【感想・ネタバレ】ニッケル・ボーイズのレビュー

あらすじ

1960年代アメリカ。アフリカ系アメリカ人の真面目な少年エルウッドは、無実の罪により少年院ニッケル校に送られる。しかし校内には信じがたい暴力や虐待が蔓延していた――。実在した少年院をモデルに描かれた長篇小説。ニューヨークタイムズ・ベストセラー。

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Posted by ブクログ

『地下鉄道』でピューリッツァー賞フィクション部門含め様々な文学賞を総嘗めしたコルソン・ホワイトヘッドが、再びピューリッツァー賞フィクション部門を受賞した作品。
『地下鉄道』が強烈な作品だったため、さすがに前作は超えられないんじゃ、と勝手に訝って発売から大分経ってから読んでしまったが、これも力強い傑作だった。
黒人の差別の歴史はずっと続いているが、BLM運動が起きていた発売当時に読んでいたら、もっと印象深い読書体験になっただろうな、と少し後悔した。

本書は実際に起きたドジアー校という更正施設での虐待事件をモチーフにしている。
ニッケル校という少年の更生施設近くの土地から遺体が次々と発見される。
かつてニッケル校に在籍したことのある主人公のエルウッドがニッケル校に送られるまで、送られてからの生活、そこから出るまでが描かれていく。のだが、後半のある部分で仕掛けが施されてる。その仕掛けがあまりにも辛くなるものだった。
文学的に、こういう仕掛けは決して新しいものではないのだが、これが黒人の差別、その差別には黒人が自由になった時期よりも長い奴隷としての歴史、迫害、差別の歴史があるのだとわかっていると、この仕掛けにどういう意図があったのかが見えてくる。
自分は、これは決して忘れないというバトンであるという気がした。

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2024年02月20日

Posted by ブクログ

前作『地下鉄道』と比べて、地味な話だなと思い、読むのが遅くなったが、そうではなかった。ネタばれになるので書かないが『地下鉄道』と同じくらいか、リアリズムの分だけ本書の方がくるものがある。アメリカの人種差別問題がモチーフになっているがそれを超えて人間というものを問いかけてくる。

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2021年05月09日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ハッピーエンドではなくて、悲しい結末だが、救いない結幕ではない。暗いないようなので、新年に読むには、しんどかった。翻訳はとてもよい。

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2021年01月02日

Posted by ブクログ

真面目に前向きに暮らしていた少年が、不運によって人種差別が色濃く漂う劣悪な少年院に放り込まれる。
実話をベースにしたフィクション。
だが、この物語のような話はいくらでも存在したのだろう。

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2020年12月25日

Posted by ブクログ

『ニッケル・ボーイズ』コルソン・ホワイトヘッド著、藤井光訳(早川書房)エルウッドの人生から見える米国の構造的人種差別。実在した「エルウッド」たちの叫び。「究極の良識が、あらゆる人の心に息づいていると信頼すること」が公民権運動のメッセージ。(p.216)読んでいて身体が強張り震えた。#読書 #coltonwhitehead #翻訳 #藤井光

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2020年12月07日

Posted by ブクログ

新たに大学で夢に向かって行こうとするエルウッドに差別という冤罪がおこる
5セント(ニッケル)ぐらいの価値しかないと暴力により肯定され、人生を否定されてきたエルウッド
キング牧師の言葉を胸に暴力でどん底な人生から自分を欺くのをやめてもう一度自分の人生を取り戻すために戦う
エルウッドと共にニッケル校で親しくなったターナーと一緒に新たな人生に向かって生きていこうとするが…
否定され続けた人がどうすれば人生を歩き直せるのかを知ることが出来る

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2025年03月27日

Posted by ブクログ

いちど徹底的に尊厳を奪われた人間が自分の価値を取り戻すのがどれほど困難か。
鞭の痛みがどれほどの苦痛を与えてその恐怖が思考に組み込まされるか、鞭打たれたことのない私達には絶対に想像できない。だがその想像を超えた痛みを植え付けられたニッケル・ボーイズを動かせたのは紛れもなくエルウッドの魂だった。蟹工船の森本がそうであったように。

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2024年09月03日

Posted by ブクログ

著者の代表作『地下鉄道』は歴史改変小説という特殊なジャンルだった。そのためかなかなか世界観に馴染めず、先に実話を基にした本書から取り掛かることに。

読むだけの充実感がある反面、重い…。目に見えない重しがのしかかってきているようで、読み終えた瞬間に思わず息を吐き出した。
史実(それもつい最近明るみになった)とフィクション・過去と現在が巧妙に入り混じり、特に第三部からのストーリーの進め方には度肝を抜かれる。恐らく読後、一部の章を読み直さずにはいられなくなるだろう。
『地下鉄道』よりこちらの方が自分の肌に合っているかも。

「侮辱されるたびに野垂れ死にしそうな気分になっていたら、日々を生きていくことはできない」

舞台は1960年代前半のフロリダ州。アフリカ系アメリカ人の聡明な学生エルウッドは祖母との2人暮らし。ある時大学進学に向けてのチャンスに恵まれるがそれも束の間、無実の罪でニッケル少年院に送られてしまう。
少年院を出るには院内にて善行を積み、ポイントを稼いでいかねばならない。加えて、院内で横行する暴力や虐待に耐えてゆかねばならない。地獄のような日々の中、エルウッドはターナーという少年と出会い次第に友情が芽生えていくが…。

「少年たちは、あの学校に潰されさえしなければ、いろいろな未来に進むことができた。[中略]彼らには平凡であるという単純な喜びすら与えられなかった」

第一印象としては『ショーシャンクの空に』の少年院ver.っぽいと思ったが、精神が未成熟であるが故に彼らの恐怖がより身に染みて伝わってきた。(男同士の固い絆と収監された場所が「名ばかり更生施設」であることは共通していると思う) 用務員による壮絶な虐待により最悪の場合命を落とすことも少なくなかった。
これは何と近年閉鎖したアメリカの男子学校がモデルで、本書に登場する独房や拷問部屋も実在していたという。
本書では日常の一コマであるかのように描写されており、憤りよりもまず不気味さを覚えた。

「みんなが目を背けているということは、みんなグルだということだ」

学校の閉鎖に伴いようやく暴力・虐待の告発がされたというが、近年のヘイト事件を見る限りこうした問題は解決の兆しすら見えていない。差別意識はアメリカ国民の中にDNAとして刻まれている。更に差別された側には恐怖も刻まれる。
エルウッドは元々公民権運動に関心のある学生で、序盤では黒人デモにも参加していた。しかしニッケルでの体験を経て、後半では白人に助けを求めるようになる。「究極の良識」が人々の心に刻まれていると信じ、望みを賭けたのだ。

今思えば「外に味方がいるエルウッドだから踏み出せた」とも言える。
でも人種を問わず世間の誰かが「おかしい」と共感してくれるだけで、その人の「究極の良識」を信じてみようと思えるのかもしれない。「自分には味方がいる」と思えれば、行動する勇気が湧いてくるのかもしれない。
つまりは、まだまだ綺麗事を諦める時ではない。

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2024年03月09日

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繰り返し、世界の発信されてきて、今なお光が見いだせていない黒人差別。「地下鉄道」と同じ筆者?と感じる程に抑制された文体の謎が巻末説明で納得できた。圧倒されるのは、その抑えた空気故に地下で炸裂して迸るエネルギー。リアルという事実に勝るものはない。

ホワイトヘッド50歳半ば、藤井氏40歳半ば、何れもアブラギッシュの人物が取り上げて世に問うているものはあった!

アフリカにれてきて、今なお光が見いだせていない黒人差別。「地下鉄道」と同じ筆者?と感じる程に抑制された文体の謎が巻末説明で納得できた。圧倒されるのは、その抑えた空気故に地下で炸裂して迸るエネルギー。リアルという事実に勝るものはない。

ホワイトヘッド50歳半ば、藤井氏40歳半ば、何れもアブラギッシュの人物が取り上げて世に問うているものはあった!

ヒトの祖は アフリカに現れたという事実はまごうべくもない‥がその後の歴史、特に新大陸発見からの怒涛の時間は彼らを蹂躙して余りある。特に新大陸アメリカ、今日の姿になるまでに白人が流した「生贄の血」
代償となった彼らの叫びは未だに他民族寄せ集めにすぎぬかの地で日の光の下に堂々と続いている・・時には政治の力を持って迄。

ホワイトヘッドの登場はそれまでキングズ牧師らが築いてきた歴史を繋げる素晴らしいペンの力だ・・頂ける自分に幸せを覚え、更に追って行きたい。

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2021年07月09日

Posted by ブクログ

今でも解決できない人権問題の歴史
カラー、経済力、権力、人間の根源
にある欲望や、醜い部分、人類の歴史
が始まって以来、繰り返している。
なんとも悲しい。

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2021年03月23日

Posted by ブクログ

小説だけれど、事実を基にしている。2011年まで運営されていた少年院が舞台。主人公は何の罪も犯していない。ただ運が悪かっただけ。世界は変わると信じている。彼が、アフリカ系アメリカ人が、理不尽のただ中で生きていくことの苦さで、胃の腑が捻り上げられるよう。それでも、言葉の力が本を閉じさせない。
物語の仕掛けが明かされたとき、それまで主人公エルウッドに絞られていた焦点が、一気に、理不尽に傷つき生きてきた人たち皆に合っていくような気持ちになる。
人間はいつでも醜悪になれる。忘れてはいけない。

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2021年01月31日

Posted by ブクログ

アフリカ系アメリカ人のエルウッドは、ホテルの下働きをしている祖母に育てられた。従業員たちに可愛がられ、勉強もでき、先生から黒人が無償で学ぶことのできる大学への進学を勧められる。大学へ行くためにヒッチハイクした車は盗難車だった事から、共犯者として少年院に送られてしまう。そこはニッケルスクールという名前だったが、スクールとは名ばかり、虐待のまかり通る過酷な少年院だった。

後年、閉校になったスクールから傷だらけの白骨が掘り出された事から、当時の院生に話題が集まる。
スクールでの悲惨な日常と、不正を外部に知らせようとするエルウッドと、大人になった院生とが交互に描かれる。はたしてエルウッドはどうなったのか。悲しいラストだが、胸をうたれる。

遠い昔のアメリカではない、50年ほど前である。キング牧師が登場した頃の話だ。そして21世紀になっても黒人への差別は続く。黒人の大統領が誕生しても、大坂なおみは7枚ものマスクを用意していたのだから。

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2021年01月10日

Posted by ブクログ

1960年代前半、公民権運動が徐々に活性化しつつあったアメリカを舞台に、優秀な学力を持つ黒人の高校生は無実の罪で少年院に送られる。そこは管理者である白人たちが物資の横流しで儲け、少しでも反抗する黒人少年を撲殺して無かったこととする地獄であった。

この恐ろしい筋書きは空想のものではない。フロリダに存在し、100名以上の行方不明者を出したドジャー少年院がモデルになっている。施設が老朽化のために閉鎖され、暴力の痕跡も歴史に埋もれようとしていた中、ハリケーン後の敷地清掃で27名もの正体不明の遺骨が発見されたことによって、この少年院での恐ろしい暴力の実態が明るみに出ることとなった。

本作『ニッケル・ボーイズ』は、ニッケル少年院を舞台として主人公の少年がいかに恐ろしい暴力をサバイブしようとしてかを克明な心理描写と共に描き上げる。物語は1960年当時と現代の2つの時間軸を舞台として、現代にまでサバイブできた生存者たちに植え付けられた暴力のトラウマまでも生々しく示される。そして、この2つの時間軸を使った予想外の叙述トリックによるラストは必読、思わず読んでいた本を落としそうになってしまった。

南部で虐げられる黒人を北部に逃すための比喩である”地下鉄道”が実際に鉄道として存在していたなら、という途方もない想像力を持って描かれた前作『地下鉄道』での受賞に続き、2度目のピュリッツァー賞を受賞した本作。ノンフィクション部門でピュリッツァー賞を2回受賞したのは彼が史上4人目であり、先達にはウィリアム・フォークナー、ジョン・アップダイクらであるということを知れば、コリソン・ホワイトヘッドの作家としての凄さは十分に伝わると思う。

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2020年12月12日

Posted by ブクログ

いつか再びこの本を開く時がくるだろうという予感がある。なぜなら今回だけではしっかりと理解しきったなどとは到底言えないという確信があるから
きっとまだまだ気づけてなかかったり体に落ちてない
魅力というか地獄を目を見開いて覗かなくてはならないと思うことになるのだろう

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2021年10月25日

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