンの戦いを助けるどころか彼が口にできなかった本当の想いも掬い上げてみせた
それはコミュニケーションが不完全な中で為された人を救う意思疎通と言えるのかもしれない
終盤、レーナが呆然と零した「おいていかないで」という台詞にこの巻で起きた様々の変化が籠められているね
何処にも行けずどのように死を迎えるかしか選べなかったシン達が有限の物資を伴って無限の路を行く。その旅路に壁の中にいるレーナは付いていけず、けれどいずれ彼らに辿り着きたいと思うから納得できない言葉が零れてしまう
同調の網から逃れ消えた5人を追い始めたレーナの道行きはダイジェスト気味に描かれたわけだけど、それはあのラストシーンを尺に納めるためなのかな?
何はともあれ、彼と彼女は遂に直接に出逢った。それは断絶やコミュニケーション不全を乗り越えた物語に一区切りを付けるシーンとして最上のものだったね