田辺聖子のレビュー一覧

  • 新源氏物語(中)

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    ネタバレ

    しみじみと、平安の世に生まれなくてよかったと思う。
    ルッキズムの最たる時代なので、どんなに性格が良くて才能があっても、花散里のような女性を最後まで大事にするのは源氏くらいだ、と言われるし、美貌に恵まれ後ろ盾が盤石であろうとも、玉鬘のように自分の意志に反した人生を強要される。

    それがまた、男どもは「あなたのため」を連発するんだからな。
    「あなたのため」というのは呪いの言葉だと私は思っている。
    今は意に反していても「あなたのため」を思っている私が選んだ未来に間違いはないのだから、「言うことを聞け」と。
    しかし「あなたのため」は、言っている本人の「自分のため」のことばなのだ。

    そして何かというと「こうさせてしまったのは、あなたのせいなのだよ」という責任転嫁。
    くう~、許せん。

    こっちでは「あの人よりもあなたが好き」と言い、あっちでは「向こうもかわいそうな人なのだよ」といい、だから嫉妬はおやめなさい、と。
    何なら見苦しい、と。
    「あなたに隠し事などするはずがない」という大ウソ!

    そして光源氏は太政大臣という、貴族の役職としては最高位にいながら、実務の権限については頭中将改め内大臣に譲ったので、権力を持ったまま家でゴロゴロしていいというありえない御身分。
    持って生まれた身分の良さ、見た目の良さ、あふれる才能。
    しかし彼は、何かについて精いっぱい努力したことある?
    あの時代の貴族はみんなそうなのかもしれないけど、恵まれすぎるくらい恵まれているのに、何かあったら誰かのせいにしてさあ。
    薄っぺらいんだよ、人間が。

    もし私がどうしても平安時代に生まれなければならないとしたら、貴族の家の下働きでお願いします。
    一番気楽で食いっぱぐれない気がするから。

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    2025年06月08日
  • おちくぼ姫

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    小学生の頃に繰り返し読んでドキドキしていた思い出。平安時代の特有の言葉や生活習慣に馴染むことができたので、古文のテストで困ることは無かった。田辺聖子の文章は読みやすい。

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    2025年05月25日
  • 掌の読書会 島本理生と読む 田辺聖子

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    乃里子三部作がすごく好きだったんだけど、それ以降何を読んだらいいかわからなかった田辺聖子作品、島本理生セレクトなんて絶対面白いじゃん!と読んでみた。

    軽快でご機嫌な関西弁がどの作品も心地いい。
    あと登場人物がいい意味でふてぶてしく、六十過ぎてからこそ人間はまともになるとうそぶいて、「精神力」で若々しさを維持し、さっぱりした恋をしていたりして、頼もしい。わたしなんてまだまだ!と背筋を伸ばす気になる。
    エッセイで「このニッポンにあるのは、男と女のオトナの世界ではなく、お袋と息子の親子の世界がすべての心情を支配している。」「男と女が対立し、いがみ合い、仲直りし、理解し合うという、オトナの基盤がないと、真の自由も幸福もない。性の本当の喜びも解放もありはしない。」と看破してるのもすごい。めっちゃかっこいい。

    特に好きなのは『女流作家をくどく法』『愛の周り』『シクラメンの窓』。

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    2025年05月24日
  • 言い寄る

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    好奇心旺盛な魅力で溢れている乃里子は30代の女性。女性というよりは「元気な女の子」という方がしっくりくるほどイキイキとしている。

    そんな乃里子の色とりどりの恋は見ているだけで面白くて、関西弁にもユーモアがあり、たまにギョッとすることもあり、温かい痛みがじんわりと胸に広がっていくような読後感だった。

    剛や水野、五郎や美々とのさまざまな恋愛模様の中に、女性の人生の充実した風景が多角的に落とし込んであるので、何度読み返しても違う味わいがあります。

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    2025年07月21日
  • ジョゼと虎と魚たち

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    確固として存在する現実の生活の中に、柔らかく生々しく自分の内に秘める欲望や哲学が、様々な表情を伴って顔をのぞかせる小説。

    現実と欲望を対置することによって、読者は物語世界に引き込まれる。主人公の欲望の正体を見たいと思ってしまう。恐れよりも好奇心が勝って暴きたいと思ってしまう。

    曖昧さやぎこちなさや気まずさといったものがたち現れても、最後にやはり「自分」が残る。

    それぞれのお話でもちろん「自分」の残り方は違う。逢瀬を経たり、別れの準備をしたり、身体を重ねたり、言葉を交わしたりする中で、「自分」は変わったり変わりそうで変わらなかったりする。

    越境や交差。そのぎりぎり、スレスレのところで「自分」は揺らぐ。しかし確かに残る。その心の機微が非常にうまく表現されている。

    多様な色彩を帯びて、温い、この本を抱きしめて眠りたい。
    そしたら俺も「死んだモン」になれるのかな。

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    2025年05月09日
  • ジョゼと虎と魚たち

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    ずっと読みたいと思っていた作品、ようやく。

    田辺聖子の描く、静かに何かを悟っている大人の女性像が本当に素敵。
    男は女が何を悟っているのかに気付けない。
    秘すれば花。

    この小説に登場するのは男が中心の生活を送る女性では無く、生活や仕事に向き合って手慰みのように男と遊ぶような女性ばかり、その余裕っぷりたるや。
    別にあんたが居なくても生きていけるのよ、と男たちに感じさせるような女性たちにやられた。
    行間が広くて、文章からも登場人物たちの余裕みたいなのが感じられる、素敵。

    解説が山田詠美なのも個人的にめちゃくちゃ嬉しかった。
    田辺聖子もっと読んでいきたい。

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    2025年04月19日
  • 私的生活

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    ネタバレ

    バブル期の関西の金持ちの暮らしが随所に書かれて、旅行とは違った気分にさせてくれた。
    六甲の別荘で山の空気と静けさを堪能しながらの食事。デパートの外商との買い物。関西の古い邸宅の様子などなど。。


    物語についてだが、剛の家の人間はいけすかない人間で、彼らと心からの交流ができず、距離をとることで心を落ち着かせる乃里子。
    剛とのイチャイチャが唯一心を解放する場所だったが、物語が進むにつれ段々疲れ、最終的に剛から家のこともやれと言われることで、それもできなくなった。


    その後、自分の気持ちに正直な乃里子が印象的
    私的生活を犠牲にして剛の家に合わせることもできたのに、離婚したことので。
    剛も自分の気持ちに正直でのびのびしてる乃里子が好きだから離婚をしたんだろうか。
    金銭を理由に乃里子と離婚しないこともできたんだから。

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    2025年04月17日
  • 私的生活

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    ネタバレ

    「言い寄る」に続く2作目
    今回も田辺聖子さんの書き方が惚れ惚れしながら読み終えた!
    2作とも物語の終わらせ方が好き。
    全てを明るみにして、「こうなりました!」と終わるんじゃなくて、「おそらくこうなるだろうな」の印象だけ与えて、あとは読者の考えにおまかせする感じ。
    だから、それまでの思い出や出来事が綺麗なまま終えれるような気がした。

    剛も乃里子も素敵な所は多いけど、恋愛難し。
    お金持ちって大変ねとおもった。
    ただ剛も乃里子もやっぱり根は浮ついてるもの同士なんだろと思った。
    乃里子は前作で、顔をベコベコに殴られたのに関わらず、いつもふわふわしてて面白いまである。
    だけど、乃里子が男女問わずそれぞれの人に抱く印象の捉え方はすごく好きだし、共感出来た。

    次作どうなるかとても楽しみ!!

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    2025年04月07日
  • ジョゼと虎と魚たち

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    あかん男がようさん出てきよった。だらしないっていうか、情けないっていうか、自分本位でわがままっていうか、そんな男がばっかしでもないけど、ほとんどの話はそうやったなぁ。それにひきかえ、女の人はなんか魅力的やった。ちょっと年上っていうのが多かったな。んで、若い子をたぶらかすってまではないけど、ちょっとええ感じにさせるっていうか。オトナの女の人ばっかしやった。

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    2025年04月03日
  • ジョゼと虎と魚たち

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    田辺さんが描く恋愛小説は生々しいと思う。
    側から見るとなんだか面倒くさくて、複雑そうな関係なのに本人たちはまぁまぁ幸せそう。最初は不思議だったけど、恋愛ってそういうもんだったなと思い返した。当事者じゃないと分からないことがたくさんある。感情移入せず、まるで恋愛話を聞いているかのように読み進めた。結局、あなたたちが幸せならそれでいいんじゃない?と登場人物たちに声をかけたくなった。

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    2025年03月30日
  • 言い寄る

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    ネタバレ

    友人に勧められて。面白かったー…というか身をつまされる部分が多すぎて怖いくらいだった…

    五郎に対して
    きっと、爪を噛みながら五郎を見ている私の目の中には、野卑で精悍な、情欲が跳梁していたと思う (P.72)
    私は大笑いした。笑いながら。こんな話をする男に、どうやって言い寄るムードをつくるべきか、いそがしく考えていた。私と剛みたいに、うまく同時にもの好きで、同程度にめずらしもの好きで、同じ割合にSUKEBEであるばあいは、何もコトバはいらなくて、ただピンポン球を打ち返すような応酬のうちに、ムードがもり上るのであるが、五郎はそんなわけにはいかなそうだった。…私の希望は、五郎が私に惚れ、私に言い寄り、さらってくれることである、(剛が、強引に私にしたように) (p.75)

    私は五郎と一緒にいたい。
    死ぬまで一緒にいたい。
    五郎より先に死にたい。
    彼のやさしい言葉を、ほかの女に、いわせたくない。そうすると、やっぱり、結婚しかない。(p.209)

    本当に言い寄れるのは、あんまり愛してない人間の場合である。失敗したってどうせモトモト、というような、間柄のときだけである。
    言い寄って拒絶されたら、さしちがえて死のうというような、しんから惚れてる人間の場合は、究極のかたちは強姦致死になってしまう。…だが、女なら、どうしてくれるのだ。
    失敗してモトモトというあつかましさも、強姦致死も、ほんとの惚れ方でない点に於ては、一緒だと、私は思うもんだ。
    ほんとに好きなら、まず、相手の立場に立って考えてしまう。五郎は、私のことを、女として愛せないらしいので、そういう私が言い寄ったら、なお厭わしくなるのではないか、という恐れである。(p.244-5)

    私がセッセと一生けんめい生きてるのに、誰も何ともいってくれない、私は美々みたいに泣きわめいたり地団太ふんだりできない性格なのだ、みんなそれをいいことにしてるんだ、と思い、ひがんでいたのを、兄さんが、はじめて「あたまを撫でて」くれたのだった。私は、涙ぐみそうだったが、こらえて黙っていた。(p.325)

    私は、かなりの線をゆく厚顔しい女だと思うのに、一点、ヘンに遠慮ぶかいところがあるのであった。(p.327)

    剛に対して
    私はこんな男、どうしようもない、と思ってる。
    結婚してくれるわけじゃなし、彼が私のことなんか、その他大勢の女の子、浮気相手だと持ってることを知ってる。だから私も、気を入れてつき合えない。そのくせ、剛といるといつも、しっくり気が合うのであった。(p.116)

    暗い闇にひとりでいると、海の中にぽつんと漂っているようなもの淋しさを感じないではいられない。こんなことをして、若い時間がどんどん、たっていっちゃうのだ、ーなんて、星を見ながら考えたりする。女に、こんな、里心をおこさせるようでは男はダメである。女と男のデートなんて、ことに女の子は、ベッドへ入るまでの心ときめきがたのしみなのに。(p.119)

    それらの品々は、私に、(あンた誰?ここは、あんたなんかのくる所じゃないわよ)
    といっているように思われましたね。
    私は、自分の考えに、自分で傷つけられた。
    ゆうべはとても剛と、仲良くなり、一体になる気がして、ほんとうにどっちがどっちの体か分からないくらい、ひとつに溶けあう気がして、剛が好きだったのに、一夜あけると、冷静な知性をとり戻す所があるからふしぎである (p.128)

    でも、もしかしたら、あの女は、剛の妻なのかもしれなかった。そして、私はどうかしてる、と我ながら思った。剛がそんな男であることは、ちゃんと知っててつき合っているのに、どうしてこう傷つけられた思いをするのか、今さら。(P.148)

    でも私は、剛の話を本気で聞いたことなんか、いっぺんもなかった。剛は私の字引では、「面白半分」または「あそび半分」でつき合う男、となっていた。
    それは、剛が、私をそう見ていることの裏返しである。(p.300)

    「どッかへ泊ろうよ。神戸は面白いホテルが多いよ。ーええやろ?…」
    「ああ。そんなこと、してると今にダメになるわ…」
    私は小さく叫んだ。剛なんか、ちっとも好きではない。愛してるとは思わないのに、いちばん肌なれしていて、おちこみやすいのであった。こんなこと本意ではないと思いながらずるずるに、剛とは深みにはまってしまう。(p.301-2)

    剛が帰ってから、私はしばらく仕事をしていたが、おなかが空いたので、外出て食べようと思った。こんなときは、その方がよかった!
    私はうす手の白いセーターに、淡い色のコートを引っかけ、ブーツをはいて外へ出た。エレベーターは一人だった。
    マンションを出ても一人、町のビルの中を歩いているときも一人。
    私は苦しむときも嘔吐するときも、泣くときも一人なのだと思い返したりする。
    二人で暮らすなんて、どういうことだろう?…この際、剛でも良い、一日でも二日でも暮らしたらまた人生はかわるかも(p.345)

    水野に対して
    男は、急にグラスをテーブルの上に置いて、むッとした顔で近寄ってきた。それで私は、何か、彼の不興を買うことをいうなり、するなり、したのだろうかと一瞬どきっとしたのだ。でもそれは、ある種の緊張のためだったらしくて、彼は椅子に坐っている私に、そのままかぶさるようにしてキスした。こういうとき、どうして中年男というのは、突然、態度を変えるのであろうか。エンジンが掛かるのが早いのだろうか。…中年男というのは、「生業と企業」のちがいを論じて三秒と経たないうちに、黙って、着ているものを剥いでしまう、こいつはまるで追い剥ぎである。(p.165)

    それどころか、船が島の岸壁をはなれるとき、私は、もうはや、男に会いたくなっている私を発見した。…それは、好き、とか恋というよりほかに、何か強いひきつけられるような、慕わしさ、とでもいうようなもの、麻薬的な、まどわせる力に似ている。…私は彼の名刺ももらわなかったから、電話もアドレスも知らない。けれども、そういうことは、なぜか、どうでもいいことみたいに思える(p.172)

    (今夜も、明日の晩も、あの男と寝たいナー)ということだ。
    (寝られたらいいのにナー)ということだ。
    そういうときに、女が仕事なんぞできるはずがなく、…(p.174)

    それから、ふしぎに、あの水野夫人に対して、なんのうしろめたい気も、悪い気も、おこらないのに気付いた。
    でもそれは、私に道徳観念がないせいではなく、私とあの男との間のことは、そういう世界とまたべつの、すっかりちがう世界だからだ。人間同士のルールにあてはまらないようなもの(p.188)

    あの中年男が、じっくりと長い時間をかけて、ねっとりとした愛しかたをする、ああいう、あとでボーッとしてしまうような愛しかたは、剛にはできない。
    悪いけれど、くらべてしまう。
    水野という男はヘンな奴。私は、あの男によって、酩酊しきってボーッとなって、「堪能する」とか、「トドメを刺される」という言葉を学んだのだ。(p.194)

    「何を固うなってる。おいで」と座蒲団を叩いた。
    私がそこへいくと、彼は、
    「もっとこっち」
    それで、もっとそばへいくと、
    「もっと」
    パンタロンの膝をちょっとだけ、すすめると、肩に手をまわされて不安定に倒れかかったところを、キスされてしまった。いっぺんに島の別荘のつづきのような感じになった。
    「会いとうて、会いとうて、もう、とうとう辛抱たまらんようになって」と水野は、魅力的な口もとで笑う。
    「うそばっかし」と私がいったのは、(また、つづきをはじめましょう)ということと同義語である。…
    「いや、会いたかった。仕事してもメシ食うても、あンたのことばっかり、考えてて助からんよ」などと、じっくり、おべんちゃらをいってくれる四十男というのは、ずっと甘美な情感である。(p.256-7)

    「ヤッタルデーの坊ん坊んは無論、ほかの坊ん坊んともあんまり、ガタガタせんといて欲しい、困るなあ、こっちとしては」
    「それはないでしょ、そんなこと、いえるはずはない、それはヒトリモンのいうことよ」
    「そんなん、関係ない」
    「関係ある!」
    と私は、いつか見た水野夫人のことを思い出して、彼女は私に何をしたわけでもないのに、深刻な憎悪を感じた。…水野が彼の妻か、もしくは彼の情婦(きっと私のほかにもいそうな気がする)と持つ時間への嫉妬は、これはもう、血の滲みそうな、なまぐさい嫉妬である。(p.262)

    「どうしたら面白いの?」
    「映画みるとか、お茶飲むとか、それから…なんとなく、気がついたら、ここへ来てる、と。そういうふうにしたいの」…あんまり、ぴったりするので、私はいつも彼の裏側半分にいる女たちに嫉妬させられるぐらいである。
    彼があんまり、やさしいと、かえって嫉妬する。(p.355-6)

    それでも私はやっぱり、水野のもっている魅力には抵抗しがたいのだった。銃口のような目をピタリとあてられると、まるで心臓がねらわれたようにすくみあがってしまう。
    そうして、力なく無条件降伏になってしまう。(p.359)

    これからどうする、なんてこともいわない。…
    いったって、どうしようもないこと、ちゃーんと知ってるのだ。
    おたがいの過去や現在の情事をほじくり返したところで、何の足しにもならぬことをオトナだから知ってる。同様に、未来のことも口に出すだけマヤカシになることも知ってる。
    それは冷淡とか、計算とか、理性的とかいうよりも、正直で、正確なのである。
    私はそんなところが好きだ。
    同様に水野が私を気に入ってるのも、私がそんな水野のよさを、よくわきまえてるからだろう。…
    でも、水野と会うと、ほかの男とちがうのは、その愉しみの味が濃ければ濃いだけ、もうこれで終り、と心で思うところである。
    いつも、会うのはこれが最後、という気にさせる。
    私から連絡して会うこともないし、彼からいってきても会わない。それがなお、彼に対してふかいみれんと執着を燃やす。(p.360-2)

    あ、そんな、いい顔して笑ってても、もうおしまいよ。そう思って、私は水野を見ている。…
    「こんど、いつ会うの?」私はにっこりして聞いた。それは、もう会わない、ということの裏返しである。(p.362-3)

    「時間、まだいい?」
    私が聞いたら、
    「なあんや。さっきは無理に引っぱり込んだくせに追い出すのか?」
    「ちがうわ。一日いて欲しいけど、いられへんのでしょ?いられれば、いて欲しい」
    「僕がいると、あんたも仕事でけへんよ」…(p.366-7)

    ああ切ない!

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    2025年03月29日
  • 言い寄る

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    初めて田辺聖子さんの本を読んだ。
    彼女の言葉の使い方がすごく好きになった。
    虜になった!
    感情の喜怒哀楽を軽快にコミカルに表現しているところにすごく惹かれた。読みやすかった。

    乃里子の気持ちとてもわかる。
    私も本当に好きになった人には、言い寄ることができません。
    女性に対しても、男性に対しても。
    この頃心から友達になりたい女性の人がいるのだけど、いつもなら誰彼構わず仲良くできるのが私の魅力なのに、彼女の前ではそれが全く使い物にならなくなる。
    そんな中でこの本を読んでいたので、共感の嵐が鳴り止まなかった。。

    それにしても、乃里子の考え方が好きだと感じる言動が多かった。
    中でも一番心にキタのは、

    『泣くか笑うか、どっちかの瀬戸際だったけれど、泣いたら化粧が崩れるから笑うことにしたのだ。』

    というところ。
    彼女にとってものすごく苦しくて、泣き叫びたいくらいなのに、それを化粧が落ちるからと笑うことで軽くしている感じがすごく素敵だった。

    悲しい時に、悲しいと泣くことも大切だけれど、
    悲しい時に笑ってみることで、気持ちが変化することってあると思う。

    この後読む、二作がとても楽しみになりました。
    まあ、でも個人的に剛はいやー!!
    手を出す男なんて今の時代考えられない!

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    2025年03月26日
  • 新源氏物語 霧ふかき宇治の恋(下)

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    上下巻通しての感想となる。よくもまあ1000年以上も経つのに全く色あせないストーリーだなと感心する。改めて紫式部の偉大さ・天才ぶりが怖くなる。薫、匂宮、大君、中の君、浮舟が主要人物となる。最初から薫と大君がくっついていれば幸せな日々が続いたことと思うのだが、そこは式部の「いけず」だ。なんだかんだと薫に試練を与え、読者をイライラ・ヤキモキさせる。現代風にアレンジすればドロドロした昼ドラにもなりそうだ。最後は式部なりのハッピーエンドかなと推測する。この時代の姫は身分のある殿に世話されるのが一般的だと思うので、自分の意思を通すことは難しいであろう。式部はそんな姫たちの心の深部をすくい取ってこのエンディングにしたのかなと思った。

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    2025年03月16日
  • 老いてこそ上機嫌

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    老眼で細かい字が読めない、自分が書いている字さえ見えない。コンビニの店員の話しが早くて聞き取れない。知らぬ間にTVのボリュームが大きくなった。指の関節が痛くてペットボトルのキャップが開けられない。昨日はアッチ、今日はコッチと身体の不調が現れる。
    今まで普通に出来ていた事が一つ一つ出来なくなっていく事で老いる自分を否応なしに認めざるを得ない。そして、自信を無くし、将来は不安に満ちたものに感じられる。あーあ、やんなちゃうな。全然楽しくない。

    そんな、老への気分を一蹴してくれる本です。これから老人になる人に元気を与えてくれます。老いるのは仕方がない、でもそれを嘆いている場合ではない。乗り換えるべき駅が来たのだから電車を乗り換えて新しい日々を送ればよい。大切なのは、新しい日々を送る心構えを自分の中にキチンと持つこと。

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    2025年02月13日
  • 不機嫌な恋人

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    めちゃくちゃ面白かった。

    片思いが多すぎて切ない〜。
    相手を思う気持ちよりも自分を思う気持ちの方が大きくなりがちだから、本当に好きな人とは結ばれにくい。
    恋が終わったときに初めて本当に相手のことを想うことが出来るから、終わった恋を愛おしく感じるんだな〜って思う。
    恋をしているときはみんな利己的で、片思いの無い恋なんて無い。
    所在なさを恋で埋めることの寂しさ。
    論理で片付けられない恋愛を楽しんだり振り回されてイライラする登場人物たちの姿がおかしかった。

    身分の差によって、恋の報われなさにもしっかり差が出ているの苦しい。
    浅芽の決断痺れた。

    チャーミングな小侍従も、艶麗な七条夫人も素敵、登場人物の女性がもれなく全員魅力的だった。
    湿っぽい雰囲気が良い〜。
    清経と多猫が幸せなら( ᴖ ·̫ ᴖ )

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    2025年02月12日
  • 言い寄る

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    池袋の喫茶 梟書房さんで出会った本。
    全体のまったりしたたおやかな、でも何とも言えない乃里子をとりまく情景が面白い…
    みんな大人びていい加減なようで そんなもんなんかない?
    装丁も素敵。

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    2025年01月08日
  • 苺をつぶしながら

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    乃里子3部作の3冊目。1作目の「言い寄る」では奔放すぎる乃里子の性格に、この尻軽女め!と呆れ果て、2作目の「私的生活」では剛の傲慢で嫉妬深い性格に、こんな男ムリ!とイライラしながら読んだけれど、3作目のこの本では乃里子も剛も可愛く思えるところが多々あって、ありがとう田辺先生!と思わずにはいられなかった!
    特に剛の難しい性格の中に垣間見れる、遠回しでストレートじゃない優しさに、何だ実は思いやりも持っていたのかと心から安堵したのは私だけではないはず。
    結婚と離婚を経て得られたライトな二人の関係を、乃里子の心情として
    「剛のいちばんいいものだけを抽出して、贅沢に費消するとすれば、彼の友情だけが欲しかった。」
    と記す田辺聖子の表現力、流石!

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    2024年12月06日
  • おちくぼ姫

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    平安時代に書かれた「落窪物語」を田辺聖子が現代風にアレンジして訳したもの。
    そんな昔ににシンデレラのような物語があったなんて。。。
    ある程度の脚色はあるにせよ、ステレオタイプの継母とおもしろキャラクターがいて、エンタメ性抜群でした。

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    2024年12月03日
  • 上機嫌な言葉 366日

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    それぞれの本から抜き出したセリフがあって、あ、これは私のためにある一文だ。と思える。
    多分また違うステージにたった時読み返すと、違った見方が得られるんじゃないかと思う。

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    2024年11月22日
  • 上機嫌な言葉 366日

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    折に触れて思いついたページを開いたりしていましたが、今回初めから最後まで通読しました。
    やはり時代の雰囲気は感じるものの、田辺聖子さんの各文章は優しく朗らかでちょっと沁みる。
    読んでいて心があったかくなります。

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    2024年10月29日