乗代雄介のレビュー一覧
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仲のよい叔父である「私」と中学入学を目前にした姪の亜美が、「私」は文章で風景を描写する練習をしつつ、亜美はサッカーの練習をしながら鹿島まで歩いて旅をするロードムービー的な物語。途中で同じく徒歩で鹿島スタジアムを目指していたみどりと合流し、彩りが加わる。人間模様でちょっとした波風は立つことはありましたが、基本的に和やかな雰囲気の中、淡々と旅は続けられ、無事に旅を終えることができたかにと思ったのですが、物語の終盤にさりげなく書かれた数行にわが目を疑い、その箇所を数回読み返してしまいました。何ともやるせない。人生は角も儚いものと思うしかないのだろうか。
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本のタイトルにもなっている「最高の任務」と「生き方の問題」の2編の短編から成る。
「生き方の問題」は、まどろっこしい形態の手紙の体裁で書かれており、「こんなまどろっこしくて長い手紙書くやついないだろ」とツッコミたく成るのを抑えて読む必要はあるが、とにかく読む手を止めることができないくらいに読者を引きつける臨場感がある。
「最高の任務」は「十七八より」を読んだ人ならぜひ読まれたい。「十七八より」よりは読みやすく、亡くなった叔母が生前仕掛けた景子への隠れた任務と、それを誰に言われるでもなく遂行していた景子に感動を覚える。生前の叔母にはすべてお見通しだったのだろうか、なんて小説に対して想像しても -
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『作家と編集者』というタイトルから、早見和真さんの『小説王』のような熱いお仕事小説を想像していた。ところが、一話目の錦見映理子さん「邪悪な香り」でいきなり背筋がゾクゾク……。なんだか寒くなってきた。風邪か? いま季節は春なんだけどなと思いつつ。
新人作家・鷹柳をデビューさせようと奔走する熱血編集者の話かと思いきや、漂ってくるのは不穏な空気と怪しいオピウムの香り。次第に狂気の世界へ足を踏み入れていく編集者・安曇、そして作家・鷹柳の正体とは? 夢か現実か、境界線が溶けていく物語にぐいぐい引き込まれる。
作中作のタイトルに、「もしかして、そういうこと!?」と鳥肌が止まらない。こんな作家と編集者の関 -
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人の歴史が、その本質として土地と切り離せないことを思い出させてくれる小説。人が生き、そして死ぬ積み重ねを「歴史」とするならば、「家にいること」が称揚され、そこから切り離されたコロナ禍は異常な時期だったと言える。そんな中、あえて肉体の確かな感覚を伴って歴史を歩き、「練習」を重ねる姿は、いっそ清々しい理想型を感じさせる。しかしそうした爽やかさの陰には馬頭観音初め死の影がちらつくのであり、我々はコロナ禍もまた、死の匂いを帯びた季節であったことを思い出す。
惜しむらくは結末。芥川賞の選評にあざとさが指摘されていたが、個人的には「こうでもしないとこの物語は終わらない」という感じがする。むしろそれだけ生命 -
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文庫になってからの再読。とても良かった。
好きなのは「カワウを慮って土手を下った少女が形をとるなら、私はどんなに嬉しいかわからない(中略)書き続けることで、かくされたものへの意識を絶やさない自分を、この世のささやかな光源として立たせておく」や、亜美といっしょに撮った顔はめパネルの場面、パネルの後ろでは亜美が叔父の肩を組んでいて、撮影者側からは見えないけど、もしこの場面を横から見ている人がいたら大きな慰めになったというところ。こういった人の残した影のようなものをを丁寧に受け取ろうという温かい姿勢がとてもととても好きです。
この本が話題になっていたとき最後の部分に注目が結構あったように記憶してい