都甲幸治のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
「はじめに」がとても良かった。
「言葉には、人の心を鎮める力がある。それは歌になり、詩になり、物語となるだろう。心の中にある、夜の密かな、ほとんど聞こえないほどのか細い声が言葉によって拾い出される。そして自分ではない他人、しかも自分とは異なる言語を使う書き手の発した言葉でも、それが生の真実を捉えているとき、僕たちはそこに自分を見る。地球の裏側で、かろうじて一分一秒でも生き延びるために探り取られた言葉が、なぜか僕たちに力を与える。」
「文学は、見ず知らずの人々の心の中にまで降りていくための強力なツールだ。見た目も言語も、背景となる歴史も違う人々の心の中にさえ、僕たちは物語を通じて入って行ける。そして、同時代を生きる世界の人々が、自分たちと同じ問題に苦しんでいることに気づく。心の底から信じられるもののない者が、いったい何を頼りに生きていけばいいのか。」 -
Posted by ブクログ
「新潮」連載当時に未訳だった21世紀の世界文学のガイドブック。現在、(きちんと数えてないけど)3分の1くらいは邦訳されている。文芸誌には縁遠いが、こんな刺激的な連載があるのだなといまになって感心。
最初に紹介されるジュノ・ディアス『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』については、いきなり、「断言しよう。本書は、読まずに死んだら人生で確実に損すると言えるほどの傑作である」と斬りかかってくる。これを無視するのはかなりの勇気が必要だ。(実際、積読中なので余計にそう思う)
ルーツが英語圏以外の作家が多く、現在の文学地図を少なからず反映しているように見える。インタビューのネタ元がきちんと明記されているのも有り難い。続編も買っちゃいそう。 -
Posted by ブクログ
90年代後半だろうか、日本でもブコウスキーの本が次々に出ていた時期があって評判だったとの記憶があるが、酒と女、無頼派的作家という先入観があり、当時読もうとは思わなかった。古典新訳文庫入りということで、初めてブコウスキーを読んだ。
“無頼”と言えば確かに無頼の生活をしているということになるだろう。酒、煙草、女、競馬。それらが(訳文のせいもあるだろうが)余計な修飾もなく荒っぽい文章で書かれているため、主人公は、好きなときに好きなように暮らしているように見える。
それはある面その通りなのだが、生活をしていくためには人間は仕事を持ち、働かざるを得ない。その仕事の在りよう、特にその理不尽さを、具体的に生々しく描いている。
主人公が勤めるのは、初めは代用の郵便配達人から正規職員に。一度退職した後仕分け係に。何せ本書は、アメリカ合衆国ロサンゼルスの郵便局長事務所事務連絡文書「倫理綱領」から始まる。どれだけ配達や仕分けの量があろうが関係なく、時間に追われる毎日の労働。何かあればすぐ警告書(これは主人公チナスキーだけかもしれないが)。そうして働く者たちは日々疲弊していき、本書でも何人かがそうして倒れていく。そこには労働者間の連帯も何もない。ただただ働かされ、多くの者は辞めていき、ごく幸運な者が管理部門へと回される。チナスキー自身も、遂には目眩に襲われ精神的にも不安定になり、退職することに。
しかし、彼には文学があった。本書は、次のように終わる。
「朝になると朝になってて、おれはまだ生きてた。
ひょっとしたら、小説を書けるかも、とおれは思った。
そして書いた。」
主人公チナスキーは何人もの女と寝て、生活を一緒にしながらも別れを繰り返す。子どもまでできたのにその母娘とも別れてしまう。そんな状況なのだが、本書は読んでいて実に面白い。自分の生きたいように生きる、そんな主人公の破天荒さが、読む者に爽快感を与えてくれるから。
-
Posted by ブクログ
重かった~。読み始めたのはだいぶ前だけど、本の数章ずつしか読み進められんかった(苦笑)。作者の場合、対談形式のものだと、熱量が二分・三分される分、それが読みやすさとしてフィードバックされるから(自分の場合)、興味深く読み進めることが出来るのだけど、本作のようになってくると、重みに耐え兼ねてしまう。一冊の本に対して8頁。熱量マックスの持論が展開されるから、そう簡単に向き合えるものではない。そう、本作は、原著にあたってでも対象作品を読み、自分の意見でガッチリ武装した上で、徹底的に意見を戦わせる読者向けの一冊だと思う。そういう意味では自分なんか甘ちゃん過ぎて、這う這うの体で逃げ出したくなった次第なのであります。