乗代雄介のレビュー一覧
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練習の対義語は本番という言葉になると思うけど、僕たちの毎日、おおさげに云うと人生には、練習と本番なんていう区別はないのだと思う。
もちろん大切な一日、重要な決定をする局面というのはあると思うけど、何をしても時計の針は戻らないしセーブポイントからリスタートできるわけもなく、僕たちが常に1回きりの時間を過ごしている訳で、そういう意味では、人生という尺度においては練習や本番なんていう区別はなくて、あるのは常に「今」ということになると思う。
この本を読んで思ったのは、練習とは決して本番のため、何かの目的を達成するための単なるプロセスではなくて、もっと純粋な、生きる姿勢であるべきなのかもしれないという -
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共に旅する友達でも他人でもない絶妙な距離感のクラスメイトたち。甘くて酸っぱいひそやかな恋心。家族と社会への諦観などなど、田舎の高校の空気感だったり、思春期の心の機微なんかが一人称の繊細な筆致で鮮やかに描き出されていて、ほうっと溜息が出た。たくさん小説を読んでいるわけでない自分でも、「上手いっ!!」と思った作品。
等身大でひねくれものの主人公のささやかな冒険が、軽快な疾走感を伴って語られるロードムービー。
自然に感情移入できて、だからこそ、主人公の小さな冒険が自分をどこか遠くへ連れて行ってくれるような気がしている。成長していく主人公と、ゆっくりと芽吹く確かな友情に強く胸を打たれる。
これ以上無い -
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学校をサボりがちで友だちのいない高二の僕は「東京修学旅行の思い出を忘れないうちに書き留めておこう」とパソコンに向かった。佐田誠の語り文は荒くザラついている。『旅する練習』と同じ著者なのか?と初めは違和感を覚えたが、(p.38)で一気に物語に引き込まれた。
自由行動の希望地を「佐田くんの行きたいところ」と書いた松くんの思いに心揺さぶられた。
三年前の代が勝ち取った「修学旅行二日目の全日自由行動」についてクラス担任が語り始める。生徒の権利を認める学校側。その裏に隠された"大人の事情"を生徒らはよく見ているなぁと感心した。
と同時に「まるまる一日が自由行動になったんだから別によ -
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「生き方の問題」「最高の任務」の2篇。どちらもとっても良かった!情景に根付いた何かを感じ取る感性というのがたまらなく好きだ。
例えば「最高の任務」で青鷺を見つけた時、この青鷺は2年前叔母と一緒に見た青鷺だったか?多分違うんだろうけど同じものに見えてしまって、というかその青鷺であってほしいという景子の願望。相沢忠洋の一家団欒の幸せというのは一万年前の土器片からそういう喜びを第一にしてきたという下り。ゆき江叔母が景子のことを思って導く姿勢。ラストの場面、家族が景子を優しく見守るような眼差し。
ちょっとわかりずらく感じるところもまた読んで近づきたいと思える素敵な小説でした。 -
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ネタバレ美しかった。
本当に文章が美しい。僕は元々情景描写を好まない人間だが、乗代雄介の情景描写は本当に好きだ。
あまりにもど真ん中の青春で、それに対するメタも含んではいるのだが、やはりそれを美しいと信じようとするパパイヤやママイヤの、そして乗代雄介の意図が感じられた気がする。
「旅する練習」では景色を文章として残そうとしていたが、本作では写真で残そうとしている。残そうとしていると言っても、序盤のママイヤは「変わっちゃうのに耐えられない」が故に、現像を拒否する。しかしパパイヤとの交流を通じ、変わっちゃうと分かっていても、そこにあった美しいものを、美しいと感じた自分自身を、信じられるようになり、強くなる -
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ネタバレ阿佐美景子(主人公)が、仙台である弟の結婚式に向かう電車で、ある女子大生(平原夏葵)に声をかけられる。
サラッとしている読み心地で、
読み進めていく中で少しずつ事実関係など分かってくるような、
叔母(ゆき江ちゃん)の喪失をすごく引きずっていることが分かってきて、
主人公は作家になって活躍してることとか、
24、5歳の阿佐美景子が、なんだかかなり大人っぽく感じた、自分より、ね。
始めから終わりまでキーパーソン的な女子大生がすごく好感を持てる子であり、
ほんとみなさん、しっかりしてるよなーと思ってしまう。またまた自分と比べて。
何かあるわけでもないようだけど、
出来事とは、個々人の中で起こって -
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旅する練習でもそうだったけど、この人の作品で出てくる土地とかをストリートビューでつい調べてしまう。誠たちがピザ食べながら会話した八ノ上横穴墓群、おじさんと会った後、みんなで線路沿いの道を歩きながら金網越しにみた西の空など。そこにいるはずもない彼らの影を見てしまう。高校生のこの時期にしかできない同級生とのやりとり、ちょっと踏み外しちゃいますか!的な冒険心、めちゃくちゃ貴重で尊くて今風にいうとエモい時間だなと思いながら読んだ。でも自分たちが当事者だったときはこのエモさになかなか気付けないなあとか。宮沢賢治の一緒に溺れるという話から蔵並が感化されたんだという場面が好きだ。最後の誠と小川のやりとりもと