I-IVのレビュー一覧
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ネタバレ 購入済み
自由と平等の酷薄さ
今回の話はこれまでに比べてもかなり面白いテーマであったと思う
自分は作中で表現されるところの羊としての素質と王としての素質を半々くらい持っていたらしく
どちらの言い分も分かってしまい、脱走兵達の不平不満に共感すると同時に、連邦軍人達のように呆れと嫌悪感も抱きながら読んでいた
悪者になりたくないから、無能は何もするな、という残酷な本音を言いたくないだけの卑怯者という言葉は読んでいて思わずハッとさせられてしまい、思わずその前後の文章を何度も繰り返して読んだほどだった
その後のミアロナ中佐の本音もまた、彼らの行動を嫌悪しつつも押し付けられた自由と平等の残酷さに振り回される羊への哀れさを悼むもので、それがどこか自分にとっても救いを得られたような気分で今までとはまた違う意味で強烈に印象に残った
一方で同じような元農奴出身でも諦めずに中隊長の
言葉を信じて必死に避難民を守り抜いた兵士の心情の吐露は短くまとまっていながらとても心を揺さぶるものだった
不安に挫けそうになるだろうことを見越して彼らがそれでもなおヒーローとして歯を食いしばれるようにと残した言葉とその後の泣き崩れた兵士のくだり
人間の善性の美しさ、弱くてもそれでも出来ることを果たそうという尊さ
それらがコンパクトに、とても美しく描写されていたと思う。個人的にはこの巻でのベストバウトはここだと言ってもいい
もしも、信じた者が優秀であれば、脱走兵達もまた違う未来があったのだろうかとも考えた
トーチカに籠った兵達は中隊長によって使命を与えられ、信じるものを与えられ、誇り高き軍人としての誇りを自覚させてもらえた
この差は非常に大きいものであったと思う
死してなお支えとなり兵達を守り抜いた中隊長と、死ぬその瞬間まで結局は保身に走ってしまったノエレの対比は極めて残酷に感じる
誰もが強くあれるわけではない。ノエレの行動は愚かで嫌悪すべきものだったが、私は彼女を痛ましく思う
無能であることは罪だと思う。しかしそれを当人が自覚したところでどうにかなるものでもなく、自己責任の一言で片付けられてしまう自由と平等の美辞麗句の酷薄さもまた真理であると思う
一方で己の無能を他者のせいにする無様さもまた嫌悪されて然るべきであると思う
自由と平等、強く生まれた者、弱く生まれた者
改めて考えさせられる1冊だった -
Posted by ブクログ
〈シリン〉の犠牲により自分達の行き着く死を直視してしまい揺れるエイティシックス。その葛藤が最終的にあのような結論を導き出すとは……!
エイティシックスにとっては、いずれ訪れる死の瞬間まで戦い続ける事が誇りだった。それにより残酷な世界に負けまいとした。けど〈シリン〉により戦い続けた果ての死を見せつけられれば、エイティシックスとしての矜持は揺れる
それは自分達がエイティシックスで居続ける意味さえ疑問視させるもの
これまでエイティシックスは自分達とそれ以外を分ける事により世界を睥睨していた。外の声など聞く価値がないとしてきた
けど、矜持が揺れている状態では外の声は以前より聞こえてしまう。それはレーナの声だったり、ダスティンの声だったり、〈シリン〉の声だったり
エイティシックスの中でも最も揺れていたのがシンだね。特にシンは聞こえてしまう声だけでなく、レーナの声を拾い漏らさないようにしているから余計に揺れる
元々シンとレーナでは持つ価値観が大きく異なるから、聞けば聞くだけシンは断絶を感じてしまうわけだ
それでもレーナと共に居る為に痛みを感じても変わろうとするシンはそれだけで充分に変化の兆しを手にしていると言えるけれど…
変化には痛みが伴う。それは戦場でのミスによる負傷だったり、レーナへの意図せぬ暴言だったり
でも、かつて無い程の痛みを抱えたからこそ、これまで我慢できていた痛みを「痛い」と感じられたからこそ、自分が今何をしなければならないかを自覚できるわけか
レーナの方も自分の言いたい事だけを言うのではなく、シンの想いを聞き取ろうとし始めたのは印象的
自分の価値を正しいと押し付けてしまえば、別の価値観を持つシンを余計に傷つけてしまう
そこで一旦距離をおくのではなく、シンの価値観と自分の傲慢さを知って、それでも尚レーナはシンを理解する為にシンに近づこうとするんだね……
シンとレーナには絶望的に足りていない理解の為の対話。その約束を交わして
そうして始まる竜牙大山攻略戦は壮絶の一言。そもそも火山に飛び込んで敵基地の破壊やら首領の鹵獲を行おうというのだから生易しい作戦にはならないのは当然として、ここにフォニクスも参戦してくるのだから堪らない
一方で己の死を直視してしまうような環境では、逆に死にたくないという感情を呼び覚ますのか
かつてはシンがレーナを置いていってしまった。今回もシンが火山に飛び込む側
だというのにあのシンが「おいていかないでください」と言うなんてなぁ……
あの時は先に進むシンに追い付こうとレーナは必死になった。けど今回の言葉は二人として生きていく為の言葉。だからレーナも「帰ってきなさい」と返す
二人はようやく対話に繋がる始まりの言葉を言い合えた気がするよ
だというのに、フォニクスを撃破したシンの前に広がるのは絶対死の光景だった点は震えそうな心地になってしまったよ……
あのシンが死なずに帰る気持ちを固められたというのに、その直後にこのような仕打ちを……
それでも理不尽な絶対死を前にして、戦う意志を再度固めて「死にたくない」と思えたシンは本当に変わったね…
エイティシックスとして戦い続け、何度も死にそうになって、それでも生きたいと願って
そうした葛藤の果てに「誰かと生きたい」と言えたシン。その想いを確かに出来たから辿り着いた実家の誘いよりも優先したい人がいると伝えられる
レーナは「お帰りなさい」、シンは「ただいま」
どちらかが先に進むのではなく、共に歩んでいくのだと。そう理解できる素晴らしいラストでしたよ…… -
Posted by ブクログ
油断したよ…。そりゃ油断したよ……
前巻ラストにて分かたれていたレーナとシンが遂に対面を果たし共に戦うと誓いあった。今巻の序盤なんて本作らしくない程にラブコメしているレーナとシンの様子が描かれたらそりゃ油断するよ……
おまけに今回攻略する事になった敵拠点だって当初の想定じゃ、ただの制圧戦で終わると思われていたのに全然違ったし……
共和国に迫害されたエイティシックス、そしてレギオンが取り巻くこの世界がどれだけ残酷なものか改めて突きつけられた気分になったね…
共和国にて戦っていた者達も連邦に拾われ、独立機動打撃群なんてちょっとアレな部隊に再編されたシン達エイティシックス。そんな彼らに任されたのはまさかの共和国における奪還作戦ですか。エイティシックスに共和国内部を守るような作戦を任せるなんて趣味の悪い…と思わなくもないけど、逆に純粋な連邦軍だとそこまで進軍する難しさも有るか…
襲い掛かる侮蔑と迫害の嵐。レーナが当然のように義憤するそれを気にしないエイティシックス達。初見時は何処か違和感の有る描写では有ったんだよね、これ。以前彼らが捨て置かれていた環境を思えばあの程度の悪意に反応する理由はないだろうと思える
でもあまりに反応しなさ過ぎではないかと思えたし、レーナを過剰に特別扱いする様子にも違和感は有った
その点は話が進み、北域に棲み着いたレギオンの有り様を見ていく中で理解させられたのだけど
第1巻を読んだ際に強く感じたのはレーナとエイティシックスの間におけるコミュニケーション不全。それは空間や精神があまりに隔絶している為にコミュニケーションが成立し得ないという感想だった
ならすぐ近くに居られるようになった今巻ではそれを感じなくなったのかと言えば、むしろその逆。近くなったが為にレーナとエイティシックスの隔絶がより鮮明になった印象
ただ、その隔絶はレーナとエイティシックスの間に有るというよりも、エイティシックスとそれ以外の間に有るといった感じなんだよね
その事実がエイティシックスが共和国に帰ってきた状況により…というよりも変貌するレギオン掃討を行う中で見えて来たのは意外を通り越して恐ろしいの一言
共和国で鹵獲した市民を元に大量の〈羊飼い〉を生み出したレギオン。レギオンにとって鹵獲した人間が白系種であるかエイティシックスであるかなんて関係ない。ただ、人間であると言うだけで鹵獲と虐殺を行う
白系種だけでなくエイティシックス内でも様々な迫害が行われたエイティシックスの少年少女たちにとって、自分達以外の人間を名乗る者達の色なんて関係ない。「自分達」でないならそれは仲間ではない
人を効率的に狩るために不要なものを切り捨て続けた果てに機械知性を手にしたレギオン
高機動型に対応するために戦闘に不要なものを消し捨てようとしたシン。他のエイティシックスにも大事な何かを消し捨てた印象を覚える
レギオンとエイティシックス、どうしようもなく異なる存在の筈なのにどこか類似点が見られた両者。なら、謎の存在が「探しに来なさい」とエイティシックスであるシンに告げたのは何か特別な意味があるように思えてしまう
もう一点気になったのはレーナとライデンの違いかな…
立場的な違いも有るだろうけど、レーナはアネットが生息不明になった際に彼女を切り捨てる決断をした。それは結局シンが「大佐には似合わない」と言って救援に向かったから大事には至らなかったけど
ライデンはレーナがシンを切り捨てるか迷った際、それに反発する姿勢を見せた。これにはレーナが救援する方向で考えを固めたからライデンは命令無視することはなかった
ここに見られた違いはやはりライデン達がエイティシックスとそれ以外を分けて考えているかのように感じられる描写だったよ…
追い付けた筈なのにどうしようもない遠さを感じ取ってしまったレーナ。彼女がこれからもシン達エイティシックスと共に戦う理由は何であるのか?それが改めて問われているような気がするよ -
Posted by ブクログ
共和国で迫害されていたシン達エイティシックスが連邦に移り住んでも意味を変えて別種の迫害が続く構図が描かれた前巻。その状況はこの3巻になっても変わらないのだけど、モルフォという人類共通の強敵が現れた事で軍内部での蔑視、世間からの憐憫は他所に置かれることになるね
その代わりに顔を出すのはエイティシックスが異邦人であり、戦いに赴く事に何の躊躇もなく、そしてその死を悲しむ者が本人達含めて居ない特殊性
モルフォ撃破の為に編み出された生還が限りなく不可能に近い特攻作戦。それに反対する者が直属の上司であるグレーテくらいしか居ない状況というのはあまりに物哀しいもの
また、エルンストとは別の形で庇護者として振る舞うグレーテもエイティシックスの理解者とまで成れていない点も哀しいね
グレーテはエイティシックスに寄り添おうと、彼らの理念を戦場に体現しようと努力している。けど連邦の理想や自分の信念を持って彼らに接する限りエイティシックスを理解なんて出来ないんだよね…
シン達も別に理解を求めているわけではないし、理解が可能とは思っていない。自分達に生還不可能な任務が宛てがわれたのも不満があるわけではない。でも、ここでセオが寂しさを感じたように自分達の道行の不確かさを嘆いた点は今後において変化させなければならないとの可能性を感じさせたよ
そうして始まった大規模作戦はエイティシックスを槍の穂先としつつも、共和国に無かった連邦の覚悟を示すものになるね
戦闘の中でもエイティシックスを侮蔑している点は変わらない。それでもエイティシックスこそモルフォを討滅すると信じ、そして国を守る為に命を懸けて戦っている
迫害の状況そのものは変わらなくても、その意味合いをほんの少し変えるかもしれないもの
一方でその辺りから際立ってくるのはエイティシックスにおけるシンエイ・ノウゼンの特殊性
エイティシックスは連邦の温もりに染まらず、軍部においても異次元の強さを見せた為に白眼視された。それはエイティシックスが連邦でも浮いた存在だった事を示している
けど、軍から離れてキリヤが宿るモルフォが近づくに連れ顕わになっていくのはエイティシックスの中でもシンが浮いた存在である事実だね
亡霊の声が聞こえ続け、エイティシックスの中でも別格の強さを持つ。何も叶えられずに死ぬ筈だったエイティシックスの中で唯一目的を遂げてしまったのに、仲間から願いを託され生き続ける事が至上命題となってしまった
そうしてシンだけが抱えてしまった孤独と空虚さは仲間と共有できないもの
それに似たものを共有できるとすればそれこそキリヤだけであり、キリヤを討ち倒した後のフレデリカだけ。だから最終決戦の場に存在したのもその三者のみという事になる
シンはキリヤを撃破した先に得られる何かを全く持たないしのに、モルフォを倒せる力を持っているというのは皮肉な話。そんなシンがキリヤとの戦いの中で望んでいたかもしれない唯一は死に場所か……
辿り着いた筈なのに何処にも辿り着けない。生き残ったのに生きている気がしない
だからこそ絶望に包まれていたシンの前にあのレーナが辿り着いてくれた事に感動してしまう。この時、レーナは話し相手がシンと気付いていないから、その上で彼女が語る言葉はシンに対して格好つけるものではなく、彼女の信念として彼女の中枢に焼き付いているもの
なら、誰がそれを焼き付けたかといえばシンエイになるわけで
託されるばかりだったシンエイの前まで、唯一願いを託した相手が生きて辿り着いた。それは他の何よりもシンエイ・ノウゼンが未来へ辿り着いた証であり、生きている証となるわけだ
また、戦友には死を与える事しか出来なかった死神を前にして、シンが居たから生きていられたとレーナが断言したシーン等は本当に感動してしまいますよ……
モルフォを倒して人類が救われるわけではないし変わらずに不利のまま。希望は何処に有るとも知れぬ状況
それでもシンがようやく生きる理由や戦う理由を手にし、遂にレーナと対面を果たした。それらの誰にも侵されることのない事実はこの物語がとても尊いターニングポイントを迎えたのだと感じさせたね