あらすじ
目の見えない少女と、ナチスドイツの若い兵士。二人の運命がフランスの海辺の町で交差する。ピュリッツァー賞受賞の傑作を文庫化
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"絶望は長くはつづかない。マリー=ロールはまだ若く、父親はとても辛抱強い。彼は娘を安心させる。呪いなどない。悪運や幸運はあるかもしれない。それぞれの日が、いい日か悪い日かに、わずかに傾くことはあるかもしれない。だが呪いはない。" (p.40)
"この世界は、なんと迷路に満ちていることか。木々の枝、線条細工のような根、結晶の基質、父親が模型で再現した町の通り、アクキガイの貝殻についた小さな結節にある迷路、カジカエデの樹皮にできた迷路、ワシの羽の空洞内部の迷路。なによりも複雑なのは人間の脳だよ、とエティエンヌはよく言っていた。存在するなかで、もっとも入り組んだものかもしれない。水に浸された、一キログラムの物体のなかで、宇宙が回転している。" (p.606)
"女の子はぶらんこに乗ると、脚をせっせと動かして前後に揺れ、それを眺めていたヴェルナーの魂のなかで弁が開く。これが人生だ、と思う。冬がその力をゆるめつつある日に、ああやって遊ぶこと、それがぼくらの生き方だ。"(p.500)
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その光は波であり、海であり、ラジオだ
すべての事物が反射する可視光線とは別の、見えない光
それは命であったり、希望であったりする
第二次世界大戦下のフランスとドイツ
それぞれに生きる人々
そこは混沌として、明日がみえず、望みは断ち切られ、人々の命は消えていった
“見えない”ことは少女の盲目だけでなく、世界に溢れる不可視なものと同時に、その時代性も指している
そこにある綺麗なものと醜悪なもの
それらは同時に並立し、簡単に反転する
技術の軍事転用や宝石、人の心
すべてが簡単に裏切っていく
しかし戦争をある種の壮麗さと残酷さを同居させるように描きながら、物語には救済を用意しない
それはアンソニー・ドーアの覚悟に思える
少年は少女に出逢うが、再び出逢うことはない
鳥好きの少年は思い出すことはない
妹は兄の善行を知ることもない
誰もがあの日々を思い出さず、口に出したくない
みんなが様々なものを失った
その中で善悪の区別なく、生きるものは生き、死ぬものは死ぬ
運命の仮借のなさは全員に平等である
けれど、自分の中に仕舞い込んだ大事なものはずっとそこにあり、それが誰かを救ってくれることもある
ラジオから聞こえるフランス語や海の音、模型の街並み
上級曹長が炎の海に妄執したように、私たちは何某かに取り憑かれている
それが美しいものか、醜いものかに気づきもせずに
きっとたぶん、何年後かにこの本を取り出したくなる
そしてその美しさと残酷さに言葉を失うほどに興奮し、打ちひしがれると思う
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詩情豊かな描写、それに訳文の美しさに心が躍る。プロットの巧みさに唸る。ストーリーの行き着く先に固唾を呑む。ページを捲り続ける。読み終わった後にはそれらを合わせた以上の感動が残る。
人はときに残虐で歴史は残酷だけれど、そこから掬い上げられた人々の物語は、やさしさをもって語られる、そこにもある、あったはずのやさしさが語られる。そこには光が差している。そして、その光のなかに希望がある、そう思いたかった。とても素晴らしい小説を読んだ。深くため息をつく。
心身が草臥れているときは、あまり本がうまく読めないのだけれど、それでも本当に素晴らしい小説を読みはじめてみれば、「読書は我を忘れさせてくれる」。時代で区切られたなかで短い断章でそれぞれの人生が交互に語られる。忙しないなかでもすぐに没入でき、一旦離れてもまたすぐに戻ってこられる。繊細に濃密に人生を物語るその構成にも助けられた。また小説に救われていた。
「それでは、ひとつたりとも光のきらめきを見ることなく生きている脳が、どうやって光に満ちた世界を私たちに見せてくれるのかな?」
この小説のように人々、世界が描かれ、それを読むことによってだ。そんなことも思う。
「時間とは、うんざりする余剰でしかなく、樽から水がゆっくり抜けていくのを見つめるようなものだ。だが実際には、時間とは自分の両手ですくって運んでいく輝く水たまりだ。そう彼は思う。カを振りしぼって守るべきものだ。そのために闘うべきものだ。一滴たりとも落とさないように、精一杯努力すべきだ」
角を折った頁を開いて幾つかのセンテンスを何度か読み返す。今度は深く頷く。精一杯努力すべきだ。
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今まで読んだ本の中でベスト5に入ると思う。3日くらい余韻に浸ってた。
フランスで父親や周りの人に愛されて育つ盲目の少女、ドイツの養護施設で過ごす賢い少年、2人が否応なく戦争に巻き込まれていく。物語は静かに進む。美しいけれど残酷で、ときに人が心を失ってしまう世界。でも光はある。いつか、読み返したいと思う。
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銃が勝った、いつものことだ!
全身に響く本だった。泣きすぎて二重が消えた。
美しいフランス、ドイツ、ロシアの情景を通じて盲目の少女と、小柄な少年、周りの優しい人達が描かれる。
文章はとても平易でやさしい。
そしてその優しい言葉で、戦争でその人達が何もかも失う過程を容赦なく見せられる。
戦争は誰も勝たない。アメリカもイギリスも勝っていない。
勝ったのは銃、大砲、手りゅう弾、原爆、暴力。
負けたのは全ての人。鳥が好きなフレデリック、仕事を愛するまじめな錠前主任、そばかすだらけの空想好きな少女、科学と発明に夢中な少年、正義感あふれる女の子、たくさんの優しい大人たち。全て負けた。
美しいフランスの海と、寡黙な貝が、所々で泡立つ血を文章から拭ってくれるようだった。
奇跡のような本だった。
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憧れの小説。
圧倒的No. 1。
確か翻訳大賞を受賞されていたと思うけど、言葉が表現が文章がとても美しくて、内容と文章の美しさに感動して泣いた、そんな本は初めて。
この小説は何にも似ていない。
崇高で気品がある。
読み返したいけど、それをするには覚悟がいる笑
Posted by ブクログ
時間軸や人物の視点が次々に入れ替わっていく、パズルのような構造の物語。第二次世界大戦を背景に、戦争が人々の人生を否が応でも変えていってしまう中盤まで、膨大な文章量も相まって読むのにエネルギーを使う。しかし、それまでの伏線を回収しながら全ての話が繋がっていくラストの約100ページは圧巻。
長編小説ではあるが、ノンフィクションの要素も、ミステリーの要素も、詩の要素も、神話の要素も散りばめられている。作者の大胆かつ緻密な構成と、優しく丁寧な人物描写が素晴らしい作品。いつかまた読み返せたらと思う。
Posted by ブクログ
余韻の残る読後感、心がしばらくこの小説の中を漂いました。深く考えさせられる内容であり戦争のむごさに震えましたが戦後の主人公達の生きる姿にも触れられていて少しホッとしました、また人が生きる強さも感じました、
Posted by ブクログ
第二次世界大戦下。フランス・パリの博物館で働く父と暮らす盲目の少女。一方は、ドイツの炭鉱町にある孤児院に妹と暮らすラジオに興味を抱く少年。
国も境遇も違う、戦争が無ければ決して巡り合わなかった二人の人生が、時間軸を前後しながら短い断章として交互に語られていきます。次第に戦争に巻き込まれて行く盲目の少女と少年の心情。そして、二人を中心とした他の人との交流が丁寧に描かれていて、美しい文章表現と相まって話しに引き込まれていきます。
ただ、読み終えた直後は、期待した結末ではなかったので、しばし呆然という感じでした。しかし、少し時間をおいてみると、この結末だからこそ、二人の邂逅がより輝いて感じられることに気付かされました。
それをより強調するためか、ドイツの下士官が追いかけているダイヤモンドが、気が遠くなるほど太古の昔からの時間軸の長さを表し、少年の親友が好きだった鳥が、目に見える空間の広がりと自由を表し、少女が好きな貝殻が、深淵な海の広さと深さを象徴していたかのようです。
それらの目に見える物資世界の広大さと経過した時間の長さに比較して、二人を引き寄せるきっかけであるラジオの音は、すぐ消えてしまい形が無く目に見えない儚いものです。そんなことを思い返してみると、タイトルと相まって感慨深い気持ちがしてきます。とはいえ、戦争の話しなので理不尽で悲しい気持ちも残りますが、それらの感情も含めて、とても良い読書体験ができたと思っています。
なお、盲目の少女が夢中になっていた、ジュール・ヴェルヌ『海底二万里』の内容が少なからず引用されています。『海底二万里』を未読でも大丈夫ですが、既読の人はより楽しめると思います。
Posted by ブクログ
第二次世界大戦中の重苦しさとダイヤモンドを巡るサスペンス感がありつつも、繊細な心情が綴られた詩的な文章が素敵で魅せられた。
ドイツ兵というと横暴なイメージしかないけれど、全員がそうではなくヴェルナーやフレデリックのような性格の人達もいたんだよね。学問に興味のあった2人が戦争がなければ全く別の人生を歩んでいけただろうに…と思ってしまう。
戦争経験者は戦争が終わっても生きている限りその記憶はいつまでも重い心のしこりとして残ってしまうのもやるせなく辛い。
ドラマ化もされているので観てみたい。
Posted by ブクログ
新潮クレストブックスで。
なんとなく、自分の中で思っていた2024年の課題図書のうちの一冊。
第二次世界大戦の最中のドイツ兵とフランスの盲目の少女。
重なるはずのない二つの命は、危機迫る中、細い糸のような希望になる。
なぜこんなに理不尽に何もかも奪われるのだろう。
自由、親、家、興味の追究、食べるもの。
戦争がすり減らすもののどんなに大きく容赦ないものか。
息苦しさのなか、ほんのちょっとのピュアな部分。
それだけが救い。
善人でいるのが難しい時代。
そんな時代は2度と来ないで。
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違う時間、違う場所にいる登場人物たちの視点で語られる断片的な情景がひとつの物語に集約されていく描写に圧倒された。映画を観たというかもはや自分で撮ったように感じるくらい引き込まれた。
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第2次大戦のフランスの盲目の少女マリー=ロールとドイツの機械に強い少年兵ヴェルナーの邂逅の物語です。マリー=ロールの物語とヴェルナーの物語が交互に入れ替わる形で著され、物語の先が徐々に明らかになっていく技法は小説独特で、盲目の少女の感覚と重なるようなイメージを読者に与えているような気がします。マリー=ロールの持つ宝石の行方も気になる読者も多いと思います。物語の終わりは、世代の移り変わりによって、消えゆく者の定めを著しているように思えました。傑作だとは思うのですが、過去に読んだ名作と比べてののめり込み度合の部分で星4つにしました。
Posted by ブクログ
まだナチス・ドイツが台頭してくる前の時代。
パリの国立自然史博物館の錠前主任を父に持つマリー=ロール・ルブランは幼い頃に目木見えなくなる。手先が器用でさまざまな難解な鍵を作る父は彼女の為に正確な街の模型を作り、マリー=ロールはその模型を手で辿る事で街の構造を覚え、盲目でも目的地まで街中を歩けるようになる。
一方でドイツ、エッセン地方のツォルフェアアインという炭鉱の街では炭鉱夫だった父を落盤事故で亡くしたヴェルナー・ペニヒと妹のユッタ。二人は孤児の集まる施設で育つが、ヴェルナーは科学に興味があり、ラジオを自作して遠い異国から流れてくる電波を受信して妹と二人で夢中になる。
ナチスが台頭してくると、ヴェルナーはその才能を買われ、ユッタを残してヒットラー・ユーゲントに入り、そこで敵軍の無線機を探知する仕組みを作るなどして、ドイツ軍に。
フランスがナチス・ドイツに蹂躙されマリー=ロールと父は海辺の街サン・マロに疎開し、引きこもりとなった大叔父と、彼の面倒を見る老婦人の世話になって暮らす。
盲目となり光を失ったマリー=ロール。電波という見えない光を追いかけるヴェルナー。全く知らない同士の二人が、第二次大戦のサン・マロという海辺の壁に囲まれた要塞のような街で交錯していく。
大戦前の豊かなフランスと、貧しいドイツ。
大戦初期のナチス・ドイツがフランスを占領しようとする頃。
そして戦争末期、連合軍と戦いを続けながらもフランスから撤退し、滅びようとしているナチス・ドイツ。
という三つの時間を行き来しながら、さらにはフランスのマリー=ロールとドイツのヴェルナーの周辺が交互に短い文章で断片的に語られる。
短い断片の積み重ねが読みやすい一方で、場面が頻繁に変わるので物語としては読みにくいところもある。
物語自体は歴史的な背景を知らなくても楽しめるが、ヒットラーが各国の美術品や宝飾品を集めていたこと、サン・マロはナチスの侵攻によって崩壊した連合軍が海に逃れた拠点であったことなど、歴史を知っているとまた違う読み方ができる作品。
Posted by ブクログ
WW2の時代。盲目の少女マリーとドイツの若い兵士・ヴェルナーのラジオを通した物語。
「空気は生きたすべての生命、発せられたすべての文章の書庫にして記録であり、送信されたすべての言葉が、その内側でこだましつづけているのだとしたら。」
印象に残った場面は、戦争が激化していく中でドイツ国内でフランス語を使うことをためらうエレナ先生。戦争終結後ユッタ(ドイツ人)がフランスへ行くとき、拙いフランス語を使うことでドイツ人とばれるのを恐れる描写の対比。
また、ユッタがフランスのサン・マロで見た銘板(あれは実在だそうです)。そこにドイツ人兵士の名前はない。立場が変われば見えてくるものも違う。
ただ、1つ1つの話が3,4ページで変わっていくので、ストーリーに入り込むことがうまくできなかった。炎の海というダイアモンドの話も浅い部分で終わった気がする。マリーの父は主要人物かと思いきやそうでもなく、ヴェルナーの妹・ユッタもそう。ちょっと物足りなさを感じた。