羽田圭介のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
介護される老人とその孫の関わりについての話。
少子高齢化が進む現代、病気でない老人が在宅で尊厳死を迎えるのは難しい。
思うように動かない身体、楽しみもなくただ生きるだけの毎日に対する精神的苦痛から、生への絶望を感じるのは理解できる。
だが、祖父の隠された本心は「死にたい」ではなく「生きたい」であった。
健斗は足し算の介護によって祖父のできることを狭めるはずだったが、祖父の本心を感じ衝撃を受ける…
健斗は家族には誰も相談せず尊厳死に向けて動くが、何だかんだで一番祖父を大事にしているようにも見え、信頼関係も感じられる。
誰でも24時間の介護を続けていれば苛立つことはあるし、その中で健斗は懸命にやっているように思えた。 -
Posted by ブクログ
著者初の短篇集。オーディブルで。自分にそういったところがないから、「過剰な人」が、わたしは好きなんだと思う。ひと目を気にせず、というか、ひと目という概念が薄く、執拗に何かに拘り続けてしまうような人。羽田さんはその過剰な人で、作品の魅力は、そのおかしみ。まあ、全部読んでいるわけではないけど。
『バックミラー』一時期脚光を浴びたミュージシャンが、他人の「おっかけ」を意識し、「おっかけ」がいなくなった自分を意識し、元「おっかけ」だった同棲相手に去られてしまう。
『シリコンの季節』捨てられていたラブドールを持ち帰り、再生して使用している、妻に去られ、リストラにあって仕方なく産廃会社に勤める中年。テレビで活躍する美魔女軍団の中に、逆サバを読んだ同級生を発見し、その夫に接触し、なにやら死体を発見してしまう。
その他、芥川賞作家が、ちょっとした女には引っかからないぞと、自分の価値を吊り上げてゆく『成功者Kのペニスオークション』、芥川賞作家が、筋肉をつくることに邁進していく『0.00…』、意識高い系ビジネスマンが、成長するために、わけがわからないことになっていく『のっとり』など、愚かしく、愛おしい男が、満載。こんな短篇を書くのかー。
『渋谷と彼の地』という、東京オリンピックを実現させようと開発を進めるコロナ禍の東京と、東日本大震災の被災地とを比較した真面目なエッセイ風もあったが、とにかく、中年男がラブドールのぬくもりに癒されて言う「シリコンの季節だ」で吹いた。「ああ、もっと、俺のビジネスを加速させたい」も。真面目が過ぎて滑稽な人。面白いことを考えるなあ。 -
Posted by ブクログ
やっぱり売れてる小説かって儲かるんだな。
純粋小説書いてる人がこんなにも愚直に投資に向き合っているのが意外だった。ただ投資で資金を作っているというより、実働(執筆)とローンでお金を作っている印象。
あとこんなに頭のいい人なのにちょっとしたことで優先順位や家に対する感性が変わるのも意外。
でも家とか生活とかいうのはそういうものかもしれない。人やお店、仕事との出会い方、出会う順番、好きものや興味の対象の変化で生活や生活の容れ物である家への捉え方も変わっていくのが普通だと思う。
ただ普通はその価値観の変化に合わせてコロコロ引っ越しはできないけど。さらに言うと、理想の家に辿り着くまでに実験的に家を買ったり引っ越したりなどなかなかできない。かなりの財力がないと。
羨ましいと思う反面、頑張ろうというエネルギーにもなった。
マンションのいいところはゴミの出しやすさ、見晴らし、重厚感などかな。
戸建てのいいところは自然を取り入れやすい、ガレージなど車所有者には嬉しく、ガーデニングや趣味の自由度あり。ガレージは作業場としても使いやすい、ゴミなどの一時置き場としても。ただ地階は虫が出やすいらしい。 -
Posted by ブクログ
テレビなどで芸能人が家を買う番組がある。自分で買う訳でもないのに何故か見入ってしまう。やはり家を買うというのは人生最大のイベントだし、自分のこだわりや好みに、家族の同意、立地環境、そして何より金銭面の条件の中でいかに折り合いをつけていくか、まるでクエストをクリアするゲームのように多分にエンタメ要素があると思う。
この本もまさしくそれで、芥川賞作家の羽田圭介氏が家を手に入れるまでの買い物ドキュメント。この本ではそういったエンタメ要素に家の購入資金を捻出する為の不動産、株などの資金運用も書かれており、その失敗談も赤裸々に書いているのが面白い。
しかし家探しは本当に難しいと思う。氏のこだわりもなかなかのもので、これだ、と決めても生活していくうちに不満が募り、また自分に合った物件を探していく。普通の人だと資金面もあるが、新しい環境への引っ越しは躊躇するし、なかなかこうはいかない。氏も書いているがそこは全く苦にならないらしい。確かに小説家にとって住環境はそれだけ大事なものなんだなと改めて思う。
文章は軽快で読み易く、時折挟む日常風景も読んでいて楽しい。買い物ドキュメント、面白かったです。
-
Posted by ブクログ
第153回芥川賞受賞作。
あまり普段、芥川賞を獲るような純文学系の本は読まないのですが、今一番気になるワードとして「スクラップアンドビルド」があるので、タイトルに惹かれて読んでみました。ページ数も少ないのでね。
老齢になり、できないことも増えてきて、
周りから疎ましく思われることで
「早く死にたい」と口癖のようにつぶやくじいちゃんと、
その想いを遂げてあげたいと願う孫が日々暮らす中で、
お互いの想いを交錯させ変化していく物語。
孫の脳内描写と、行動のギャップが凄く違和感。
温度差というか、チグハグな感じがしたが、
それもおそらく意図的かなと思う。
未熟な青年の、思いが行動に伴わない感じが、
少しもどかしくも、リアルさがある。
じいちゃんは、日々感情の変化があり、定まらない。
人生の再構築の中
祖父との生活で、自分の人生に変化はあるのか。
読みやすいけど、特にそれほど何も心に残らなかったという印象。だから何?と思ってしまった。
介護による、それに関わる人の人生を描いた作品はたくさんあるので、そちらの方が良かったなという感想です。 -
Posted by ブクログ
面白い。お金というものが、人によっていかに捉え方や意味、価値観が全く異なるかについて改めて意識させられる作品だった。
主人公の華美は可処分所得のほとんどを投資に費やし、毎晩米国株式市場の取引時間をチェックしたり頭の中ですぐ複利計算する癖がある程の投資ガチ勢。毎年の配当金が自分の年収と同等になるだけの投資資産=「分身」を作ることを生き甲斐にしている。その為には切り詰められるところはできるだけ切り詰める生活を送っていて、現在の人間関係や小さな快適さを犠牲にしていたりする。
自分も投資はしているし、普通の貯金だけでは蓄えられない富を得たいと思っているけど、ここまでは徹底できない。
そんな彼女が目指す理想の生活を達成した老人達に会うシーンが実に風刺的で良かった。
いかにもなオンラインコミュニティにハマっていく彼氏との対比も鮮やかで分かりやすい。けど後半の非現実的なドタバタは少し違和感を覚えなくもなかった。作者はこういうオンラインコミュニティ運営者が個人的に嫌いなんだろうか?モデルはこの人なんだろうなと浮かぶ人はいるけど…。
最後に余談だけど華美さんの実写化は菜々緒さんのイメージだ。