藤井光のレビュー一覧
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2013年、ガザ・イスラーム大学の教員リフアト・アルアライールと彼の学生たちが、2008年12月~2009年1月にかけて行われたイスラエルの軍事侵攻「キャストレッド作戦」をガザの側から小説として記録した23篇の短篇とショートショートを収める。原著は2014年に米国で刊行、日本語訳は2024年刊行の新版にもとづく。編者のリフアト・アルアライールは2013年12月にイスラエルのミサイル攻撃で殺害され、新版の刊行時では本書の執筆者6名と連絡が取れていないという。
原著の序文でアルアライールは、パレスチナの人々と物語の特別なつながりについて語っている。「物語は、人間その他すべての経験を超えて生 -
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"絶望は長くはつづかない。マリー=ロールはまだ若く、父親はとても辛抱強い。彼は娘を安心させる。呪いなどない。悪運や幸運はあるかもしれない。それぞれの日が、いい日か悪い日かに、わずかに傾くことはあるかもしれない。だが呪いはない。" (p.40)
"この世界は、なんと迷路に満ちていることか。木々の枝、線条細工のような根、結晶の基質、父親が模型で再現した町の通り、アクキガイの貝殻についた小さな結節にある迷路、カジカエデの樹皮にできた迷路、ワシの羽の空洞内部の迷路。なによりも複雑なのは人間の脳だよ、とエティエンヌはよく言っていた。存在するなかで、もっとも入り組んだものか -
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その光は波であり、海であり、ラジオだ
すべての事物が反射する可視光線とは別の、見えない光
それは命であったり、希望であったりする
第二次世界大戦下のフランスとドイツ
それぞれに生きる人々
そこは混沌として、明日がみえず、望みは断ち切られ、人々の命は消えていった
“見えない”ことは少女の盲目だけでなく、世界に溢れる不可視なものと同時に、その時代性も指している
そこにある綺麗なものと醜悪なもの
それらは同時に並立し、簡単に反転する
技術の軍事転用や宝石、人の心
すべてが簡単に裏切っていく
しかし戦争をある種の壮麗さと残酷さを同居させるように描きながら、物語には救済を用意しない
それはアンソニー・ -
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詩情豊かな描写、それに訳文の美しさに心が躍る。プロットの巧みさに唸る。ストーリーの行き着く先に固唾を呑む。ページを捲り続ける。読み終わった後にはそれらを合わせた以上の感動が残る。
人はときに残虐で歴史は残酷だけれど、そこから掬い上げられた人々の物語は、やさしさをもって語られる、そこにもある、あったはずのやさしさが語られる。そこには光が差している。そして、その光のなかに希望がある、そう思いたかった。とても素晴らしい小説を読んだ。深くため息をつく。
心身が草臥れているときは、あまり本がうまく読めないのだけれど、それでも本当に素晴らしい小説を読みはじめてみれば、「読書は我を忘れさせてくれる」。時代 -
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銃が勝った、いつものことだ!
全身に響く本だった。泣きすぎて二重が消えた。
美しいフランス、ドイツ、ロシアの情景を通じて盲目の少女と、小柄な少年、周りの優しい人達が描かれる。
文章はとても平易でやさしい。
そしてその優しい言葉で、戦争でその人達が何もかも失う過程を容赦なく見せられる。
戦争は誰も勝たない。アメリカもイギリスも勝っていない。
勝ったのは銃、大砲、手りゅう弾、原爆、暴力。
負けたのは全ての人。鳥が好きなフレデリック、仕事を愛するまじめな錠前主任、そばかすだらけの空想好きな少女、科学と発明に夢中な少年、正義感あふれる女の子、たくさんの優しい大人たち。全て負けた。
美しいフランスの海 -
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『地下鉄道』でピューリッツァー賞フィクション部門含め様々な文学賞を総嘗めしたコルソン・ホワイトヘッドが、再びピューリッツァー賞フィクション部門を受賞した作品。
『地下鉄道』が強烈な作品だったため、さすがに前作は超えられないんじゃ、と勝手に訝って発売から大分経ってから読んでしまったが、これも力強い傑作だった。
黒人の差別の歴史はずっと続いているが、BLM運動が起きていた発売当時に読んでいたら、もっと印象深い読書体験になっただろうな、と少し後悔した。
本書は実際に起きたドジアー校という更正施設での虐待事件をモチーフにしている。
ニッケル校という少年の更生施設近くの土地から遺体が次々と発見される。 -
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「親が悪党だからって、子も悪党になるわけじゃない。そうだろ?」
ハーレムにある中古家具店で働くアフリカ系アメリカ人のレイ・カーニー。近頃、彼の店にはガラの悪い男たちが出入りしていた。
数々の罪を犯した父親とはちがい、カーニーはまっとうな人生を築くために誠実に働いた。愛する妻と娘もいる。だが、食べていくのは容易じゃない。時には、従弟のフレディがもちこむ盗品も売るしかなかった。
ある日、フレディたちの起こした強盗事件にカーニーは巻き込まれる。そうしてギャングと悪徳警官が、カーニーに目を留めたのだった。
妻子と自分を守るため、カーニーはならず者との裏取引を重ねていく。
結局、自分も悪党なのだろうか -
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第二次世界大戦下。フランス・パリの博物館で働く父と暮らす盲目の少女。一方は、ドイツの炭鉱町にある孤児院に妹と暮らすラジオに興味を抱く少年。
国も境遇も違う、戦争が無ければ決して巡り合わなかった二人の人生が、時間軸を前後しながら短い断章として交互に語られていきます。次第に戦争に巻き込まれて行く盲目の少女と少年の心情。そして、二人を中心とした他の人との交流が丁寧に描かれていて、美しい文章表現と相まって話しに引き込まれていきます。
ただ、読み終えた直後は、期待した結末ではなかったので、しばし呆然という感じでした。しかし、少し時間をおいてみると、この結末だからこそ、二人の邂逅がより輝いて感じられる -
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『闇に包まれた穴の底には、龍が横たわっているような気がした。(中略)年寄りたちの言うには、そうした穴は龍が冬眠をする穴ぐらだそうで、龍は夏になると穴からはいずり出てきて天空に飛び立ち、冬になると再び穴に舞い戻ってくるという。穴の付近の雪が解ける理由は、龍の吐く息が穴から噴き出してくるせいらしい。ぼくはその言い伝えを知っていたので、穴の底でひとりぼっちにさせられたとき、龍に食われてしまうんじゃないかと怖くてたまらなかった』―『ラシャムジャ/穴の中には雪蓮花が咲いている』
「絶縁」というテーマのアンソロジー。村田沙耶香が作品を寄せているというので読んでみたのだけれど、その他のアジア圏の作家の短篇