池袋でヒカルの碁展があった折、久しぶりに読みたくなって、全部読んだ。再読するまでは、どれだけ世間が「佐為が消えた時に完結しておけば良かったのに」という論調で溢れていたとしても、いやその後の展開もヒカルが自分の碁を明確に掴むまでの道程なのだよ、などと訳知り顔をしていたものだが、全く佐為が消えた時に完結して問題なかった。
佐為が消えた時に完全に完結している。その後の話は全部公式スピンオフでしかない。結局のところ、世論と同じようにわたしもそう感じた。
いや面白い。十分面白い、ヒカルと年相応の喧嘩をしてキレる塔矢や、ヒカルと塔矢が共闘するのを見るのは。
ただもう完結している物語ではあった、確実に。
ヒカルの碁で好きな対局は次々あるが、大人になって見返してみると、尚辛さを増した一局がある。葉瀬中囲碁部の三将戦。ヒカルは真剣に打っているのに、塔矢はヒカルのあまりの下手さに、「ふざけるな!」と怒りをぶつける。
尊敬して、あなたのようになりたいと思っている人に、能力のなさを落胆され、憤りを伴って見限られる。自分も類似の経験をしたことがある分、非常な辛さがあった。
改めて読んでみると、ヒカルにとってあの三将戦は最後のチャンスであったようにも思う。
重要な場面で佐為の力で勝っていくことを続ければ、ヒカルはもう自負を持って自分の碁で戦うことはできないだろう。
少なくとも、「オレは塔矢のライバル」と言えなくなっていくであろうことは明らかである。
塔矢の期待を裏切ることになったとしても、それでも塔矢に自分を見てもらいたい。塔矢の碁に対する真剣な目に憧れたからこそ、その目で自分を見て欲しい。
ヒカルのその思いが溢れた一局、一手であったと思う。なんて眩しく、一直線な感情だろうと思った。
塔矢にとっても辛い一局であったことに変わりはないが、よく、自分で打った。わたしはヒカルをそう賛辞したい。
あの一手こそ、ヒカルが自分の碁を打ち始めた、明確な分かれ目であったと思う。