藤井光のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
生きるということは、物語を紡ぎだすこと。
昨日があり、明日がある。
過去があり、未来がある。
そう僕らが素朴に信じられるのは、生きることに意味を与え、自分自身の物語を作り上げてゆく力があるから。
その場限りで消えゆく現在の集積に過ぎない生の中から、点と点を繋ぎあわせてストーリーを与えると、それは人生となり、より大きな歴史の一部になる。
それでも虚無に飲み込まれ、自分の物語を信じれなくなるときだってある。
本当はただ刻々と過ぎゆく“今”だけが生の本質に過ぎないのでは?
物語という虚飾を剥ぎ取れば、生には意味も目的もないのでは?
そんな暗い夜にも、僕らにはすがるべき多くの物語がある。ドーアの「天空の都の物語」でも、極限状態の人々を救い、照らしてくれるのは、古い古い物語だ。
それは英雄の勲でも、人類の叡智を集めた書でもない。
滑稽で、愚かさが故に厄介ごとを次々と引き寄せる羊飼いのお話。あきらめることをしない男のお話。決して希望を捨てないお話だ。
過去から未来へと、「ギリシャ語による古い物語」が失われてしまわないように繋いでゆくというドーアの「天空の都の物語」のプロットは、本を愛する者として、胸に響く。
古えから託されてきたものを次世代へ繋げること、未来へ伝えること。だが、より大切なことは、「自分のためだけの物語」をテクストに重ねてゆくことなのだろう。
一つの物語が無数の物語に育つ。
とても素敵だ。
“生きるためには他の人々が死なねばならない、と男たちはどうやって自分を納得させるのか。”
“生を享けた子どもの中で、あいつらを出し抜いて、あいつらより長く生きて、あいつらから逃げ切れるとしたら、それはあんただ。まだ人生が待っている。”