第二次世界大戦下。フランス・パリの博物館で働く父と暮らす盲目の少女。一方は、ドイツの炭鉱町にある孤児院に妹と暮らすラジオに興味を抱く少年。
国も境遇も違う、戦争が無ければ決して巡り合わなかった二人の人生が、時間軸を前後しながら短い断章として交互に語られていきます。次第に戦争に巻き込まれて行く盲目の
...続きを読む少女と少年の心情。そして、二人を中心とした他の人との交流が丁寧に描かれていて、美しい文章表現と相まって話しに引き込まれていきます。
ただ、読み終えた直後は、期待した結末ではなかったので、しばし呆然という感じでした。しかし、少し時間をおいてみると、この結末だからこそ、二人の邂逅がより輝いて感じられることに気付かされました。
それをより強調するためか、ドイツの下士官が追いかけているダイヤモンドが、気が遠くなるほど太古の昔からの時間軸の長さを表し、少年の親友が好きだった鳥が、目に見える空間の広がりと自由を表し、少女が好きな貝殻が、深淵な海の広さと深さを象徴していたかのようです。
それらの目に見える物資世界の広大さと経過した時間の長さに比較して、二人を引き寄せるきっかけであるラジオの音は、すぐ消えてしまい形が無く目に見えない儚いものです。そんなことを思い返してみると、タイトルと相まって感慨深い気持ちがしてきます。とはいえ、戦争の話しなので理不尽で悲しい気持ちも残りますが、それらの感情も含めて、とても良い読書体験ができたと思っています。
なお、盲目の少女が夢中になっていた、ジュール・ヴェルヌ『海底二万里』の内容が少なからず引用されています。『海底二万里』を未読でも大丈夫ですが、既読の人はより楽しめると思います。