とある街にある一軒の小料理屋は一風変わった食材を使った料理を提供している。本日のお客さまに供される食材は一体何なのか、思いも寄らない料理に癒される一冊。
その店は、普通の料理屋と少し違っている。店の外に看板や料金の書かれたメニューはなく、また店内にもメニューはない。その日その時のシェフとの会話から、お客さまにぴったりのおすすめメニューが提示される。使われるメインの食材は、まさかそんなものが食べられるとは思えないようなもの。自動車、パワーショベル、新幹線、灯台……それらを『食材』として扱って、しかも美味しく調理してしまう。食材の力ごと食べたお客さまは、今日も笑顔で店を後にする。そんなお店で繰り広げられる、ささやかな日々の話。
主人公はシェフ見習いの青年。女シェフが食材ハンターから買い付けた妙な食材を美味しく調理していくのを、いつか自分もと思いながら修行中。物語はそんな感じの舞台なのだろうと掴むのに、少しかかりました。導入部があまりなく、いきなり物語が進行していってしまったので、スタートで置いていかれた感じがあります。思わずシリーズものの続きから入ってしまっただろうかと確認しましたが、特にシリーズではないようでした。
発想が独特で、面白いテンポで物語が進みます。どのお話でもその食材はどうやって食べるつもりなんだろう、と思わされるので展開がパターン化していっても面白く読めます。が、『あちら』『こちら』『そちら』のようなこそあど言葉が多く、最終的に差された言葉が何なのかがはっきりしないこともあって冗長に感じてしまうこともしばしば。そして、主人公やお店側の人たちの背景が描かれずにふわふわと進んでしまうので、腰の落ちつけどころがない感じがしてしまいます。もう少しお店側の情報があってもよかったかなという印象です。
美味しい料理と、楽しい会話。料理が出来上がるまでをわくわくと楽しみにできる期待感。ご飯が食べたくなる一冊でした。